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■2010年04月20日(Tue)
探偵いらずの屍骸術師
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 | 鬱蒼とした暗闇の林を抜ければ、そこに墓石があった。
――こんなところにも、墓か。
僅か数坪の草間を、幾重にも濾過された陽の光が差しこむ。
不思議な場所だった。 湿気を含む冷たい空気、柔らかな木漏れ日、苔のむした石畳、墓にしても侘しい。 今の文明に忘れ去られた遺跡、その風格さえある。 幽霊が化けて出てきても良さそうだ。 それにしては嫌な感じはしないが。
儀式の祭壇とでも言おうか。 静謐で、日常とはかけ離れ、どこか異世界に閉じ込められたかのような、 緊張と疎外が入り混じった、形状しがたい雰囲気である。
――なんか、受験前に高校見学に行ったときみたいだよな。
その程度の感慨を抱いて、踏み入る。
さぞかし名のある御仁の墓なのではあろう。 その墓石の上に――少女が腰掛けていた。
紺の髪のおかっぱ頭、今どきのラフなパーカーに登山杖、 焦点の定まらぬ目で墓石よりも高い宙を向き、透明人間にでも話しかけるように、独り言を呟いている。
「なるほど――通報通りの不審者だな」 事前に墓守が言った特徴は事実だった。 幽霊を見たわけではなかったらしい。
少女の虚ろな瞳が焦点を取り戻す。 こちらに気づいて、そして――
やわらかく微笑んだ。
「――日が永くなってきましたね」
やや若き警部補は、今日のこの瞬間を幾度となく思い出す。 が、今さっきの言葉が挨拶の文言だったということに気づいたのは、随分後になってからだった。
(探偵いらずの屍骸術師)
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豪華な日記だなあ。 イラストは今野さんです。 光の表現が凄まじい。 せっかくなので自作のイラストをお願いしました。 とはいえ、特に自作と言うことを強調しないで、シーンの概要と容姿だけお伝えしています。 というか、設定絵とかないし・・・(いつも適当) だいぶん欲張った注文したなあと思ってましたが、実物見て改めてそう思った。 いやはや。
見たままの色をスキャンできるわけじゃない上に、ディスプレイは発光媒体なのでそれなりに色味は弄ってます。 実物は良いよ〜。 | | |
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■2009年06月18日(Thu)
屍骸術師と壊れた杖3
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Replay
 | オークノートの冬は寒く。 警察にとっては、冬は犯罪率が減ってありがたい時期である。 検挙のノルマがこなせなくなることを憂う管理職もいるにはいるが、所轄にとってはやっかいごとが減って単純に喜ばしい。 冬の犯罪減少傾向には諸説がある。 単純に犯罪者すら外に出たくないのだろうという常識的なものから、辺土の蛮族がこの時期に帰省するから、などといういささか差別的なものまで。もっとも、部族によって犯罪発生率に差異があると言ったデータは存在しない。 ――逆はあるが。
「はあ。では結局、どうして減るのでしょうか」 「寒いから外に出たくないんだろ。そんなもんさ。誰もが想像できうる理由じゃないと統計なんてのは動かないのさ」
そういうもんである。 ちなみに、万引きと凍死者の件数は増える。 これも少し想像すればわかる結果ではあった。 納得したのかしてないのか、メイは考え込んでタツマの前を歩いている。 重たいのだろう、黒く長い杖をだらんと片手でぶら下げていた。
「重たいなら杖を突けばいいだろう」 「はぁ、けど。これ、壊れませんか」
石油系の軽素材のケースに念動力回路をごちゃごちゃととりつけた「杖」を、不安げに眺めるメイ。
「突いて壊れる杖なんて、おかしいだろう?」 「ですよね。」
くるくると回す。杖にはタグがついたままだった。タグもくるくる回る。 杖の修理を依頼した後、とりあえずの代杖として渡されたのがこの杖だった。 やたら角張っていて、先端に四角い箱みたいなのがゴテっと付いている黒い杖。 警察の魔術技能者が使用する正式装備である。 オークノートに、魔術技能者兼警察官なんてヤツがいるわけ無く、 今日の今日まで新品のままデッドストックされていたのだった。 貸与品なのに、タグがついているのはそういう事情からである。
「...一般の杖のように突かないでください。故障の原因となります」 「世の中はおかしいことだらけだな」
タグを読みジト目で睨むメイに、タツマは真顔でそうぼやいた。
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2007年12月28日(Fri)
