「第2章 1 建物全体の性能の考え方」に述べたとおり、実際の建物では、個々の耐力要素は壁面の中に1列に組み込まれるのが普通です。その一連の耐力壁の連なりを耐力壁線あるいは壁線と呼んでいます。(Fig.3-11)
これまで、耐力壁個別の性能について説明しました。各耐力要素は材料特性や構造原理の違いから、その荷重変形性能はそれぞれに異なります。しかしながら、壁線内では個々の耐力要素の上下端は梁桁・土台によって一体化されているので、梁がちぎれたり座屈しない限り、壁線内の耐力要素の変位はすべて同じになります。このことによってどのような効果が生じるかは「1-7-3 剛性の異なる耐力要素を組み合わせ」において説明します。
また、上下方向のせん断力は隣り合う要素同士で打ち消しあう効果が生まれます。この効果については「第3章 1-7-2 浮き上がり」において説明します。
Fig.3-11 壁線 |
一方、壁線間の距離や位置は、水平構面を通じて力がやり取りされる場合に、変形量や耐力にかかわってきますが、これは「第2章 建物全体の荷重変形性能」に詳しく述べています。
「1−6 壁線」に述べたとおり、耐力要素が建物内に組み込まれて、耐力壁線として連続しているような場合、二次的、立体的な効果が生じ、単体の場合よりも耐力が増えたり、剛性が向上したりする場合があります。以下、その効果について説明します。
開口部での剛性の低下、応力集中が生じます。 垂れ壁、腰壁の応力によって、窓枠材に大きな引抜力が生じます。 開口部の高さによって、耐力壁部分の柱脚部の引抜力が変化します。(Fig.3-12)
Fig.3-12 開口部の影響 |
耐力壁の転倒による浮上りが壁線内ではどのような性状を示すかを順を追って説明します。
耐力要素が壁線内にある場合、面材間で力のやり取りが生じます。柱脚部の引抜き力は、梁や小壁による影響をうけて、次のように変化します。
第1章 4 面材で示したような転倒モーメントの簡単な釣り合いになります。耐力は面材の釘か柱脚部のどちらかの耐力で決定されます。
Fig.3-13 耐力壁単体の場合 |
梁の釣り合いから、(柱頭金物+梁曲げ)のばねの耐力の分だけ梁を通じて力が再分配されます。これによって、耐力壁Bの柱脚の引抜きが減少/耐力壁Aの柱脚の押さえ込み力が減少します。
Bの耐力が柱脚の引抜きで決まっている場合、柱脚引抜きの減少分だけ更に多くの水平力を負担できるようになります。
Fig.3-14 耐力壁が梁で繋がっている場合 |
垂れ壁/腰壁が伝達するせん断力によって、(2)よりも多くの力が分配されるようになり、面材Bの浮き上がり抑制効果も、大きくなります。
Fig.3-15 耐力壁が小壁で繋がっている場合 |
開口の高さが狭くなるにつれ、垂れ壁、腰壁を伝わって、分配される力は更に増えていきます。開口高さがある一定以下になると、面材Aに伝達される浮き上がり力が押さえ込み力を上回り、面材Aの柱がすべて浮き上がるようになります。
Fig.3-16 小壁の成が高い場合 |
Fig.3-17 無開口の場合 |
※図中面材が変形しているようにかかれていますが、これは釘のすべりを表現したものです。
耐力壁線全体では、浮き上がりによる破壊が抑制される分、耐力が増えます。従って、垂れ壁や腰壁の効果を計算に入れることで、耐力壁の枚数が同じ場合は、 (1)< (2)< (3)< (4) という順序で耐力が大きくなります。
ただし、このとき垂れ壁や腰壁内部のせん断力の釣り合いから、開口の枠材部分にも引抜き力が生じます。この引抜き力は開口の幅が広いほど大きくなります。この引抜き力によって、枠材の接合部が破壊する場合があります。
Fig.3-18 耐力壁の組合せ |
(1)の場合も(2)の場合も変位が同じになるので、荷重−変形関係は荷重−変形図(Fig.3-19)中の点線のようになります。
この例でいえば、面材が最大耐力に達しても筋かいは最大耐力の半分の耐力しか発揮していないことがわかります。
Fig.3-19 荷重-変形関係 |
同一構面内に剛性の違う要素があっても、剛性による変位の大小はなく同一変位となるため、壁線全体の耐力は、その変位における個々の耐力要素の耐力の和となり、個々の耐力壁の最大耐力の和より小さくなってしまうのです。(Fig.3-20)
Fig.3-20 耐力の和 |
連層になると引抜力が合算されるため下階側の柱脚引抜き力/圧縮力が増大します。(Fig.3-21)
Fig.3-21 連層耐力壁 |
実際には建物の重量による押さえ込み効果や連続梁の効果が生じるので、引抜力は倍にはなりません。
梁に曲げが生じ、変位が大きくなります。これにより、耐力壁の見かけの剛性が小さくなってしまいます。モーメントが大きい位置に柱や直交する梁の断面欠損があるので、その部分で梁が折れやすくなります。(Fig.3-23,24)
また、梁仕口の形状によっては、仕口が外れてしまうことも考えられます。
Fig.3-23 梁上耐力壁 |
Fig.3-24 継手 |
壁体に浮き上がりが生じようとしたとき、(Fig.3-25,3-26)に示すように、梁・桁・床の影響で、柱頭に作用する上階の重量はゾーンニングで考えるよりも多くの場合大きくなります。この効果によって、耐力壁の浮き上がりが抑制され、柱脚部の破壊が生じないことで耐力の増加する場合があります。
Fig.3-25 カウンターウエイト効果 |
Fig.3-25a 直交壁の効果 |
Fig.3-26 カウンターウエイト効果2 |
男木と女木がある継手で男木のほうから持ち上がる場合、男木が上にはずれて持ち上がってしまう場合があります。この場合はそこから先に力が伝達されないのでカウンターウエイトが減少します。
Fig.3-27 継手の影響 |
Fig.3-28 直交壁の効果 |
Fig.3-29 直交壁の作用 |
通常、隣接する耐力要素による浮き上がりの抑制効果(→第3章 1-7-2 浮き上がり)が無い場合、転倒モーメントによる浮き上がりが生じます。
しかし、耐力壁に直交して別の耐力壁が取り付いていた場合、浮き上がりが生じようとする時、直交する耐力壁が引きずられて持ち上げられようとするのに抵抗するので、浮き上がりが抑制され耐力が増加します。(Fig.3-28, 3-29)