ゾロの唇がサンジの首筋をなぞる。
滑らかな白い肌に、今日は珍しく プラチナの鎖が飾られ、
鎖骨のあたりで 蒼い宝石が揺れていた。

「・・・・はっ・・・・。」
ゾロが与える 柔らかな愛撫に サンジは吐息を漏らした。

見なれない、首飾りがゾロの眼を惹き付ける。
瞳はそれを追い、唇はサンジに触れたまま。


「・・・これ、どうしたんだ・・・・?。」
囁くように ゾロはその首飾りの事を尋ねる。
俯き加減だったサンジの顔を、ゾロは顎に手を沿え、少し強引に
自分の方へ向けた。
「・・・んっ・・・・なんだ、気になるか?・・・・」

そんなゾロの行動を 小さく笑うように、サンジの目が細められる。

サンジも腕を上げ、ゾロの頭を引き寄せ、お互いの唇を重ねる。
ひとしきり 熱く求め合い、どちらともなく ゆっくりと離れる。

「・・・オールブルーの雫さ。」
サンジは吐息ともに そう言った。
背中ごしにサンジの首もとの宝石をゾロは指で摘む。


「・・・ナミさんには、内緒だぜ。」


どこか、懐かしさを感じさせる色合いの、限りなく透明な宝石だった。
薄暗い部屋なのに、それ自身が光りを纏っているかのように輝き、
粗く削られているだけなのに、その光彩は見るものを惹き付けている。

「・・・高い物なのか。」

ナミには内緒だ、というサンジの言葉からゾロはその宝石が
高価な物だという事を察した。

「俺が最初に手にいれた時は、1000万ベリーだった。」
サンジは、話を始めるつもりで 後ろから抱きかかえていたゾロの腕を解こうとした。

けれど、その腕も、唇も、サンジの体から離れることなく
やんわりと蠢いて、行為の中断の意志など 少しもないことをサンジに伝えた。

サンジは、眉を寄せた。
機嫌が悪いわけではない、そんな刺激を与えられると、
声が震えてしまう、そのことに対する羞恥の現われだった。

「話を聞くか、やるか、どっちかにしろよ・・・。」とゾロを叱責してみれば、

「話を続けろ。聞きながらやる。」とふざけた言葉が返ってきた。

二人が肌を重ねているのは、ある島の宿。
サンジは、ゾロの穏やかな愛撫に身を任せながら、
その首飾りの話を 甘い吐息の混じった声でゾロに聞かせた。



海の雫
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どんなに強靭な肉体を持っていても、突然 病魔に犯される事がある。
先天的な病だったり、伝染病だったり、体の細胞の反乱だったり、
その原因は色々だ。


海賊として半生を生きてきた、片足の男が病に冒された。


男には、家族がいなかった。
いや、自分の症状について理解できるほど 大人の家族がいなかったのだ。
彼には、たったひとりだけ、同じ夢を共有するその相棒がいたが、
彼の病状を理解するには幼すぎた。


心臓から体中へ血液を送り出す太い血管に大きな瘤があり、それは放っておくと
どんどん大きくなり、周りの血管も固くなり、
早急に手術をしないと 明日にでも、一時間後にも、心臓が破裂するかもしれない、という切迫した状態だった。


だが、医者は手術できずにいた。
かなり 難しい手術で、その医者自体、ゼフを救える 自信がなかったようだ。
患者である、片足の男・・・・。かつて、クック海賊団を率い、
「赫足」と怖れられた、今は、レストランバラティエのオーナー、
ゼフも、その手術に同意しなかった。

いつ、心臓が破裂して死ぬかわからないが、手術中に死ぬことも十分に考えられる、
と言う医師の言葉に ゼフは決断を鈍らせた。

もしも、自分が死んだら。
あの、相棒は一体どうなってしまうのか。

生きる場所をようやく見つけ、幼いながらも 力強く生きようと逞しい生命力を
手に取るように感じさせるようになって、
海で生きるために必用な事をたくさん教えてやらなければならない。
だから。

