はじめに
なぜ基礎知識が必要か
現在の木造住宅に関わる実務者が木構造の知識をどこで身に付けたかを考えてみると、基本的には実社会にでて習得している状況がほとんどである。
これは基本的に建築基準法が制定された以後の建築学教育における木造分野において、構法という分類で教育はなされていたが構造という分類での教育は全くなかったせいである。
そこでこのような現状をふまえ、今まで当事務所が実務および研究等において、また震災以後の調査等においてわかったことをまとめ、その内容をわかりやすく解説する入門書としてまとめたものが本連載の記事である。
これを理解することが木造住宅の構造の基本をマスターすることであり、是非解説されている原理原則を理解してほしい。
この内容について
木構造を考えるにあたって、材料の性質や、変形の性状などの基本的な知識が必要となってくる。
ここで説明している内容は品確法※1・許容応力度設計法等に直結する内容である。なぜこれらの法律のようなやや難解とも思える基準ができたかを理解することができると思う。
またこれも全ての内容を網羅しているわけでなくプランによってはこの考え方が当てはまらない場合もあり、この基本を応用することや自信がなければこの基本から逸脱するような計画は行わないことが無難である。
特に伝統的な構造についてはまだまだ定量的にまとまった技術基準はなく、できるだけ慎重に設計・施工を行い、大規模地震において現代工法の木造軸組構法と比べて大きな被害や死者を出さないように無理をせず、心配な要素があれば出来るだけ現代工法にてセーフティ機構を付加してもらいたい。
とりあえずここでは現代的な木造住宅の構造機構である軸力系・せん断系を中心に説明をしている。
※1:住宅の品質確保の促進等に関する法律の略称
補足(2011年追記)
この項の記事は主に2001年から2003年ごろにかけて執筆したものです。
内容で示されているうちで、基本的な考え方については、現在でも通用するものだと思いますが、近年の実験・研究の進展に伴って更なる知見がもたらされているので、それらの資料についても参照するようにしてください。
入手しやすい書物としては、「木造軸組工法住宅の許容応力度設計」2008年改訂版(日本住宅木材技術センター)、「木質構造設計基準・同解説」2009年改訂版(日本建築学会)、「木質構造接合部設計マニュアル」(日本建築学会)、「土塗壁・面格子壁・落とし込み板壁の壁倍率に係る技術解説書」(日本住宅木材技術センター)等が挙げられます。また、インターネットで論文を検索、閲覧できる環境も整ってきています(学術情報データベース、国立情報学研究所論文情報ナビゲータ等)ので、それらも活用してください。