「で。」
「何が聞きたかったんだっけな。」

サニートはサンジから酒を注いでもらうと、躊躇することなく
一気に喉に流しこんだ。

今度はむせずに飲みこめた。

「ほう。強いな。」
サンジはからかうように言ったが、サニートの顔色が全く変わらない事に
多少驚いた。

「一口目にむせたのは、いきなりだったからで、俺は酒は強いんだ。」と
サニートはにや、と笑った。

この体質はどうやら ゾロから受け継いだものらしく、サニートは
いくらアルコールを飲んでも 泥酔したことは一度もない。

「メスメスの実で、女になった時の話です。」とサニートは
話題を本筋に戻した。


「あれは、ナミさんが・・・。」

ナミが手にいれてきたこと。
それでコンテストに出たこと、
しばらく 半陰陽の体だったこと。

「・・とまあ、そう言う話しだ。」

「女になって、嬉しかったですか?」とサニートは聞いて見た。
ゾロが男で、サンジも男なのだから、恋愛関係を続けて行くなら
どちらかが 異性になった方が長続きすると思ったのだ。

「なんで、嬉しがらなきゃならねえんだ。」とサンジは眉間に皺を寄せる。

「だって、ロロノアさんも、サンジさんも男同士でしょ。女になったら」
サニートは全く 無防備に核心に迫った。

「子孫を残せるし。」

サンジの表情がますます険しくなる。

「馬鹿馬鹿しい。」短くなった煙草を吐き出し、新しいのを咥え直して火をつけた。

「俺は俺で、あいつはあいつだ。女になったら ずっとあいつの
背中を見て生きていかなきゃならなくなると思って 死ぬほど嫌だったな。
それに、子孫なんて、残す必要もネエし、残してエとも思わネエし。」

今度は逆にサンジから サニートに尋ねて見た。

「お前は俺達を気持ち悪いと思ってるだろ。」

サニートの表情が一瞬で強張った。
どうやら、図星だったらしい。
その素直な反応も、サニートならなぜだか サンジは許せて、
腹が立つような気持ちは起きなかった。

「最初はびっくりした。ジュニアから聞いた時も。」
「でも、もう慣れた・・・っていうか、二人とも 一緒にいるのが自然に見えるよ。」

サニートは今 感じていることを正直に サンジに話した。

「自然?」

聞き返したサンジの言葉にサニートは深く頷く。

「好きな人の側にいるのが人間として自然な事なんだなあって。」


サンジは サニートの言葉に絶句し、その海色の瞳をまじまじと見つめた。

(わかったようなことをヌカすな)と言いたいところだが、
あまりに無邪気に 思ったままを口にするので、
却ってこっちが 気おされてしまったのだ。

(参ったな。こいつ、・・・)
このストレートな、人の心を鷲掴みにするような言い方と、
それを口にする時の 力の篭った眼差しが、
どうにも ゾロと重なって仕方がない。

(なんで、あのクソ腹巻に似てるなんて思うんだろうな。)とサンジは、
困惑しながら 酒を口に含んで、間を繋いだ。

「ビビちゃんとサングラス野郎は仲がいいのか。」とようやく
言葉を思いつき、サンジは一見 無関係なことをサニートに聞いてみる。

好きな人の側にいるのが自然だ、となどと言う言葉をさらりと言ってのける
サニートは、おそらく ビビとコーザから充分愛されて
育ったことが伺えて、聞くまでもないことなのだが、
どうにも サニートに気圧され気味の会話の流れを変えたかった。

「見てる俺が恥かしいくらいで。」

サニートは恥かしそうに頭をかいた。

やっぱりな、とサンジは笑みが頬に浮かぶ。

サニートには、暗さや影がない。
ルフィの持つ 眩しいほどの明るさではなく、
春の日差しのような そんな明るさを常に感じさせる。

「親同士が仲がいいってのは、子供から見たらどんな風だ?」
サンジには判らない事だし、単純に浮かんだ疑問をサニートに聞いてみる。

「俺もあんな風に一生仲良く出来る相手を見つけたいなアって思う。」
「ふーん。」

もう既に空いている サニートのグラスにサンジは
黙って酒を注ぐ。これで もう 3杯目だ。

「サンジさんは、ジュニアのこと、随分可愛がったってナミさんに
聞いたけど、子供 好きだったんですか?」

束の間の沈黙でまた サニートに主導権が移った。
「生まれたての赤ん坊が美味そうだったから、育てて食おうと思っただけだ。」

まさか、自分も妊娠して子供を死なせたから、生まれたてのジュニアを見た時、
「この子は絶対 俺が育てなきゃならネエ」という使命感に駆られた、などとは
言えない。

女になったことは喋ったけれど、妊娠までした事はさすがに 恥かしいし、
自分も 忘れたい記憶だから、サニートに話すつもりはなかった。


サンジのふざけた答えにも、サニートは別に詳しく聞こうとしてこなかった。
「息子だ。」とはっきり口に出したことや、ジュニアが父親のウソップよりも
サンジを選んだことからも、サンジが いかに ジュニアを育てる事に
心血を注いでいるかを察することが出来るからだ。

「今だに食ってないけど。」サニートはサンジの言葉に薄く笑って、
その矛盾を指摘した。

「育ち過ぎで、固くなっちまったからな。」
サンジは真顔で答える。

「何時、食べるつもりだったんです?」
「6歳くらいだな。その頃、バラティエに預けてたからな、惜しい事したよなあ。」




「な、馬鹿な話しかしてネエだろ。」ゾロはドアの外でチョッパーに
声を潜めて声をかけた。

二人とも、気配を殺し、格納庫のドアにぴったりと耳をつけている。


チョッパーがあまりにも気にするし、もしも お互いが真実を知ったとき、
自分も無関心でいられないから、
心配でつい、立ち聞きしに来てしまった。


「本当だ。」
チョッパーは安堵なのか、がっかりしたのか 良く判らない状態だけれど、
今夜のところは 真実を知り、怒り狂ったサンジに蹴り飛ばされることなく、
静かに眠れそうだ、と思った。



「もし、ジュニアが自分の本当の子供だったらって考えたことないの?」


ドアごしに聞こえてきた サニートの声にチョッパーの体毛がざわめいた。

「本当の子供って、俺の子供を孕んでくれるようなレディとは
出会えなかったからなあ。」とサンジが暢気に応えている。

「今からだって、作れるでしょう。ロロノアさんには内緒で。」
「あはははは、それもいいな。」

また、話が逸れて行くので、チョッパーはまた ホッと溜息をついた。
が、また 息を飲むような言葉が今度は サンジの声で聞こえてきた。


「俺の子供だったら、眉毛がグルグル巻いてるだろうけどな。」


ゾロとチョッパーは顔を見合わせた。

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