第2章では建物全体の荷重変形を建物の構造要素ごとに分割して検討できることを説明しました。
本章では最も基本的な構造要素である鉛直構面と水平構面について、具体的に荷重-変形性能や構造上の取り扱い方について考えていきます。
鉛直構面の要素は様々な形式があります。ここでは良く使われる筋かいと面材貼耐力壁とその他数種類を取り上げます。
筋かいの耐力には方向性があります。また、よく「筋かいはもろい」と言われています。なぜこのように言われるのでしょうか。
筋かい耐力壁が力を受けるときの実際の挙動は下記のように考えられます。
Fig.3-1 圧縮すじかい |
鉄筋ブレースの圧縮耐力が引っ張りより小さくなるのは(1)の座屈現象が生じる為です。
また、建築基準法の木筋かいの壁倍率は間柱で筋かいの座屈がある程度拘束された状態のものなので、筋かい耐力壁には間柱が必須です。
(2)や(3)については、木材で引抜力に効果的に抵抗できる方法が無いので、引抜力が小さい時以外は、金物で補強するしかありません。
Fig.3-1a 引張すじかい |
CやDの現象を防止する為には金物は必須であることがわかると思います。
ファスナー(釘)の配置と応力の分布によって耐力が変わってくることは「第1章 4 面材」の項で説明しました。
耐力壁として考えると、力の釣り合いから、軸組(枠組)にも力が生じます。特に、転倒モーメントによる柱脚の引抜き力は、耐力壁の縦横比の関係から大きくなります。また、一本の梁上に耐力壁が連続する場合の浮き上がり(→第3章 1-7-2 浮き上がり)は、柱頭側にも引抜力を生じさせます(Fig.3-2)。このため、通常の場合は、柱頭・柱脚にはこれらの力に十分耐える金物が取り付けられます。
Fig.3-2 面材耐力壁 |
もし金物の耐力が十分でなかったらどうなるのでしょうか。(Fig.3-3)
Fig.3-3 金物の耐力が不足する場合の面材耐力壁 |
柱脚部の引抜き力が処理されていないと柱脚の引抜けで耐力が決まってしまいます。柱脚が十分補強された面材耐力壁Aが1000kgの水平力に耐えられるとします。このとき、Aの柱脚には3000kgの引抜き力が生じています。面材部分が同じ仕様の耐力壁Bで柱脚部が2000kgの引抜き力にしか耐えられないの場合、柱脚の引抜き力の制限から666kgの水平力にしか耐えられません。
土壁は、壁土部分が一体の版として、水平力に抵抗しているようです。変形が進んでいくとすじかいのように対角の隅部の圧縮によって抵抗するような形になります。
破壊性状は隅部が圧縮力により変形・崩壊し始めた後に、貫に沿って亀裂が生じ、最後にX形のせん断による亀裂が生じるようです(Fig.3-4)。土壁の性能については、土の種類や厚み、各部の寸法の影響などまだ未解明な点もあるので、慎重に考えたほうが良いでしょう。
実験的には無開口壁の長さが耐力に比例しているという結果が得られています。
Fig.3-4 土壁 |
Fig.3-5 雑壁 |
垂れ壁・腰壁・袖壁は、雑壁と呼ばれている部分ですが、実際には耐力要素として有効な場合が多くあります。(Fig.3-5)
袖壁は幅が狭いので耐力の割に転倒モーメントによる柱引抜きが大きくなること以外は、普通の耐力壁と同じです。垂壁・腰壁の類は次のようなメカニズムで耐力要素として作用します。
垂れ壁・腰壁等の小壁だけで水平力に抵抗する場合は、壁の面材要素を通じては梁から土台に水平力を伝えることができないので、面材が貼られていない範囲では柱を通じてせん断力が伝わっています。
小壁は柱・梁によるフレームが斜めに傾こうとしたときに、小壁をねじろうとするのに対して抵抗します。このとき、面材内部の力の釣り合いによって、開口部の横枠材に力が生じます。この力によって枠材が柱から引抜けたり、逆に柱を折り曲げて折ってしまう場合もあります。また、柱に曲げが生じる場合、曲げによる変形の影響が耐力壁の性能にでてきます。(Fig.3-6)
Fig.3-6 曲げ系雑壁 |
垂壁に限って言えば、垂壁をウェブ、枠材・梁をフランジとしたIビームと考えれば、門形ラーメン架構としての取り扱いが可能になります。
また、床・天井勝ちの間仕切壁は、室内からは一見、完全な耐力壁に見えますが面材要素が天井や床板で切れているので、実際には柱と小壁からなる構造に近いといえます。水平力は柱を通って伝わるので、柱の耐力の検討は必要ですが、柱の部分の長さが短いので曲げによる変形の影響はあまりありません。(Fig.3-7)
Fig.3-7 間仕切壁 |
Fig.3-8 耐力壁間の小壁 |
小壁単体で水平力に抵抗する場合は、柱の耐力、曲げ変形が無視できませんでした。しかし、垂れ壁・腰壁等の小壁が耐力壁と接していると、柱の曲げは隣接耐力壁に拘束されます。水平力も耐力壁の余力をつかって伝わります。また、小壁の両側に耐力壁がある場合は、耐力壁に生じる鉛直方向力を耐力壁間で伝達し、打消しあう役目をします。(Fig.3-8)
構造的にみると、小屋裏も1層と考えられますから、本来ならば、屋根の地震力を内部に伝えるために、小屋裏にも鉛直構面が必要です。(Fig.3-9)
Fig.3-9 小屋裏構面 |
旧来の和小屋のように耐力壁が屋根面に届いていないと屋根質量に生じる地震力が内部の耐力壁に伝達されません。負担する力が少ないのならば雲筋かいや、垂木のトラス効果で力を伝えることが出来ますが、近年の建物のように耐力壁を集中配置しているとそれらの耐力要素では役不足です。(Fig.3-10)
屋根構面の剛さやスパンも影響しますが、小屋裏の補強が不十分でかつ、外壁がラスモルタル仕上などで剛になっている場合は屋根に生じる水平力はほとんど外壁側に流れてしまう場合もあると考えられます。
Fig.3-10 屋根と鉛直構面 |