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■2006年10月28日(Sat)
見てしまうから願ってしまう
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姉ちゃんの自作詩集発見したスレを最後まで見てしまった。 破壊力在りすぎ。 テンポ良く読める上に、こちらの予想をことごとく裏切ってしまうフレーズの数々は圧巻です。なによりクオリティが全然おちてないw 100以上の詩を読んだのに、まだ飽きてない! 凄すぎる。
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眼球の虹彩&瞳孔部分に奥行きを持たせたいんですが、上手くいきません。 いろいろ悩んだ結果目の中にうずまきぐるぐるを書けば結構それっぽくなるんじゃないかなあと。ほんまかいな。
| Replay
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■2006年10月28日(Sat)
うああ
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Replay
| 途中で送信エラーが入って画像がちぎれちゃいました。 まあいいや。 昔と同じシーンの絵をあらためて書いてみる。 案外面白いです。 | | |
■2006年10月27日(Fri)
とりあえずおどってみた
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| 無駄な線を消す
絵とは関係在りませんがTO LOVEるの沙姫の取り巻き(ポニテの方)がなんとなくツボです。 ジャンル取り巻きみたいなの無いかなあ。 | | |
■2006年10月27日(Fri)
とりあえず行きますかっと
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Replay
| 謎の二人組みの性格が予想と違ったのでビックリでした
というか眼鏡っ子ですらないだとぉ!?
自分の予想 眼鏡っ子→クーデレ系 大刀 →ストイック系
というか斬って二年生だったのか...
討条さんカッコイイ、いっぺんに二人吹き飛ばすシーンが良かったです 坊ちゃんは戦い再開してもいいと思うんですが、討条がいないところで決闘した場合のリスクを考えると待機の方が良いのかもしれません 刺々森のコイツを殺していいのはオレだけだには少し萌えました 是否とも貫木君と争奪戦しちゃってください
あと気づいたんですが斬の世界の住人って、基本全員腰履きですよね 帯刀社会だからかな
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萌え絵描きとそのファンは死んだ方がいい
面白かった。 自分自信、ワリと時流に流されてらくがきするので、本職の方は逆に流されないで欲しいなあと思う今日この頃。 成長って自分の長所を伸ばさなくなったあたりから止まるんですよね。
でまあ、萌え絵の次は線だと思うんですよ...って、これ前も言ったな。
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2006年10月26日(Thu)
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| 気を抜くと更新が空いてしまいます。 | | |
■2006年10月22日(Sun)
ララバイサラバイ
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| 昨日のキソウ、面白かったですねえ。 高島礼子のコート姿が良かった。後ろ姿の着こなしが特に。
にしても、やっぱり二時間ドラマはいいっ 脱サスペンスを謳って鳴り物入りで改変されたドラマコンプレックスが面白いぐらいこけたらしいですし、二時間ドラマはやっぱりサスペンスですなあ。うん。
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(六銃忌憚 後編)
老人の首を携えた青い服装の男が路地裏に入る。 何が面白いのか、含むように笑っていた。
「英雄も墜ちたものだな。恋人を殺して人間らしさの欠片さえ失ったか」
服だけでなく肌まで鈍い青色の男だった。 腹から黄ばんだ肋骨だけが、白く剥き出している。禍々しく生え揃った肋骨の先端は、ハエトリグサのトゲを思わせる。熱く抱擁しただけで内臓をずたずたに引き裂かれそうな凶悪な鋭さだった。 事実、その先端には赤い肉と赤黒い血が滴っていた。
人が人として異形になった者――魔属だった。
「たいした放置っぷりだな。けけ、大半は殺しつくしたぞ。結界も潰した」
「けけっ、そんなに恨んでたのかい――このクナ奴隷自治区をよぉ」
魔属は、老人の首を地面に落としてアリでも潰すかのように踏みにじった。
「それとも勇気軍の方か? あいつらがこんな護る価値もない国で何をしていたのか、お前も知らない分けじゃないだろう?」
そして、彼女が黙して語らないのをいいことに、ねぶるように言い続ける。
「知ってるぞ、お前ここの出身だって言うじゃねえか。皮肉なモンじゃねえか、よりにもよって、この魔属が一番生まれた国で奇人級の英雄が生まれるなんてよぉ」
「だがまあ所詮、汚れた国の人間だってことか。人の風習じゃより多く人を殺した者を英雄と言ったらしいが、お前ら【六銃】は結局のところそういう意味でしか――」
そのときっだった。 ぬっと、背中から生白い手が胴を回り、あばら骨を掴んだ。 少女のように細く、武器や農具を知らない腕だった。
「あ、なんだ?」
言葉を止めて、その手をしげしげと見つめる魔属。 次の瞬間、その手が無造作に骨を折った。 みきりと竹が折れるような生々しい音。魔属は、信じられない光景を見るかのように表情を凍らせた。
「あ、な...なん――」
人から生まれ、人成らざる魔属の骨は鉄器よりも固い。ときとして獣の角のように使うこともあるほどで、間違っても人の膂力で折れる代物ではない。 その骨が今、人間の細い腕によって、まるで小枝を折るかのように指の力だけで折られたのだ。 その腕は、折れた骨を肉からむしり取るように力を込めた。 たちまち肉が裂けた。
「ぐ...ぐ、ぐゃああああ!!」
折れたあばら骨が、完全に露出していく。黄ばんだ骨には、肉と筋が根のように糸を引いてこびり付いていた。
「て、てめえええええええ!! 一体何を――」
骨を掴んだ手が手首を翻して、肋骨の骨を魔属の喉に突き刺した。 それで呼吸と声が止んだ。 続いて手は、骨を心臓へと突き刺した。 見えるわけでもないのに、正確に一撃だけで刺し貫いていた。 その一撃で、魔属は――存在として――死に絶えた。
(六銃忌憚・終わり)
(?)
彼女は、伏せた目を開いてそこに立っていた少年を見た。 先ほど死んだはずの少年兵士だった。 「うえっ...ぺっぺっ、あの爺さん勝手に安楽死させるわ、変なの喰わせるわ。金箔て! 成金の勘違い料理じゃねーつーに」 食い破られたはずの喉笛が復活している。 少年は、兜を脱いで、のばし放題の髪を解き放った。 金髪だった。金髪で、金目だった。 彼女の、同じ金色の瞳に少しだけ揺らぐ。 「英雄属――その髪、お前...勇者か?」 ひどくくたびれた声で、彼女は尋ねた。 質問はしているが、まるで気のない返事のような喋り方。 「勇者...って、ああ。卯月先輩のことか、いや。違うけど」 兜を投げ捨てて、朽ち行く魔属の死体を跨ぐ。 「金髪の英雄属はかの勇者だけと思ったが」 「や、確かに本当はオレがカイなんだけど...てか、それよりこいつ、」 少年は、足下を指さした。 「勝手に殺して悪かったな。ちょい長くなりそうだから退場して貰ったんだけど。これ、確かアンタの仇だったろ?」 人と魔属の歴史の始め、クナ奴隷自治区を襲撃した魔属。その中に、この青い魔属は存在した。そして、 「いや...もうどうでもいい。面倒が省けた」 本当にどうでもよさそうに、目を伏せる。 「そう言って貰えると助かるよ。 まあ、シナリオだとあんたは勇者にこれから説得されてコイツとやりあうんだけど、最後には相打ちになって死ぬんだけどさ」 だから、オレが殺しておかないとダメなんだとぶつぶつ言いながら、胸の辺りをさする。少年の胸からは、心臓を突き刺したはずのナイフの傷が消えていた。 「...何の用だ?」 「それ、トレンチだろ」 少年はそれには答えず、彼女の服装を上から下まで惚れ惚れと見つめた。 「なんかいいよなあ。クールでタフでハードボイルドってヤツ? ファンタジーに軍用丸出しのトレンチなんてキャラデザした奴アホじゃねえかとか散々叩かれまくってたけど、オレは好きだぜ」 にんまりと笑う。触っていい?と馴れ馴れしく尋ねるが、彼女の方が無反応だったのでしょんぼりした。 「うあ、ジト目。このカッコがおかしいとか? ちょいと役割を代わって貰ったんだけどさ。兵士A」 と、少年は突然腕を組んで、何か嫌なことを思い出したかのように述懐する。 「にしても、伝令の兵士とかこういう殺されるためだけに存在するキャラってのもなんだかだよなあ。こいつだけは、アンタが説得に応じて改心したとしても生き残れないんだぜ。一番不幸だっつーの。こーんな軽々と死亡イベントとか死亡エフェクトとか造るとかさ、まともな人間じゃあできねーよ」 なにかに憤った様子で、しきりに頷く。 そこからは彼の独壇場だった。 息継ぎの暇もなく延々と喋り続ける少年。 「兵士Aとかさぁ、それはもうもう無意味に殺されたり殺されたり殺されたりとか。敵キャラでも単にボスキャラの残虐性を表現する為だけに敵に殺されたりとか、あげくこっちが話しかけたとたん魔獣になったりとか「ぐふ」とか言って死んだりとか、何ですかオレが殺したんですかみたいなさ。 まあ主人公も主人公で、戦争中でもたわいもない長話を平気でするわ、その間にバンバンドンドン死んだりするわ。そんな無駄なことしてないで一秒でも早く出撃してりゃあ死なずに死んだのになあって展開が山ほど在るわけだ。お前のハグの時間を稼ぐために俺達は死にましたとか、もう考るヤツ頭おかしいよなこれ。