今回の一般診断の結果から、耐震性能の評点が0.42となり、「倒壊する危険性が高い」と診断された。
この結果を施主と協議し、この建設地で想定される地震動の最も大きな地震動となる想定震度を採用し、それに対して、「とにかく大きな被害を受け、避難所生活をしたくないので、できるだけ被害を少なく済むような耐震性能を確保してほしい。」との結論に達し、この協議は、10回程度の打ち合わせと、1ヶ月以上の協議期間が必要であった。
そこでの結論として、要求性能は耐震性能の評点を1.50程度にした耐震補強をすることとし、要求性能とコストのコントロールを行なった結果を下記に示す。
建物の建設後16年が経過し、沈下はほぼ終息していると思われるので、折損した基礎梁の補強を行い、上部構造の性能がフルに発揮できるように改修する。
耐震診断の結果より、柱頭柱脚の接合部の耐力や耐震壁の量が不足しているため、a)柱頭・柱脚金物の設置により壁の強度を有効に発揮させる方法とb)壁の量を物理的にふやす方法の2通りが考えられる。
現状のプランを維持したままという事が条件にあるため、新設壁を増やすのは難しく、a)の柱頭・柱脚金物の設置と構造用合板等による既設耐力壁の補強が現実的であると思われる。
なお、補強の度合については、大地震時の損傷の度合をどの程度に納めるかによって変ってくる。
1階と2階の壁の位置のずれにより床面の変形が生じないように、床面・小屋組面を剛になるように改修する。
改修範囲は2階床及び下屋小屋組の全面が望ましいといえる。
雲筋かいの断面が小さく、座屈止めも無いので、大きな断面への交換と半間以内で座屈止めを設ける。
野地板を構造用合板に取替えるか、小屋内に水平ブレースを設けて補強することが望ましい。(今回の補強工事においては予算の関係から保留)
本建物は下屋部分を除けば比較的整形なので、特別な補強は必要ないと考えられるが、リフォームも行う場合はプラン次第ではより強力な補強が必要である。例えば、吹抜けなどの水平面の開口部や、階高全部が開口になるような大型の窓があると、開口部廻りの接合部の強度に大きく影響するので注意が必要である。
耐力の補強の項で示した通り、柱頭・柱脚の金物の設置が必要となる。
本建物の一部で生じていた床の不陸は、基礎の沈下により生じているため、上部構造は問題がなく、生活上支障なければ特に補修の必要ないものと思われる。
補強後の耐震性能評価は(財)日本建築防災協会の「木造住宅の耐震精密診断と補強方法」(改訂版)の精密診断法1により評価する。
各部の補強方針を基に、次項以降に全体の補強計画を示す。