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杖。 携行式術杖、サイクルアーム、軍用杖、ただ単純にハンドウェポンとも言う。 呼称は多くあったが、魔術の大陸カトルニカの多くで『武器』に分類されていることは共通している。
「兵装としての杖は、災禍の時代――二百年前にその原型が完成されています。そして、現在に至るまで杖の構造は...性能や外機能的改良はあっても、内部のシステムそのものが変わると言うことはありませんでした」 「つまるところ、パーツの品質やデザインの改良はあったが、仕組みそのものは二百年前のままということか」 この辺、傘みたいなものだろうとタツマは1人納得する。 傘はどれだけ時代が進もうと、その仕組みと形状そのものは変わらない。 もっとも、進衰著しい兵器として「今も昔と変わらぬ仕組み」 なんて言うのがまかり通るというのは、いかがなものかとも思うが。 「杖の機能は、大別して三つに分かれます。発信、受信――そして、展開の三つです。地域によっては“増幅”“発動”を加えて五機能とする場合や、逆に受発信を一つに纏めたりする場合もあります。」 「俺は五機能で教わったわけだが...君は三機能なわけか」 「はい、確かに杖の中には、発動補助――術者の意思ではなく杖に備え付けたトリガーによって発動を行える物がありますが...魔術とはあくまで人の行う業です。術者の任意である発動を杖の機能とするのは不適切です。 また、増幅を含めこれらの機構は元来の杖の機能には含まれていませんでした。杖を構成する最低限の機能としては不必要でしょう。よって、三機能としています」 すらすらと、答えるメイ。 まるであらかじめそういう文面が用意されていたかのような、淀みのない回答だった。まあ、実際教科書にでも載っているのだろう。 屍骸術師に教科書があるのかは知らないが。 「で、その杖がどうした。」 「ええ、壊れました」
(屍骸術師と壊れた杖)
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■2006年11月14日(Tue)
フィッシュフィッシュフィッシュよくばりに
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 | エビでタイを釣るという言葉がありますが、子供のころはエビの方が圧倒的に好きだったため、その意味に随分と疑問を感じたモノです。
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メガテンはやったことないっす... 5は黒崎薫さんのシナリオがいいかどうかだよなあ。 絆と書いてチームと呼ぶようなゲームだといいんだけど。
「〜だいたい、戦闘システム変に凝りすぎたせい敵の自由度が無くなったみたいなお粗末なの造っときながら、六人の英雄とバトルだとかおこがましいにも程があるっての。そんな骨が折れるだけで何の個性もない戦いを六回繰り返すこっちの身にもなれっつーの。どんなマゾプレイですか。 どんだけ優秀だろうが攻略パターンが決まった戦いなんて苦痛でしかないっつーの」 ワイルドアームズ4の良いところは、この問題をきちんと解決できていた点にあります。 独自のヘキサ戦闘システムによって、攻略法のまったく異なるボス戦を演出。 魅力的なボス達(ブリューナグ)の能力をいかんなく発揮してたわけです。
10人集だとか9人の刺客だとかそういう中ボスが多いRPGは、この「攻略法の多様性」が確立されていないと、たちどころに死にます。 自分さえ強ければそれでOKと言うような戦闘システムだと、それこそ中ボス戦を10回繰り返すだけになるからです。 「神の十賢者」や「七英雄」とかを、ドラクエのシステムで戦闘した場合を想像すれば解りやすいと思います。なんとなく、めんどくさそうという感じがしませんか? ドラクエは典型的な自分を高めれば勝てるゲームで、それ自体はゲームとしては面白いのですが「神の十賢者」や「七英雄」とは相性が悪いのです。 | | |
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■2006年09月24日(Sun)
屍骸術師と勇者株21