血を出しゃ残虐だとかリアル思考だとか、血を書かなきゃお子様でも安心して楽しめますとかさ。 んなんじゃねーっつーの。 こんなふーに、どうでも良いキャラだったら点滅エフェクトであっさり殺していーだろみたいな考え方が出来るバカがそれを押しつけるってーことのが、よっぽどヤバいんだよ。 この前なんてよ、「誰も死なないから安心して読めるバトルマンガ」とか言われて漫画借りたんだけどさ。死んでないのは名前の付いたキャラだけで、町人とか一般兵士とか当たり前のように死んでてさ、ゾっとなったよ。だってそうだろ? そいつにとってただの人間ってのは人としてすら映ってないってことじゃねーか。 まー、多分そんなつもりで言ったんじゃないだろうけどさ、でも、そんなつもりでないって事の方がよっぽどリアルにヤバイと思わないか?」 彼女は、目を丸くしてそれを聞いていた。 言ってることはそれなりに大事なことなのだろうが、彼女にとってそれがなにかの役に立つのかというと、全くそんなことはなかった。 なにか心を打つことでも言って自分を説得しに来たのだろうとタカをくくっていた彼女は、それに拍子抜けをした様子で、 「何が言いたい?」 「いや、本当は気の利いたセリフの一つでも言ってヤケになってるフリして実はそうでもないアンタを説得、六銃の所以たる【グリップ】と奥義を形見分けするって、展開なんだけどさ。オレそういうの興味ないから、どうせなら全く関係ない雑談でもしてみようかと」 というか、このイベントオレあんまり好きじゃないんだよな。と少年は呟いた。 「この魔属も言ってたみたいに、ここにいる勇気軍って魔属狩りのメンバーなワケだろ? クナ奴隷自治区って魔属の発生率が異様に高いから、勝ち目が見えてきた今頃になっていっそ民ごと浄化しましょうみたいな論調が出来てさ。で、それ実行する魔女狩りめいた部隊が勇気軍で造られてさぁ。 この、じーさんとかもその一員だったわけだ。 いちおうラストあたりで糾弾されて改心するんだけどさあ、それを差し置いてみたとしてもこのじーさん達を助ける為にアンタが相打ちになるってーのがどうしても納得いかなくてよ」 二つの屍骸を下にして、少年はそうぼやく。 人の命を秤に掛けるわ年寄りを敬わないわ、およそ倫理観という倫理観が消し飛んだかのような発現だが。 その表情はいたって真剣だったし、静かな怒りすらたたえている。 「面白いことを言うな。お前は私を改心させずに、生かしに来たというのか?」 彼女は、この不思議な少年の話に付き合うことにしたらしい。 少年は適当に頷いた。 「ああ。理不尽な話だけど、オレはアンタがなにに悩んでるのかも知ってる。ここが、恋人と初めて出会った場所で、そして別れた場所だって事も、墓参りのつもりでここに来てそのまま自殺しようとしたことも、この国の懐かしくもドブ臭い臭いを嗅いでそんな気分は失せたことも、なのに勇気軍の魔女狩りが横行していて何もかもがイヤになったことも。少しだけはこの自治区が滅べばいいと少しは思ってることも。 ――それにもちろん、オレがどう説得すれば、心変わりするかも」 彼女は、あまりに少年の言葉がおかしいので、微笑んだ。 「お、笑った」 「笑うさ。なら、なぜそれを言わないんだ? とても信じられないが、もし本当にそうだとしたら、その為にここにいる全ての人間が死んだのだぞ。私がこうして笑っている間にも、ただの人とやらがくびり殺されていることだろう」 少年は、ひどく憤慨した様子で「あのな」と呟いた。 「言っただろ。それじゃアンタが死んでしまうんだよ。 オレは理不尽な死が嫌いだ。無意味に殺される兵士Aも、お涙ちょうだいで死ぬ運命にあるヤツも、殺されるためだけに生まれてきたような存在が大っきらいだ。悪人のクセに最後まで生き残るキャラも嫌いだし、自分らだけ何度でも甦る勇者達も嫌いだ。 だから、妨害しに来た。魔属にも勇者にも殺させはしない。 オレはそういう理不尽な死を回収するためにやってきた、そうだな...差詰めシナリオブレイカーだ」 不敵に笑う少年。 魔属の死を感じ取ったか、残りの魔属が集まりはじめる。 狭い裏路地に集まる魔属、魔獣。だが少年は笑ったままだった。 「だから、オレは何にもいわねえ。ここへも単に雑談しに来ただけだ。 じきに本物の勇気軍が来るだろうし」 羽の生えた青色男が空の上から少年に強襲を掛けてきた。 少年は、影を重ねたまま屈むだけで爪を避け、魔属の心臓にあばら骨(まだ持っていた)を刺した。 「まぁ、オレとしてはそういう人間ばっかり集めてハーレムとかつくりたいんだけど。まあ、それは我慢している。自主性をおもんじねーとな」 狭い路地裏で、次々と魔属たちが少年を襲いはじめる。 折り重なるようになっているため、他の魔属からは少年が見えない。 少年はその死角で念動力回路を展開していた。 媒介は無い。独力で演算されているが故に魔法とまで呼ばれる完全魔術。 発動する。 「ただし、気を付けろ。運命ってヤツは割りと面倒でよ。例えば魔属に殺される運命にあるヤツってのは、その運命を回避したとしても結局どこか別の場所で魔属に殺されて死んでしまったりするんだよ。 同じところで失敗する人間っているだろ? 運命ってのはあれの究極系なんだな、きっと」 炭酸に氷を放り込んだように、金色の粒子が溢れ出す。 その発砲する光を浴びたとたん、魔属と魔獣が次々と元の姿を取り戻しだした。 「魔属を人間に戻した――お前、その魔術は」 「ん、まあ理不尽な話だよな。ラスト直前で覚えるんだよ。条件は六銃全員の証を入手。バカか。これがあれば、ほとんどのシナリオ回避できますっつーに」 本気で怒りながら、少年は術を展開した。 金色の光が、街中を包んでいく。 疲れる作業だったのか、軽く息を吐いてのびをした。 彼女を見て、手を振る。 「じゃあな。いろいろ言ったけど、オレの願いはアンタがクリア後の世界でも生き延びてるってことだけだ。魔属を殺すのに飽きたのなら、それでいいじゃねえか。 わけわかんねー屁理屈につきあって再び戦おうとかさ。思うよりよっぽどマシだ。無駄に死ぬな。あと、【グリップ】は先輩――じゃなくて、勇者に渡しておいてくれ。それないとベストエンドにならねーし。なに、この辺に捨てておけば拾うさ」 「お前無茶苦茶だな、それ」 強すぎる毒気に当てられたか、彼女はどこか呆れ気味にそう言った。 少年は無邪気に、はにかんだ。 「ま、理不尽と戦ってるもんでね」 「これからどうするつもりだ?」 「どう...って、次のシナリオを壊しにいくんだけど。次は六銃の【ハンマー】だったかな。五兄弟のヤツ」 「そうか」 「六銃って選択肢次第で全員と戦って【証】を奪い取るイベントあるんだけどさあ、もうアホですかと。だいたい、戦闘システム変に凝りすぎたせい敵の自由度が無くなったみたいなお粗末なの造っときながら、六人の英雄とバトルだとか烏滸がましいにも程があるっての。そんな骨が折れるだけで何の個性もない戦いを六回繰り返すこっちの身にもなれっつーの。どんなマゾプレイですか。 どんだけ優秀だろうが攻略パターンが決まった戦いなんて苦痛でしかないっつーの」 この世界の人間には全く理解不能の言葉をぼやき続ける少年。 本当に自分の愚痴しか呟いていないのである。 やがて彼女は、苦笑しながら口を開いた。 「なら――」
六銃の話はここで終わる。
勇気軍と勇者が、樹方網による連絡を受けて血相を変え転移してきたころには、何一つ無く、シナリオの一文字たりとも起らなかったのであった。
「勇者は【グリップ】を手に入れた。袋に入れますか?」
(?・終わり)
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■2006年10月21日(Sat)
六銃忌憚
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Replay
| 水筒や双眼鏡を吊り下げるエポレット、銃床をささえる、右胸の当て布。 手榴弾をぶらせげるためのD型リング。雨風を凌ぐためのチンウォーマーに袖ベルト。 寒冷な欧州での戦争、泥濘地での塹壕戦を想定し造られた為に塹壕コートと名の付いた外装。 何から何まで「この世界」ではあり得ない服装だが、多くの兵士達はそれを疑問に思うことはない。そんな余裕は大陸に生きる生物の八割が死に絶えた時点で無くなっていた。 精々が後世の歴史家が居並ぶ六つの像の一つを見て、この服はこの時代に在るはずがないと不思議に思うだけであろう。 六銃――戦火の中でそう呼ばれた英雄達の中でも、彼女は一際異彩を放っていた。
銃把を模したグリップを持つ剣(これもあり得ないのだが)を握りしめて、彼女は目を閉じていた。 寝ているというわけではないだろう。英雄は英雄に名を連ねた時点で睡眠も食事も必要を失い、肉欲すら奪われていた。 夢も見ることはない。 だから、目を閉じたところで、ただ思い出すことしかできないのだった。 夢にも似た昔の想い出を。
警笛、続けざまに喧噪。 北の空が灰に滲み、黒に染まっていく。
彼女は、まだ目を閉じたままだった。 クナ奴隷自治区、とっくに戦略的意味も消え失せた国の路地裏で、ただ黙して動かない。 悲鳴がどこからともなく聞こえてくる。 足音。槍を構えた兵士が、路地から現れる。 「――様、なぜ戦わないのですっ!! 戦ってくだ――」 次の瞬間には獅子型の魔獣に襲いかかられ、喉笛を食い破られる。 獲物を仕留めた魔獣は、そのまま彼女に襲いかかろうとした。 だが、更にその次の瞬間には【破壊】の魔術を組み込んだ矢が頭部に突き刺さっている。 爆裂四散した頭部は魔獣の特性として即座に修復を始めるが、国中に張られた妨害の結界がそれを阻止する。魔獣は首を失った猫の死骸となって果てた。 三人一組の小隊が、陣を組みながらまた路地から現れる。 一人が喉を食い破られた兵士を見聞した。 息があったが、治療は不可能だった。 隊長らしき人物が腰のナイフを引き抜き、無造作に兵士の胸に突き刺す。 もう一人が、金を取り出してナイフで削った。 金箔を受け取った隊長は、兵士の目蓋を落としてから金箔を涎と血に濡れた口につけた。 黙祷する三人。 そのあと隊長だけが彼女へと振り向いた。 老人だった。
「まだ踏ん切りがつきませんか?」
「...それとも、もう魔属とは戦わないつもりですか?
