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■2006年06月10日(Sat)
あいつの影が、俺を呼ぶのさ
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『魔術師オーフェンRevenge』より リコリス・ニールセン おお、背景頑張ってる。
当時中学か高校生だった自分はオーフェンのアニメシリーズを悉く無視してました。 なんか、原作無視臭が漂いまくってたというか。 光の白刃が紫色だった(無印)時点でなんだこれと思った記憶が。 Revengeはオーフェンアニメの二作目です。 無印と違い完全オリジナルと、割り切った作品でしたが、これもあまり見た印象はないなあ。 パワーストーンの方が万倍面白かった記憶があります。 で、久々に見たんですが意外なことに面白かったんですね。 原作の設定も随分取り入れてるし、魔術の構成を絵的に表現...は当時も感心してた気がするけど、良い感じでした。 なにより、ノリがオーフェンオーフェンしてるんですね。 めちゃくちゃ面白い。 どうも変なフィルターが掛かってたみたいで、反省。 | | |
■2006年06月10日(Sat)
真白い地平の向こうから
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| サボってばかりなのもアレなので、ここ最近描いた絵と解説。
ガンパレードオーケストラ白の章より 吉田遥
コアなファンと消去法によって、一身に人気を集めている希有な女の子。 キャスケット帽が魅力点だと力説するも、いざ仲良くなると帽子取っちゃうトホホなところがあったりなかったり。 いや、帽子脱いだ姿も良いんだけどね。 適度に普通な当たりが(褒めてます) | | |
■2006年06月06日(Tue)
風紀部14
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葬儀に雨はよく似合うのだろう。 柊運命の葬式が執り行なわれたその日は、晴天だった。
神様は、涙を隠してはくれない。
柊という少女に別れを告げに来た生徒は、実に156人だった。 一学年の半分より多い。 その数は、彼女が二年半――探偵部の部長としてこなした依頼の数と酷似していた。 誰もが、彼女の死を、本当に、真に、悼み、焼香の列に並ぶ。 涙を流して叫ぶもの、涙だけは見せまいと無言で唇を噛んでいるもの、笑顔で棺に語りかけるもの、堪えても涙が出てしまうもの、ただ嗚咽するもの、礼を言って去るもの、仁王立ちで棺桶の中を覗いたもの...死体を抱きしめようとして慌てて葬儀屋に止められそうになったもの。 風紀が、その最後のものだった。 英鳳はその風紀に掴みかかる葬儀屋のことごとくを殴り倒したため、二週間の停学となった。 風紀は、そんな英鳳を見ることもなく、柊運命の死体をただ抱きしめていた。
葬儀屋が死体を丁寧に棺に戻すときに、ふと運命の唇が濡れていることに気付いた。唇から一筋の線が、頬に延びている。 柊の口を湿した末期の水は、まるで誰かが流した涙のようだった。
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■2006年06月04日(Sun)
風紀部13
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生徒会長VS演劇部部長の様相を呈したRoSは、柊運命の葬儀の為、無期延期となった。 | | |
■2006年05月30日(Tue)
風紀部12
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「今帰ったぞ〜」 風紀がおっさん臭い台詞で扉を開けると、部室の中では柊運命(探偵部部長)がフク部長の頭を撫でていた。 「おかえり。時間的に全部回ってきたみたいですね」 「おう、出迎えごくろ〜。コレおみやげ」 書類を渡す風紀。 「仕事が速いですねぇ」 丁重に受け取る柊。 「ごめんね。汚れ役受け取って貰っちゃいまして」 「いい。恨まれるのも仕事の内だ」 腕を束ねて風紀。副部長、と呼ぶとフクが風紀へと駆け、着席した風紀の膝に落ち着いた。 「なら、こちらも仕事を果たしますかね」 柊はポケットから一枚のチップを取り出して、風紀に手渡した。 携帯などに使われるメモリーカードだ。 風紀はそれを無言で受け取る。 「さてと」 柊は大きくのびをした。 「これで仕事は終わりですね。まったく、肩の荷が下りましたよ」 「御苦労さん。そして、風紀部の部長として礼を」 「まるでもう終わりみたいな言い方だね」 苦笑する柊、ねえと英鳳に同意を求める。 「終わりなんだろ?」 引退の季節。そして柊は受験生だ。本来ならもう部長などやっている時期ではない。それでもこうして部長をやっているのは... 「迷惑を掛けたよ、柊ちゃん」 風紀が、柊を手招きした。 「柊ちゃんにはこの二年間、ずっと世話になってしまった。柊ちゃんがいなかったら、この白鳳高校は本当にダメだったかも知れない」 「いやね。風紀に比べたらたいそうなことしてないですよ」 実務主義で、いつも気むずかしい顔で、皮肉げにしか笑わない柊運命。 彼女は、いま微かに笑んで肩の力を抜いている。 「実務二年の探偵だって断言できますよ。アナタが二年前の事件を収束させなかったら、風紀部を立ち上げなかったら...絶対に今みたいな楽しい高校生活はできなかったことでしょう。私も探偵部なんてしなかったし、RoSもジュッキューも、生徒会も、TakeBack'sも、みんな勝手なことばかりして、いつか空中分解していました」 風紀が両手を開き胸を貸す。そこに柊が頭を埋めた。 「アナタは本当に女の子を抱くのが好きですね」 「違う。自分は自分が認めたヤツを抱くのが好きなんだ。男も女もないさ」 「そうですか」 何やら納得して、柊運命はしばらく黙った。 「じゃあ、今回ぐらいは」 それから、自分から腕を回して、きつく風紀を抱きしめた。 やがて少しばかりの嗚咽と、別れの挨拶を残して、彼女は風紀部の部室を離れた。
――その別れの挨拶が、風紀と英鳳が聞いた最後の柊運命の言葉だった。 | | |
■2006年05月28日(Sun)
風紀部11
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雪路亜里抄。その性格、傲慢にして不遜。だが、向かうところ敵無し。 ある意味においてこの学園最強の人間である。 「クリリンみたいなもんよ」 とは風紀の言葉。 案に、一部の人外とはどうしても越えられない壁があることを物語っているわけだが、まあそれはさておき、 「あれ、風紀部じゃん」 涼風のように透明で澄んだ声が、扉の後ろから発せられる。 「双子の片割れもいるな」 「じゃあ、又子だね」 「下品よ千里」 声に続いてぞろぞろぞろと出てきたのは、 「雪路ファミリーか。そろい踏みだな」 金髪、ヤクザ、ガキ、美女の四人組。演劇部四天王というか、幹部連中(全て三年)だった。 「なに、役者やりたくなった?」 耳にくすぐったい声で喋るのは、武之部希生。事務担当だが役者もこなしている。金髪の耽美系美青年で声優志願。女子の人気はすこぶる高く、彼目当てに観劇しにくる生徒は数知れない。特技はそのまま声で、彼の放つ透き通る声にはフェエロモン的な超音波が含有されている...とかなんとか。 白鳳高校唯一の金髪で(去年まで二人だったが)、これは「役作り」のために金髪が特権的に認められているためである。白鳳高校は、ときに校則よりも部活動が優先されることがある。 「いや、見ての通りだ」 「見てる通りって、あんたとこの部長がウチの部長をからかいに来ただけに思えるが」 「その通りだ」 「...」 むっつりと喋るヤクザ...いや、単に目つきが悪くてオールバックなだけだが、こいつの名前は相羽桂介。副部長の設営監督。ワイルド系の美形で役者もたまにしており、やはり女子の人気は高い。武之部とよくつるんでいるが、彼は部長にベタ惚れであるという情報は生徒・教師はおろかPTAですら知っている事実なのでホモ疑惑はない。ないが、まあそれはそれで一部の女子はあれこれ妄想するらしいが。 「あのさ。下品って、思う方が下品な気がするんだけど」 「気のせいよ」 「気のせいかなあ」 漫才をしている残り二人の女子は長谷川千里と朝倉みずのだ。ハムスターみたいな小動物を連想させる方が書記の長谷川で、どことなくおっとりとした美女が人事兼会計の朝倉。長谷川はたまに役者をするが、朝倉は裏方専門だった。 「朝倉ちゃーん!」 風紀が、いきなり軌道を曲げて朝倉に抱きつこうとする。 誰も止めなかったので朝倉はされるがままに抱きつかれた。 