A邸 耐震改修工事

外壁

外壁はモルタル、リシン吹付仕上であった。

外壁面には多くの箇所で開口の4隅を中心にクラック(ひび割れ)が見られ、劣化が進んでいると判断される。

本建物のクラックの種類としては大きく分けて、

A) 開口の4隅等を基点とした微細な割れ(写真-10,11)

B) 開口の外周に沿って生じている割れ(写真-18)

C) 外壁面を縦に貫通している割れ(写真-9,写真-19)

D) ダイニング・キッチンの開口付近に生じた大きめの割れ(写真-12写真-17)

の4種類に分けられる。

まず、Aに関しては、地震動等により建物が変形する際に開口付近で応力が集中して生じたひび割れの可能性があり、特にモルタル壁は剛性が高い為、ひび割れが生じやすい傾向がある。

B)についてはサッシ枠の変形や震動により一般の外壁との境でひび割れが生じているものと思われる。

C)については2階建の部分と平屋の部分の境で生じている。この部分は2階の直下に壁が無く、2階から伝わる水平力は2階床面および1階下屋面を伝わるため、建物の1階部分が「くの字」状に変形している可能性があり、クラックはその変形により生じているものと思われる。

D)に関しては、基礎のクラックや後で述べる室内のレベル測定の結果も踏まえると、不等沈下により建物の西側が沈下したことで、建物の変形が起こり、ひび割れが生じたものであると考えられる。

以前雨漏りがあったキッチン出窓の上部(写真-24)は、中途の設計変更であることや、レンジフードと出窓の庇近接しているといった問題がある難しい部分であり、雨仕舞に関しては今後も要注意であると思われる。



内壁

内壁の仕様は和室・廊下部分が真壁造で、石膏ラスボード下地+塗り仕上げ、1Fトイレ・浴室がラスモルタル+吹付(浴室内タイル貼)仕上げ、その他の部屋は合板下地クロス貼仕上であった(下地については小屋裏又は床下から確認, 写真-33,34,写真-61)。

内壁面ではダイニング室南面の窓の室内側から見て右上隅の部分で、ボードの継目にそって生じた亀裂がはっきり確認できる(写真-40)。その他にも、ダイニング室ではクロスの継目の隙間が目立つ箇所が何箇所か見られた(写真-39)。

キッチン北面の出窓周りにおいては、一部でタイルに改修の跡が見られた。以前雨漏りがあったとのことで、この部分については、内部で腐朽などの劣化が生じている可能性が高いと言える。

和室の真壁の部分においては、垂壁の一部(写真-45)を除いて特に問題点は見られなかった(写真-44)。但し、塗仕上は乾燥収縮による外周部の隙間が生じているため、鼓の隙間により、変形が吸収されている可能性がある。(実際、ダイニングと和室の境の建具と建具枠には隙間があり、建物全体が変形している可能性がある。)

トイレ・浴室内のモルタル塗壁では、目視できる範囲では損傷はなく、健全であった(写真-43)。

2階では、ダイニング・キッチンの直上にある西側の洋室において、壁紙の継目が目立っていたが、下地のボード類には亀裂等の損傷が見られないため、仕上げの壁紙の劣化程度であると思われる。



壁の配置等

比較的整形な建物で、各階ごとの壁配置は比較的バランスが取れていた。

一方、立体的な壁の配置については、東面と西面が共に下屋になっていて、上下階で壁の配置がずれており、特に東側の壁面2Fと1Fのずれが大きく、この間の床(屋根面)が構造上問題となる可能性がある。



©Tahara Architect & Associates, 2005