「魔属と化した恋人を殺す、貴女はその為に英雄になり、そしてその目的を果たした ――だから、もう戦わないつもりですか?」
後世に六銃と呼ばれた英雄達。彼らは、その全員が魔属と成り果てた親しき者を殺す為に人を捨てた者達である。 母親を、妹を、仕えるべき王を、五人の息子を、同じ夢を誓った友人を、 ――恋人を。ただ殺し滅ぼすためだけに、人を捨て英雄となった者。 英雄の中には、悲願を果たした瞬間に自らの首を跳ね飛ばした者もいた。
「魔属も十体以上いたそうです。今更この国に何の用があるのか知らないが、この大攻勢だ。ここであなたが戦わなければ、自分達は間もなく根絶やしにされることでしょう」
「...結界の拠点もあと数分もあれば、破壊されることでしょう。そうなればあとは一方的な虐殺だ。我々に出来ることと言えば...せめて魔獣と化して盟友を殺すことのないように処置を施すだけ」
「それでも...戦ってはくれないというのですか...」
三秒待って老人は首を振った。 俯きながら、手信号を出す。 「いそげ、我が隊だけ後れを取るな。死して勇者の隣へ!」 結界を死守するつもりなのだろう。一段は再び陣形を君で、中心へと走り出した。 彼女は――
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■2006年10月20日(Fri)
天上へのモーダルシフト74
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確かに見えた。人と刀と人との間に生じる、入り込むべき隙間が。 どこが死角なのか、どう動けば危険を回避できるのか、どう進めば追い込まれずに済むのか。 鳶としての経験が、次々にその答えを結んでいく。 人の入り込む余地もない迷路のような部屋の記憶、パズルのように複雑なパーツを組んだ記憶、目も眩むような高所を登った記憶、踏み場もない細い道を渡った記憶、果てのない階段を毎日のように駆け上がり続けた記憶。 それらが、一歩ごとの体捌きを、段組的思考を、大胆な挙動を、バランス感覚を、疲れを知らずな足腰を、ヒュウイに与えてくれる。 人形たちの攻撃がギリギリでヒュウイの横を過ぎていった。 何度も殺されると思ったが、その度に、ハバキさんの声がヒュウイを導いてくれた。 「――そうだ、動き続けろ。隙間を見つけ、かいくぐり、逃げながらついでに攻撃しろ。刹那とて一対一にならず、常に多対一を保ち続けろ。お前は剣術も素人ならば、敵も強い。勝ち目があるとすれば唯一、“相手の人数が多い”と言う事実だけだ。無論、普通に考えればそれは不利でしかない。だが、敵が複数だということは、複数であるが故に隙間――隙が生まれると言うことでもある。駄洒落じみた冗談だが、この焼け石に落ちる水滴のような僅かな光明だけが、唯一、お前に唯一付け入ることができる隙なのだ。いいか、死角を見つけろ。隙間をかいくぐれ。めざとくズレを見つけ、そこに滑り込め」 まるで無茶苦茶な理屈だったが、ハバキさんが言うと本当に自分が有利であるように感じるから不思議だ。 人を殺せる一撃が、何度もヒュウイの側を掠めていく。 いつか絶対逃げ切れずに斬られるのだろうと確信しながら、それでもヒュウイは逃げ続けた。不思議と恐怖はない。恐怖を感じれば、その瞬間死ぬのだろうなと思った。なんとはなしに、開き直っていた。 足取りが軽くなる、しだいに攻撃が掠らなくなってきた。 常に死角に入り込むせいで、人形たちの攻撃は一撃たりとも入らないのだ。 一体が無理な姿勢で追いすがろうとして転んでいた。 一体が虚しく空を切った剣が別の人形を巻き込んで倒れた。 敵が翻弄されているのが、手に取るように解る。 まだできてもいないというのに、隙が、隙間が、どこに発生するのかが読める。 次にどこへ動けばいいのかが、その前の前の前のもっと前から見えている。 今や刀が薙ぐ風すらも肌を触らない。 「っと、攻撃しないと...」 余裕が生まれてきたので、ついでに攻撃を加えていく。 デュランダルの切れ味はまだ戻っていなかったが、鈍器よろしく腕や足を叩き潰すことに専念した。斬り裂くよりは心理的に抵抗がなかったが、なんとも嫌な感触である。 戦いの中で、そんな嫌気を感じる余裕があることに少し驚く。 十数人の人形に囲まれているというのに、物凄く安全な場所にいるみたいに落ち着いていた。 なるほど、確かに一対一だったときの方がよほど恐かった。 攻撃が加わりだすと、敵はあっけなく倒れていった。敵が少なくなる度に逃げやすくなるのだが、反面入り込む隙間も少なくなる。 「って、これ一対一になったらどうすれば...」 「工夫するのだな。それでも、もし一対一になったら」 「なったら?」 「逃げるんだな」 「...左様で」 何から何まで目茶苦茶だなあ、と剣術を知らぬヒュウイでさえ思ったのだった。
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■2006年10月20日(Fri)
あまりにも大きな 力の壁 世界の闇
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| 来週は見所が多いなあ。 年上だと嬉しいか? は端折らないで欲しい。 このころの武装錬金はいろんな意味でハラハラしました。 センターカラーになっただけで大喜び(いろんな意味で)でしたさ。 あと、アシスタント募集とか。 | | |
■2006年10月19日(Thu)
つぼみがいつか花ひらくように
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Replay
| アニメポケモンで一番優秀な技と言えばもちろん
「かわせ!」
なわけで、実際トレーナーが「かわせ」と言えば、たいていのポケモンがアラよとばかりに敵の攻撃をかわしまくります とくにサトシはことあるごとに「かわして10万ボルト!」とか「よけろピカチュウ!」とか「かわしてボルテッカー」とか「電光石火! かわされた、くそっかわせピカチュウ!」とかよくもまあピカチュウはあんなアバウトな命令で大丈夫だよなとか思うわけで。
しかしあの「かわせ!」、ひじょうに理に適った命令でもあります。 まず、かわすタイミングを客観的に測ることができます。射撃・砲撃・回避は言うに及ばずハンドル操作やナビゲートなど、パートナーに行動やタイミングを任せると言う行為は、人間どうしでも頻繁に見られます。 また、ポケモンからすれば、ほぼ反射のみで動くことが出来るため、自分で考えて回避する場合よりも動作自体も早くなると言う利点があります。 さらに、トレーナー(指揮官)の「かわせ」と言う命令には注意勧告の効能もあります。想定外の攻撃を目の前に、自失状態になったポケモンを我に返らせたり、攻撃に対して無意識に緊張してしまう状態を一瞬で解放させる効果があるわけです。 つまり、「かわせ」にはかわす行動を取れるような体勢を促す作用があるのです。
以上から、サトシの「かわせ!」はけして無茶を言ってるわけではなく、戦術として効果的な命令と言えることでしょう。たぶん。
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■2006年10月19日(Thu)
天上へのモーダルシフト74
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目前に【人形】の一体が迫り、刀を振りかぶる。 ひどく無造作だった。 ――どうする。刀で受け止めればいいのか? 受け止めたあとはどうすればいい? いや、そもそも俺に受け止められるのか? もしこれが、フェイントだったら? 「躱せ!」 はっとなって、ヒュウイは横に飛んだ。 バチン――と、刃が床を打つ。バネが弾けたような振動音がした。 「か、かわせた...」 「言われて躱すぐらい、誰だって出来る。問題は一人でそれをやれるかどうかだ。 ポケモンじゃ在るまいしいつまでも外から声がかかると思うな」 「ぽけ――?」 「次が来るぞ。離れて、距離を取れ」 その通りだった。いまや周囲はどこを見ても俺の人形である。 「逃げろって...言われましても――いや」 切り込んできた人形の部分だけ、僅かなスペースがあった。 迷っている暇はない。隙間に滑り入るように、強引に突っ込む。 服を掴まれそうになったが、とっさに上体を腹に巻き込んでそれをさせない。 前転気味で、抜け出し、そのまま転がりながら、体を起こす。がむしゃらに逃げて、足音が付いてきていないことに気づいてから振り返った。 「な、情けねぇ」 「いや、それでいい。今のお前は素人にもとうてい及ばない剣士だ。死の恐怖を目の前に、体を動かすことすら出来ないただの一般人だ」 だが、とハバキさんは続ける。 「だが、鳶としては一流の人間だ。なら鳶として戦えばいい」 「と、鳶として?」 どうでもいいけど、人形たちのほぼ上にいるハバキさんの声はとても明瞭に聞こえてくる。まるで、今でも隣で話をしてくれているかのようだ。 一方、人形はと言うと、宙に浮いているハバキさんを何とか落とそうと群がっている。 「粗雑な存在しか宿せなかったようだな。速さはそれなりだが、思考はゾンビ並だ」 そう言いつつも、人形が投げた刀を指二本で挟み、受け止める。 柄を握り直して、軽く振るう。 「見た目こそ刀だが、柄どころか柄紐まで綱製か...しかもこれは歪でいるな」 面白くなさそうに投げ捨てる。 歪んでいるのは、さっき床を打った刀だからだろう。デュランダルのせいで忘れかけているが、塔の石材は工具やハンマーで加工できないほどに硬い。 「てか、なんでハバキさんのコピーがいないんですか」 「人間と認められなかったのだろう。些細なことだ」 攻撃が鬱陶しくなったのか、徐々に高度を上げていく。 「移動しないんですか?」 「移動できないのだがな」 嘆息された。 ハバキさんは、まるでそこに壁があるかのように、空中に手を彷徨わせる。 ひらめくものがあった。 呪いがあるハバキさんが、何故ココにいることができるのか。 「そこだけ地表が低いんですね」 ハバキさんは、ようやく解ったのかという表情でこちらを見下ろした。 ここに来たというのは例のテレポートとかいう魔法だろうか。 「けど、それならもっと早く言ってくれれば良かったのに。そんなことが出来るなら、一緒に御飯食べたりとか」 「それは魅力的だったがな。残念だが、中心部のみ地下層があることを知ったのはついさっきだ、それより」 どんどんと上に上がっていく。 「標的が変わったからと言って、油断しすぎではないか?」 気づけば、人形たちの攻撃が止んでいた。 攻撃が届かないと悟ったのだろう。 となれば、当然次に狙われるのは―― 「では指導を始めよう。ヒュウイ」 「は、はい」 「とりあえず、この集団の中心に飛び込め」 「ええええっ!!?」
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■2006年10月18日(Wed)
ここのタイトルに悩む
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Replay ヒュウイ、のつもりで書きましたが、戦隊のブルー(もしくはRPGのブルー的キャラ)みたいだ。 ブルーは主人公のカラーじゃねえですな。
読書
「バッカーノ!1934獄中編―Alice In Jails 」成田 良悟 「キノの旅〈10〉the Beautiful World 」時雨沢 恵一 「狼と香辛料〈3〉」支倉 凍砂 「Aの魔法陣リプレイブック~式神の魔法陣編~」芝村裕吏/アルファ・システム 「ドラマCDシリーズ「武装錬金 2」」和月 伸宏 「女王騎士物語 8」 下村 トモヒロ
バッカーノは案の定上下巻の上だったので、もんもんとしています。 バッカーノの上下巻って、同時刻に起きたことを二作に分けてと言う変則的な方法が用いられるから、上巻だけ読んだときのもやもやがでかいw
武装錬金のドラマCDはポストカードが渾身の出来でした。冬服の斗貴子さんは良いなあ。桜花先輩は......腹黒いなあ...