「あぁ〜癒されたよ自分はぁ。まさにオアシス、どこぞの鬼婆とは全部が違うねぇ」 「ん〜とりあえず挨拶しようよ、風紀ちゃん」 慣れてる様子で風紀の頭を撫でる朝倉。 「言ってろ...ったく」 顎の下の汗を拭って、雪路が乱暴に着席した。 「で、何の用だ」 「いや、からかいに来ただけだと思うが」 「お前じゃない。そこの四人だ」 英鳳を邪険にあしらい、雪路はふんぞり返った。 「今日、打ち合わせる用事はなかったはずだ。武之部以外は受験もあるだろう?」 「それなんだけどね。雪路」 福沢諭吉の「ゆきち」のような発音で武之部。 「僕ら、今回のRoS降りようと思って」 「あ〜部ちょ。あたしもサポーターやめときます」 と、これは長谷川。 「...待て。なんだそれは」 とたん、雪路の表情に焦りが見えはじめる。 「なんでって...そりゃ言わずもがなじゃないかな。勝てる見込みないし」 「そ、そんなことでいいのかお前ら。だいたい勝ち負けにこだわるなんてエンターティナーとしては...」 「いやいやエンタにこだわるなら、あたしの出る幕無いし」 「おじゃま虫よね」 人差し指を立ててぼやく長谷川と、抱きつかれたままコメントする朝倉。 「だ、だからなんだそれはっ」 おたおたと、普段の自信と余裕に溢れた態度とは正反対のしどろもどろぶりである。 「ああ、そうそう。思い出した」 これは英鳳。 「ジュッキューも降りるとさ。これで一騎打ちだな」 雪路の顔が蒼白になった。 | | |
■2006年05月27日(Sat)
風紀部10
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『演劇企画部“TakeBack's”』
演劇部ではないのがミソだが、カテゴリとしては演劇部なのでこれも「変な部」ではない。周囲の人間も、本人達ですら演劇部と呼んでいる。 「ああああああああああああああああああ」 企画部、と称するのにはそれなりに意味がある。 まず、TakeBack'sには決まった役者と裏方がいない。いるのは、プロデューサー、演出(兼監督)、設営監督、事務、書記、人事(兼会計)のみ。 ではどうやって芝居を作るのかというと、外部から役者や裏方などの人材を募集するのである。 毎回毎回、芝居を企画しては協力者を募り、芝居を行う。 TakeBack'sとは、そうやって集めた人材を駆使して芝居を打つプロモーターなのだった。 「あああああああああああああああああああああああああ」 舞台を企画しては、人を募り、おおいに盛り上がろうという企画屋「TakeBack's」は、早い話が「お祭屋」であり、事実、芝居の参加者達は文化祭を楽しむかの如く舞台運営の数ヶ月を過ごす。 練習期間は長くて1シーズン〜1週間。短期だがまがりなりにも「部活動」に打ち込めるTakeBack'sの企画は帰宅部連中に人気が高く、実際TakeBack'sはそう言う長期的に部活動が出来ない立場にある高校生達にちょっとでも「青春を取り戻して」貰おうと立ち上げた部でもあった。 「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」 「うるさ〜〜〜い!」 風紀が吼えた。 部長と、銘を打った三角柱の置かれたデスクでポニーテールの女生徒が頭を抱えていた。 「呪詛を撒くな呪詛をっ! それともなにか、新手の発声練習か何かか!! そうなら他の生徒の迷惑になるから、別の発声練習に切り替えることを忠告する!!!」 「やかましいっ、黙ってろちょんまげ女!」 がばっと、起きあがって眼鏡を掛けた美人が剣幕も凄まじく風紀を罵る。 「なにをっちょんまげはそっちもちょんまげだろ!」 「いや、わけがわからん」 英鳳が呟くが、女生徒と風紀の罵りあいはどんどんとエスカレートしていく。 「テレテレしながらメイドさんの練習でもしてるかと思えばひとりで扇風機に向かってあ〜と言うモノマネごっこか、この男女!」 「貴様にだけは言われたかないわっ、じじむさ女! だいたい、まだ俺が負けるとは決まってない!」 「あ〜無理無理無理だね! 亜里抄なんてふーちゃんとまともに目合わせただけで悶死しそうになるのに、二時間ずーっと見つめられ続けるなんて壮絶天国に耐えられるわけ無いじゃないのさ」 「なっ貴様ぁっ! 吹雪をふーちゃんって言うなと何度も言ってるだろうが!!」 「話をそらさな〜い! へへーん。私なんて今日ふーちゃんに二回抱(きつ)いちゃったもんねー」 「ばっ...う、うらやましかないわいっ」 と言いつつ、顔は真っ赤である。 「ほおずりまでしちゃったし」 「ほっ...ほっ...ほっ...」 風紀のだめ押しに、女性とは口をぱくぱくさせて思考停止した。 「ご老公のモノ真似か?」 「違うだろ」 傍観している英鳳の疑問に、同じく憮然と見ていた真が腕を組んでツッコミを入れる。 「相変わらず犬猿の仲だな。あの二人は」 「キャラが被ってるからだろ」 身も蓋もないことを言う英鳳。 「てか、真的にあれは良いのか?」 「まあ...雪路先輩が慌てふためくのは会長も好きだから」 「どういう忠誠心なんだか...」
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■2006年05月25日(Thu)
屍骸術師と勇者株9
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「はあ、それではアベル・ファイラムは」 「ああ。俺のじっちゃんのじっちゃんのそのまたひい爺さんぐらいにあたる。 紛れもない、ご先祖様だ。子供の頃はそれでよく馬鹿にされたよ」 誰がどう知ったのか、一時期、タツマとヒュアリィは自らも知らなかったご先祖のことで、思いっきり見下され虐められた。 タツマはまあ、こんな性格なので大して取り合わなかったが、それでも腹の裡に重たいものが残ったのは確かだ。ヒュアリィに至っては毎日のように、泣いて家に帰ってきていた。 「それは素晴らしい」 馬車に揺られる中で、常務さんがひとしきり興奮している。 「いやいや、このような町で有名人の子孫に会えるとは...彼もきっと彼も喜びますよ」 馬車はオークノートの中央の方に向かって走っている。 丘のように迫り上がる共同墓地が、いつもとは違う角度で見えていた。 彼。これから会いに行くのは、さる企業家の邸宅らしい。 「つまり、なにか。アベル・ファイラムにもファンがいるってことか?」 「はい。アベル・ファイラムは勇者としての素質はともかく、企業家としては間違いなく天才でしたから」 つまり、商人達にとっては尊敬するべき対象として崇められてきたというわけだ。勇者と言う正義や勇気が物を言う世界で、実利を重んじ堅実に稼ぐことで有力者としてのし上がったという伝説は、確かに企業家としてはサクセスストーリーであろう。 「よかったですね」 「それは君のことだろう」 確かに、子供の頃から守銭奴の末裔として、たまに蔑まれてきたことを思えば、幾分は気が晴れる部分もある。 だが、結局のところそれは、「守銭奴は守銭奴だが、だからこそ尊敬される部分もあるのだ」と言うことであって、それ以上ではない。 やはり馬鹿にしていた奴らは馬鹿にすることを止めないだろうし、歴史の教科書や教師はその評価を覆すことはない。 まさか、目の前にその子孫が居ることも知らずに、徹底的にこき下ろすのだ。 そういうもので、そういうものだった。 メイが哀しそうな顔でこちらを見上げてきたので、タツマは再び風景を見た。 が、ガラス越しに、彼女の表情が見えてしまう。 「...まあ、少しでも高く売れるのなら。俺もヒュリィも親父も先祖も浮かばれるんじゃないか?」 ため息。ガラスに映るメイが嬉しそうな顔で、 「そうですね」 と言った。
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■2006年05月25日(Thu)
風紀部9
