「夢の足跡」 1 2 3 4 5 6(番外編) 7 (番外編 魂の行方)
「ここは・・・どこだ・・?」
確かに異様に大きい満月を二人で眺めながら、ゴーイングメリー号の見張り台にいたはずだった。
だが、今、自分が座りこんでいるのは見た事もない港を見下ろす、小高い丘の上だった。
サンジはとりあえず、煙草を口に咥えて、火を付けた。
(なにがど〜なって、こうなったんだか・・・?)
一本だけ、何も考えずに、ゆっくりと味わう。
その一本をすい終わると、サンジはようやく立ち上がった。
が、すぐに新しい煙草を咥え、また火をつける。
(とりあえず、現状はあくしねえと.。)
そう考えて、サンジは街の方へ足を向けた。
気候は適温で、暑くも寒くもない。
風がない性で、ただねずみ色の雲がの島の上空に澱んでいる。
サンジは行き交う人々の姿や、言葉などから、ここがグランドラインにある
島の一つだと判断した。
(慌てても仕方ねえな。)
サンジは腹を括り、もとも戻る方法を考えながら街をぶらついた。
持ち合わせがなかったので、賞金首でも捕まえようと盛り場などを除いてみたが、
見知った顔はどこにもいない.
グランドラインのある島だということだけで、わからない事が多過ぎて、何から
手を付けていいのかさえ、わからなくなった。
何時の間にか、サンジはいかがわしい場所へ足を踏み入れていた。
といっても、その場所はどことなく品がいい。
客引きなどもいないし、一見高級レストランかと見まごう程の作りの建物が立ち並んでいる。
おそらく、かなりの金持ち達が高級な美人を抱きに来る高級歓楽街といったところか。
そんな場所に長居したくなかったので、足早にそこから離れようとしたが、
唐突に飛びこんできた、言葉に思わず降りかえった。
「お待ち下さい、ロロノア様!!」
(ロロノア??!!)
黒いマントを羽織り、3本の刀を腰に挿した剣士らしき男が店の者に何やら
引きとめられている。
(・・・ゾロ・・だよな?)
遠目からでは、判断つきかねてサンジは二人が押し問答をしている方へ
歩み寄っている。
「うちの子が何か不躾なことでも?」
「いや、気にいらなかっただけだ。」
「そんな!せっかくいらしたというのに!ただでも結構です!是非、他のコと!!」
「いらん。」
その男はぶっきらぼうに店のものを振り切った.。
(あいつ、女を抱きにきたのか.)
サンジは、その男がゾロとまだ確信した訳ではなかったが、腹が立った。
(あいつが女を抱こうが、どうしようが、俺に口に出す権利も義理もねえんだった.)
普段からそうおもっていたはずなのに、いざ、
目の前でそれを目撃するのは、やはり気分のいいものではなかった。
サンジは、その男がゾロと確信して、近づいた。
そして、その広い背中へ向かって声をかけた。
「女を抱きにきて、なんにもしねえで帰るとは随分酔狂な真似するんだな.」
男は振りかえった。
黒いマント、黒いシャツ、黒い腹巻。
振りかえったその男は、サンジの思ったとおり、剣豪ロロノア・ゾロ その人だった。
だが・・・何かが違う。
あの、人を射抜くような鋭い眼光がない。
黒い着衣のせいか、全身に翳を纏っているように感じられた.。
いや、それよりもサンジが訝しく思ったのは、自分を見るゾロの目つきだった.
これほど露骨に驚いた顔をするゾロを見るのははじめてだった。
「なんだよ。化け物を見るような目をしやがって.」
棒立ちになったまま、何も言わないゾロにサンジは焦れた。
ゾロはまさに(穴があくほど、)サンジの顔を見つめていた.
そうして、ようやく口を開いた。
それでも、まるで熱に浮かされているような言葉しか、出で来なかった。
「・・・・サンジ・・・・?」
「ああ?」ますますいらついてサンジは眉をひそめた・
その時、
「ロロノア様!!」
と数人の男が、サンジの背中の方から、ゾロに向かって声をかけて来た。
ゾロがうっとおしそうに、そちらに視線を向けた。
サンジも何気なく、振りかえった.
途端.。
「わあああ!!」
自分よりも少し年上くらいの年齢の男たちはサンジの姿を見て、悲鳴を上げ、
腰を抜かした。
「?」
サンジはますます、訳がわからない。
「サ、サ、サンジさん?」
男の一人ががくがくと震えながら、サンジに向かってしきりに手を合わせる。
「おい、人をユーレイかなんか見てえに・・・」
「幽霊じゃないのか.」
サンジがその男の行動を咎めようとした時、抑揚のないゾロの声が遮った。
「何?」
意味を理解できず、サンジは思わず聞き返した。
「お前が幽霊じゃなければ、一体何者なんだ.。」
ゾロは明らかに警戒している。
サンジはその警戒の意味も全く理解できなかったが、
自分の存在を疑われて、酷く気分を害した。自然、態度がふてぶてしくなる。
「幽霊かどうか、よく見てから言え.。足だって、ちゃんとついてるじゃねえか.。
何者って、俺は俺以外の何者でもねえよ.」
一体、何が何やらさっぱりわからない。
掴みどころのない状況に、サンジは困惑し始めた。
だが、ようやくゾロの発した言葉で、全てが判明した。
「・・・サンジは2年前死んだんだ.。」
「なんだと?」
サンジはさすがに絶句した。
立ち話も出来まい、とそのゾロはどうやら定宿にしているらしい部屋へ、
サンジを伴った。
自分が死んだと聞かされて、サンジも少なからず動揺した。
わからない事が多過ぎる上に、思い掛けない事実をいきなり突き付けられて、
頭は混乱するばかりだった。
ゾロが勧めるまま、サンジはソファに深く腰を下した。
「世の中には、妙な能力者がいるからな・・・。お前が本物のサンジだとは悪いが信じられねえ.」
ゾロは相変らず、冷たい感情の全く篭らない声でサンジにそう言った。
サンジはそのゾロの言葉を聞いて、薄く笑った。
「お前は信じてねえのに、俺がいくら言っても仕方ねえだろ.。」
ゾロの瞳に澱んだ、氷のような目の光が揺らいだ。
「信じようと信じまいと、お前の勝手だ。だが、話くらい聞かせてくれ.。」
サンジはゾロに問い詰めた。
「・・・・2年前の事だ.」ゾロは重い口を開いた。
サンジが今まで見た事もない、沈痛な面持ちで。
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