含めて、「とあ禁」と「マリ見て」の最新巻も借り読み。 とあ禁はガンガンで連載するそうで良い感じです。 ひぐらしは結局読まなかったなあ...とっかかりが見つからない。一体何から読めばいいのだろう。 今月の最終話だけ読んでみようかな。 ガンガンと言えば今月の女王騎士はよかった。そしてベタだった。タイトルからして「ドラゴンクエスト」w だがそれがいいっ リューガがいきなり小者臭出してましたねえ。 ジェダもすっかりデフォルメが効いて...お母さんキャラかぁ
8巻も良かったです。オマケページが少なめだったのがちと残念。
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■2006年10月16日(Mon)
天上へのモーダルシフト73
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黒髪、黒目。意志は強そうだが、ただそれだけで中身がともなってなさそうな、空回り風味な瞳。 「って、俺じゃん。俺がいっぱいいますよ、ハバキさん!」 「クローン、というか複製だ。人形が侵入者――お前に反応して、侵入者の姿を模倣する造りになっている。無論、お前より強い」 「複製なのにっ!?」 「銀の銃弾――まあ、ようするに魔属化を起こす核が内部に埋め込まれている。とは言え、お前は魔属を知らなかったか...まあ、単純に二倍程度強くなってると考えればいい」 「...つまり、どうあっても侵入者より強くなるって寸法なんですね」 目の前にあらわれた俺(×いっぱい)は、一様に刀を携えて塔外周から詰め寄ってくる。その動作は一様に機械的で、人間らしさが無い。 中心に来たところで作動するシステムなのだろうか、ぐるりと360度全ての方向に俺が居た。 「あ、あの刀は――」 「流石に模造品みたいだな」 浮かぶ刀に腰を掛けて、そのまま天井へと上がっていくハバキさん。 「16体か。16方向の外壁に格納されていたみたいだな」 「みたいだな...って、ちょ、ハバキさん一人だけずるいっすよ!」 「何がだ?」 「何がだって」 見下ろしたままハバキさんが尋ねてくる。 「助けてくださいよ! 俺このままだと、どうなるんですかっって、多分殺されちゃうんでしょうけどっ。助けてくださいよ!!」 いろいろ戦慄しつつも、ヒュウイは必死で訴えた。 あわよく生け捕りにするような命令が設定されていたとしても、ただで済むとは思えない。というかD・Jも死ぬと言っていたことだし。 「手伝っても良いが。一瞬で終わるぞ。我からすれば、お前の強さが何倍になろうと0に数字を掛け続けるようなものだからな」 「ひどっ!? 一瞬で終わってもつまらなくても良いですから、助けてくださいよ」 あっさり酷いことを言うハバキさんに、プライドもなく懇願する。 もともと戦闘に関しては門外漢なのだ。つまらぬ意地を張る必要もない。 「まあ、お前がそういうなら我は別に構わぬがな」 がな、といいつつハバキさんは浮かぶ鞘の上に足をかけて、立ち上がる。 そして、鞘に乗ったまま、右足の腹で鍔を蹴った。キンと鎺の外れる音。 「やれやれだ、老躯に鞭を打つとは、友人の風上にも置けんな。折角、我自ら戦いを伝授してやろうと思惟うたと言うに」 「え...」 「今後の旅路、せめて基礎の剣技ぐらいは覚えておいた方がなにかと便利だろうに。まあ、ここで楽して旅先で死ぬほど苦労するのも一興。何も言うまい。刻の賢者に態々業を授かるなど、並の英雄とて叶わぬ畏れ多きことのだがな。ああ勿体ない」 「う、ううう...てか、なんでハバキさん俺が旅するって知ってるんですかぁ」 応えずに、ハバキさんは鍔に足をかけて横にずらした。長尺刀の刃が妖しいきらめきを放っている。緩やかなカーブがある刀身のせいか、僅かながら柄の方が下を向いている。あと少し蹴れば、刀身が鞘を滑り地面に落ちるだろう。 そして、落ちればハバキさんは――あと十数歩ぐらいまでに迫っている俺の複製を一閃してしまうに違いない。 「さあ、どうする。ここで死ぬ思いをして教えを請うか。それとも、」 「や、やりますよ! 戦えばいいんでしょう!!」 半ばヤケになって、ヒュウイは叫んだのだった。
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■2006年10月15日(Sun)
天上へのモーダルシフト72
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「精霊というのは本来は実体のない人格を指す。その内でも更に物にとりつき、かつその格が憑依する物体に対しての象徴・擬人観的な精霊を付喪神と呼ぶ。 こけしにこけしの精霊が宿れば、こけしの精霊は付喪神だが、デュランダルのように刀とは何の関係も無い精霊が宿っている場合はただの精霊だ。その辺を区別するため、我々は付喪神という呼称を好む傾向にある。 余談だが、化身し人等の体を持つことを妖怪変化あるいは擬人化と言い、更にその人格が女性格の場合は名称の語尾に〜たんを付ける」 「いやあの。ンなこと言われても解りませんし、あとそれ途中から嘘でしょう」 よくわかったな、とハバキさんは悪びれもせずにそう言うのだった。 「この魔法陣は、言わば人工付喪神製造装置だ」 「人工――?」 「お前は知らないだろうが、我は知っている。本来の付喪神というのは大人しい上に知能が低い。言葉を覚えたての子供程度だ。 この塔の精霊のような並行した会話の処理や結界や空調の管理、維持なんて芸当はまず不可能。万単位で時を経た物品の付喪神ならもしかしたら出来るかもしれんが、とても一〇〇余年程度しか存在していない精霊が持つ力ではない」 確かに、ハバキさんの言うことが正しいのならD・Jはあり得ないほど強力な力を持った精霊と言うことになる。知能云々は正直その通りじゃないかとも思ったが。 親父殿が語るにはD・Jは数十年前に突如発生したらしい。 塔に精霊が宿っただの、当時は大騒ぎになったらしいが、D・J本人のあっけらかんとした性格ゆえか、すっかり塔の管理精霊としての地位を確立していた。いつのまにか。ルーィはそれを集合無意識と呼んでいたが... 「ルーィの言は、信仰や噂話によって精霊が発生する例のことを言っているのだろう。確かに、条件点検索の見地から見れば、存在の確立はそれ故に人格の位置特定要素と成りうる。この魔法陣も、そう言った人々の無意識での固定観念を鍵としているようだ。あながち間違いではない」 「いや、勝手に考えてること読まないでくださいって言うか、さっきから言ってますけど何が何だか」 「ヒュウイという名称よりヒュウイ・ストンブリクの方が寄り特定の個人を示しているだろう。更に言えば、塔に住み、高所作業用の独特のつなぎを着た、義理の姉にスーベリーアという女性がいる黒髪黒目の少年ともなれば、この世にお前以外の存在は居ないことだろう」 「そりゃ、いたらあってみたいもんですけど」 ハバキさんに少年と言われると、何とも不思議な気分になる。 見た目はヒュウイよりもっと少年なのだが、何故か言われても全然不快に思わない。むしろ面映ゆい。 まあ、いるんだがなとハバキさんは小さく呟いた。 「それと同様に、大多数の人間が想像する塔の精霊と言う概念情報が寄り特定の存在へと回線を結ぶ、そういうことだ」 「いや、同様っていわれても。俺には難しすぎてわかんねえんですが」 ハバキさんは、自分の質問には饒舌に答えてくれるのだが、その答えが常人には理解出来なさすぎて正直10分の1も理解が追いつかない。 ヒュウイと初めて出会ったときからずっとそうだった。 なんだか懐かしい。 が、懐かしがってる場合ではなかった。 話が全く進んでいない。 「ええと、つまりココの魔法陣と、俺達が塔に持ってるイメージみたいなのが合わさって、本来の付喪神とはひと味違うD・Jがあらわれた〜ってこと...かなぁ」 結局何が何やら。 ハバキさんは、自分の推測を聞くなり満足そうに口の端を曲げていた。 「十を聞いて一に結ぶだな」 「それ褒めてませんよね」 ぼやくが、ヒュウイとしては「D・Jが、人工的に造られた」 と言う事実だけでもう腹がいっぱいだった。 「――魔法陣、ですか。それが施設としてあるってことは、最初から塔の設計思想にD・Jがあったてことですよね」 「驚いたか?」 「いえ、むしろ腑に落ちたって言うか...」 常日頃から感じていた「D・Jって、結界やら空調やらエレベーターやら、自然発生した精霊にしては、やたらいろいろ管理してるよなあ」 と言う疑問もそれなら納得の行くことではある。 「というか、逆になんで今までそういう風に考えなかったのかとか思っちゃいますねえ」 いまさらに振り返るまでもなく、D・Jの存在無くして塔は成り立たない部分が多々あった。なら、D・Jも最初から塔の設計として在ったと考えるのが普通なのだ。 「それはこの装置が高い位置にあるからだろう。後発で誕生した精霊故、偶発的な産物だと当時の人間が勘違いしたのだ。尤も、見ての通りこの部屋は超極秘事項のようだ。意図的に騎士団によって秘匿されて来たのだろう」 と、ハバキさんが絵本を閉じた。 そして何事かを呟いたかと思うと、背負っていた長刀がハバキさんから離れてひとりでに浮かび上がる。 驚くヒュウイを余所に、ハバキさんは浮かぶ刀の鞘に腰掛をかけ、 「長話が過ぎたな――来るぞ」 「え、」 と言いつつも実はさっきから、うなじの辺りにちりちりと嫌な感じが付き纏っているのだ。 「俺、ハバキさんがやっつけてくれたものだとばっかり」 「は、それはご都合主義だな」 鼻で笑うハバキさん。 そういうことらしかった。 魔法陣の青い光が徐々に白色に変質していく。 いや、白と言うよりは灰色、灰色と言うよりもそれは、銀色の光―― 「ふん、【シルバーブレッド】 か旬の魔術ではあるが、中央の勇者連中が聞いたら貧血を起こしかねんな」 「勇――誰ですか、それ? ってか、うわ。なんかいっぱい来た!!?」
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■2006年10月14日(Sat)
天上へのモーダルシフト71
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迫り上がる台座から出てきたのは... 「よ」 身の丈三倍はあるかという長刀を携えた少年だった。 「ってハバキさんだし」 どはーと息を吐く。 立ちながら、何やら薄い絵本のような書物を読んでいたハバキさんは肩眉を上げた。 「人を見るなりため息吐くとは、ずいぶんだな」 「いや、ガーディアンとか身構えてたし、それにあんだけ盛大に別れときながら30分もしないで再開つーのも、なんか...」 そこまで言って、ふとあることに気づく。 「ガーディアン? ...ああ、この塔の電脳セキュリティシステムか。あれなら、」 「いやそれより、ハバキさん。ココにはどうやって? 確か呪いで下には降りられないって...」 「そうだな」 「呪いが消えたんすか?」 「別に消えてはいない」 まるで当たり前のようにそういうハバキさん。 余りにも当然のように言うので、ヒュウイは自分の考えが何か間違っているのかと不安になった。 「え、あの。だからハバキさんって呪いで塔の天辺のちょっと上ぐらいまでしか...」 「ああ、そう言う類の疑問を感じているのか。ヒュウイ、お前は俺の呪いに対して盛大に勘違いを起こしているようだ。もう一度思い出すんだな」 「勘違い」 と聞いても、ハバキさんはそれ以上は答えてくれそうにない。 あきらめて質問を変える。 「D・Jが、ガーディアンに勝てって言ったんですけどどういうことでしょう。それにこの部屋、結局なんなんだか...」 迫り上がった台座は直径2mほどの円だった。 それが膝上ぐらいにまで上がってきていて、その上にハバキさんがいる。 先ほどの迫り上がり方からして、下の層にいたことになるのだろうか。彼は一体何をしていたのだろう。 「ガーディアンに勝て、か。その付喪神は本当にそう言ったのか?」 「そう聞こえた気がしたんですけど...途中で声が聞こえなくなって」 「まあいいが。そうだな、およそ念動力回路と言うヤツはその半径が巨大になるほど、大がかりな――魔術的にと言う意味でだが――術を行うことが出来る。設計図に喩える事も出来るが、記述量がそのまま複雑さに反映されるという点では数式やプログラムに近いだろう。単純に書物的と言ってもいい...」 まあいいと済ませて、いきなり謎の説明をされる。 どうツッコめばいいのか悩みつつも、ヒュウイはその説明が「この部屋は何?」 と言う質問に対する解答なのだと気づく。 「は、ハバキさん。ちょっと待ってっ」 「無論、回路の内に複雑多様かつ洗練された数式を用いることで術式の圧縮を図ることは出来るが、事が塔の管理精霊の召喚及び回線維持となると、どうしても数の暴力による乱れ打ち形式を用いる部分が必要になってくる。実際、この燦含奇石を用いた塔管理精霊召喚魔法陣にしても、中心点の数行を除けばあとは同じ構文の繰り返しなのだが、」 「だぁ、だから待ってくれって。そんな難しいこと言われても全然解らないって言うか、俺が知りたいのは仕組みとかじゃなくて、その塔管理精霊召喚魔法陣ってのがどういうものかって事で...」