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微かな揺れを感じて、英鳳は目を開けた。 「ん...」 「あ、起きた?」 同じ高さの目線で、風紀が顔を覗く。 おぶられているのだと、それで気付いた。 白いうなじが目の前にあって、汗とシャンプーの匂いがする。花の香りと言うべきなのだろうが、英鳳にしてみればシャンプーの香りだった。 「真...か?」 「そうだよ」ぶっきらぼうな声。 胸の前に放り出されている腕を、当たらないように動かして肩の上に持って行く。 「おろしてくれ」 「ダメだ」 英鳳は、即座に真の赤くなっている耳をつまんだ。 ひゃぁ、と可愛い悲鳴を上げて真が棒立ちになる。それで、英鳳は廊下に転げ落ちた。 「幻は?」 「まぼちゃんは会室に残ったよ。来たそうだったけど」 護衛というかアシスタントを優先したのだろう。ああ見えて、生徒会執行部は常時忙しい。 「嬉しそうだね」 にやにやと、風紀。 「まあ、女におぶられるなんて、滅多にないしなあ」 「いい匂いした?」 「したな」 「抱き心地は?」 「そこまでは確かめてない」 「もったいない...じゃ、今度は自分がおぶってあげようか?」 「ごめん被る」 硬直していた真が、会話の内容を聞いて顔を真っ赤にして英鳳に殴りかかってきた。 「そうじゃなくて、なんかいい夢見てたっぽいけど?」 「昔の夢だ。いつもどおりの、何回も見た」 「ベンケ?」 「ああ、ベンケ」 それをきいた真が、赤い顔から湯気を立てて頬を抑える。 英鳳は真の腕を掴んで、頬に触れる手を下に降ろした。 顔を隠せずに、うつむく真。 風紀が、それを見て息をはいた。 「えっち」 「なんでやねん」 見渡すと、廊下には誰もいなかった。 前方の扉に張り紙がある。
『演劇企画部“TakeBack's”』 | | |
■2006年05月24日(Wed)
風紀部8
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ベンケと言う遊びがある。 小学生の頃の一時期に、はしかのように急激に流行した遊びだった。 ベンケはシーソーを使った、対決ゲームである。 まず、シーソーの両端に競技者二人が見合って立つ。そして、バランスが釣り合うように移動して、ちょうど水平になったところで準備完了。 審判のかけ声と共に勝負ははじまる。 勝ち負けの基準は簡単だ。先に落ちた方が負け。 シーソーに乗る二人は、互いに跳んだり跳ねたり押したり引っ張ったりをしてとにかく先に相手を落とそうとする。 小学校のシーソーは、両端が付く土の部分にタイヤが埋め込まれていて、それが生み出すぼよんとした反動は耐えるのが難しく、このゲームの難易度を上げていた。 「ほんきなの? 中尾くん」 小学3年生になったばかりの松方風紀が、腕組みしていた。 「中尾くんがジブンにベンケで勝てるわけ無いじゃない」 「そんなの、やってみなきゃわからないだろ」 同じく小学三年生になりたての自分が言い返す。 ほんとはこの時、風紀の言ってることがどうしようもない事実だと言うことを痛感していた。今でこそ今の英鳳だが、昔は超がつくほどのもやしっ子で軟弱人間だったのだ。 「ひでおまけんな!」 ほっぺに大きなガーゼを貼付けた刻乃華真が応援してくれている。 「...あの、がんばって...」 ほっぺに一番小さな絆創膏を貼った刻乃華幻も、一応は応援してくれていた。
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■2006年05月23日(Tue)
風紀部7
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「RoS、出ると聞いたが?」 窓ガラスが割れた向こうの中庭を眺めて中尾。 終礼も随分すぎたというのに、人がわらわらと顔を見せている。 窓の下では、真と幻が慣れた仕草でガラスの掃除をしていた。 「ああ、あれね」こともなげに夜宮は頷いた。「耳が早いわね」 「ジュッキューじゃ、それの噂で持ちきりと聞いた」 「あ〜まあ、あそこは別よ」 視線が痛い。中庭からちくちくと射るような目で睨む輩が多々。 だから嫌なのだ、生徒会長と男子が話をすると言うことは、つまりこう言うことを指していた。とにもかくにも、夜宮吹雪にはファンが多い。それも狂信的な。 二年前を境にして、彼女は眼鏡と三つ編みを解き、まるで別人が乗り移ったかのように輝きだした。それは、単純に容姿をあらためて綺麗になった、では済まされない。これまで俗世に身を潜めていた王が、突如その威光を放ち始めたのだと、誰もがそう思った。 そう、彼女は王だった。生徒はおろか教師までもがその威厳のある瞳に居住いを正し、彼女の命令であればどんな理不尽であろうと受諾してしまう。 英鳳とて、その魔力は例外ではなかった。ので、彼は基本的に彼女と目を合わせない。距離感云々はその辺が理由である。 中庭から、恨めしげな視線が男女問わず飛んでくる。彼らもまた、夜宮吹雪の熱狂的なファンなのだろう。 そう言う奴らは、得てして生徒会室のことを聖域と呼ぶ。侵してはならない至高の領域と言うことだ。みだりに踏み込めば、彼女を守る騎士(を自称する者)達からいかなる制裁のくだるものか。 まったく持って馬鹿馬鹿しい話だが、しかしそれがまかり通ってしまうのが、夜宮吹雪という女性だった。 その代表格でもある騎士こそが真と幻であったが、彼女らは英鳳にだけはその殺意を向けることは(あまり)ない。 まあ、その話はさて置きだ。 「だって、亜里抄がメイドの格好してくれるって言うから」 「勝てばの話だろ」 と言うか、勝つこと前提で話してるな。こいつ。 「何してもらおうかなあ。中尾君は何させたい?」 「興味ない」 「ん〜、じゃあ風紀ちゃんがメイドの格好したらなにして貰いたい?」 とんでもない爆弾の投下に、英鳳はむせた。 「今想像したでしょ」 「なに、英鳳もメイド属性っ? ご奉仕されたいお年頃?」 「やかましいっ」 愕然とする風紀は、胸元で手を合わせ。 「どうしようふーちゃん、わたしメイド服似合うかな?」 「ふぅちゃんならなんでも似合うんじゃない?」 そのあと、生徒会長は真顔でとんでもないことを言った。 「じゃあ、勝ったらわたしも着ようかな。3人で中尾君にご奉仕なんてどう?」 ガシャーンとガラスの砕ける音がした。 真のちりとりからガラスが落ちた音だった。 「ひ、ひっ」「英鳳...貴様」 「いや、まて。落ち着け」 「そんなの英鳳でも許さないっ!」「そこになおれ!!」
大乱闘が始まった横で、吹雪と風紀がのんびり煎餅をかじっている。 煎餅は、風呂敷とクッキングペーパーで二重に包まれたものが、皿にも乗らずに机の上にあった。 「幻さんが調理実習で焼いたんだって」 「まぼちゃん家庭的ねえ...」 煎餅を焼く調理実習ってどんなだよと突っ込む英鳳もいなく、のほほんとした空気が二人を包んでいる。 「あ、ほうは」そうだ「はんへいふのほほはけど」探偵部のことだけど。 「あぁ、ボールペンの芯ね。把握してるわ」 隣の机の書類棚から、一枚紙を取り出す。 『風紀取り締まり執行令状』 「今書いちゃおっか」 ノック式のボールペンを取り出す。 モスバのアンケートに答えると貰えるボールペンだ。 スラスラと、書類に書かれた文章も読まずに空白を埋めていく。 一際大きな空欄、つまり取り締まる具体的な内容に関しての記述でもその筆が止まることがなかった。 「知ってたの、会長?」 「そりゃ当然でしょう。探偵部の物々交換制は私が許可したんだから。 こうなることだって読めてたわ」 「もしかして自分だけ知らなかったのかな」 がっくりする風紀に、吹雪は微かに笑みをこぼして、 「探偵部は元から秘密主義だから、バラそうと思わなければ、とことんまでバレないわよ。柊ちゃんも今が潮時だと思ったんじゃない?」 「ん、どういうこと?」 机と椅子が激しく交差する音が響いた。 だんだんだん、と机の上を飛ぶ音。「逃げるな英鳳!」「おのれー!」 全てを無視して、吹雪は答える。 「探偵部もあれでお金がかかる部活だから。創設二年で軌道に乗せるにはそれなりにギリギリの橋を渡る必要があったのよ。だから、わたしも割りと大目に見てあげたんだけど、」 しかし、その探偵部に引導を下すボールペンの動きには淀みはない。 「言っちゃ悪いけど、今の探偵部で現金を前にしても自分を見失わない度量や器量があるのって、柊ちゃんぐらいだから。柊ちゃんも引退も近くなったしあと始末しておきたかったんでしょうね」 「あと始末、ねえ」 なんとはなしに、教室を見渡す風紀。 英鳳が刻乃華姉妹の攻撃をのらりくらりとかわしている。 カチリ、とノック音。もう書き終わったらしい。 「出来た。サインだけお願いね」 「うわ、全部書いてくれたの? さっすがふーちゃんだよ。愛してるっ」 「だから何でもかんでもすぐ抱きつくなぁー」 「松方ー!!」「殺すっ!!!」 英鳳を負っていたはずの真と幻が、一瞬で標的を変えた。 だが、それよりも速く、刹那に、英鳳が風紀の目の前に立ちはだかる。 先ほどまでのノンベンダラリとした表情は微塵もない、討ち入る敵を撃退することだけに没頭した男の顔。 「かばうな中尾」「愚か者め!」 真と幻が驚きながらも、警棒を打ち据えた。 中尾英鳳には、その警棒の動きがひどくゆっくりに見えていた。急速に、機嫌が冷めていく。後ろに風紀がいるからだった。 ここで引くわけにはいかない、何もそこまでとは思うが刻まれた本能が自制心を奪っていく。 「あ、そうだ。二人もメイドさんしよっか」 絶妙のタイミングで、吹雪が茶々を入れた。 「なっ」 「え」「あ」 とたん、全員の緊張が一気に緩み、 ガンゴン―― 中尾英鳳は二回頭部を強打されて、崩れ落ちた。 「中尾っ」「英鳳っ」 慌ててしゃがみ込む真と幻。吹雪がくすくすと笑う。 風紀はと言うと、少し不機嫌な様子でふんと息を漏らした。 「修行が足りん」
