「・・・なんだって、恋人だと思うよ。夫婦じゃないしね。昔からだよ。」
「俺が生まれる前からだもん。」


「だって、男同士じゃないか、おかしいだろ。」とサニートは
どもりそうになるのを 堪えながら ジュニアに同意を求める。

「なんでさ。好きになったのがたまたま男だっただけで、
別におかしくないよ。男は絶対女を好きにならなきゃならないの?」と
少し、眉を寄せて、サニートの意見を否定する。

「じゃ、お前、女の子と男、どっちが好きだ?」
「好きになったら性別はどうでもいいと思うよ。」とジュニアはあくまでも
意見を曲げそうにない。当たり前だ、そう言う環境で育ったのだから、
今更 その考えが簡単に変わるはずもない。

「・・・信じられねえ。」
王子らしからぬ言葉で サニートは溜息をついた。

「でも、昔 サンジが悪魔の実を食べて 女になった事があったって。」
ジュニアは、悪戯っぽく笑みを浮かべ、声を潜めて サニートに囁いた。

「・・・悪魔の実で?」サニートは 小声になったジュニアの言葉を
聞き取るように 体をテーブルに乗り出した。

「そう、あのね、お父さんから聞いた話なんだけど・・・・。」





翌日。

「こんなところで、二人揃って、寝こけてんじゃねえ!」

サニートと、ジュニアは、座っていた椅子を蹴り飛ばされ、
尻餅をついた。

二人とも、熟睡していたところだったので、寝ぼけ眼でその狼藉を働いた
本人を見上げた。
二人の前にサンジが仁王立ちになっている。


「おい、坊主ども。神聖なキッチンでヨダレたらして 寝てた罰だ、
朝食の準備を手伝えっまず、顔を洗って来い!」

尻を蹴り飛ばされ、キッチンから放り出された。

「いてて・・確かに 乱暴な人だ。」サニートは、尻を擦りながら
キッチンを恨めしげに眺めた。

「おう、随分早いな、坊主。」
その声に振りかえると、ゾロがニヤニヤと笑いながら 歩いてくる。

「・・・もう、蹴られたのか。」とゾロは さも可笑しそうに
サニートに声をかけた。
「あの人、いつもあんな感じなんですか?」
サニートは 顔を顰めて ゾロに尋ねた。

「そうだな。いつも、そんな感じだ。」とゾロはやっぱり、
笑いを押し殺したような顔で答える。

ジュニアも蹴られたのだが、慣れているのか 平然としていて、
痛がる様子も見せない。


サニートは、昨夜 ジュニアから サンジが「メスメスの実」を食べて
女性化した話を聞いた。

かなり、美しい女性になったらしい。

「本当か?」
「さあ、お父さんが言ってたから・・・。」とジュニアは言葉を
濁した。



サニートは、顔を洗ってジュニアより先に キッチンへ戻った。

サンジが腕まくりをし、手馴れた動作で 食事の支度をしている。

サニートは、昨夜の話が本当かどうか、どうしても聞いてみたくなった。
男が女になった時、一体 どんな感情の変化があったのだろう。

ジュニアの言うとおり、ゾロとサンジが恋人同士なら、
そのまま 女でいた方が 自然だと思うのだが。

男が男を好きになる、という事自体、サニートには 理解できない。
まず、そこから聞いて見たいが それはもっと 親しくなってからにしよう、と
考えた。


「あの、サンジさん。」


サニートは忙しなく働くサンジに声をかけた。
「おう、お前 どうせ 料理なんか出来ねえだろ。邪魔になるから
そこで座ってろ。」


なんだ、さっき 手伝えって、人を蹴り飛ばしたくせに。


と、サニートは思ったが、サンジのおだかな声音と即座に目の前に出された
出来たてのスープに不満を言う気がすぐに静まった。

湯気が立ち昇る、それを一口 すすってみる。

「美味エ。」思わず サニートは溜息混じりに 感嘆の声を漏らした。
その言葉ずかいをサンジは すぐに聞きとがめ、言い直させる。
「美味しいです、だ。」

「・・・美味しいです。」とまた 一気に機嫌が悪くなり、蹴り飛ばされるのも
嫌なので、サニートは素直に言い直した。

「お前、本当に口が悪いな。ビビちゃん達、そんなんでよく 怒らネエもんだ。」

サンジは首だけを捻って、サニートの方へ顔を向けて、心底 呆れたような
表情を見せた。

「母も、そんなに上品な人じゃないから。」
サニートは苦笑いしながら サンジの顔に視線を向けた。

「何言ってんだ。あんな上品なお母様は世界中探してもいねえぞ。」
17歳の青年には、自分の母親の事など 話題にして欲しくない事項の
筆頭だろう。サニートは 自分が聞きたかった事の話を唐突に切り出した。

「あの、サンジさん、聞きたいことがあるんだけど。」


「なんだ、若さの秘訣か。」

サンジは、何処かの女医のようなことをいう。
確かに、10歳近く若く見えるし、同い年のゾロの方も
若くは見えるけれど、それでも 20代後半にかかっているぐらいに見え、
それに比べると、サンジの容姿は かなり 若若しい。

それを自覚しているのが、その言葉で伺えた。


「それも、まあ、おいおい 聞くよ。」

サニートは やんわりとサンジの問いを受け流し、本当に
聞きたかったことを尋ねた。

「サンジさん、悪魔の実を食べて、女になった事があるって、本当ですか?」


「あ?」
明らかにサンジの眉間に影ができる。

それを見て取り、
あ、しまった、聞いちゃ不味かったのか、サニートは即座に後悔した。

「・・・誰に聞いた。」
「ジュニアか。・・・・ったく、ウソップの奴、余計な事を・・・・。」

サンジは、一人でぶつぶつとつぶやいて、小さく舌打をすると
サニートに背を向けた。

「・・・まあ、昔の事だ。」


その背中と一瞬で 曇った表情に、この事について、サンジが
いい思い出を持っていないことをサニートは察して、それ以上 聞けなかった。


「・・・お前さ。」
今度は、サンジの方からサニートに背中ごしに声をかけて来た。


「俺が女になった時の話を聞きたいんだろ、今夜 ゆっくり話してやるよ。」
「碇を下したら、格納庫に来い。」


何故、サニートにその話を聞かせようと言う気になったのか、自分でも
判らなかった。だが、何故か 言わなければならないという
気持ちに追いたてられた事だけは 自覚できた。




サンジの話をサニートはどう受け取るのだろう。


それは、お互いが真実を知る瞬間になり得るのか。



昇り始めたばかりの朝日が沈み、月が昇るまで 長い一日になりそうだ、とサニートは思った。


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