自分が答えを言ってることに気づいたのは、それから3秒後だった。
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■2006年10月13日(Fri)
天上へのモーダルシフト70
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「なんだここ」 そこは、蒼い光に包まれた、ただの大部屋だった。 いや、塔の一階層であることは解っているのだが。 「空っぽだ...階層全部、まるごと...」 エレベーターを一歩出ると、そこにだだっぴろい空間が拡がっていた。 何もない、柱すらない。 外縁の壁がずうっと両横から伸びて、円をなぞるように奥へと続いている。 あまりにも広大な塔の内接円。 それが剥き出しのがらんどうに拡がっていた。 足下がふらつく。 あまりにも広すぎてその広さに目眩を起こしたのだ。 塔という閉鎖空間で暮らしているヒュウイにとって、この“何もない”広さは空よりも大きく感じた。 「わ、わけわかんねえ。この辺となると随分昔の鳶の仕事だろうが...だとしてもこんな珍しい場所なら、鳶が知らないはずねえのに」 なのに、現にこうして蒼い光に包まれた大部屋が目の前にある。 「何だこの青さ...気持ち悪い。床...が光ってやがる」 その光の正体は、床に填め込まれた発光する床板だった。 一辺が靴の長さ程度の正方形の発光する蒼い床板。それと、どこにでも使われている普通の床板とで床面を二色に分けている。 比率としては蒼のパネルの方が圧倒的に少ない。 蒼いパネルは、どうやら線のように縦横無尽に床面を走っているようだった。 蒼い光のラインが走り回る部屋。高さは5mはあるだろうか。 「もったいねえ...これほどの場所なら、居住空間なり運動施設なり...神様はなんだってこんな設計を」 『ミーならこんな青い部屋で住みたくないけどねぇ。どっち、この場所を知ってるのは、ミーとメンテ部だけサ。エレベーターも...ここにゃあとまらないヨ』 聞きつつも、ヒュウイはどんどんと中心へと歩いていた。ほの蒼い部屋に不気味さを覚えたのは事実だが、鳶としての好奇心がそれに勝ったのだ。 基本、与えられたパズルのパーツを組み立てるだけの鳶職だが、それでも先祖がどんなパズルを組み上げたのかには興味が尽きない。 「この青い光...ハバキさんの魔法に似てるな」 色が違うが、物の底からこもれ出るような淡い光り方が、彼が魔術を使用する際に見せた赤い光にそっくりだった。 「位置的に、どこかの階層のプレートの下なんだろうな。落ちた距離を考えると、図書館階の下当たりの気がするけど。なあ、D・J...D・J?」 『...ん、ああ正解だよ。後先にいっとくケド、その床板は削るなヨ』 「けずんねーけどさ」 どのみち、この階層に来てからヒュウイはズレが見えなくなっている。 デュランダルにしろ、今まで感じていた力の気配――振れば何でも斬れると言う確信をさせる錯覚めいた気配が無くなっていた。 「ところで、正解って何が正解なんだ?」 『ん、なんのこっちゃ』 「こっちが聞きたいんだけどな。ってか、どうした。えらい話半分だけど、何かあったのか? 心なしか声も遠いぞ」 D・Jは塔のどこにでも存在する。だから、こうして会話している間にも、避難誘導や塔の修復を並行して行っている筈であった。 精霊である彼女には、数百人程度なら同時に会話をしてのける並行処理能力がある。こんな状況だろうが、ヒュウイ一人に軽口を叩く余裕は十二分にあるはずなのだ。 その彼女が適当な相槌しかできないと言うことは、よほど他が忙しくなったと言うことである。ヒュウイが思わず尋ねるのも無理はない。 『いや、そのメンテ部隊がね、鳶と揉めてるのさ。まったく、やっこいねえ』 本当にめんどくさそうな声である。 身振りする体もないのに、どこかオーバーリアクションを思わせる。 そんないつものD・Jのハッピーボイス。 だが、その声が、どこか頼りない。 やはり少し遠い様子だったが、ヒュウイはそれよりも気に掛かることがあった。 「鳶と揉めてるって、スー姉たちとか?」 『それと、生き残りに非番だったのも含めて全員だよ。スーも合流して応戦してるねェ』 「なんだってメンテ部隊と揉め事なんか」 『いやまあ、そっちは気にしなくていいよ。口プロレスみたいなモンだし、それより気をつけナ。こコには、まほー...んを...るガーディアン......』 「は、え? D・J、でぃーじぇい??」 いきなり声がどんどんと遠ざかりはじめる。 何か不吉な言葉を聞いた気がして、ヒュウイは何度も塔の精霊の名前を呼んだ。 『...ュウイ、あんたなら勝てる。ってか、勝て。勝たなきゃ死ぬ。わかったね...』 「っておいっっっっ!! いきなりクリアーになったと思ったらメチャクチャ恐ろしい発現してるし!」 『...て、......ゥィ...』 「D・J...?」 反応がない。 もう一度大声で「D・J!」 呼んでみた。声が天井と床に虚しく反響する。 その反響がまたどうにも心細い。 じわじわと、心の奥底にまで静寂が押し寄せてくる。 見渡しても果てが見えない広大な広間だというのに、まるでクロゼットに押し込まれたかのように窮屈に思える。 身じろぎした。右手が痛い。知らずデュランダルを握る手に力が入っていたのだ。 D・Jの声を無意識に思い出そうとして、ついさっき聞いたイヤな言葉までついでに思い出してしまった。
番人
歩む方向、塔の中心の床あたりから何かが迫り上がって来た。
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■2006年10月09日(Mon)
今週の斬
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Replay
| なんか無崩篭ってパソコンの電気ケーブルについてるこれに似てますね。
今週の斬 表紙がギリギリすぎるw
今週はちょっと微妙でした。 前回が良かった分、特に。 二刀流のアイデアはおおっと思いましたが、鞘で受け止めるシーンは少し突然すぎたような。絵の構図の凄さで無理矢理納得させられた感じです。 もう少し二刀流を持ってくるまでの流れがスムーズで、説得力があれば良かったかも。 切れた窓が背景に一度も出てない点もマイナスでした。 グリグリ動く構図や、鋭斬刀の説明は面白かったです。 掲示板にアルバイト募集してたり保険の広告があったりしたのが、なんか面白かった。 | | |
■2006年10月08日(Sun)
うつむき笑うその頬を伝う涙一粒
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■2006年10月06日(Fri)
夜明けが燃えている
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| 照明(ちり)が持っているのはパーライトとゼラ(色フィルム)です。 このライトだけ命綱が付いてないんで、取り扱いに慎重を要しますってそんなネタ誰が解るんだ。 ゼラは熱による色落ちがひどく頻繁に買い直します。 ちりは(演劇部であるTakeBack'sにおいて)衣装も兼ねています。 衣装は古着や衣装棚にある歴代の演劇部員達が制作ないし購入した衣装を再利用します。パーティーグッズに頼ったりもします。
音響(みずの)ですが、ラジカセは重宝しました。現在はMDですが(これももう古いか)昔はもっぱらラジカセでしたし、路上舞台などのコンポが備え付けられない場合もこれを用います。 カセットは10分程度の安物を用い、音楽・効果音一個に対してカセット一個使用と燃費の悪い用い方をします。音響さんはカセットの入ったボックスを二個も三個も抱えていました。 また、カセットという奴は最初の数秒が無音であるため、数秒送っててすぐに音が出るようにする頭出しという作業をします。いちいち再生して確かめてもいいのですが、経験者は磁気テープの変色具合で見極めていました。 色を見ながら鉛筆でカセットの歯車を回すわけですな。 効果音収集は部で購入した効果音集を探ったあと、なければレンタルします。 効果音集は普通にツタヤに置いてます。自作は、あんまりしなかったなあ。 BGMは部のメンツが適当に置いていったCDを使います。棚がデスメタルで埋まってると爽やかな劇だろうとデスメタルなBGMになります。 ゲーム及びドラマのサントラ等は使わない方が無難でしょう。 客がそれを知っていた場合、元ネタが気になって劇に集中してくれません。
大道具(けいすけ)。立て看板作りなどの情報宣伝も兼ねます。大道具などは、まあ予算と人との戦いです。 書き割りなどはあんまり使いません。リアリティーを追求せず、よく解らない箱状の物体や、元からある舞台の段差などを用いて巧みに架空の空間を作り上げるのが一般的なようです。 折りたたみ机でコントをする人がいますが、あんな感じですね。 大工仕事もしますが、上記の様な理由から造ったとしても箱とか机とか階段とかが主です。 また、折りたたみ机や暗幕などを借りたりもします。 この仕事をやっていると、粗大ゴミが宝の山に見えてきます。
小道具(きう)。メイクも担当しています。小道具は、まあ用途に応じて。偽物にするか本物を使うかも劇次第でしょう。集めるのも作成も手詰まりを覚えることない仕事ですが、小道具の管理が大変です。 こだわってもあまり見られない部分でもあります。 この仕事をやっていると、リサイクルショップが(以下同文) メイクはまあ、ドーランの管理とか。 日曜にメイク教室を開いたりします。
台本制作(ありさ)。監督・演出も兼ねます。自分の台本を自分が演出するというのは、一見理想的な気もしますが、反面、表現に関わる全てを一人で請け負うために視野の狭いこじんまりとしたものになります。しょせん一人で考えることには限界があるのです。一人よりも二人がよいと言う歌もあったではないか。 と言うわけで、久々にTakeBack'sネタでした。 | | |
■2006年10月05日(Thu)
天上へのモーダルシフト69
