気がついていないはずはない。
誰だって、その容姿が他人とは とても思えないほど 似ているのだから、
血が繋がっていて当たり前だと思うだろう。
ゾロよりも、サニートはサンジに 良く似ているのだ。
サンジは、今年で 36歳にもなるのに、
どうみても、25、6歳にしか見えない所為で、並んでいると
少し 歳の離れた兄弟にしか見えない。
(まさかな。)
心の中に浮かんだ疑問と疑惑をサンジは すぐに打ち消した。
自分が 昔 男でありながら 妊娠して 死産したことなど
思い出したくもない。
まして、その子が生きていたなど、どう考えても有り得ない事だ。
腹にいたのは、たったの三ヶ月足らずだったのだし、
なんども 堕胎しようと無理をしたのだから、生きている訳がない。
人間の妊娠期間が 10ヶ月だ、ということくらい 知っている。
三ヶ月の胎児など、肉片に毛が生えたくらいのものだとしか 思っていないし、
あの頃 感じていた胎動の感覚も覚えているわけもなく、
サニートがいくら 自分にそっくりだろうと、
ただの 他人の空似だと思う以外、納得できなかった。
アラバスタから出航して、その夜。
ジュニアがサニートと船底で鉢合わせし、すぐにその事が船内の全員の
知るところとなった。
ルフィは、腹を抱えて笑った。
一国の王子が海賊船に密航していたのだ。
「やっぱ、ビビの息子だよなあ。」
「ビビは知ってるの?」というナミの質問に、
時後承諾だが、サニートは 悪びれずに
「ハイ。」と答える。
「まあ、若いうちに色々 経験しといた方がいいよな。」と言うルフィの言葉で、
とにかく、サニートは船に乗る事を許してもらえたのだ。
ナミの航海術、ウソップの狙撃術、ゾロの剣術、ルフィの決断力、
サンジの足技と料理の技術、チョッパーの医術。
学べる事はたくさんある。
オールブルーのサンジのレストランまで、船で2ヶ月の航海だ。
その間、サニートとゾロとサンジは 同じ船で過ごす事になる。
サンジが船を降りて、食料の管理はチョッパーが その方法を受け継いだものの、
料理の腕までは、とても 真似は出来ない。
ルフィは、サンジが船を降りた後、新しいコックを探す事はしなかった。
医者がいて、その医者が食料の管理をしてくれるなら、
味さえこだわらなければ 食べるのに困る事はない。
だから、新しいコックなど、必要なかった。
ルフィにとって、サンジだけが唯一、自分のコックでいて欲しかった。
「ルフィが海賊王になったら、もう一度、麦わらの一味のコックになる。」と
サンジはオールブルーを見つけた時に、ルフィと約束したからだ。
ルフィが海賊王になる事。
そのコックになる事。
オールブルーを見つけた後のサンジの夢は ルフィの夢と重なっている。
麦わらの一味の誰よりも早く 自分の夢を叶えても、
サンジはまだ 仲間と共に、夢を追っているのだ。
勇敢なる海の戦士に。
世界の海の海図に。
世界一の大剣豪に。
その傍らに、世界一のコックとして 自分の心だけでも傍らにいたい、と
願っていて、その我侭を 皆 当たり前のように 許していた。
サンジとゾロは、格納庫にいた。
サニートは、取りあえず 男部屋のハンモックをあてがわれ、
一応 サンジとジュニアは格納庫に寝床を設えてもらったのだが、
実際、ジュニアはナミの部屋で寝るし、ここは 二人の為の空間と化している。
アラバスタにいる間、会えない日々の淋しさを埋める様に
毎日のように求め合っていて、流石に 航海初日から 「さあ、ヤるか」という気も
お互い 気恥ずかしくて ただ 隣に寝そべって 天井を見ながら
話しをしているだけだった。
「・・・あいつは なんだよ。」
サンジが 一瞬の沈黙の後、つぶやいた。
さっきまでは、ただ、いつもどおりの 雑談まじりの口喧嘩をしていたのに、
唐突に 話題を変えてきたのだ。
「あいつ・・・?ああ、ビビの息子か。」
ゾロは、なるべく 平静を装って答える。
たった、2ヶ月足らず航海して、その後 また 何時会えるかわからない。
この短い時間は 次に会える時の為に大切に使いたかったから、
諍いはなるべく避けたかった。
だから、サニートの事は 自分の口からは言いたくない。
気がつくならついてもいいが、恐らく 気がついたところで
サンジは、必死で 動揺を隠そうとするだろう。
自分たちの関係に亀裂を生じさせないためかもしれないし、
今更 何が出きるわけもない、後悔しても無駄な事を充分に知っているから、
敢えて 何も行動を起こそうとはしない筈だ。
「・・・あれ、ビビちゃんとお前の子供みたいだ。」
「はあ?」
頭のネジがどこか 飛んでるのか、とゾロは思わずサンジの顔を見た。
だが、真剣そのものだ。
「お前、一体 何時のまにビビちゃんと・・」
「バカか、お前。」
ゾロは、呆れて サンジの言葉を遮った。
「あいつのどこが 俺に似てるんだよ。」
「髪の毛とか。」サンジは即答する。
「そう言えば、計算も合うんじゃねえか?前にアラバスタに行ったのは、
ちょうど、17、8年前だもんな。」
あの時に、ビビとそんな事になってるわけがない。
サンジが妊娠して、出産の時、大出血して死にそうになったというのに。
あまりにバカな予測を立てるサンジにゾロは 大きく溜息をつく。
「その17、8年前、なにしにアラバスタに行ったか、覚えてねえのかよ。」
溜息混じりのゾロの言葉にサンジは 淡々と、
「・・・あんまり思い出したくねえが、覚えてねえことはねえ。」と答える。
「俺が2日くらいだっけか、死にかけた時にビビちゃんと・・・。」
「だから、なんで ビビと俺がそんな事しなきゃならねえんだよ。」
まさか、そんな理屈をこね始めるとは 予想していなかった。
余りに馬鹿馬鹿しすぎて 真面目に答える事さえ馬鹿馬鹿しくなる。
サンジがヤキモチを焼いてそんな事を言うのなら、まだ 真面目にこたえよう、と言う
気にもなるが、口調も態度も全くそんな事はなく、
ただ、ビビちゃんと肉体関係を持ってたのか、羨ましいぜ、この野郎、といわんばかりの
態度なのが ゾロの癪に障って、真面目に答える気が失せていく。
「・・・じゃあ、なんで あいつはお前にあんなに似てるんだよ。」
「知るかよ。緑の髪なんて、世界で俺一人じゃねえだろ。」
ゾロの言葉に、サンジはなかなか 納得しない。
「俺は今まで お前以外に見た事ねえぞ、あんな、人間離れした髪の色の奴。」
「あいつの髪はお前の髪みたいに、細いじゃねえか。」
ヤバイ、これ以上言うと 「お前の方に似てるぞ。」とつい、口が滑ってしまいそうだ、、とゾロは思った。
ゾロは、体を起こしサンジの口を塞ぐ。
「・・・人が話しを・・・・。」と、抗うサンジを
「うるさい。黙れ。」静かに、けれど、強くゾロは 叱りつける。
ちょうどいい、この口付けを
ゾロは、どうにも 切り出しにくかった行為の開始のきっかけにする事にした。
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