第2章 建物全体の荷重変形性能


3 水平構面⇔鉛直構面の力の流れと変形

3−1 水平構面⇔鉛直構面の力の流れ

前節では偏心率と剛床仮定について説明しました。その際に水平力やねじれ力に対して建物の耐力壁が水平構面(床・屋根)を介して釣り合っていると仮定していました。従って、剛床仮定をする場合、水平構面にはこの釣り合い力が生じています。

また、建物の質量(地震で建物が動くと地震力になる。)や風圧力の受圧面は耐力壁間に分布して存在しているので、それらに生じる力は水平構面内を通じて耐力壁に伝わります。

水平構面内に生じる力はこれら2つの力の和となります。

一般に、建物の階ごとの偏心量はそれぞれ異なるのが普通なので、下の階ほど水平構面を通じて力をやりとりする量は大きくなります。地震力や階上の壁線から伝わるせん断力が階下の耐力壁線に伝わるときは、直下の耐力壁線だけでなく他の耐力壁線にも水平構面を通じて全体が釣り合うように、せん断力が分配されていきます。(Fig.2-6)

剛床仮定では無視しますが、このときに水平構面の剛性の違い(開口の影響含む)も力の伝達の比率に関係します。

img:せん断力の分配
Fig.2-6 せん断力の分配

3−2 水平構面の剛性(柔床)の影響によるせん断変形

第2章 3−1 水平構面⇔鉛直構面の力の流れに述べたとおり、各構面ごとの荷重の不均等による構面間のせん断力のやり取りによって、床面にせん断変形が生じます。

例えば、Fig2-4の床が柔らかい場合を考えてみます。車の押す力は床が柔らかいため、両サイドの二人には力が伝わりません。中央の人がどんどん押されていくと、床面が変形していきます。第1章で説明したように力と変形の関係から、やがて、両サイドの二人にも力が伝わるようになります。

しかし、このときには中央の人は押す力を支えられなくなって、足元が滑り出しているかもしれません。あるいは完全に押し倒されて支えることができなくなってしまっているかもしれません。


このように、床面の変形が加わることにより、力の釣り合い状態や、建物全体の限界状態が変化するため、建物の荷重変形性能を正確に得ようとすればこの変形も求める必要があります。

完全に正しい解を得ようと思えば、コンピュータに立体モデルを入力して、力の釣り合いと変形を解析するほかありません。

加速度分布を均等であるとみなして条件を簡略化して計算する方法なども考えられていますが、最初に述べたように、多くの場合は水平構面が変形しない(変形量が十分小さく無視しても良い)とみなしています。