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螺旋階段を下りながら、スーベリーアは父と二言三言会話を交わした。 はじめ、スーベリーアが自分の声で話していることに驚いていたのだが、直接聞いてくることはなかった。 声を失ったときには、我が事のように悲しんでくれただけに、黙っていたことに申し訳なく感じていたのだが。 「驚きはしたが、」 皺の増えた横顔を覗き込む。父は、 「...まあ、昔からなにか隠してるとは思っていたがな、そういう意味では安心した。そんなことだったかってな」 苦笑しながらスーを追い越し、どんどんと階段を降りていく。 「ごめんなさい。わたし...なんて謝れば」 ヒュウイには謝るなと説教しておきながら、自分もこの様だ。 血は繋がっていないとは言え。やはり、自分とヒュウイは姉弟なのだなと強く思ってしまう。 父は黙ったままだった。いや、 「――ひとつだけ、頼みたいことがある」 「...え?」 「お父さんって言ってくれ」 言葉の意味がわからずスーベリーアは沈黙した。 数秒黙ったあと、意を決して息を吸い込み背中に向かって呼びかけた。 「お父さん」 現役を退いた鳶の背中は、スーにはまだまだ広く見えた。 「...お前が声を失ったとき、お前にそう呼んで貰えないんだと気づいて、それだけが残念だった」 なにを言うこともなく父は、ぽつりぽつりと、それだけ語った。 そのままスーベリーアに振り返ることもなく、階段を下っていく。 「お父さん?」 父は背中越しに、手をひらひらと振った。 「はん、どうせバカ息子がバカ言い出したから言いそびれたんだろ。なら、お前のせいじゃない、あのバカのせいだ。帰ってきたらとっちめてやる」 「別にヒュウイのせいじゃ...」 「いいや、あいつのせいだ」 背中が叫ぶ。 「あれだけスーと結婚するなんて騒いでたクセに、一方的にフリやがって。いつからそんなにお前は偉くなったんだ。まったく、あのバカ息子め...くそっ、腹が立って涙が出らあな」 悪態を付きながら、どんどん降りていく。 D・Jに何事か呟かれて、うるせいと返していた。 そんなところはヒュウイによく似ていた。 「ヒュウイ...」 D・Jに寄れば、ヒュウイはエレベーターシャフトを通ってもっと下の階層に落ちたらしい。無事とは言うが、あいかわらずの弟の無茶さ加減にハラハラさせられる。 数分前には、自分を驚かせるほど大人びた顔をしてたのに。 なんとはなしに、下の方を向く。 螺旋階段も終わりに近い、スーやヒュウイ立ちの住み居住区が見えてきた。 その居住区、いや階段の終わりにも人がわらわらと集まっていた。 なにやら、もめている様子だった。
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■2006年10月04日(Wed)
天上へのモーダルシフト68
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底の見えない空洞を見下ろして、ヒュウイは少しだけ身震いした。 エレベーターを通す四角柱の空洞は、幸いにして折れることも曲がることもなく、真っ直ぐ背骨を通したままだった。上の方となると見るも無惨だったが。 一辺3m程度の正方形で構成された四角柱。切り開いた入り口から、本来は見えないはずのシャフトの壁が見える。両サイドにノコギリ状の溝の様なものがあった。おそらく、エレベーターに歯車が付いてあり、それが溝のギザギザと噛み合うことで昇降する仕組みなのだろう。初めて見たが、大体の構造は解る。 「ていうか、エレベーターは?」 『下に降ろしたヨ、電力も復旧しねーし。どのみち、レールも微妙に曲がってるし、持ち上げられないけどネ。ヒュウイってばどうやって降りるつもりサ』 さり気なくボーイと呼ばなくなってるなあ、と思いながら。 「まあ、なんとかなるだろ」 足を確かめて、5歩下がる。 そして、手首に巻いたバンダナで、拳とデュランダルとをきつく巻き付けた。 『なにするつもりだイ?』 「わりい、D・J」 口をつかって、結び目を絞める。 「ちょい傷つけるから先にあやまっとく」 『ちょ、まさか...アンタ』 集中。二回、呼吸して走り出す。 助走を付け――どこまでも深い、穴の上を、跳んだ。 『馬鹿っ!』 「やべっ」 踏切る位置が浅かった。 向こう側の壁に張り付くつもりだったのに、落下が始まってしまう。 落下の感覚が身に迫る。 「うわ、さ、刺されー!」 慌ててヒュウイは、足場の定まらない体勢のままデュランダルを壁へと振り下ろした。 キィン――ュイイイイイイイイィイイイ 高速で上へと登っていく壁に、デュランダルが根本まで突き刺さる。 落下の勢いが付いたデュランダルの刃は、全てを貫き通す性質を持つがゆえにどこまでも切れた。 切れたまま、落ちていく。重力による加速もどんどん加わっていく。 あまりにも切れすぎるために、普通に落ちているのと変わらないのだ。 『ヒュウイ!』 「わぁかってる! デュランダル――徐々に...徐々に切れるな!!」 ギ、ギギイギイギギギギッギギギギギギギイイイイイイ―― 瞬間。しがみついた両手に、腕がちぎれるほどの衝撃が加わった。 落ちているというのに真上に放り上げられたかのような、まるで巨人に釣り上げられたかのような感覚。手の中の柄が暴れる。 「こなくそぉおおお!」 ルーィのバンダナがなければ、手を離していたかもしれない。 ヒュウイはギリギリでデュランダルを握り直した。 デュランダルの切れ味は、どんどん鈍くなっていく。 切りたいと思えば切れ、切りたくなければなにも切らない刃。 ヒュウイは摩擦と衝撃が増えていく中で、もうこれ以上切れるなと必死に願った。
『アンタ、無茶ヨ。なに考えてるのさ、ボーイ』 「あ、ボーイに戻った」 何分経っただろうか。ひょっとしたら――ありえないが、気絶していたのかもしれない。 気づけば、ヒュウイは壁から生えたデュランダルの柄にぶら下がっていた。 壁にレバーがあって、そこにしがみついているんです。といった風な体勢だった。 「死ぬかと思った」 『アホ、めいっぱいアホっ。もっと他にやりようがあったッショ!』 「いや、でもこれが一番おれ的に負担が少ないって言うか」 『負担?』と言う質問が聞こえたが、ヒュウイはそれに答えるより前にさかあがりで柄の上に登った。周囲を見回す。ちょうど、どこかの階層の扉らしきものがあった。歪んだり凹んだりはしていない。被害が少ないということは、すなわち。 「随分下まで降りちまったみたいだなぁ」 『まったく、塔を勝手に唐竹割りしヨッテ...って、ココは...』 と、D・Jが黙りこくった。 「どうした?」 『ううん。なんでもない』 とても、なんでもなくなさそうな、深刻そうな声音だった。 う゛ん――と、どこかで重たい振動音が響きはじめる。 「ともかく、あの扉までいかないとな。D・J。扉とか、もう少しだけ切っちゃうけどカンベンな」 『いや、大丈夫...ココなら電源が生きてる。開けるから、何とかして入りナ』 | | |
■2006年10月04日(Wed)
荒波に飲まれて海に落ちる
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| 遊戯王新OPキター
三沢がいねえええええええぇ!!
どうも解像度やら筆で四苦八苦してます。 自分の場合、線画は(最終的な仕上がりの)4倍、色塗りは2倍の大きさにしてから書くのが丁度良いんですが、4倍にしたときの筆の選択が間違ってるみたいです。 といわけで、いろいろ見直して書いてみました。 下と似たような構図なのはワザとです。 | | |
■2006年10月04日(Wed)
天馬の魔女(誤植)
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| お、ちょっと似てきたかな。 センター分けがコツのような気がしました。 | | |
■2006年10月03日(Tue)
男には自分の世界がある
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| 遠野有希さん あいかわらず似ない。 目か髪にポイントがあるんだと推測するけど、どっちも苦手だなあ。 実際の挿絵は男物っぽいトレンチ着てますが、この絵はレディースです。 って、閉じたら制服見えないから余計に特徴がなくなるんじゃないか。 | | |
■2006年10月02日(Mon)
屍骸術師と勇者株24
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屋上の鉄柵にもたれかかり、双月を見上げてパイポをしがむ。 ルーラが出向かないので、仕方なくタツマが大家に挨拶をした、その帰りであった。 「禁煙パイポなら中入って吸えばよかろーもん」 「一服して帰るというのが乙なんじゃないか。パイポだからってすぐ入ってたら気分が出ないだろ」 「やーねぇ。あんたって、みんなが呑んどぉときん、一人だけベランダでタバコやってコップ傾けるんがカッコイイとかよだきいこと思っとータイプとよ」 歯を見せて、はすっぱに笑うルーラ。 図星だったので、ぐうの音も出ない。 「ぐう」 出た。 「なんね、それ?」 「来たなら、挨拶していけばいいだろ」 「やあよ。かわりにいってくれたっとよ?」 ルーラが鉄柵にかじりつき、真横からこちらの顔を覗いてくる。 整った顔立ち、金色の流れているかのような細い髪。大人びた、とヒュアリィは表現したが、それよりはエキゾチックと言った方が正しいだろう。 自分の視線に気づいてか、ルーラの横顔が振り向いて微笑んだ。 「褒めてもなにもでないとよ」 「何も言ってないだろうが」 見透かされた気恥ずかしさで、月を見上げる。 ルーラがけたけた笑ってパイポを奪い、口に付けた。 とたん、顔をしかめる。 「なんねこれ。とゆーか、なに味?」 「サラミだ。最近凝っている」 「うえ〜、やっぱりここの市民って変とよ」 調書に寄れば、ルーラは群島の生まれである。こちらで言うところの中等教育を受けた後、すぐにこのオークノートへと出奔――つまり逃げ出してきたのだそうだ。 「国に帰る気はないのか? 執行猶予もなくなるぞ」 これは群島との刑法に及ぶまでの国交がないためだ。 犯罪の幇助にも成りかねない提案だったが、とは言えそうなってくれればタツマとしてはありがたかった。 「やあよ。うっちゃここでやることがあるっと」 「泥棒の真似事か? 組の小間使いにされたあげく、安物の情報屋に騙されて暗殺の冤罪を掛けられるわけだ」 「む」 ルーラが、パイポをタツマの口に戻した。 口の中に微かに拡がる、サラミの味。 「あのハゲ〜〜〜。ぎょーさん金踏んだくっといて謀るとはなにごとっとよ。今度見つけたらぎゃふん言わせてやるけん」 「まあ捕まっても獄中だろうがな」 そもそも、家宅侵入及び窃盗未遂の罪を、騙した人間(要するに暗殺関係者)の情報を提供することで保護観察付きの執行猶予扱いにまで減刑しているのだ。十分に恨みは返せているはずである。 司法取引という裏切り行為は、口の軽い人間を嫌う裏世界では致命的である。今回の彼女の行為が闇に知れ渡れば、この業界で生きていくことは不可能だろう。 たとえ先に騙されたとしてもだ。 騙される程未熟なのが悪いと言う理屈が働くのが裏の世界と言う奴だった。 だというのに、彼女は緊張感もなくのほほんと夜のオークノートを見下ろしている。 もっとも、メインストリートから離れた夜の路地には人一人も居やしない。 何を見てなにを思っているのか。図太いのか、アホなのか、大物なのだか。 さっぱりわからない。 森も近いせいか、蝉とフクロウとその他の虫の声が大合唱していた。 「これからうちはどうなるっとかね〜」 「猶予があけたら、勝手にどっか行ってくれ」 一人も二人も一緒だろうと言うことでルーラの面倒を任されたわけだが、タツマは当然の如く不満だった。一緒な筈もなければこれ以上の面倒もごめんである。 ヒュアリィではないが、何故株を売りに行ってメイドを連れて帰れねばならないのだか。 ちなみに、勇者株はルイスが持って帰った。屍骸術の経費で買い取ったことになっている。 結局メイへの謝礼はルイスが立て替えたのだ。 暗殺者の仕業に出来たため、家内の物だけが怪しまれることはなくなったが、解ったことと言えばそれだけ。今度は親族、関係者全員が怪しまれることとなった。このゴタゴタが解決するには、件の暗殺者を捕縛するより無いだろう。 立て替えたルイスに礼金が下りるとしても、まだまだ先の話である。 「あ、じゃあここにずっといてもよかよね」 ひらめいたとばかりにはしゃぐルーラ・ループ。 「...」 まったく、うちのご先祖様はどこまで末代を祟ってくれるのだろうか。
