ゾロは、4年前激闘の末、ついに鷹の目のミホークを倒し、世界の頂点に立った。

それは、王下七武海の一角が交代した瞬間だった。

今だ、ゴールド・ロジャーの財宝と、海賊王の座を目指すルフィと
袂を分かち、半ば強引にサンジも一緒に連れてきた。

それは、共に自分の夢を見届けてくれたサンジの夢を
二人だけで追いかけたかったからだ。

七武海となったゾロは気が向けば海賊達とサンジと共に闘い、
オールブルーを探した。

倒す敵が多ければ多いほど、敵は増えていった。

しかし、正々堂々と勝負を挑んでくる輩ばかりではない。
中には、卑怯者呼ばわりされても仕方がない手段を平気で使う輩も
少なくなかった。

ゾロを倒す、という目的を果たすためにそういう輩は、幾度もゾロの相棒である、
サンジの命を狙った。

しかし、二人はそんな姑息な攻撃など、ものともせず、不動の地位を築いていた。



そして、2年前の出来事をゾロが語る。



「・・・・Jr.が人質に取られたんだ。」
「Jr?」
聞きなれない名前にサンジはそれを聞き返した。

「ああ、ウソップのガキだ.。」そっけなく、ゾロはサンジの問いに答えた。
「ウソップにガキ??!!」
驚くサンジにゾロは淡々とした口調で、
「10年も経っちゃ、いろいろある。そこらへんの話はまた、後だ。」
と言った。

「とにかく、Jr.が人質に取られたんだ。助けて欲しかったら、俺を殺せって
サンジは脅されたんだ.。」



その卑怯な手段でサンジを脅してきたのは、
ゾロが片腕を切り飛ばした、もと盗賊だった。

彼はゾロを倒すためではなく、自分の恨みを晴らすための復讐のみを目的としていた。

サンジは板ばさみに苦しんだ。

ゾロも、Jr.も助けたかった。

そして、男に提案した。

「あいつに復讐するなら、俺が協力してやるよ.。」


一見、裏切りともとれるその言葉に男は興味を持った。
「殺すよりも、もっと残酷な事もあるぜ.」


「俺を殺せ。その死体を奴に見せつけてやれ。その方がもっと効果的だろうよ.。」

サンジは男にそう言ったらしい。

サンジがゾロにとって、どんな存在かをゾロの事を調べ尽くしていた男が知らない筈は
なかった。

片腕の男でも、簡単に止めが差せる様に、男はサンジに強い睡眠薬を含ませ、
その体の自由を奪った。

だが、開放するはずのジュニアが騒いだために、男の銃口がジュニアに向いた.。
その時、サンジはその前に必死で体を投げ出したのだ。

ウソップからの知らせを聞いて、ゾロがそこへ辿り着いた時には、
短銃を何発も背中に受け、虫の息ながら、それでもジュニアをかばっていた。

ゾロは、瞬時に状況を把握し、躊躇することなく男の首を切り飛ばした。

ジュニアはかすり傷一つ、なかった。

ゾロはサンジを抱き起こし、必死で何度も名前を呼んだ。

うっすらと意識を取り戻したが、それも僅かな時間で、最後の言葉を交わし、
サンジはゾロの腕の中で静かに息を引き取った。



「それが、2年前の話だ。」

(俺は・・・・。後8年、しかもオールブルーを見つけられずに死んじまうのか。)
サンジは何に対してなのか、無性に腹が立ってきた。

「冗談じゃねえ。そんな未来なんか、クソくらえだ。」
「悪イが、その話を聞いた時点で、俺の寿命は延びたな。・・・そんなバカな死に方、
してたまるもんか。」

そう言って、サンジはせわしげに口から煙をぷかぷかと吐き出した。

ゾロが、ふと思いついたように、
「お前、なんか作ってみろ。」と言ってきた。

「あ?」今だ、動揺を静める事が出来ず、そのゾロの唐突な申し出をサンジは聞き返した。

「本物のサンジなら、俺の好物くらい知ってるはずだ.。」
「ああ、別にかまわねえよ.。」


サンジは宿の厨房で、手早く作業を進めていた。


ゾロの前に出されたのは、好物どころか、むしろ苦手とする部類のものだった。


サンジは涼しい顔をして、ゾロに言った.。

「10年も経っちゃ、味の好みは変るからな。
けど、嫌いなもんてのは、よほど 美味いものを食わねえかぎり、変らねえだろ。」

高級な洋酒をふんだんに使い、ビターチョコレートと、隠し味にジンジャーを
使ったケーキ。

サンジがシェフとしてだけでなく、ゾロにパティシエールとしての自分の腕を
認めさせたい一心で、試行錯誤を重ね、完成させた独自のレシピで作り上げたものだ。

いつか、ゾロに食べさせるつもりだったが、今まで一度もその機会がなかった。

まさか、10年後のゾロのために作る事になるとは、夢にも思わなかった。



「ほらよ。」
サンジは焼き立てのそれを、適度に切りわけ、皿にもってゾロの差し出した。

「お前、本物のサンジらしいな。」
皿を受け取りながら、ゾロがサンジをまだ、訝しげな表情で、
それでも言葉はようやくサンジを認めた.。

「食いもしねえで、よくわかるな。」サンジがそう言うと、
「自分の好物だ。匂いでわかる.」そう言いながら、ゾロはそれを口に含んだ。

ゆっくりと味わい、飲み下す。
「間違いねえようだ。確かにこの味だ.」

ゾロは表情を緩めた。

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   続く