時間の流れ、体を失った魂の行方は一体どこをどう、巡るのだろう。
その答えなど、未来永劫、誰にも出せない。
メビウスの輪のように、同じ所へ必ず戻るように、
運命は同じ場所へ、ぐるぐるとただ、回るだけなのかもしれない。
過去へ。
或いは、未来へ。
或いは、遠い、どこかの星へ。
魂は不思議な渦に巻かれて、"時間"と"心"のある場所へ、
どこへでも、飛んで行く。
サンジの亡骸と一緒に埋葬したオールブルーの雫。
それが何時の間にか、ゾロの胸元を飾っていた。
夢の中で、サンジに会う。
変わらない、生意気な口調。
現実と変わらない、煙草の匂いと、指で掬えば
サラサラと零れる髪の感触、
生きてそこにいるとしか思えないのに、それはゾロの夢の中。
「お前が持っててくれ。」
冷たい、金属の感触、軽い鎖がチャラチャラとなり、
ゾロの掌の上に その蒼い宝石はサンジから手渡された。
その夢が去った後、一人きりの寝床で目覚めたゾロの拳の中には、
哀しいほどに蒼い、サンジの分身のような宝石が握り締められていた。
いつも、長い髪に隠れて片目しか見えなかった。
一つだけのその宝石を見ると、その感情豊かだった瞳を思い出し、
胸が締めつけられる。
夢なんかじゃ足りない。
強く、そう思う。
知らず、ゾロは唇を噛み締めていた。
夢の中でいくら抱き締めても、口付けても、目が醒めたらひとりきり。
その切なさに思わず、深い溜息をつく。
(欲を出せばキリねえよ)と風のような声がゾロに囁く。
「そうだよな。」とゾロは苦笑いして、その声に頷き、
オールブルーの雫を首から下げた。
そして、数年が経つ。
それは唐突な発見だった。
緯度の高い、四季があまりにも鮮やかに移ろう海域だった。
海底火山の活動が活発で、強烈な磁場が指針を狂わせ、
その火山から出る特殊なガスの所為で、サウスバードの方位磁石さえ
役に立たない、前人未到の海だった。
ここが、オールブルー。
お前が憧れ続けた海だ。
ゾロは側にいる筈の魂に向かって呼び掛ける。
ああ。
そうだな。
やっと、辿りついたな。
目が醒めている筈なのに、ゾロの目の前に霞みに守られたような、
蜃気楼のようなサンジの姿が現れる。
ゾロはたった一人でこの海を探し当てた。
周りには、誰もいない。
夢なのか、現実なのか、ゾロには判らなかった。
風景に溶けて行きそうなサンジの姿に呆然と立ち尽くす。
「これで、本当にお別れだ。」
幻のような声でなく、サンジの、明確過ぎるほどの声が
聞こえる。目の前に、生きている姿、そのままにサンジが立っていた。
「俺は生まれ変わる。」
「お前のこと、何もかも、忘れて、新しい命になる。」
嘘だ。
嘘だろ。
ゾロは頭が真っ白になる。
思わず、掴んだ、サンジの腕、なんの手応えもなく空を掴んだだけ。
夢を叶えたから、もう、俺がお前の側にいる理由がない。
目の前にいるのに、抱き締められない。
ゾロは驚き、動揺して唇を戦慄かせる事しか出来ない。
耳を塞ぎ、否定したいサンジの言葉だけが耳に入って来る。
「俺を置いて行くのか」
搾り出す、ゾロの声にサンジの瞳から涙が零れ落ちた。
「俺は絶対にお前に惚れてやるから」
「ちょっとだけ、我慢しろ。」
「絶対にお前と、何度だって巡り会って」
「何度でも、惚れてやる。」
声を震わせて言葉を紡ぐサンジの顔を見て、。
自分だけが辛いのではない、とゾロは感じる。
けれど、心を切り裂かれるような辛さ、切なさは薄れる訳もない。
サンジに哀しい思いをさせたくない。
この期に及んでも、咄嗟にゾロはそう思った。
「約束だ。」
「俺も絶対にお前を惚れる。」
「どこにいても、絶対にお前が俺を見つけられるような生き様をする。」
全てが蒼い海は、ただ、一人の人間だけを待っていた。
それ以外の人間を受け入れようとはしなかった。
世界一の剣豪の行方は判らない。
そして、魂は巡る。
時間を。
未来を、過去を、さ迷い、また惹かれあい、限りなく
同じ質の魂でありながら、決して混ざり合う事のない二つの魂が
時を越えて、出会い、新しい未来を刻んで行く。
「・・・ばかじゃねェのかお前ら真っ先に死ぬタイプだな」
「当たってるけどな・・・バカは余計だ・・・」
「このおれをバカと呼んでいいのはそれを決めたおれだけだ
剣士として最強を目指すと決めた時から命なんてとうに捨ててる
約束だ。
どれだけ時が立っても、俺はお前を必ず見つける。
絶対にお前が俺を見つけられるような生き様をする
そして、また
命をかけて
お前を愛するから。
(終り)