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「暗殺者だろうな。しかもプロだ」 不機嫌そうに、ルイスはソファにふんぞり返った。 応接室に帰ってはきたが、一同の表情は暗い。 犯人がわかったには解ったのだが、カルラの知人ではない。 消息もわからない。 親類縁者はすぐにでもやってくる。 事態は何一つ好転していない。 これで暗殺者の存在など発表しよう物なら、間違いなく血で血を洗う争いに突入するだろう。 「あの、」 メイがおずおずとルイスに近寄る。 ルイスは、それを手で制して、 「申し訳ない。メイ女史の力ならすぐに解決できると思ったのですが、少々当てが外れました。最悪、依頼が不履行になるかもしれません。 そのときは、自分が代金を払いましょう。仲買をしてしまった手前、こちらにも責任はあります」 「はぁ...いいのでしょうか」 何故かこちらに尋ねてきたメイに、頷き返すタツマ。 「いいんじゃないか、本人がそう言うんだ。給料の三ヶ月分ぐらい、気前よく払ってくれることだろうさ」 「高いっとね」 「そりゃまあ、死人を一時的とは言え甦らすような術だからな。需要と供給を考えるまでもなく、高かろうさ」 「でも材料費とか必要なかっとよ? まるもうけっと」 納得がいかない様子のルーラ。 何か言いたげなメイと視線があったが、すぐにそっぽを向く。 「あの、嫌われているのでしょうか」 「きらっとるっとよ。魔術士って奴はちょっと奇妙な手品が出来るからって、バンバン金を巻き上げて。みんなぼったくりっとよ!」 「要はひがみ根性だ。ほっとけ」 「はぁ。慣れてはいるんですが...」 メイは、物凄く残念そうだった。 「なぜでしょう、ルーラさんには嫌われたくなかったです」 おそらく本音だろう。少しだけいじけている。誰にでもなつく子犬が自分にだけは吠えると知ったときのような顔だった。 「う。な、なんねその純真な子供のような目は。そんな顔してもダメとよ。なんね、それじゃまるっきりウチが悪ものみたいじゃなかと」 「れっきとした悪者だろうが」 「しゃらっぷ!」 後ろ回し蹴りが飛んできたので足首を掴む。スカートがふわりと舞い、 「スケベ!」 「やかましいわ」 軸足を払う。床にルーラの後頭部がごすりとめり込んだ。 ったく、まったく話が進まない。 「タツマ」 座り込んだままのルイスが、手招きでタツマを呼ぶ。 深刻に思い悩んだ様子だった。耳打ちをしながら、尋ねてくる。 「め、メイさんのネクロマンシーって、そんなに高いのか?」 数秒。 「...お前も後先考えて見栄を張れよな」
「では気を取り直して、作戦会議をはじめましょう」 上機嫌のルイス。ソファに座る全員に語りかける。 先ほどまで「あれを諦めるか」「いやいっそ保険を解約して」と妙な算用を延々ブツブツと唱えていたのだが、メイが「拘束時間の短さや、死後間もない死体であったことを考えると、今回の施術料金は安いはずですよ」の一声で復活したのだった。「ただ、必要経費の料金は払って頂くことになりますが」とは言っていたが。それでも普段の10分の1にも満たないという。しばらく贅沢は出来なくなるが、払えない額ではなかった。 「ええと、なんだ。何から始めようか。いやいやいや、話が弾むなタツマ」 「スーパーボール並に無軌道だがな」 「ともかくだ。こうなった以上、基本的な捜査もしておいた方が良いだろうな。どうも、この事件は答えだけ見えたところで解決できないらしい」 確かに、犯人が暗殺者などという答えでは解決のしようがない。 全域に怪しい人物を指名手配すると言う手もあるが。 「いや、それはダメだろう」 タツマの提案に首を振るルイス。 「おそらくこの少しだけ不可解な殺人及び死体遺棄事件は、その指名手配を恐れての偽装工作――つまり犯行時刻の改竄だ。 だとすれば、暗殺者は死亡推定時刻にはアリバイを成立させ、ましてや証拠を隠蔽し本来の生活に戻っていたはずだ。そこで、とりあえずはこの暗殺者の意図を探ろうかと思う」 「その暗殺者が、どういう理由で偽装工作をしたかって事か?」 「ああ、我々はメイ女史という強力なアドバイザーのおかげで、敵の策略に嵌ることなく犯人に至ったワケだが、そのせいで暗殺者が何を狙ってこんなややっこしいことをしたかという部分が解らなくなってしまっている。そこを確認しようというわけだ」 「言いたいことは解ったが、具体的にどうやればいいんだ?」 「簡単だ。初めから捜査をし直せばいい」 そこに来てようやく、タツマ達は、カルラ氏の死が発覚するまでのことのあらましを執事長から聞くこととなった。 | | |
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■2006年09月20日(Wed)
屍骸術師と勇者株19
