一般に木造建物の構造性能を考える場合、材料の性質だけでなく接合部の性質も考える必要があると言われます。
コンクリートの接合部が部材と一体に成形され、鉄骨も溶接するとほぼ一体とみなせるのに対して、木材はどうやっても完全に一体にすることが出来ないからです。
本章では荷重-変形関係に関する基本的なキーワードから木造に特有の性質までを説明します。
材料や接合部の性能を評価する基準として、最大耐力やかたさ(剛性)、ねばり(靭性)などの特性が考えられます。
これらの特性は荷重−変形関係のグラフでうまく表現することができます。
荷重と変形の関係には次のような性質があります。
荷重と変形の大きさが比例している状態(Fig.1-1)。荷重をなくすと元の状態に戻ります。ゴムやばねのようなものがこのような変形をします。荷重と変形量の関係をグラフで表現すると原点を通る直線になります。この直線の傾きが大きい(荷重に対する変位の増加の割合が小さい)ほど硬いということを意味します。(Fig.1-2)
Fig.1-1 弾性変形状態→4)剛性を参照 |
Fig.1-2 のび〜ちぢみ〜 |
荷重と変形の関係が比例していない変形状態(Fig.1-3)。荷重をなくしても元の状態に戻らず、塑性状態で変形した分だけがそのまま残ります(残留変形)(Fig.1-5)。ビニル膜を引き伸ばした時のような変形がそうです。荷重と変形量の関係のグラフは直線になりません。荷重が一定で変形のみが増大する(グラフの傾きが0)状態を、完全塑性状態といいます。
Fig.1-3 塑性変形状態 |
弾性変形している状態から、ある荷重の大きさを越えると塑性状態になることを降伏といい、その点を降伏点といいます(Fig.1-4)。
Fig.1-4 降伏 |
Fig.1-5 塑性変形と破壊 |
変位の増加荷重の増加に対する荷重の増加の割合を表し、もののかたさの指標です。荷重と変形量の関係のグラフ上では、グラフの傾き=剛性になります。
Fig.1-6 剛性 |
変形時のねばり強さの指標です。塑性変形する区間が長いほど靭性が高いといえます。
変形時の脆さの指標です。剛性が高く、かつ靭性が低い場合は脆性が高いといえます。
ある1点までは弾性変形状態で、その点で降伏した後完全塑性状態になることをいいます。荷重-変形関係をグラフで表示すると弾性変形状態と完全塑性状態の2直線の折れ線(バイ-リニア)になります(Fig.1-7)。このような状態は現実にはありえませんが、計算が容易なためにしばしば計算モデルとして利用されます。
Fig.1-7 完全弾塑性状態 |