海の申し子 1
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オールブルーの魚達の産卵期は、数年に一度、重なってしまう事がわかった。
産卵を終えた魚というのは、極端に味が落ちる。
いくら新鮮でも、普段、世界中のどこよりも クオリティの高い魚を
使っているレストランとして有名な店がそんな劣悪な材料を使うわけにはいかない。
魚の質が安定するのには、おそらく 一年近くはかかる。
不本意な料理を作って、お客を失望させるくらいなら、一年、店を休む、という
判断をオーナーが下したのだった。
雇っているコックには、一年充分に暮らせるだけの給金を前渡し、
店の維持には、信用できる数人のコックに任せて。
オーナーと、その後継者になるだろう、と目されている少年は、
店を一時 休んで 旅に出た。
「どこに行くんだ?」
「アラバスタだ。」
二人は、旅なれた様子でその砂漠の国を目指す。
オールブルー特有のその現象を 新聞で知った、麦わらの一味は、
その船の進路をアラバスタへと向けた。
もと、この船の食事を作り、共に戦ったコックは 必ず アラバスタに来る。
自由に海を行き来する自分たちと違い、一所に留まって自分の人生を生きている彼が
腰を上げて自分たちに会おうとするなら、絶対に
アラバスタを目指す筈なのだ。
それは、遠い過去に交わした約束なのだから。
「サンジと会うの、2年ぶりだ。」
「オールブルーのレストランに行って以来だものね。」
船長夫妻がナノハナの町の宿屋で 穏やかに話しをしている。
もうすぐ、この国の女王から迎えがくるはずだった。
「ゾロは、もう、港に?」
麦わらの一味は、二日前にこの町に着いた。
天候の所為で コックの到着が2日遅れる、という海軍からの連絡を受け、
ここで そのコックと、コックが連れてくるだろう、狙撃手の息子を待っている。
早くても、今日の夕方にはなるだろうという連絡だったのに、
緑頭の剣士は、太陽の作る影がまだ 短い昼下がりだというのに、
港に向かったというのだ。
「だって、2年ぶりだもんよ。一秒でも早く、会いたいんだろ。」
海賊王に一番 近い男、と呼ばれる麦わらの船長が白い歯を剥き出しにして
にしししし、と笑った。
「・・・なにやってんだ、あいつら。」
まだ、港には着いていない、と思っていた。
波止場で、緑の髪の若い男と、黒い髪の少年が地面に寝転がっている。
そして、そのすぐ 傍らに 興味深そうな瞳を向けてその様子を眺めているサンジの姿があった。
髪が伸びた。
相変らず、口には煙草をくわえて。
それがサンジだと認めた途端、みっともないほど、ゾロの心臓が早く鼓動を打つ。
自分が声をかけるより、視線を感じて 自分に気がついて欲しかった。
同じように、その胸の中にある心臓の鼓動を早めて欲しいとおもった。
自分だけが こんなに胸を昂ぶらせているのも癪だったからだ。
サンジが、ゾロの視線を感じない訳はなかった。
懐かしい、恋しい、気配を いくら目の前の自分が けしかけた
子供同志の腕だめしに興味をそそられていても、その視線に気が付かないはずなどない。
その気配だけで、自分の耳に鼓動が聞こえるほど 心臓が強く脈打つ。
姿がしっかりと見えたわけではないのに、
何かが体から 零れ落ちそうなほど 体が熱くなる。
早く、声をかけて来いよ。
早く、こっちを向けよ。
俺に会いたかったんだろ?
・・・クソ意地っ張りめ。
時間が惜しい、と思ったのはゾロの方だった。
下らない意地が癪に障ったのは一瞬の事。
自分が感じていることを目の前の恋人が感じていない筈がないと考えを翻したのだ。
名前を大声で呼んだ。
太陽の髪が揺れて、蒼い瞳が向けられる。
その後の動作は、ごく 自然な動きだった。
まるで、強い磁石同士が引き合うように。
地を蹴る足がもどかしくて、お互いの体に飛びつくように
抱き合った、まるで 体当たりのような抱擁。
「生きてたか、てめえ。」 会いたかった。
「お前こそ、まだ くたばってなかったんだな。」 俺も、会いたかった。
「あいかわらず、ジジイくせえ 格好してるな。」
変わっていなくて、ホッとしたぜ
「てめえこそ、何時も同じ格好じゃネエか。」
外見だけじゃなくてな。
何も変わってねえよ。
お互いの言葉の底には、口に出せない想いがある。
それも、充分すぎるほど 判っていた。
「・・・ありゃ、誰だ。」
ひとしきり 再会を喜び、ゾロは地面に 寝転がったままの青年を顎で示した。
「知らねえ。いい剣筋してるぜ?弟子にどうだ。」
サンジは、飄々と答える。
「ゾロ!」
ジュニアが飛び起きた。
「おお、でかくなったな。」
ジュニアが父親のウソップよりも、逞しい体に成長し始めている事を
ゾロはすぐに見て取り、正直 驚いた。
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