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「では、幻体をこちらに呼び寄せます」 今からカルラ氏の幽霊が表れるから、必要以上に驚かないようにとの旨を全員に伝える。 「不安だったら口を手で押さえとけばいい」 「わかった。だがその前にひとつだけ言っておきたいんだが...」 ルイスが真面目こくった顔で、自分に頷き掛けてきた。 「タツマ、今のおまえってなんかメイ女史のマネージャーみたいだな」 「...五月蠅い」 パイポをしがむ。 「なんか、頭の痛いところをつかれたみたいとよ」 「気にしておられるようですな」 「そっちもだっ!」 突如、穴から青い光が溢れた。 全員の目が、一瞬でそちらに中止される。 青い光は粒となり、一塊となって穴の上で人体を形成していく。 ガウンを着た欲得の強そうな中年。顔のパーツが中央に寄ってるが、太ってるせいと言うわけではなく、元からそういう顔なのだろうか。 「旦那様...」 哀情の混じった声で執事長が呟いた。たとえ世間から恨まれてようと、自らの仕えた主には親愛と呼べる念があったのだろう。 光が弱まると、そこには半透明の幽霊が浮かんでいた。 その瞳は閉じている。 「セーフモードで起動します」 タツマ以外の観客があっけにとられて息を呑む中、メイは淡々とそう告げた。
「うっちゃ無実っとよ!」 今日何度目かの台詞を叫んで、ルーラ・ループは脱出をはかろうとした。 が、 「今逃げると全国指名手配にするからな。正義の怪盗」 既にタツマは、回り込むようにルーラの進路を妨害している。 「うっ。に、逃げるんじゃないとよ。うちは自らの潔白を証明するっとよ」 「潔白っつても。殺されたカルラ氏本人がお前に殺されたって言ってたわけだしなぁ」 「で、でっちあげっとよ! あんなトリックで陥れようなんて甚だ遺憾とよ!! 非ぃ科学的っとよ!!」 「遺憾の意味を間違って使ってそうだが。一応言っておくと、メイのネクロマンシーと警察の捜査方針はあくまで別物だ。そうだな、探偵の助言で警察が動くことがあるが、それと同じと考えればいい」 「だ、大体まだうちと決まったわけじゃないっとよ。見知らぬメイド服の女に突然襲われて首の骨を折られたって言ってただけっとよ! 弁護士を呼ぶっと!!」 「非科学的はどこ言った」 じりじりと近寄る。 徒手空拳の構えを見せるルーラ。 どうやら徹底抗戦に臨むつもりらしい。 実際、ルーラ・ループは強い。そしてその強さは、武芸者として裏打ちされた強さだ。タツマとて、まともな武器を使われたら髪の毛一本触れることは出来ないだろう。 二度も勝てたのは、ただ単に彼女が迂闊なのと初撃から全力を出すことで意表を突いたからに過ぎない。 が、実際の印象はともかくルーラからすれば二度も負けている相手とは対戦したくなかったのだろう。 そのまま、登山杖を持ったままのメイに向かって走っていった。 おそらくメイを人質にとって逃げようと考えたのだろう。 「ネイザーリア殿!!」 「まずいな、タツマっ」 焦る二人の男を尻目に、タツマは警戒を解いてパイプを取り出した。 しがんで、 「...まあ、迂闊ってのは致命的だよな」
二秒後。
「なんとおおおおおおおおおおっ!!??」 ルーラ・ループがメイに投げ飛ばされてオークテーブルの空を舞った。 | | |
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■2006年09月19日(Tue)
屍骸術師と勇者株18
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「万物ノ理ヲ体現スル、我ハ世界ノ杖也」 解体したゴミ処理施設の穴を覗き込むように、儀式が始まる。 穴を覗き込むメイの体を抱えるのは、相変わらず自分の仕事だった。 「大丈夫なのか」こんな遠くから、 「特に問題はありません――<踏査>」 見たい見たいというルイスの要望もあって、術式は穴の底近で執り行ないたかったのだが、あいにく下に降りる時間がなかった。 なら穴の上からやりましょうと、言うことになったのだが。 まあ、大丈夫なのだろう。 屍骸術は時間が掛かる。死体の修復、交渉、そして幻体化もしくは蘇生。どれもこれも様々な意味で長ったらしい。 見る物も定めずに周りを見ると、ルイスが解体したゴミ箱を見聞していた。 「どうした?」 白手袋で布きれのような物を摘んでいた。 「いや、」 とだけ言って布きれを――元の位置なのだろうか。巨大ゴミ箱の構造材に引っかける。 「旦那様の、ガウンの一部みたいですな」 「やはりそうですか。手触りが良いと思いました」 「落ちた際に引っかかったのでしょうか」 「多分そうでしょうけど。偽装工作ということも...」 露骨にゴミ箱に引っかかっていたことに違和感を覚えているのだろう。 もしそれが誰かと言うより殺人犯――これもいるのかいないのか微妙だが、殺人犯の偽装工作だと仮定するならば、 「ここから落ちて死んだんじゃないってことか。別の場所で殺して死体を穴に落としたか。それとも下の収集口から侵入して放置したか」 「飛ばし読みのような推理で面白みもないが、その可能性はあるだろうな」 メイに寄れば、死因は頸椎骨折である。飛び降り自殺などの落下死の場合、自己保存本能によって落下直前に気絶やショック死を起こすケースがあるが、見た感じそう言った痕跡はないという。 また、穴の底には布団と言うよりマットレスが引かれていた。