伝説の女
                         1  2  3  4  5

ゴーイングメリー号は、穏やかな月夜の海に碇を降ろしている。

何時も 誰よりも早く起き、遅くまで起きているはずのコックは、
この日、珍しく 早く ハンモックに潜りこんでいた。

生命力と比例する 旺盛な性欲を持つ恋人に 毎日毎日 求められ、
さすがに今日は 勘弁して欲しくて、夜食を運ぶ手間を
夜に日誌を記録する航海士に頼んで、早々と寝床についたのだった。


「なんだ、お前かよ。」

見張り台からキッチンへ夜食を食べに来たゾロが、
夜食の準備をサンジの指示どおりに整えていたナミに向かって
憮然と声をかけた.

「あたしで悪かったわね.」とナミも無愛想に答える。

「あんた、一体 一日何回 サンジ君とヤってんのよ。」
向かい合わせに腰を降ろし、食事を口に運び始めたゾロにナミが唐突に尋ねた。

「・・・・なんで、そんなこと聞く.」
ゾロには答える気など全くない。

「・・・顔色が悪いし、今日はこんなに早く寝ちゃうし.あたしに
夜食のことを頼むくらいだから、相当疲れてるんじゃないかなって思ってね。」

ゾロは黙った。

頭の中で、指を折って数えてみる.

今朝の未明。
というより、昨夜の続きで気がついたら 水平線に朝日が昇っていた.

甲板で昼寝をしようと倉庫の前を通りかかったら、ちょうど 中から
食材を抱えて出てきたから、そのまま 倉庫に引き摺りこんだ。

昼寝から醒めて、夕食の準備で忙しそうにキッチンで働いている後姿に
欲情して、テーブルに押し倒した。

その後、フロには行っているところに踏みこんで、そこでまた
壁に押しつけた。その時、ついに失神してしまったので、
誰にも見られないように 男部屋に運んだのだが、

ソファに横たえた途端、また 上に乗ってしまった.

「てめえの頭には、それしかねえのか!!」

今日は、何度そう怒鳴られたかわからないが、ここのところ、
毎日そんな調子だった。

サンジの体力も人間離れしているので、一晩寝れば 疲れなど全く残さない。
それに甘んじて、とにかく 隙を見てはその肌に触れていた。

「・・・女だったら壊れてるわね.」

頭の中だけで数えていたつもりだが、無意識に指を折っていた。
全ての指が握りこまれているのを見て、ナミが呆れて溜息をつく。

「・・・ケダモノ.」

ナミの前でも平然とサンジとの行為をひけらかすゾロを見たら、
サンジはその肋骨をバキバキに折ってしまうほどの蹴りを炸裂させるだろう。

「・・・なにがそんなにいいのよ.」
男女の営みなら ナミでも聞きかじった知識くらいはある.
だが、男同士の行為が一体どれほどの快楽なのかは 女である以上知る由もないが、
興味はあった。

ゾロには答える気はない。

性欲が旺盛だが、露出の多いナミの肌を見ても なんとも思わない。
だが、殆どの肌を覆っているサンジの黒いスーツ姿にはソソられるのだ。

その粋な着衣の下に、自分がいいように開発し、調教し、馴らして来た肉体が
あると思うと、いつでも それがそこにあるのを確認したくなるのかもしれない。

「なんで、お前にそんな事言わなきゃならねえんだよ。」
憮然とゾロはそう言って、夜食を掻き込んだ。

その夜は、そんな雑談で話が終った.

次の日。

ログが示す島に着いた。


入港した途端、その賑やかな雰囲気に麦わらの一味は驚いた.

「なんか、祭りで一色って感じだな。」
サンジが呟く。
ゾロは、いつもより 少し血色のいいサンジの横顔を 無表情を装って盗み見た.

一晩、側にいなかっただけなのに、その姿がヤケに眩しい。
(ああ、こいつにはまりこんでどうしようもねえな、俺は。)

心の中で自嘲すれば、それは 苦笑いとなって口元を歪ませる。
 
ルフィは、早く上陸したくてウズウズしていた。



「「「「金髪美人コンテスト?」」」」
入港手続きを終え、甲板でこの島でのスケジュールを検討していた麦わらの一味に
航海士が思い掛けない イベントを持ちこんできた。

「優勝賞金見て、驚いたわよ.」

この島は、王制で何人かの 親王がいる。
そのうちの一人のお妃選びにもなっているらしいが、優勝すれば
その支度金として、多額の賞金が与えられるという.

「いくらだと思う?」
興奮気味のナミにサンジが首を傾げて尋ねる.

「金髪って、ナミさんもロビンちゃんも 髪の毛染めるんですか?」
「そりゃ、優勝間違いないですけど・・・」

サンジが言いたいのは、そんなボンボンの鼻の下を伸ばすために
ナミを晒し者にしたくない、ということだった。

「・・・ね、サンジ君♪」
ナミがサンジに息が掛るほど 顔を寄せ、その唇に人差し指を当てる.

「人の話しは最後まで聞くものよ。」

甘く囁くように言われて、サンジの目が蕩けたガラス玉のようになる。
「はい、ナミさん♪」

「なんと、3億ベリーよ!!」
ナミは、二人にかけられた賞金額のことを言っているのである.

そういうと、また サンジに向き直った.
「サンジ君、あたしの事好き?」
首を傾げてにっこり微笑む.

「ちょっと待て.」
ゾロが口を挟んだ.

ナミがサンジにこの顔を見せたということは、なにか 下心があるに決まっているのだ.

「うるせえ、黙って聞いてろ、クソ剣士.」
さっき、自分が注意された癖に サンジがゾロの言葉を遮った.
眉を寄せ、凶悪そうな面構えだ.

「ねえ、サンジ君♪」ナミはもう一度 サンジを甘えるように呼んだ.

「はい、勿論、世界中の誰よりも、ナミさんが一番好きです。」
語尾には全て、ハートマークがつく。

「じゃあ、」
「あたしの」
「言うこと」
「なんでも」
「聞いてくれる?」

言葉を短く、可愛らしく 区切りながら話す 悪魔の企みにサンジが引き摺り込まれるのを
ゾロは黙ってみているしかなかった.

トップページ   次のページ