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■2006年05月22日(Mon)
風紀部6
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せいと‐かい【生徒会】 中学校・高等学校で、生徒の自治意識を育てるために設けられる組織。学校生活の改善・向上、各種の生徒活動の連絡調整、学校行事への協力などの活動を行う。 『生徒会執行部』の部室は3−1教室の隣にある。 ちなみに、3−1教室は、総合校舎1階西側一番奥。西門下駄箱近辺である。 その横――本来ならそこが3−1だったであろう教室が生徒会執行部「部室」 だった。 何故そんな面白おかしい場所に生徒会室があるのか。 初めてこの白鳳高校に足を踏み入れた者であれば、誰もがそう思うだろう。 だが、白鳳高校の生徒達は、そこが生徒会室であることに一瞬たりとも疑念を持たない。 なぜなら、生徒会室の隣の教室「3−1」には、白鳳高校第127代目生徒会長、 「夜宮吹雪」がいるからである。
「やっほー吹雪ちゃん! 元気?」 生徒会室のドアを引くと、すぐ目に見える位置に彼女が座っている。 「元気も何も」彼女は、普通の教室にあるのと同じ机を指で叩いて、 「30分前にさよならしたばかりじゃないの」 ちなみに、風紀と吹雪は同じ教室である。 ずかずかと侵入し、まるで我が城のように生徒会室を一望する風紀。 「相変わらず殺風景ね。てか、教室じゃん」 「ん〜別に改装する必要ないし」 微苦笑する吹雪。 「あれ風紀、彼氏は?」 「英鳳なら外にいるけど」 風紀は、何かを堪えるかのように、むずむずしながらそう言った。 「入ってくればいいじゃないの」 「殺されるからだめだって」 「ふぅん。残念ね」 今度は眉根を寄せる。 「あ、」 とたん、風紀が身を震わせた。 「はい?」 「あああ、かわいいいっかわいいなあもぉっ!!」 飛びついた。どうやら、さっきから我慢していたらしい。 「ぎゃー。いきなり抱きつくなぁ」 「会長!」「会長!!」 ガシャーン、と窓ガラスが割れた。 中庭からベランダを飛び越えて、女子生徒が二名突入してきたのだ。 はためくプリーツスカート。 私服が許された高校で、二人は学校規定の制服を着ている。 腕章には「会計」と「書記」。手には30センチほどの警棒。 「おのれっ。また貴様か松方風紀!!」と、会計。 「例え会長の級友とて、許さぬぞ!!」と、書記。 うり二つの顔だった。怒る顔まで同じね、だ。 「成敗」「覚悟」 ダン――、生徒二名は踏み込んで風紀に襲いかかる。 風紀は会長に抱きついたまま、それを面白そうに見つめている。逃げようともしない。 「止めなさい、二人とも!」 吹雪が鋭い声で静止をかけた。 「は」「はいっ」 その声で、金縛りに掛かったかのように動きを止める二人の生徒。その固まり方は尋常ではなく、それが空中なら浮かんだまま固定されているんじゃないかと言うほどだった。 「いやいや、間一髪だったね。ありがとう吹雪」 吹雪にほおずりして風紀。 瞬間、二人の生徒が殺気を倍増させて風紀を睨んだが、再び吹雪がそれを手で制した。 「まったくよ...危うく二人にケガさせるところだったわ」 「え」「どういう...」 二人の疑問に答える前に、吹雪は視線を上に上げた。 「久しぶり、中尾君」 「ああ、そうだな...」 二人の後ろに立って、英鳳はそっぽを向いてぼんやりと呟いた。 目を見開いて、振り向く二人。 「久しぶりだな、マカ、マボロシ」 「中尾...」「...英鳳」 二人――刻乃華真(2−4)と刻乃華幻(2−3)が慌てて警棒を構えようとしたが、英鳳が人睨みすると後じさって警棒を持つ腕をだらんと下に垂らした。 今更刃向かったところで、気付かぬ間に後ろを取られた事実が覆るわけではない。そう思ったかは定かではないが、戦う意志はないようだ。 「久しぶりって、今日も会ってるじゃん」 ちなみに英鳳も同じクラスである。 「距離感的な問題ね」 吹雪は笑いながら、そう言った。 | | |
■2006年05月21日(Sun)
TumbleWit4
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デューが思いついた作戦は以下だった。
1:おばさんがひきずりまわされる 2:やがて馬が町の外に出る 3:そこで保安官を襲撃して逃げる
作戦でもなんでもなかった。説得は既に諦めている。 困難なミッションを挑むよりは、より簡単なプロブレムに集中すべきだ。 これは路路裏のおっちゃんの言葉である。 同時に、男ならパーフェクトゲームを目指せと、船乗りのおっさんにも教わった気がするが、今回はそれを黙殺することにする。 まあ、おばさんも花も恥じらう歳じゃないし、生傷の一つや二つ負ったところで大丈夫だろう。
さて、結論から言おう。 市中引きずり回しの刑は行われなかった。
まず、馬が動かなかった。 デューや保安官に説得が通じないと悟ったおばさんが、馬を説得しに掛かったのである。恐ろしいことに、これは効果を発揮した。 たまに馬族の姫であったことを標榜するおばさんだが、その真偽はさておき馬と意思を疎通する能力は、どうやら本当らしい。これまでにも、デューは彼女が馬にお願いをしただけで、馬が鞭を入れたかのように全速で走り出す光景を何度も目にしている。 ざわめく野次馬達。 さらに慌てたのが、保安官とその助手だった。 保安官は、顔を真っ赤にして馬に何度も鞭を入れたが、馬は痛がりこそすれば、走り出すことはなかった。保安官助手が身を挺して止めなければ、馬はそのまま重度の内出血を起こしていたかもしれない。 苦痛に悶える馬を何とか宥めて、助手は保安官に引きずり回しは今日は無理だろうと提言した。そして更に二言三言呟いたときに、それは起った。 不意に、保安官が東の空を見上げた。 何かに気付いて、勢い振り向いた、そんな様子だった。 そして、その瞬間に胸を撃たれ、血しぶきを撒き散らした。 どぅん、と重苦しい火薬の音が遠くから響いた。 | | |
■2006年05月19日(Fri)
TumbleWit3
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「わーん。たすけてくださいー」 さて、どうしたものか。 「うん、引きずり回されるのも良い経験だよ」 「確かにそうは思いますけど」 思うのかよ。 「でもでもでも花も恥じらう乙女が引きずり回されるなんて絶対間違ってますぅーー」 どうでもいいが、さっきから口調が幼児退行している。よほどせっぱ詰まっているらしいが、正直勘弁して欲しい。 「20代ロスタイムなのに乙女って...さすがに遠慮しようよ、おばさん」 「デュー、聞きなさいデュー! わたしはまだロスじゃないです!!」 「はいは、あと数ヶ月だよね。盛大に祝ってあげるから」 「おのれ〜〜若さが憎いですぅーー」 じたばた喚くおばさんを、周囲の野次馬は哀れみ混じりに眺めている。 哀れめば、自分は救われるとでも思っているのだろうか。 馬鹿らしい。 「別れは済んだか、異邦人」 保安官が、ひどく残忍な笑みを浮かべている。 なるほど、共犯者として自分を裁かないのは、自分が嘆くのを見たいからか。理不尽な理由でした敷物が殺される苦痛に苛まれる様を。 「はい、生き残る温情を与えてくれたことを感謝します」 無感情に言う。 強がっている、と受け取ったらしい。笑みが更に歪んでいく。 まあ、そうとって貰うように振る舞ったので、予想通りだった。 「コレより罪人の裁きを行う!!」
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■2006年05月19日(Fri)
TumbleWit2