これは落としたゴミ袋が破れたり飛散したりするのを防ぐためのもので、元から備え付けられていたものである。ただ、あくまでゴミの緩衝であり人間が落ちたときの生死の保証はというとご覧の通りである。 が、マットレスがあるため頭から落ちただろうに頭部が破壊されることもなく、建物十階分はあろうかという高さからの落下衝撃も、二階から落ちた程度にまでは弱まったはずで。 「二階から落ちた死体だったとしても、見分けは付かないだろうな」 偽装工作、と言う言葉に信憑性が生まれるのである。 それでも、微かになのだが。 「そうでしょうか。わたしならたぶんわかりますよ」 「そりゃ君なら死人と会話できるわけだから」 そんな中途半端な情報どころか、どうやって死んだかのインタビューを本人に取ることさえ出来るだろうに。 「死人ではなくて死体ですが。というより、そう言う話ではなくてですね...」 ふと、閃くものがあった。 「...もしかして“死体を見ただけで”そこまでわかるのか? 屍骸術を使うまでもなく?」 「ええ」それが何かという口調である。 「接地した部位に残る痣とか、首の骨の折れ方とか。大体どんな場所でどうなって死んだのかぐらいは。マットを敷いたぐらいなら計算補正して落下距離を求めることも出来ますし、凶器なども布でくるんだ程度なら――と、終わりました。交渉に移ります」 ブツブツと小声で、何事かを話し始める。 「ふむ、職業柄というヤツか。火葬場の職員も骨の焼け具合を見ただけで生前の病歴がわかると言うが、」 何やら勝手に納得した様子のルイス。 「是否解剖学の壇上に立って貰いたいものだ」 「てか、見ただけで死因がわかるなら今やってること無意味なんじゃないか」 「え」 メイが硬直した。 おそるおそると言った様子で、こちらの顔を覗き込む。 「お仕事やっぱりないんですか?」 「そんな顔するなよな」こっちが悪者みたいではないか。 「いや、続けてください。実際の屍骸術を見てみたい」 出資者というわけでもないのに、ルイスが慌てて促した。 本当に見たいのだろう。まさか、このために自動車までかり出してきたのだろうか。 「話し中に済みませぬが、ヴァイン殿」 「はい、なんでしょう」 「屍骸術、と言う言葉が聞こえたのですが。もしや、メイ・ネイザーリア様はネクロマンサーであらせられるのですか?」 声に微かな畏怖が混ざる。 ネクロマンサー。 都市伝説、あるいは伝承。それに語り継がれるだけの、幻の魔術。その使い手。 「おや、説明していなかったでしょうか」 「じ、事件を解決して頂けるとしか。ですので、」 執事長は全身と眉と髭をわなわなと震わせた、 「わたくしめはてっきり今はやりの魔女っ子探偵かとばかり」 「んなわけなかっと」 ルーラ・ループが律儀にツッコミを入れた。 ルイスが無理矢理連れてきたのだが、興味がないのかさっきから立ち尽くすだけである。 傍目から見れば執事長にメイドが付き従っているだけにも見えた。 ちなみに常務氏は職場に戻った。これから行われることには幾許かの興味があった様子だったが、お得意様との良好な関係を維持することを選んだらしい。下手に深みにはまる前に逃げ出したのだった。正しい選択ではある。 「てか、お前は驚かないんだな」 「うちは魔術自体ぜんぜんしらんっとよ」 なんのつもりなのか、ルーラは手の平をひらひらと振った。 「魔術とか言われても、なんぞ得体の知れない力で得体の知らないことをしとーぐらいのイメージしかなか。そがけん死体と会話しよーと、得体の知れないタネがある思うだけで驚くよーなことじゃねーとよ」 魔術自体は都会では珍しくもない技術で、得体の知れないことをするのはあくまで魔術士――魔術技士だけなのだが。それに、 「会話というか、今やってるのは念話らしいんだが」 ぶつぶつとメイが呟いている言葉もよく聞けばただの独り言である。 かろうじて聞き取れた言葉としては「あ、よかった」等。 「ちょっと待て、タツマ。」 反応したのはルイスだった。ずかずか近寄ってくる。 「精神感応術だと? 今、彼女は死体とテレパシーで会話をしているというのか」 何故か睨まれる。 「ああ、」そう言えば、以前も自分に念話を使っていたか。 「それがなんだって言うんだ」 気がつけば、メイとタツマと対峙するようにルイス。その間にルーラと執事長と、輪になるように歩み寄ってきた。全員がルイスが驚いた理由がよく解っておらず、なんかいきなりビビってるぞこいつという空気が漂っている。 「...タツマ、お前も魔術の基礎講義は受けたはずだろうが」 「そのはずだが」 何故かため息が漏れた。 「お前、自分がどれだけ途方もないことを言ってるか解ってないだろ」 どこかで聞いたような台詞を言うルイス。 「三大限界――って言えば思い出すか?」 「あ〜。あったな」そんな言葉が。たしか、 「俺、あの問題間違えたんだよな」 「誰がテストの話をした。いいから、思い出せ。