(終わり)
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■2006年10月01日(Sun)
風紀部53
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一日経って、放課後の風紀部部室。 あのあと、吉泉と一晩中飲み明かしたので、頭が痛い。 吉泉はまだいびきを掻いているだろう。呑気なものだ。 吹奏楽部の気だるげなロングトーンが頭に響く。 部室には、英鳳と窓の外を眺めっぱなしの松方風紀。 そして、受験まっさかりで能力バトルなんてそっちのけで英単語を覚えまくっている暮臥あずさ(3−6 女)に、携帯ゲーム機で誰とも知らない電波と対戦をしている雨都密豆(3−D 男)、ひたすら巻き藁の前で掌底を尽きだしている鵲森ジャパン(3−9 男)、そしてフクこと副部長の猫。 これで風紀部、オールメンバーである。 非常厳戒態勢と言うことで、全員久々に集まったのだが、集まっただけで特にすることもなかった。 「ジャパン」 「なんだ?」 学生ズボンに上半身裸の鵲森は、無骨な物言いで聞き返した。 視線とでかい図体と割れた腹筋は一心不乱に巻き藁へと向いたままだったが。 「その巻き藁はどこの弓道部からかっぱらってきた」 「ふん、決まっている。壁を傷つけては困るだろう」 答えになっていないにもかかわらず鵲森は再び掌底を巻き藁の前に突き出す。台座を含めると冷蔵庫程度のスペースを取るので邪魔なことこの上ない。 掌底は両手の手首の付け根の内側を合わせる、影絵で言うところのカニの形だった。 それを巻き藁の前で静止させて、しばらくしてから腰へと戻して、また巻き藁へと突き出すと言う行為を何度も繰り返している。 「なにをしているんだ?」 「ふん、決まっている」 両手の平をこちらに向けて、鵲森は断言した。 「かめはめ波だ」 「出せるのか?」 鵲森の能力は鳥とコミュニケーションを取る【烏合の衆】 である。格闘家を思わせるがっちりとした体格と骨格からして粗野な人間とは正反対のメルヘンな能力――とは、風紀の言葉だが。 エセ格闘家の鵲森は、おもむろに頷いた。 「今日中には」 「そうか」 おそらく無理だろうと思いながらも、英鳳は一分時間が潰れたことを喜んだ。 風紀部のドアが開いた。 ぎょっと言う声が聞こえて、すぐに閉じた。 どうやら鵲森を見てしまったらしい。 「入れ。噛まれやしないから」 英鳳が呼び戻すと、扉がゆっくりと開いて木下真佐樹が顔を見せた。 失礼します、と挨拶をして入るのだが振り向いたのは鵲森ジャパンだけだった。 「二年生か。襟章で解ったぞ」 聞いてないのに説明する鵲森。 たしかにダンガリーシャツの襟付近には「J」の文字バッジがぶら下がっていた。「J」は白鳳高校の二年生を示す襟章である。ちなみに一年が「F」で三年は「S」。 「そういえば、なんでJなのだ。 ジャパンか?」 「そんなわけあるか。三年はスペインで一年はフィリピンか」 「スカンジナビアとか」 「国名ですらないな」 などと漫才をしていると、 「J...ジュニア。j u n i o r 【形】後輩・年下の・三年生高校における二年生の【名】後輩・息子・年下・三年生高校における二年生...」 暮臥が単語帳を読みふけったままで呟いた。 もっとも、単語帳を読んでいるというわけではなさそうだが。 「F...フレッシュマン。f r e s h m a n 【名】新入生・初心者。S...シニア。s e n i o r 【形】 先任・先輩の・最上級の。【名】年長者・先輩・上級生...」 まるで辞書を読み上げるように、単語と候補を読み上げていく。 「ふん、出たな単語帳フェチ。今頃覚えても間にあわんだろう」 「フェチ f e t i s h i s m 【名】物心崇拝・フェティシズム・拝物愛。私が単語帳フェチという言葉通りの人間なら、英単語は受験のために覚えているわけではないことになるので問題はない」 鵲森が顔を紅潮させて暮臥を睨んだ。 が、暮臥は単語帳を見つめたままでどこ吹く風である。 「話が合わんっ」 「合わす気など毛先ほどもなさそうだがな」 居心地の悪そうに佇んでいた木下を手招きする。 下座の空いたコの字型のテーブルの中心に、木下を移動させた。 ちょうど対戦が終わったのか、雨都が顔を上げた。 「や。誰? 新入り? だとしたらうちは珍しく三年だけのアットホームな部活だったりして、」 「ふん、黙れ脳味噌トコロテン」 「な。トコロテンってなにさ。あ、こうにゅるんと滑らかな思考が四角くきっちりと滝のように溢れ出るとかそう言う意味?」 「お前と話す度に話の要点がどんどん、すっぽ抜けて押し出されていくからだ。いいから黙れ。まったく、こんなんばっかりかうちの部は」 「「「「お前が言うな」」」」 ため息をついて英鳳。 「風紀」 「ああ...では、我が愛すべきかもしれない部員達よ。新入部員を紹介しよう」 軽い驚きが、部室無いに拡がる。 暮臥も、この時ばかりは木下の顔を見た。 「お。当たってるじゃん。どーするよこの筋肉ファンタジー」 「妙なあだ名を付けるな。一つめの思考だけまともだからトコロテンなんだろうが」 「部長、チーフ【名】」 「なんだい二号ちゃん」 「second あるいは kept woman って、あずさだから? ...我々の風紀部は今年度で廃部する予定なので、三年生のみで構成されている。違いますか?」 「All right!」 「あわせるな、」 そして間違っている。 「ふむ、確かにそれは重要かな。では部長の自分が君に尋ねよう。 木下真佐樹、この部活は今年度で廃部することが決まっている。それでも入部するかい?」 風紀が斜に構えて木下を睨んだ。 木下は、誠実な目に見据えられてか、どこか気後れした様子だった。 「柊先輩は、おれ...自分の恩人でした。あの人がいなければ、自分は一生後悔していた。たとえどれだけ楽しい人生を送ってたとしても、あのときああしてれば良かったと、きっと悔い続けていた。...そんな後悔を、迷いを柊先輩は払ってくれた。 だから、そんな先輩が死ぬのが許せない。 先輩を殺したこの世界が許せない。 仇討ちなんて、自己満足なんでしょうけど...正直に言えば、その気持ちだけで風紀部に入ろうとしています。それが間違ってるとも思えない。 そんな理由でいいのなら...」 風紀は「むぅ」と唸った。 腰に手を当てて、 「君はなにか勘違いしているな」 「は、はぁ?」 「自分は入部する意志はあるかと聞いたんだ。それだけ簡潔に答えればいい」 泰然と、木下を見据える。 木下はしばらく沈黙したあと、居住いを正すかのように堂々と立ち直した。 「あります」 「ようこそ、後輩。では皆の衆、拍手だ。クラップ」 風紀が率先して手を叩くと、四人ばかりの僅かな拍手がそれに続いた。 拍手に照れながら、木下は自分の方を向いた。 「ようこそ。理由はどうあれ、歓迎する」 「ありがとうございます。ああ言いましたけど、おれ、風紀部でなら...中尾先輩と風紀先輩と一緒にいたなら、今の自分の迷いの答えが掴めそうな、そんな気もするんです」 「そうか。それは」 なによりである。 拍手にビックリしたのかそれとも呆れたのか、フク部長が開きっぱなしの風紀部のドアから出ていった。
(一部完)
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■2006年10月01日(Sun)
屍骸術師と勇者株23
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「なんでそうなるの?」 日曜というのに受験勉強のためと「なみはや荘」に逃げ込んできていたヒュアリィは、ようやく話し終えたタツマにそういうのだった。 「株を売りに行ったのに、メイドさんを拾ってくるなんて」 「俺が知るか」 「え、タコヤキってタラコを入れないのですか?」 「そんなわけなかとよ。タコヤキには昔からチーズときまっとるっとよ」 オークノート市民が聞いたら激怒しそうな会話を繰り広げながら、タコヤキ焼きの鉄板にかじりついているメイとルーラ。 ちなみに、ルーラはまだメイド服を着ていた。 「え、ではこのタラコは何に使うのですか?」 「何にもつかわないっと。ふつーに添えものおかずの一品っとよ。 まあ、お茶漬けにしてもよかけど」 「お茶漬け...」 せっかく南に行ったのだから、魚市を覗いていこうと言うことになり、結果買ったのが蛸とタラコだった。 蛸はタツマが、タラコはルーラが買ったものである。 当初は刺身用の蛸を買う予定だったのだが、買ったのはたこ焼き用の蛸である。「たこ焼き用」と書かれたその値札を見たときに、ルーラとメイが異常に「たこ焼き」に興味を示したため、こうなったのだった。 タツマにとっては何ひとつとして珍しくない。 たこ焼き用の蛸が刺身用とは別に売られていることも含めて。 「ルーラさんって、南の群島の人なのかな。ほら喋り方とかもそうだけど、タラコってあっちの方じゃ主食だっていうし」 「らしいな。出稼ぎに来ているらしい」 職業泥棒と言うことは伏せて説明する。タラコが主食というのは偏見だが、盛んに食べられているのは確かだ。製法自体も南の群島伝来のものである。 懐かしさに及んで思わず買ってしまったのだろう。 「なに本人の横で陰口っとるっとよ」 ルーラが横槍を入れてきた。 手には千枚通し。くるくると回転させている。 「それより、大家さんに挨拶は済んだのか?」 「う...まだっと」 千枚通しを抱きしめて、身震いするルーラ。 「だってあの部屋気味悪かよ」 「あ〜わかるなあ、それ」 大家の部屋は屋上にある。正確には屋上に建つ掘っ立て小屋である。 明らかになみはや荘より古いその掘っ立て小屋は、様々粗大ゴミとしか思えない家具が内外にひしめいており、ヒュアリィ曰く「ゴミ屋敷一歩手前」であった。 大家はその掘っ立て小屋に、嬉々として住み込んでいる奇人である。 「まあ、いいか...どうせあのおっさん、誰が住もうが興味ないだろうし」 メイを住人として住まわせているだけでも、明らかだった。 独りごちたのはいいが、誰も聞いてはいなかった。 ルーラとヒュアリィはというと、いつのまにか和気藹々とお喋りをしている。 「えええっ、ルーラさんって、わたしより年下なんですか?」 「みたいとねえ。義務教育終わって、すぐ出奔したっとよ」 「自分で出奔と言うか...」 「うそーー。ってことは、わたしとメイちゃんとのちょうど真ん中当たりじゃない、それでそんなに美人さんだなんて、反則だわぁ」 「び、美人っと?」 「そーよー。こんなに大人びてて、プロポーションも良いし。初め本物のメイドさんだと思ったもの」 メイドには若くから就労する者も多いのだが、要は新人らしさも抜けた正真の社会人に見えると言うことだろう。 確かに、ルーラは見た目だけは20代と言っても通るような雰囲気を持っている。 まあ、本当に見た目だけなのはそれこそ見たとおりなのだが。 「うあーかわいいなあ」 しきりにメイド服を触りまくり羨ましがるヒュアリィ。 年下と知ってか、態度が途端に遠慮のないものになってきている。 「う〜...あたしがこんなの着ても似合わないだろうなあ。くそーー」 と言って抱きついた。 抱きつかれたままのルーラ。扱いに困った様子でタツマを見て、 「なんね、この新しいおもちゃを見つけたよーなはしゃぎっぷりは」 「そのままだろ」 「ああ...メイも似たような扱いなんね」 と旧い方のおもちゃ――メイの方を見たルーラはぎょっとして、固まった。 視線の先で、メイが天井を見上げたまま至福の笑みをたたえていた。 つられてルーラも天井を見るが、ランプに蚊のような虫が一匹たかっているだけだったので混乱した様子だった。 「...どうしたっと?」 「気にするな、タラコのお茶漬けという未知の料理に軽く昇天してるだけだ」 メイの視線の先にはきっと楽園でも見えていることだろう。 「な、難儀なんね」 怯えた様子で後じさりするルーラだった。 | | |