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「大体なんで家畜なんて盗むのさ、おばさん」 「信用ゼロっ!? 少しは信じてよぉ」 コートを乱してあられもなく喚くおばさん。 無論、デューはサリサタが家畜泥棒をしたなんて思ってもいないが、どうせ疑われるような何かをしたのだろうと言うことは、この上なく理解していた。 そー言う人なのだ。 「ただちょっと、牛さんが機嫌悪そうだったので容態を見ようとしたら」 「したら?」 「いつの間にか町の外でロデオごっこを」 「途中が少なすぎるっ」 おばさんが言うには、牛が突然に暴れ出したらしい。 それを、保安官助手(と言っても本職はただの馬飼いだが)が見付けて、今の騒ぎとなったらしい。おかげで、酒場でマスターと築き上げた友好関係は犯罪者の連れというレッテルの元一瞬で瓦解した。気のいい親切な人だったのに。 「エエイナニヲイッテオル」 馬に跨る保安官が、大見得を切った。 「イマサライイワケカ、ナゲカワシイゾイホウジン!」 古語のような喋り方、新大陸の鈍り、さらに現地民族の言葉が混じっているらしく時折聞き取れない単語も挟まり、もはやかろうじて共通点がある別種族の言葉とである。フランス語の方がよっぽど理解できる。 ともかく、保安官のやる気は満々だった。今はもう友情を残さぬ酒場のマスターの言葉によると、この保安官は相当な悪党らしい。 権力者らしい権力者もいないこの町で、銃と正義を振りかざし、好き放題やっているのだそうな。一人前に、ゴロツキとの交友もあるらしい。 趣味は縛り首。とは言え、別に人を殺せればなんだっていいらしく、最近は縛り首に凝っていると言うだけらしい。町の人間を縛り首にすると、人口が減るので主に異邦者を捕らえては縛り首にしているそうな。 そろそろ趣味が変わる時期だとマスターが言ってたので、ちょうど趣味の転機に出くわしたと考えるべきだろう。慈悲でもなんでもありゃしない。 「法とジャスティスの守護者であるオレ様は公平かつ寛大だ。生き残っていたら無罪にしてやる」 と、保安官はおおよそそんなことをのたまった。デューの訳である。 まあ、これもとても信用できたものではないことは、デューにでもだいたい解る。実際、縛り首でかろうじて生き残った異邦者に、問答無用で銃撃を加え殺し、「縛り首で生きてたから不死身かと思ったが死んでしまったな。すまんすまん」とそんなことを言ったこともあるらしい。
まあ、大体状況はそんなところだった。 | | |
■2006年05月18日(Thu)
TumbleWit1
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「今回は凄いなあ」 とデューが感心したのも無理はない。 「たぁすけて〜〜」 おばさん――サリサタ・ノンテュライトが縛られている。いや、縛られているのはいつものことだが、今回はその縛るロープの先が問題だった。 馬に繋がれている。俗に言う、 「しちゅうひきずりまわしなんていやですぅ〜〜」 と言うわけだった。
時代の流れはまるで水面に垂らしたインクのよう、遠くに行くほど染まっていない。新大陸では、遠く西の未開の地を臨めば臨むほど、その様相を過去へと遡らせていく。 その町は、今もまだ西部劇から抜け出せないガンマンの町だった。 木製の柵で囲まれ、おそらく町の名前が書かれていたであろう字が磨り消えた木のアーチを見たとき、デューは呆れて大空を見上げた。だだっ広かった。 アーチの上から延びた鉄パイプに、風見鶏が回っていたのを思い出す。 あの瞬間に引き返さなかったことを今更公開する。 おばさんが、表情を輝かせて走り入ったのを疲れにまかせて見送らなければこんなことにはならなかったろう。 いや、どうせなっていたか。そう言う運命にあるらしいし。おばさんが。 ロープを鞍に繋いだ馬に跨る“保安官”が、何事か呟いている。言葉まで古語のようで、デューは聞いているだけで頭が痛い。 要約するとこうだった。 異邦者、サリサタ・ノンテュライトはこの町で盗みをはたらいた。 盗んだ物は家畜であり、家畜泥棒はこの町では死罪である。 よって、本来ならば縛り首なのだが(実際絞首台が町の中央にある)女だから大負けに負けて市中引きずり回しらしい。 んなことされたら、どのみち死ぬと思うが。 デューはため息をついて、どうしたものかなと考えていた。
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■2006年05月18日(Thu)
風紀部5
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本来なら「3年10組」と明朝体で書かれた紙が挟まれているプレートには、今は「探偵部」の文字が達筆とへたくその中間ぐらいの書体で躍っている。
白鳳高校四大変な部三つ目。「探偵部」 ちなみに「ジュッキュー」は変な部のカテゴリにはない。他の学校にも存在するからだ。 探偵部はその名の通り、探偵活動をする部である。 とはいえ、毎日のように殺人事件に出くわしては警察そっちのけで捜査を行い、最後に関係者を一同に会して解決編を行うような部ではない。 ときたまドキュメンタリーで取り扱われる、現実の探偵事務所のような活動を行う部である。
「たまにそこんとこ間違った人が来ちゃうのね」 「そう言うときはどうするんだ?」 「別に。勘違いをしっかり説明した上で、ミス研に行きなさいって丁重にお帰り頂くね。ここで怒るようじゃ、客商売としては失格でしょ」 そう、探偵部は実際に営業をしている。依頼料はさすがに現金ではないが、「同等の価値のあるモノ」を請求するため、事実上商売なのだ。 「ボールペンの芯とかね」 「パチンコじゃあるまいし...」 「え、どういうこと」 風紀が食いつく。いらないところだけ興味を示すのはいつものことだった。 「や、ね。」 探偵部部長、柊運命がにんまり笑う。 「取り立てて魅力的な物品を持ってない人は、購買部でボールペンの芯を買ってきて貰うのよ。探偵部はボールペンの芯が好きだから、それで依頼料の代わりにして貰うのね」 「ボールペンの芯なんて何に使うのよぉ」 「そう思うでしょね。でもボールペンの芯にも需要はある。例えば白鳳高校の購買部なんかはボールペンの芯が人気で何故かよく売れるのね。だから何本仕入れても仕入れが足りなくて供給不足。ついにはボールペンの芯をいっぱい持っている探偵部へと仕入れに来ちゃうわけなのね」 楽しそうに、柊。 「なっ。それっ結局、金銭授受してるのと一緒じゃないの!」 不正の仕組みを見付けたかの如く(事実その通りだが)風紀が激高する。 「いえいえ、あくまでお客様とはボールペンの芯を受け渡ししてるだけですね」 対して柊は余裕綽々だった。 愉快そうに、三代昔の球団名の入った野球帽を被り直す。 野球帽にシャツにジーンズ。探偵の癖に新聞記者みたいな格好をしている柊だが、腕章には「探偵部」の肩書き。腕章好きらしい。まあ腕章に関しては、何も探偵部に限ったことがではないが。 「まあ、それは置いておいてね。今日は何の御用で?」 「柊! 風紀部の前でそれで言い逃れられるのと思っているのか」 「思ってませんが、今は何も出来ないでしょうね。正式に是正したいのであれば、生徒会の礼状を持ってきていただかないと」 「ぐ、その通りだ」 「認めるのかよ」
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■2006年04月29日(Sat)
日想
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辺境紳士社交場にて、エントラ投稿が掲載されています。 まあ、以前日記でやってた怪盗編なのですが。 随分改稿しましたので、こっちのを読んだ方も楽しめるとは思いますが...一括してみると長いなあ、これ。 | | |
■2006年04月26日(Wed)
風紀部4
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「どうだ」 「どうもこうもないよ」 青い冷蔵庫のようなサーバコンピューターが三台置かれているのが目に付く狭い室内。残り半分を占有するパソコン四機のデスクの一つにかじりついて、足羽円貨(三年)は吐き捨てる。 サーバ管理室を陣取る形で部活動をするこの部を人は「ジュッキュー」 と呼ぶ。「テンキュー」 とも呼ばれるが、それは同時に学内イントラネットにて最大規模を誇る匿名掲示板の名前でもあった。 「既に話題は生徒会長が独占してしまってて、ウチらなんて空気扱いだ」 2ちゃんねると同じくしたらば形式で動く掲示板には、やはり2ちゃんねるとにたような書き込みが目立つ。足羽はその掲示板で展開されるスレッドの一つにアスキーアートで描かれた美少女キャラクターに「お前らみんな氏ね」 と言わせて書き込みを放り投げた。匿名ではなく、固定のハンドルネームで書き込むのだから見上げた奴だ。 横では風紀がパソコンを勝手に立ち上げ、ジュッキューの「話題:RoS」 を確認している。羅列されたスレッドタイトルの中から「生徒会長×演劇部部長」 と書かれたタイトルを一秒で見つけ出して選択した。 「ああ、それは...」 足羽が見とがめて声を掛けそうになった、 「なんだ」 「いや、まあけど」 VSのつもりで選んだのかなあ。とぼやく。 「で、どうするつもりなんだ?」 「どうもこうも」 足羽は自分の書き込んでいたスレッドを更新させた。 