魔術の到達技術には、三つの限界があると言われている。ひとつが、【透視】、ひとつが【予知】、そして最後が、」 「錬金か?」 「そりゃ三代禁則だこのマクロコスモスアホ。ここまで来たら最後は【精神感応】に決まってるだろうが」 とは言うが... 「いまここに実際やってる魔術士がいるわけだが」 「だから、出来る筈がないんだ。なぜなら、本来それらの能力は【念動力】を源力とする念動力回路運転術――魔術と、対等の位置に属する力だからだ。 念動力、ようは魔力と同じで持って生まれなければ使えない類の力なんだよ」 「じゃあ持って生まれたんだろ」 簡単なことではないか。 「って、あのなあ...二股の大根が生えるのとはわけが違うんだぞ」 「雄の三毛猫が生まれることもある。君、聞いてたか? その辺どうなんだ」 「はぁ...聞いてはいましたが」案の定、彼女は小首を傾げた。 「そうですね。言われてみますと、お婆ちゃんが昔にネクロマンシーは魔術と違って先天的な素質が必要不可欠だと言ってました」 「魔術も持って生まれた素質が無いと無理な気がするが」 「お婆ちゃんの時代には、誰でもちょっと勉強すれば使えたそうですよ」 「いつの時代だ...」 確かに、昔の人達は今に比べて念動力が強く、誰でも魔術を使用するに足る力を有していたという話は聞く。だがそれは昔は昔でも100年は向こうの昔の話である。 ルイスは、尚も唸り声を上げていた。魔術に関する知識量がタツマと違い豊富なためか(それでも魔術技能者やナエさんには遥に劣るが)辺にブツブツと独り言を繰り返している。 「終わりました」交渉が終わったと言うことである。 「で、カルラ氏はなんて言ったんだ」 おそらく周りの人間は「どうやって死んだのか」という質問だと受け取っただろうが、術の行程を知っているタツマの意図するところは違っていた。 すなわち「屍骸が提示した、証言のための交換条件はなんだ」と言う意味である。 メイも、その意味で頷いて答えた。 「最後にアヴェル・ファイラムの勇者株が見たかったそうです」 「...そりゃなによりだ」
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■2006年09月16日(Sat)
屍骸術師と勇者株17
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「さて皆さん」 と、言ったのはソファに座るルイスである。 舞台は応接室を出ていない。 「解決編をはじめましょうか」 しらけた顔でその様子を見守るのは、左に証券会社の常務、ストラグル家の執事長、右に怪盗ルーラ・ループ、屍骸術師メイ・ネイザーリア。そして真ん中にタツマ・アヴェル...誰一人メンツは変わらない。 「ちょ、狭いっとよ。おっっさんら向こう行くっとよ」 常務と執事長を邪険に払うルーラ。おっさんのカテゴリに自分も入っていた気がするが...気のせいだろう。 すごすごとルイスの両隣に座り直すおっさん達。 「解決編?」 話が進まなそうなので、促す。 ルイスは何が楽しいのか署内では滅多に見せない笑顔で、 「ああ。死体があって、頭の硬い警察がいて、少し奇抜な探偵役がいて、老練たる執事がいて、ただの観客がいて、そして」 順々に、誰かの顔を伺いながら、その目がルーラに落ち着く。 「物語に華を添える怪盗がいるんだ。これで謎が解決しないわけがない」 ルーラがうっとりとした表情ではいと頷いた。頭が硬い警察とは、自分のことだろうか。 「ただの観客は私でしょうね、はい」と、常務氏。 「あの、探偵役って私のことでしょうか...」メイが首を傾げた。 何が言いたいのかさっぱりわからないが、聞き返すのは自分の役割なのだろう。 「で、お前はなんの役なんだ?」 「無論、ストーリーテラーだ。メイ女史」 タクトを振る指揮者のような仕草で、ルイスはメイに質問を投げかけた。 「君は生活費に困窮し、勇者株を売ろうと考えた。しかし、ああこともあろうにその株券はここにいるヘナチョコ警察官タツマ・アヴェル警部補のご先祖様の株券で無論ヘナチョコの祖先だからヘナチョコで売ろうにも売れないで困っている」 「おまえな、ぶっ飛ばすぞ」 かなり本気で腹が立ったのだが、ルイスはどこ吹く風だった。 「まあ、昔そんな風にコイツもいじめられていたわけですが、さておき、メイさん。商談の方はどうなりましたか?」 「はあ、それが...」 浮かない声だった。横目で見ると、やはりそう言った顔をしている。 結局、買い手が死亡してしまっては商談も何もないと言うことになった。 勇者株のコレクションをしているのは当主であるカルラ=ストラグル氏のみであり、他の家族は一文の得にもならないこの趣味をむしろ迷惑がっていた節もあるらしい。 聞くだけ聞いたルイスは、ひとしきり頷いた後、 「では執事長。名前は...たしかセバスチャンでしたか」 「いえ、マクマウェル・ワイトヴァンドですが」 「て、待て。