絶対にこんな病で死にたくないと思った。

「チビナス。」
ゼフは、病床に相棒を呼び寄せた。

ゼフが厨房でいきなり倒れてから、診断が下されるまで
2日たっていた。

チビナスは 12歳になったばかりだった。
もっとも、自分の誕生日を覚えていないので、ゼフと出会った時10歳だった筈で、
それから2年たっているから、多分、12歳になったのだろう、とゼフが
勝手に思っているだけなのだが。


ゼフは、自分の口から自分の病の事を チビナスに話した。
チビナスの蒼い瞳に みるみるうちに水がたまる。

「死ぬと決まったわけじゃねえ。」
突然死ぬか、手術の限りなく低い可能性にかけるか、
ゼフは、チビナスの目にたまった暖かでしょっぱい水を見て
決断した。

「俺は、まだ、死ぬ気はない。お前は、いつでも店を開けられるようにしておけ。」

危険な手術を受ける事をゼフは決断した。
この小さな相棒を思う気持ちがあれば、どんな手術にも耐えられるような気がしたのだ。

「だって、難しい手術なんだろ、それ。」
チビナスは、不安げな表情を隠す事もまだできない。
顔にも、声にもそれがにじみ出ていて、ゼフにはそんな幼さが心もとなくて、
どうしても 生きなければならないという気持ちを奮い起こさせられた。

「お前は、エレファント・オオ・マグロを捌いた事がネエだろう。」

ゼフは唐突に話しを変えた。
「捌いたこともネエし、みた事もねえ。」ゼフの問いにチビナスは答える。

「サウスブルーの美味い魚だ。これくらい大きい」
ゼフは、横になったまま、大きく手を広げた。
そこにチビナスの視線が注がれる。

「これのモツを・・・そうだな、心臓を開いて、素揚げしてマリネにすると
ワインのつまみになる。少し腕のいいコックなら 造作もねえことだ。」

チビナスは首を傾げた。
ゼフが何を言いたいのか 判らないのだ。

「心臓の瘤をとるくらい、医者なら、簡単な事だ。心臓のマリネを作るくらいにな。」

「ジジイには簡単だろうけど、俺には難しい。」
チビナスはゼフの言いたい事を半分ほど理解した。

「そうだ。コックにも腕のいい奴、未熟な奴がいる。」
「腕のいいコックには、腕のいい医者がつく。」

判るか、チビナス、とゼフは チビナスの額を拳で突付いた。

「変な理屈だ。」チビナスは、ゼフの理屈の理不尽さをなんとなく
悟ったが、ゼフが決心した事には 否やを言えなかった。


ジジイは、俺を一人になんかしない。
絶対に元気になる。

自分が信じないで、一体誰がそんななんの 根拠もないことを言って
励ましてくれると言うのだろう。

ゼフが帰って来るまで営業は出来ないけれど、いつでも営業できるように
毎日 店の管理をしなくてはならない。

チビナスは、12歳ながら ゼフから仕込まれた足技で、
小銭稼ぎの泥棒相手くらいなら、汗もかかずに撃退できるだけの
力量は持っていた。そのおかげで、一人でも店を守る事が出来たのだった。




「・・・・で・・・・・?」サンジの耳元でゾロが話しを続きをせがむ。
だが、その手はサンジの一番 正直な部分を愛撫している。

「・・・もう、・・・いいだろ。後でゆっくり話すから・・・・。」
眉を寄せ、眼を閉じて、ゾロの手首を握りこんだサンジが溜息混じりに
そうっても、ゾロは 意地悪く、
「ダメだ。今 聞きてえ。」と手を休めない。

硬度も体積も増したサンジを握りこみ、それを弄りながらサンジに向かって
普通に喋れ、と言っているゾロに、サンジは、悔し紛れに悪態をついた。

「このクソ変態がっ・・・・。」。


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