「ジュッキュー引っ込め。」「アホ羽氏ね。」「自重しろ」「自首しろ」「むしろ自害しろ」 とまあ、散々なレスが返ってきていた。 「見ての通り。今回は引っ込めってさ。まあ確かにその通りなんだけど。尺もあるし」 RoSは二時間である。討論者が増えればそれだけ一人当たりの時間が減る。 不人気を自覚しているジュッキューの部長としては、ここが引き際なのだろう。 「そうか。そりゃ散々だな」 「ん、いや。そうでもない」 どういうことだ、と聞こうとしたが、その横で風紀が顔を真っ赤にして「なにこれぇ」 と、デスクに突っ伏していたので機を失う。 「ああ、あっぱり勘違いしてたのかな。風紀部長。バツっていうのはVSって意味じゃなくて...まあ読んだのなら解るだろうけど。そこはそう言う妄想でリレー小説をしているスレッドだよ。正直、自分は恐くて近寄ってないなあ。」 「ううぅ、男ってみんなこんな事考えてるのかね?」 「いや、そこにカキコんでるのは感じからして主に女子かと」 と言いつつ足羽の手はキーボードで「今風紀部の部長が生徒会長×演劇部部長スレを誤って読んじゃって悶えt」 と打ち込んでいた。 その手を掴む。 がっしりと掴まれた手を見て、足羽はこちらを振り向く。 「ありゃ。NG?」 にやけた顔で。 英鳳は何も言わないでいたが、「おk」 と足羽は了解した口調でキーボードから手を離した。 「今は止めとくさ」 「出ていったら書き込むのか」 「いや、どうだろ。こう言うのは実況じゃないと盛り上がらないから」 と言う余所で風紀が激しくキーボードを叩いていた。 「って、お前が続きを書いてどうする」 頭をはたく。 「え〜だって。二人共ディティールが詰め切れてないしぃ。ここはよく知る人物が書き込むことでよりリアリティを増すべきかと」 「あの、風紀部長。いくらイントラネットだからって個人情報は守ってくださいよ」 「てか、率先して風紀を乱すな。帰るぞ」 風紀の襟首を掴んで、引っ張る。 「まだ書き込んでないのに〜」 「邪魔したな」 「いや、面白かったよ」 ニヤニヤして、足羽は手を振った。 「風紀の守護者と、その守護者ね。漫画みたいだな」 何か呟いた声が聞こえたが、英鳳には聞こえなかった。 | | |
■2006年04月24日(Mon)
風紀部3
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円卓部はディベートクラブ、つまり討論会を開くための部活である。 討論会とは、まあ「朝まで生テレビ」 とかそう言うのを想像して貰えばてっ取り早い。色々なテーマについてそれぞれの意見を述べ合い、最後に観客の指示を一番多く得た者が勝利者となる。と言う点が普通の討論会とは違う点だが、討論番組でありがちなパターンだった。 「円卓の生徒達」 と仰々しい異名を持つこの部活は、白鳳高校で開かれる討論会をセッティングすることを活動内容としている。「RoS」 とは、その討論会そのものを指す言葉でもあった。 でもあった。とは言うが、正確には討論会を取り仕切るのが「円卓部」 その討論会の名前が「RoS」 である。あえて言うならば「円卓部」 は「RoS制作クラブ」と言うべき組織であるのだが、風紀のようにそれら全部をまとめて「RoS」 と呼ぶ生徒も多い。 「討論の場を設ける活動」 を主とするRoSは、「白校四大、変な部」 の筆頭でもあった。
「さあ、事件はないか!」 「新聞部行けば?」 もっともな意見を冷たく返したのはRoS制作部リーダー(つまり円卓部部長) の茜坂倫子(三年) である。セミロングを三重に束ねた複雑な茶髪と、少し吊り気味のフレーム付き眼鏡が特徴だ。眼鏡は自分が童顔なのを気にして、少しでも大人っぽく見えるようにと小学校に必ず一人はいた陰険な女教師のような眼鏡を選んだらしいが、まったく似合っていない。そのアンバランスさが無理している感じで可愛らしいという向きもあるが。 「え〜。だってあそこ遠いし」 部長と書かれたデスクに座る茜坂の一歩手前にまで近づき、風紀が口を尖らせた。 ちなみに、円卓部の部室は放送室の横である。逆側の放送室の横が職員室でその横が校長室で更に横が風紀部なので、RoSから風紀部までは10mとない。 RoSは風紀が何かと入り浸るには最適の場所だった。 「ごめんね〜風紀」 特に申し訳なさそうな様子でもなく、茜坂はデスクに積み上げた大量のファイルを指さした。 「わたし今日は私の担当した議事録纏めるつもりだから。あんたの相手してられないのよ」 「が〜ん」 と、声に出してショックを受ける風紀。 「ええ〜。つれないよリンゴちゃ〜ん」 茜坂の腕にしがみつく。 「ええい気色悪い。てか、りんごいうなぁ!」 鬱陶しそうに腕を振りながら、きっと睨む。 睨んだ対象は、何故かこっちだった。 「中尾君、ちゃんと面倒見なさいよ。ボディーガードなんでしょ?」 「そう言われても」 そう怒る茜坂はたいへん可愛らしく、自分含め円卓部のデスクに座る部員達も美女二人がじゃれ合ってるのを微笑ましげに見ている。 それを止める権利が自分に、いや男にあるだろうか。いや無い。 それはともかくと、右を向いて左を見る。 「田中君はいないのか?」 「いますよ」 奥の方から声がした。そう、円卓部は広い。 実のところ教室よりも広かった。 その広い部室の本棚が並んだ場所から、スポーツ刈りのジャージ姿の少年が出て来る。 「中尾先輩こんにちは。そろそろ来る頃だと思ってました」 「ああ、こんにちは」 黒地に二本のラインの入ったジャージを見事に着こなす少年は、名前を田中直流(一年) と言う。円卓部の若きホープだが、彼は何故だか英鳳を尊敬していた。 ちなみに、ジャージは学校規定のジャージではなくスポーツ店で売っているメーカーものである。 白鳳高校では私服が許されていて、彼は四六時中ジャージを着ていた。ジャージで登校もすれば授業も受ける。部活や就寝の際もジャージらしいが、これは「部活用ジャージ」 と「就寝用ジャージ」 でまた別のジャージがあるらしい。 つくづくどうでもいいが、授業中や登下校時に着ているのは「私服用ジャージ」 である。 今は「部活用ジャージ」 だった。 手には茜坂の持ってたのと同じタイプのファイルがある。ファイルの外見は割と新しいものだった。 「何かあったのか?」 「ええ。そこそこ面白いですよ」 はにかむ。 「おおっ事件の香り!?」 風紀が茜坂にしがみつくのをやめて、こちらに駆け寄ってきた。 うしろで茜坂が「やれやれ、やっと仕事に戻れる」 と、家庭に仕事を持ち込んだパパみたいなことをぼやいていた。 「風紀先輩こんにちは。いえ、事件性は皆無ですが」 挨拶しながら律儀に答える。 「ログか?」 「これからですね」 ディベート記録が面白かった、と言うのではないらしい。 「とにかく見ものですよ。ここ最近のRoSでは最高のカードです」 「発起人は」 概ね、それは討論人の誰かである。 「演劇部の部長さんとジュッキューです。事実上の一騎打ち」 「最高のカード?」 英鳳は訝って田中に聞き返す。 演劇部の部長と言えばRoSでは勝率九割を誇るエースだ。対するジュッキューも集団ながら勝率七割と健闘はしているが、正直あの部長相手には刃も立たないであろう。 「面白そうには思えんなぁ。“あいつ”のファンなら喜ぶだろうけど」 「ええ、勝ちの決まったゲームだと誰もが、当人達ですら自覚していましたよ。 だから、演劇部の部長に至っては自分が負けたら責任を持って一日メイドのコスプレでご奉仕してやるとか言ってましたし」 「...何故メイド」 「議題がメイドブームは何故来たのか? ですから」 「つくづくどうでも言い議題だな」 そんな議題ですらRoSにする円卓部もたいがいだが。 「のった!」 突然、風紀が喜び勇んで、 「わたしが出るっ! “あいつ”は一度締めないとなあと思ってたところなのよ」 風紀部らしくない台詞を吐いて手を挙げた。 「風紀は無理だろ」 冷静に突き放す。 「なんでよっ」 「あがり症だし」 「うっ。何故それを」 「いや、うって言われても。幼なじみだしなあ」 冷や汗を垂らす風紀は無視して、田中の話を進める。 「...それはそれで見たい気もするが、やっぱり盛り上がるとは思えんな」 どう頑張っても“あいつ”が勝つからだ。 「ええ。みんなそう思いました」 「...何があった。と言うか、そろそろ種を明かせ」 「そうよ。イガグリの癖に焦らすなんて百年早〜痛っ」 風紀を脳天チョップで黙らせて促すと、田中は本当に焦らしたかったのか少し残念そうに告げた。 「風紀先輩と同じですよ。部長さんにメイド姿でご奉仕されたい人がこぞってエントリーしたんです。で、その中には相馬&武之部や生徒会長の名前もありまして、」 「うわ」 それは見ものだった。 相馬&武之部。勝率八.五割。同じく演劇部のエースだが、これはまあどうでもいい。相馬が演劇部の部長にベタ惚れというのは当人達以外では有名な話だ。 それよりも。 「ふえ。生徒会長が出るの? そりゃあ負けちゃうんじゃない」 「じゃない。どころか100%負けますよ。何せ生徒会長、“姫”のRoS勝率が10割なんですから」 田中は笑うのを堪えている。 「まあ、それ以前の問題だしな」 「そうそう。そうですよ。何しろ演劇部の部長は」 「あ〜そうか」 風紀が今更気付いたかのように。 「“あいつ”、ふ〜ちゃんにゾッコンだからね」 頷いた。 | | |
