おまえがそばにいないと淋しくて堪らない。
いつも、側にいたい。

ずっと、側にいたい。


そんな言葉を口に出して、それを受け入れられる日は一体
何時の事だろう。

お互いの心の中に 同じ思いがあるのに、
それを知りながらも 生き方が違う、と言う理由でそれを
いわない事が 二人の関係を保っている。

淋しさだけを堪えれば、心で結びついていられる。
けれど、淋しくなくなれば、お互いを必要としていない、と言う事になる。

「一日に、一度だけでもいい。俺のことだけを考える時間を作れよ。」
とゾロは言った。

「俺は忙しいんだ。そんな暇はねえよ。てめえこそ、」
せめて、眠りにつく前だけでいいから、俺の事を思い出せ、と
サンジは言い返した。

眠りにつく前になんか 思い出せるか。
余計に淋しくなるだろうが。とゾロはサンジを抱きしめた。

だったら、ここに居ればいいだろう、と言いたい言葉をサンジは飲みこむ。
そうして、離れて 2年経った。

あえない時間がそのまま、サンジの髪の長さとなっている。




「グルグル眉毛?」とサニートは サンジに聞き返そうとした。
その時、船が大きく傾いだ。
思わず、サニートがサンジの体にのしかかってしまうほどの大きな揺れだった。

「な、なんだ!」
「見張りはなにやってんだ!」二人は多少、慌てた。

ドアの外のチョッパーとゾロはもっと慌てた。
風もなく、波も穏やかなのに いきなり 船が傾ぐ。
これはグランドラインでは珍しくもない事で、なにかといえば、
海王類が船の側を通った、と言う事だ。
昼間なら 波の動きをみていると、海王類が近づいてきている事が
すぐに判るのだが、夜はわかりにくい。

けれど、今夜のように月が出ていれば少しは ましというもので、
見張りがちゃんと周りに気を配っていれば 警告なり、
碇を降ろしている船を移動させたりすれば回避できるのに、
それが出来なかったのは、見張り役の怠慢だということになる。

サンジが「見張りはなにやってんだ!」と怒るのも無理からぬことだ。

「やばい、」ゾロはチョッパーを脇に抱えて 見張り台に駈け戻る。

絶対に、サンジが文句を言いに見張り台にくる、と思ったからだ。
そのゾロの予想は的確で、サンジはすぐに格納庫を飛出した。

だが、すぐに「おい、こら、なにやってんだ、てめえら!」と
後ろから怒声が追いかけてきた。

「ゾロ、前、前!」とチョッパーが大声を上げる。

通りすぎたと思った海王類だったが、船の舳先にその大きな体を
晒している。

「はあ〜ん、やけに波が静かだと思ったら、ここア、夜行性の海王類の
エサ場か。」とその海王類を見あげてサンジがつぶやく。

「おい、ゾロ、あの坊主に捕らせようぜ。」と。
もう、見張り役の失態を叱責するという目的は完全にサンジの頭からは消し飛んで、
食材の調達の方が優先事項にすりかわっていた。

「サニートに?砂漠育ちに海王類が捕れるか?」
「やらせてみねえとわからねえだろ。」

サニートはサンジが飛出して言ってすぐ、自分も格納庫から駆け出して来た。
船が傾いだ理由を知りたかったからだ。

「うわ、なんだ、あれ!」と流石にサニートは月明かりに照らされて
ぬらぬらと光る 巨大な海王類をみて 驚きの声を上げた。

「おい、あれ、とっ捕まえてみろ。」とサンジはその怪物を指差す。

「剣を男部屋に・・。」取って来る、と言いかけたサニートに
ゾロが自分の刀すべて渡す。

「前も言ったが、剣と刀は違うぞ。太刀筋ってのが」とゾロが言い掛けるのを、
「表と裏、あるんだよね、判ってる。」と力強く頷いた。
サニートは両手に抜き身の太刀を握り、一振りを口に咥えた。

「おい、何時の間に 三刀流を・・・。」とサンジは
流石に驚いた表情を浮かべた。

「まあ、見てろ。」とゾロは笑みを浮かべる。



舳先の、羊の飾りの上にサニーとは上って、海王類の前に仁王立ちになった。


胸の前で両腕を交差させ、前へ突き出す。

その背中から立ち昇っている気迫は船に乗る前のサニートとは
各段に違う。


海王類がその殺気に恐怖を覚え、雄叫びを上げた。

「来るぞ。」サンジは呟く。
敵意剥き出しのサニートに向かって、牙がずらりとならんだ大きな口を開けて、
突進して来た。


次の瞬間、サニートの体が月明かりがほの明るい群青の空に飛ぶ。

「牛針?!」サニートが躊躇なく、流暢な動きで海王類の体を切刻む、
その太刀筋を見て サンジが驚きの声を上げた。

ゾロがそれを見て、口角を吊り上げる。

自分が切りつけた海王類の体が海に沈み始める前にサニートは一旦、
その体に着地し、すぐにそこを蹴って、ゴーイングメリー号の甲板に
飛び上がってきた。

海王類の返り血を浴びているサニートが、ゾロの方へ顔を向けて
にや、と笑った。


それを見て、サンジは ギョッとする。

似てる、と感じた。

顔立ちではなく、笑い方や眼差しが 出会った頃のゾロがそこにいるかと
思うほど、目の前にいる ビビの息子はゾロに似ている。


「どうだ、俺の弟子は?おまえの弟子もなかなかだが、飲みこみはこっちの方が
早エぞ。」とゾロは顔を強張らせたままのサンジに煽るような
嘲笑を浴びせる。

それに気を悪くしたサンジがすぐに 眉根を寄せ、
「馬鹿野郎、もともとあいつは剣の基礎が出来てたんだから、
上達が早くて当たり前だ。」と言い返した。

だが、実際、こんな短期間で 一振りの剣しか扱えなくて、
ジュニアに押されていたサニートが もう 3振りの刀を操り、
すでにひとつ、奥義を極めていることには さすがにサンジも驚いた。

「・・・まあ、素質はあるな。」と渋々、といった様子で
サニートの実力とその師匠のゾロの言葉に承服した。

「血筋だからな。」とゾロは小さく呟く。

「チョッパー、悪いが風呂を沸かしてやってくれねえか。」と
海王類の姿を見て、呆然としていたチョッパーにゾロが声をかけた。

「どうでしたか、ロロノアさん。」とサニートは刀をゾロに
差し出しながら尋ねる。

「相手はただのでかい魚だからなんとも言えねえが、いい動きだったぜ。」
「次の港で 刀を買ってやる。」と師匠らしく 答えた。


サンジはそんなやりとりをする二人を見て、どうにも不可思議な感情に
囚われた。

人に対して 我から打ち解けようとは決してしないゾロが
自分の技をあまさず教え、完全に心を開いている様子にまず、
違和感を感じていい筈なのに、

そして、自分の弟子であるジュニアと比べられて、嘲笑され、
煽られているのに

腹が立たない。
サニートだから、許せる、そんな気がする、自分の心こそが不思議だった。

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