さっきの話はもういいのか」 ルイスが、めんどくさそうな顔をして90度振り向いた。 「いいから黙ってろよ。お前は普段ぼっさりしてて何もしないクセに、人の話は結論から知りたがる。何事も順番だ、このヘナチョコ」 「ルーラ、ヌンチャクを貸せ」 「没収されてるっとよ...あんた以外と短気なんね」 「タツマさん、今日は機嫌が悪いみたいですね」 確かにその通りなのだが、ほっといて欲しい。 「さあ、そこでメイ女史の出番だ」 パチン、とルイスが指を弾いた。 きょとんとするルーラとメイ。タツマも何が言いたいんだという顔をした。 それを見て、ルイスは憮然とした顔で、 「なんだ、聞いてなかったのか」 「人の反応を待たずに会話を続けるルイスに問題があるような気がするが」 隣でメイとルーラが頷いた。 「む、いいかね。ここの執事長氏もまた困っているのだよ。なぜなら、カルラ氏は事故で死んだのか殺されたのかさえわからない。だと言うのに、今この屋敷には親類縁者の諸々が急ぎ駆けつけようとしている。そうなれば執事長と館にいた遺族は、ことのあらましを説明しなければならなくなる」 「そのまま説明すればいいじゃないか」 思ったままを言ったのだが、とたん執事長と常務氏の顔に陰が差す。ルイスに至ってはため息をついていた。言葉を濁す、そんな感じである。 「そんなことしたら掴み合いの喧嘩になるっとよ」 見かねてなのだろう。 ルーラ・ループが横から口を挟んだ。 「さっきも言ったっとよ。」 (ストラング家はお世辞でも“善良な”なんて言えた銘柄じゃないっと。金遣いはあざといし、平気で人の人生をめちゃくちゃにするし、同業ですら品が疑われると煙たがってた程っとよ) さっきした殺される動機があるのかという質問に、返ってきた答えがそれだった。 「そがけん家族関係も同じでドロッドロ。ウチが情報収集しゃ〜ときぁ、愛人の数が家族よりも多かなんてホラまで流れてたっとよ。そんなんで、殺人の可能性なんて示唆されたら遺産争いが更に揉めるのはわかりきっとーと」 「なるほどな」 確かに、それは話しづらいだろう。唯一対面を気にする必要のないルーラだけが正直に言えたのも頷ける。 「なんにせよ、葬儀までには事件を解決しておきたい。その考えは、奥方氏や館に残っている兄弟の方も同意見だそうだ。殺人となればまず疑われるのは彼らだからな。運悪く同時期に忍び込んでいたルーラ女史が、あろうことか殺人犯にまで疑われたのはその辺が理由だな」 「でっちあげっとよ」 「そこのところは、今後の調査次第だろうが。今のところのルーラ女史が犯人かどうかの可能性は他の人達と同様にイーブンだと思っている。だな、タツマ」 「ああ」 むしろ殺人に関しては無関係だろうとタツマは考えている。 理由を問われれば、勘だとしか言いようがないが。 「さあ、これで解っただろう。タツマ?」 「解りたくはないがな」 メイは金が欲しい。しかし金を手に入れる望みは失われた。 一方、ストラング家の面々は早々に事件を解決したいと望んでいる。 そして、警察よりも早くに問答無用で事件を解決する方法が、いまタツマの横でお茶を飲んでいる。 これ以上解りやすい利害関係があるだろうか。 「探偵役の出番か...」 思わずため息が出た。 | | |
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■2006年09月14日(Thu)
屍骸術師と勇者株16
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ノックが聞こえ、薄茶のコートを外套のように羽織った男が応接室に入室してきた。 腰には紅玉の鍔飾りが付いた剣。しつこいようだが、帯剣はなにより警察官の証明である。 オークノート市警強盗殺人課、警部。 「ルイス」 署内では冷静沈着、いついかなるときでも表情筋の一ミクロンとも動かすことはないと称されるルイス・ヴァイン部長刑事は、麦茶を飲んでいたタツマを見つけると相好を崩して手を振った。 「いやいやいや、美少女とフケ面の組み合わせというからもしやと思ったが、やっぱりお前だったか。いやいや、デート中に済まんな」 「ただの休暇中だ」 なんとはなしに窓の外を見る。 エンジン音は聞こえていた。妻兄弟が来たのかと思っていたのだが、庭に停まっている車両はよく見れば警察の車両であった。それも貴重な自動車車両である。 「ルイスだけか。というか、なんでわざわざお前が来るんだ」 金持ちとは言えストラグルは成り上がりの一族、以前のクロナクル家のように政治的な発言力を持っているわけでもない。 「おまえ、俺が金持ちに媚びうるために来たと思ってるだろ」 「違うのか?」 こいつは...という目でルイスが睨み付けてきた。 「ウチの刑事が巻き込まれてるって言うから、わざわざ押っ取り刀で出てきてやったんじゃないか。