■2006年04月24日(Mon)
風紀部2
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「英鳳くん。事件だよ」 風紀は言った。 「事件がない」 8月を越え、北半球から熱がどんどんと冷めていく季節。 秋である。 同級生は猫も杓子も受験勉強に忙しいのだが、そんな中でも二人の高校三年生はこうして風紀部の部室でぼんやりとしている。 進学校とは言え、受験戦争に参加しない高校生も、そりゃまあ存在する。 推薦で一足早い進学の決まった者、就職する者、留学する者。あるいは専門の学校に行く者。 中尾英鳳と松方風紀がどれにあたるかというと、これは就職する者だった。 英鳳は家業の看板屋を継ぐことになっていたし、風紀はといえば大学とはまた別の研究機関に入社することになっている。 普通の部なら、こんな時期にまだ3年がうろついてるのかと煙たがられるのだろうが、幸いなことに風紀部はそういうことはない。 何しろ、風紀が引退すれば、風紀部は廃部になるからだ。 煙たがられるというのなら、どちらかと言えば教室に居残る方であろう。受験戦争を回避した同級生、という奴はとても肩身が狭い。まるで脱走兵のようだなとは風紀の言葉だった。 「お〜い」 そう、風紀である。 見た目こそまるで忍者映画に出て来る女忍者のような、どこか現実から浮き出たテレビ管越しにでも見た方がしっくり来るような美貌であるが、彼女はまごうかたなき変人だった。 「独白に逃げないでくれたまえ英鳳くん」 喋り方まで安物の社長のような変な口調だが、まあそれはどうでもいい。 白鳳高校で美人と賞される生徒は、生徒会長を筆頭にどいつもこいつもどういうわけか変な喋り方をする。 「もしも〜し。寝てるのかぁ」 風紀は、机の傍らに置かれた赤いバットを握り締めてため息をついた。 「いや、つくなよ。そして振りかぶるな」 「だって寝て」 「ないから。寝てたら殴ってたんかい」 「ケースバイケースかなぁ」 「ケースバイケースで殴られてたまるか」 風紀は、がっかりしながらバットをチェストに立てかけた。 「よし、じゃあ行こうじゃないか。暇をもてあそびに」 「それを言うなら“もてあます”だ」 もっとも、それだと意味が通らないが。 「どこに行くつもりだ?」 風紀は切れ長の目を細めて、笑った。 「ROS」 | | |
■2006年04月17日(Mon)
屍骸術師と勇者株8
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「不機嫌そうですね」 「そう見えるだろうな」 常務がしばらくお待ちくださいと出ていった応接室。 メイは、心底不思議そうにタツマの顔を見上げた。膝に手を乗せて。 「どこか、お加減でも?」 小さい頭を、タツマの顔に近づけて聞いてくる。 息が掛かるのを煩わしく思い、タツマはそっぽを向いて頭を遠ざけた。 「加減じゃなくて、機嫌だ」 「なぜ機嫌が悪いんですか」 メイは、潜り込んでそっぽを向いた方からのぞき込む。 目がきょとんとしている。 タツマは、こうなったら答えるまで聞くんだろうな、と諦めた。 「行きがけに喋っただろ。勇者株には嫌な思い出があるって」 「はい」 膝の上にお腹と窮屈そうな体勢でメイが頷いた。 「それだよ」 「え。どれですか、」 何を思ってか不自然な姿勢のまま、メイが振り返ろうとしたが、関節が無理な動作についていかず、ずっこけた。 「ひゃ」「っと」 すんででタツマがメイの肩に手を差し入れ、右手首を掴んで持ち上げた。 「お待たせしまし――」 そこに常務がお辞儀をしたまま入ってきた。 タツマの膝に座るメイと、そのメイの手を掴むタツマが同時に振り向く。 常務は口を「た」 の形にして固まっていた。まったく動かない。 「死後二十時間後ぐらいですね」 膝の上のメイがそうコメントした。 「いや、そうじゃなくて」 ちなみに、最も死後硬直が激しい時間帯である。 常務は、口を開いたまま無言でドアを閉めた。
約一分後、ノックが聞こえた。 | | |
■2006年04月17日(Mon)
屍骸術師と勇者株7
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「アベ...アヴェル・ファイラムですか」 「御存知ですか」 「いやはや、いえ、はい。御存知ですが、はい」 煮え切らない対応にとまどったメイは、とりあえずタツマの顔を伺おうとして眉をひそめた。 「あの、タツマさん。どうして寝ていらっしゃるのですか?」 ソファの横で、タツマが頭をソファに、絨毯に足を放り出して仰向けになっていた。肩からずっこけてそのまま背もたれをずり落ちたみたいな感じだった。 テーブル越しに覗いてくる常務を無視して、タツマは気力で起きあがる。 「...ちょっとな。いやなんでもない。続けてくれ」 「はぁ」 常務は気を取り直して。「残念ですが、こちらではお取引できません。はい」 「有名な方ではないのですね」 「いえ、ある意味有名なのですが。はい」 歯切れの悪い回答。 「有名なのは悪名だ」 代わりに答えたのは、タツマだった。吐き捨てるような口調だった。 「タツマ、さん?」 「アヴェル・ファイラムって勇者は、どっちかって言うと堅実で、常に確実で安全で、金になる冒険にしか足を運ぶことはしなかった。勇者としての素養は...まあそこそこあったらしいが、それよりも商才や小狡く生きる方法に長けていた。 一説では、冒険よりも冒険で得た交易やコネクションでトップレベルにのし上がったとも言われている」 「企業家だったわけですね」 「今風に言えばな。だが、当時はそんな耳通りのいい概念もなければ、業界の中では勇者の癖に金儲けしか考えないゴールデン・ターキーなんて蔑まれていた」 辛辣な台詞だが、タツマの言葉には何の感情も籠っていない。 「彼の最後は滑稽なモノだった。一割の危険性もないモンスター退治の帰り道に、盗賊に不意打ちされてあっけなく全滅。アヴェルはその時に死んだ。 資本の大半をつぎ込んでいた装備も奪われて、金の卵の勇者株は一瞬で紙切れに。 誰も、株主や同業者ですら同情なんてしなかった。寧ろ、守銭奴の末路の代表例として、以後アヴェル・ファイラムの名は不動のモノとなったぐらいにな」 くだらない話を終えたかのように、軽く息を吐くタツマ。 メイはと言うと、いつもより饒舌なタツマに軽く驚きながらも、「では」 と指を立て。 「そもそも、この株券自体に価値が無いのですね」 残念そうにため息。非常にマイペースな台詞だった。 「はい...ですが」 常務は、タツマの詳しすぎる説明に少し臆しながら、株券を返して。 「こちらで引き取ることは出来ませんが。私に、はい。心当たりがあります」 そう言った。 | | |
■2006年04月17日(Mon)
風紀部1
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県立白鳳高校には風紀委員というモノが存在しない。 その代わり、なのかどうかは不明だが、風紀部と言う部活動が存在する。
白鳳高校には、俗に「四大変な部」 と呼ばれている存在があった。四天王とかそう言う呼称はないが、まあ漫画じゃないからそう言うモノだ。 が、漫画じゃないにもかかわらず、この「四大変な部」 はどれもこれも漫画っぽい変な部だった。
風紀部もその一つである。
(白鳳高校風紀部)