■2006年10月01日(Sun)
屍骸術師と勇者株22
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「ふむ、大体全容が見えたな。喜べ諸君」 「え、それでいいっとよ?」 「何がだ」 タツマが尋ねるが、ルーラはいや別にと釈然としない様子で返した。その部分を省略するのはあり得ないだろうとかよく解らないことを呟いている。 「ルーラ女史の危惧はもっともだ。だが、アリバイなんて実際どうでもいいのだよ。こっちは犯人が解っているのだからね。捕まえて締め上げればいい」 危険な思想をのたまうルイスだった。 「あの、結局どういうことなのでしょうか...」 そして金の支払いはどうなるのでしょうか。 そんな顔をしてるなあと思って眺めていたら、また足を踏まれた。 「ふむ、では掻い摘んで説明しましょう。犯人はこの屋敷でメイドに扮装してカルラ氏を殺害。後、一度地表層にまで運んで、回収口――つまりダストシュートの出口から死体を投棄したのです。その後、カルラ氏の行方不明が判明すると同時、ルーラ女史の潜入が露見、そしてカルラ氏の死亡が最後に判明した、とそういうワケです。 本来はまあ、ゴミ回収業者の回収時間、カルラ氏の予定、家政人たちの行動と心理を利用した巧妙な殺害時刻改竄トリックだったのでしょうが、まあ偽装は偽装としてバレているわけなので意味もないし割愛しましょう」 「せやけん話的にそこを端折ったらいかんよーな」 「ともかく、ここから導き出される答えは一つです。ではルーラ嬢。その答えとは何でしょう?」 ルイスは何かを楽しむような表情で、ルーラに問いかけた。 ルーラは怯んだ様子もなかったが、肩をがっくりとおとしてため息をついた。 話を聞かないから呆れた、というわけではないだろう。 その答えが悲しいぐらい理解できたから、だ。 「わかっとるっとよ...うっちはハメられたとね」 騙された事実にどうしようもなく落ち込むルーラ。 そんな彼女にルイスは恭しく一礼したのだった。 「よろしければ、あなたにストラング家の情報を提供した人物について質問させて頂きたいのですが」
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■2006年09月30日(Sat)
素猫
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本日の購入
『GA-芸術科アートデザインクラス』 きゆづきさとこ
ニンジン雑誌※の四コマでは、これと『教艦ASTRO』だけは買おうと思ってたんですが、気づいてたら売ってました。やっほい。 どっかで見たことある絵だなーと思ったら、ドラマガで見たことあるんだったかな。
※まんがタイムきららキャラット 最初キャロットだと思ってたせいか、ニンジンのイメージが強い | | |
■2006年09月29日(Fri)
風紀部52
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白鳳高校全生徒、3年15クラス602名の保有する能力を彼らが卒業までに封印、除去すること。 それが風紀の使命であり、風紀部の真の目的だった。 そして、風紀の使命に反発し、自らの能力を卒業以後も自らの望むがままに行使したいと願うもの。 それが風紀の敵であった。
白鳳高校生徒が保有する能力の根源は、他世界の法則そのものである。 能力を行使するということは、言い換えるなら、別世界の世界観を現実空間に召喚し、世界に新たなルールを追加していることに他ならない。 さて、現世界に対する別世界の法則付与は、この現実世界にとって毒である。 そのひとつでも世界に混じれば、現在の物理法則を初めとするありとあらゆる根源則が変位するためである。 最悪、物理法則が吹き飛ぶ。 それは現実世界の崩壊を意味していた。
だが現在、いわゆる「他世界の毒」 は世界とは混じっていない。 白鳳高校とそれを内に持つ白鳳町の性質、そして風紀部の存在が三年前から毒の進行を食い止めているのだが、まあそれはどうでもいい。 問題は、卒業を過ぎれば毒が「回る」 という事実。 だから、風紀が全ての能力を封じなければならないという現実。 そして、
「いよいよ、どちらも本腰を上げたってこった」 割ってはいる声がして、英鳳と木下は振り仰いだ。 幸輔が、いつの間にか近くまで来ていた。 陶器に入ったにごり酒を片手に木下の隣に座る。 「三年全員の能力を消す。なんて簡単に言うがな、せっかく手に入れた超能力を世界が危険だから封印してください、なんて言われて、進んでどうぞどうぞって奴がどれだけいると思う? ましてや、封印しないと世界が滅ぶかも“しれない”、だ。あやふやにも程がある。そんなだから、予測自体を否定する奴だっていてもおかしくないだろ?」 酔拳に出てきそうな酒を、念動力で傾けてあおる。 中国土産の酒なのだが、幸輔が言うには、薬臭い上にやたら度がきつく、後味は翌朝までしつこく残る上、胸焼けは次の夜まで残る「素人が飲むと吐く」 酒であり、そんな酒など土産に持たされても誰も飲みはしないのだが、幸輔はよくこの酒を持って帰ってくるのだった。 まあ、そんなことをのたまう幸輔もたまに吐くのだが。 「じゃあ、三年生のほとんどが...?」 英鳳はゆっくりと首を振った。 「賛同者の方が圧倒的に多い。生徒の九割方が風紀に自分の能力を封印されることを了承している」 「風紀先輩に?」 「能力封印の力を持ってるのは、今は風紀だけだ。 三年前までは三人だった。それぞれの学年に一人ずついたんだ。 その人達は自分らの学年の生徒全員の能力を残さず封印して卒業していった。今年は風紀の番、そういうことだ」 「...三人いるときにまとめてしなかったのですか?」 その疑問はもっともだった。 もっともだったし、実際英鳳はその案を風紀に持ちかけたこともあった。 だが、風紀はそれを却下したのだ。 幸輔が、木下に「たとえばな」と語りかけた。 「【明日の株価が視える】って能力を持ってる奴がいたとするだろ。そいつはその能力をふんだんに使って金儲けをするんだが、せっかく儲けても世界がぶっ壊れたら困るから能力封印には賛成なワケだ。 だからまあ松方には協力をするわけだが、その代わり卒業まで封印はまって欲しいと言う。当然だな。そいつにしたら一日でも多く稼ぎたいワケだ」 「ああ...」 「解るだろ? そういう奴を含めて九割ってことなのさ」 納得がいった様子の木下。 ちなみに、幸輔が例に出した能力を持つ物は実在する。 「風紀は...」 今更思い出す。三年前に風紀部を立ち上げたときの宣言を。 「そういう主張を受け入れた。そして先代も、先々代も、その風紀の主張を受け入れた。一番つらくなるのはあいつ自身だってのにな。ギリギリまで、あいつが許容範囲と指定した時期まで、生徒全員の封印に猶予を与えた」 そして、今が来た。 「限界がやってきた。風紀が指定した時期はもうすぐだ。 だから敵も動き出した」 「なんで動き出したかってーと、最初に封印されるのがそいつらだからだ」 幸輔が補足する。 「時期が来たら、俺らは一斉にそいつらを追い込んで潰す。そのために、桂介みたいな能力を放棄したがってる奴らでさえ残してるわけだ。戦力は多ければ多い方がいい」 もっとも、それでも雪路は放棄してしまったのだが。 静寂が長く続いた。 英鳳は黙ったままだった。 話すべきことは話した、そう感じていた。 やがて木下が、口を開く。 「けど...賛同しない人なんてどうやって知るんですか」 やはりそういう疑問を持つか。内心でのみ呟く。 そう、無論、敵対者が明確な意志を示すワケがない。 ギリギリまで見方のフリをして、最後に出し抜く可能性は誰もが考える。 英鳳は黙っていた。 答えたのは幸輔だった。 「まあ、考えるわな。初めて聞いたお前でも思ったわけだ。誰だって考える。 でもな、三年はその答えを知っていた」 「待て、幸輔。木下にその話は、」 英鳳は幸輔の言わんとすることを静止しようとした。 だが、幸輔は人の悪い笑みを見せるだけで、 「いや、白鳳高校の生徒なら誰だって解る筈だな」 とたん木下の表情が、一変した。 信じられない想像をした。そんな表情だった。 「じゃあ...柊先輩は」 「幸輔!!」 叫ぶ。遠くの集団のざわめきが止んだ。 その瞬間を見計らったように、幸輔は言った。 「柊運命なら、あいつなら誰が敵かなんて一発で解る。そういうことだ」 吉泉が、酒瓶を顔面に持ってきた。 そこに自分の拳がめり込み陶器を割り砕く。 「もったいねえ」 破片をこれ見よがしに浮かべて、吉泉が愚痴を漏らす。 軽薄な物言いに、英鳳は怒気を抑えて呟く。 「...そんなことまで話すつもりはなかった」 「けっ、残念だったな。俺は話す気満々だった」 なおも、せせら笑う。 英鳳は裂けた皮膚を気にもせず、ただ浮かぶ破片を睨み続けた。 と、 空気が歪んだ。 破片がまるで写真を曲げたかのように、平面的にねじれていき細く、線のようになって、消え去る。 捻れ、 細くなり、 消える。 吉泉の能力ではない。 「英鳳先輩...答えてください」 一瞬、誰の声か解らなかった。 それほどに、木下真佐樹の雰囲気はがらりと変わっていた。 「柊先輩は、敵が誰か知ることが出来て、 だから、たったそれだけの理由でっ! 殺されたのですか!?」 迂闊に答えると、殺されかねない。 木下はまだこの能力を制御しきれていない。 対象に殺意を抱いただけで、そうしてしまう程に。 だから、英鳳は正直に答えた。 「知らないな。お前が聞く前に殺したからな」 「あ...」 我ながら卑怯な言い方だとは思ったが、木下はそれで正気を取り戻した。 俯く木下。幸輔に目配せすると、身震いして「へっ」 と、笑っていた。 思った通りだろ。目が語っている。 何もかもがしゃくに障る。 「俺が言えるのは、霤弔漏里に敵の側の人間だったということだけだ。可能性としては、その理由が高い」 「そうですか...」 憮然とした様子で木下は肩を落とす。 「柊先輩、自分が長くないようなことをよく言ってて...冗談だと思ってたのに」 命の危険性は、柊自信感じていたはずだ。 無論、風紀達も柊が最初に狙われることを知っていた。 「すまない」 それは誰に向けていった言葉だったのか。 木下は、星の明るい夜空を見上げて、少しだけ笑った。 それは、さっきまでの自嘲的な笑い方ではない、誰かを思う笑顔だった。 「...わかってます。先輩が望んだんですよね、きっと」 | | |
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