ここはご迷惑を掛けましたと警部とかそういう殊勝な態度で臨むべきところだろう?」 腕を束ねて、ふんぞり返る。 「ご迷惑をおかけしました」 「ああ」 「で、本音は?」 「お前がメイ女史とデート中だと聞いては見学しないわけにはいくまい」 と、隣で麦茶を飲んでいたメイへと近づき、慇懃に挨拶をした。 「そういうヤツだよ、お前は」 「ね、ちょっと。この美形誰?」 前で珈琲を飲んでいたルーラが目を輝かせて尋ねてきた。 「警部って。この年で管理職なワケ? やだ、玉の輿?」 誰に対してだと思ったが、頷く前にルイスがルーラに微笑んだ。 「あいにくわたしは売約済みですので」 そう言って熱い目線をタツマに送る。 ルーラが一メートルほどのけぞった。不審者を見る目つきで、何故かこちらを凝視する。 「え、なにあんた達そういう関係っとよ?」 「いえいえ、とんでもない。彼にはメイさんという好い人がいますので」 自分で振った冗談を、自分でさらりとかわすルイス。 ふとルーラを見ると、不審者を見る目つきは犯罪者を見るかのような目つきに変わっていた。 「え、なにあんたそういう趣味っとよ?」 「そういう趣味ってなんでしょう」 メイが小首を傾げるのを嘆息しながら、タツマは窓の外を見た。 ルイスに依れば、遅れて援軍が到着するらしいが、彼らを乗せた馬車まだまだ来ないの様子だった。 | | |
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■2006年09月10日(Sun)
屍骸術師と勇者株15
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「<蛍灯>」 メイの唱えた汎用術式が、真夜中の蛍のような光球を生み出す。 「ま、魔術士の方で御座いましたか」 先ほどからちょろちょろ付いてきているメイに疑問を持っていた執事長は、そう一言呟いて納得したように顎髭をさすった。 「いやはや、仕事柄魔術士の方を拝見する機会は多いですが、ここまでお若い方は初めてです。さぞかし名のある方でしょうな」 明らかにタツマより丁重な扱いだった。 「いや、こう見えて20代後半なんですよ」 言うがいなや足を踏まれた。 「タツマさん。冗談を言う暇があるなら、少し体を支えていて頂けますか?」 メイはストラップから発した魔術光を手に、穴を覗き込むような体勢をとった。 言われたとおりにタツマは、彼女の腹に腕を回し抱え込むように支える。 「では、落とします」 メイはその光球を無造作に穴へと放り投げた。 人工のトーチは一直線に地表へと落ち進んでいく。それ自体に浮遊性質があるのか、重力に反した等速的な動きである。にしても、 「大丈夫か? どんどん暗くなっていくんだが」 「大丈夫ですよ。地表に付いたら出力を上げるように調整していますから」 淡々とそう告げられ、内心で舌を巻く。普段からかわれては顔を真っ赤にして憤慨する彼女だが、こう言う場面での彼女は大人顔負けの落ち着きがある。 なんとなく、こっちが子供扱いされているようで少ししゃくだったが、まあ、事実その通りではある。 「こんな穴がテーブルの至る所にあるわけか」 「少し違いますな」 執事長が微妙な否定をした。 「確かにオークテーブルには下水や排水用の穴が柱の内部に存在します。ですが、その穴をダストシュートとしているのは...」 そこで執事長は言い淀んだが、大体の察しは付いた。おそらくは、テーブルでも一部の富豪だけだということだろう。 「敷地が広すぎて割り当てられている柱の数本を独占する形になるのですな。そうなりますと、人口密度の都合上いくつかの下水管は必要がないわけでして」 この穴を通る下水管も実際は使われていないのだそうな。道理で匂わないわけである。ちなみに落ちたゴミは、地表側で業者が回収するらしい。 「なぜ地面にゴミを落とす必要があるのでしょう?」 メイが腕にぶら下がったまま、小首を傾げた。 「動くなよ。回収業者を上に呼ぶより下水穴を改造した方がコストが安いんだろうさ」 もっとも、何十年先に黒字になるかわかったものではないが。 「金持ちは50年先の黒字まで見越すって言うからな」 「死んでますね」 一瞬、タツマに対する相槌かと思ったが、そうではなかった。 蛍火が地表まで到達したのである。 不思議な発光だった。どういう仕組みなのかは知らないが、四角柱の内側は全てが白日に晒されたかのように自然な色を見せている。 その一番下で、焦げ茶の布団のような物の上に人が倒れていた。 太ったうつぶせの死体だった。ガウンのような服を来ている。 建物十階分も離れた位置からだったが、タツマにもそれが死体であることは理解できた。 うつぶせの死体は首だけが折れて天上を向いていた。 | | |
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