白鳳高校には、文化部棟というものがあり、これはプレハブに毛の生えた様なちゃちなシロモノではなく、ちゃんと鉄筋の校舎と同じ仕様だった。アパートよりも豪華だ。 風紀部はその文化部棟――には存在していなく、何故か校長室の真横に存在した。 「来にゃい」 気だるげな声を出したのは、猫。を頭に載せたポニーテールの三年女子だった。 猫は彼女の頭の上で居心地良さそうにあくびをかいている。 この猫、名前を「副部長」 と言う。名前じゃないじゃないかとも思うが、まあペットの名前なんてそんなもんだ。風紀部のみんなは単純に「フク」 と呼ぶがそれだと「フク部長」 みたいでこの猫が部長みたいじゃないかとの反論もあったりする。だがまあ別段それで困ることもない。どのみち部長なんて誰でもいい。 フクは野良猫だった。以前野良猫だったという意味ではなく、今も野良猫という意味である。風紀部にはたまに遊びに来たり、こうして頭に乗っかかりに来るぐらいである。エサも貰っていない。 黒と茶色の混じった血統書を思わせる艶やかな被毛、しなやかで細く長い体躯...なのだが、今みたいに手足を折り畳んで丸まっているときは耳の短い黒兎のようにも見える。 種類は解らない。たぶんハバナかヨークシャーテリアの血が濃いのじゃと言うことになっていたが、野良だから血統など解るわけがない。第一、ヨークシャーテリアは犬だ。 「来にゃい〜〜」 フクを頭に乗せてる女子がまた呻いた。 「あ〜もう。平和すぎるよ、世の中。なにか起きないかなぁ」 寝床がうるさくなったせいか、フク部長が落ちた。大きく伸びをすると、見た目に長い体躯が露わになる。その足でたしたしと優雅に歩いて、扉――教室と同じで横開きのドア――にまで付くと、扉を自分で開けて出ていった。 それを見送ってから、口を開く。 「物騒なこと言うなよ。部長だろ」 「部長ですともっ」 そう、彼女が風紀部の部長である。 ちなみにフクと言う呼び方に反対したり、ヨークシャーテリアだとか宣っているのはこいつだった。
名前を、松方風紀と言う。 そのまんまな名前だが、世の中なんて得てしてそう言うモノだ...ではさすがに説明が付かないので説明すると、二年前に風紀部を作ったのは彼女である。つまりは確信犯というわけだ。 初代部長で現部長であった。 | | |
2006年04月13日(Thu)
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だがだ、桂介。“私は例え色んな評価があっても、自分はその評価すらも好きになれる自信がある”。何故なら、悪い部分はいい部分で、いい部分は悪い部分だからだ。だから、何言われても嬉しい。関心を持っているという事実だけで十分だ。 (雪路)
ところで<ーで←に変換できるのを御存知でしょうか。 いや、なんとなく。
ブギポ新刊読破。 話的には閑話に近いけど、久々にブギポがこれでもかってぐらい出ていて満足でした。 | | |
■2006年04月05日(Wed)
屍骸術師と勇者株6
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「勇者株で御座いますか。はい、このオークノートでは我が社、我が社だけが取り扱っておりますです、はい」 ソファの対面に座るのはこの証券会社の常務だった。 「取り扱い? 勇者株はまだ続いているのか」 気になって訪ねるタツマ。 「はい、勇者株の一部は永久無失効となっておりますのではい」 どうでもいいが、はいを一呼吸に一度は言わないと気が済まないらしい。 「たとえば、はい、彼の冒険王ジェイク・ロフトですはい。彼は北の魔王との和解後、残った資金を用いて企業をして、はい、おります。ロフト財団と言えば北の方では雷鳴よりも通りがよいそうで...はい」 「勇者株がその財団の株として使える...そう言うことか?」 「有り体に言えばそうです、はい。ただし、ジェイク・ロフトの株は永久無失効の株としては特殊な例でして、はい」 特殊な例を最初に持ってきてどうすると思ったが、話は続く。 「はい、大抵の場合の永久無失効とは、資本金が莫大な状態で解散した勇者株に対して施される特別措置でしてはい。その多くははい、歴史上に重要な名前を残した勇者なわけでして、はい、彼らの資本金はそのどれもが国家予算をも凌ぐ大金なのですよ。そんな株を証券会社がですね、はい、証券会社の一存で返金期限を決めて失効してしまってははい、方々から苦情が来るわけでして、はい。わかりますでしょうか」 「はい」 と、タツマとメイ。 株式会社もそうだが、解散、会社が潰れた場合は、その会社の資金は株主に対して平等に分割される。勇者株も同じで、勇者が引退を表明すればその勇者が持つ資本金は株主に分割される。じゃあ、その勇者は引退後財産無しかというとそうではなく勇者も自分の株をちゃんと持っているので資本金の幾らかは勇者の財産となる。 常務が言うには、歴史に名を残す勇者の株は一株当たりの返金額が物凄く、例え一株たりとも換金しないとなると、一族が七代暮らせるぐらいの金額が宙に浮いてしまうのだそうな。 さすがにそう言う状況は経済的にいろいろ問題らしく、それらの株は『永久無失効』 の特別な措置が施され、歴史の勇者達が共同で出資して作った換金財団によって、最後の一株まで換金される日までその効力を失わないようにとなっている。 「つまり、おたくの会社はオークノートで唯一その財団の窓口を開いている証券会社って事か」 「はい、その通りですはい」 「えっと、と言うことは」 いままで黙していたメイが、ナップサックに手を突っ込みごそごそとする。「有名な人じゃないと換金できないのでしょうか」 「大まかにはそうです、はい」 こりゃ駄目かもしれんな、とタツマは考えていた。 さすがにメイの持つ株が、その有名人の株と言うことはあり得ないだろう。都合が良すぎる。いや。 もしそうだとしても、この証券会社はその財団への窓口と言うだけで、すぐに換金できる可能性は無に等しい。おそらく、何ヶ月も慎重に慎重を重ねた検査の元で真贋の鑑定が行われて、それで本物と解ればようやく換金へと事が運ぶはずだ。 「わたしの持っている株券はこれです」 「はい」 受け取る常務。 | | |
■2006年04月03日(Mon)
屍骸術師と勇者株5
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タツマという付き添いがいるにはいたが、それでも少女が一人で証券会社に乗り込めば、まあ相手にはされない。 しかし、彼女には天下御免の魔術士免許があった。 はじめ明らかに胡散臭そうにして適当にあしらう気満々だった窓口の店員は、 「身分証か何かあります?」 と、どうせ持ってないだろうみたいな口ぶりで訊いた。 「えっと...」 案の定、困るメイだが、 「免許証でいい」 タツマが横から口を挟む。 余計なこといいやがって、と、明らかに店員はめんどくさそうな顔をしたが、メイが差し出した免許証を受け取って目を落とした途端に、固まった。若い男の店員は白い厚紙に黒と金で印字された文字を十回ぐらいも読み、顔写真と実物の顔も二十回ぐらい読んでから、顔面を蒼白にさせ、顔中に脂汗を浮かべ、歯をがたがたと鳴らし、目玉をひん剥いて椅子から転げ落ちた。 その反応が理解できなかったメイが「あの」 と訊くと、その20半ばの店員は悲鳴を上げて奥へと走り去った。 免状を片手に、尋ねる姿勢のメイが、首だけ動かしてタツマに振り返る。 「そんな目で見るな。その免許を持つってことはそれだけの意味があるってことだ」 「でも、あんなに驚かれなくても...」 たちまち、スーツを着た重役そうな人達が転がり出てきた。
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■2006年03月31日(Fri)
萌えも終わり
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長らく続いた「萌え」 も、もうすっかり終わり、伝記ブームも夏頃には終わって、2000年を牽引していたオタク文化も一段落かなあと感じるこのごろ。 4月期のアニメラッシュが最後の花火...かなあ、そうでもないか。一時期のアニメバブルを思い出しますね。ってかヤシガ二。 熱狂は冷めたとき、元からそこにあった熱まで奪っていくものですが、どうなることやら。
個人的に、90年代が来たりして、と思っています。 一時期のネタ切れによるリバイバルブームとはまた違う。 萌え以前、ちょいと仕切り直してはじめてみようか、みたいな流れがやってくるんじゃないでしょうか。 リバイバルならぬ、リスタートブーム? かわいいはかわいいと言ってたまあそんな時代から再出発なのかもしれない。
いや、まあ何が言いたいかというと「ヴァルキリープロファイルめっちゃやりたい」 てか、ジェイク(若本)リーナスですよ。 「これが、俺の最高の技だ」を聞きたいっ。いやソフトあるから聞けるんだけどね。PSPで是否聞きたいじゃあありませんか。 | | |
■2006年03月25日(Sat)
絵チャ
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もう一枚。 | | | |
■2006年03月25日(Sat)
絵チャってきました。
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| BLEACHの矢胴丸リサ。 吹雪じゃないよ。
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