「悪魔の実を食ってるんだ、泳げねえよ、今のサンジは!!」

ナミでさえ、予想できなかったのか、何時の間にか雲はどんよりと曇り、
嵐が来そうな天候になっている。

船の下の海は大きくうねり、落ちた海賊達が 慌てて 自分達の船へと泳いで戻っていく.

中には、「ノジコ」を探しているのか、何度も浮き沈みを繰り返している者もいる。

ゾロは「命綱」もつけずに、荒れ始めた海に、飛び込んだ。


(・・・力が入らねえ・・)

まるで 体が石でできているようにサンジは沈んでいく。

体を動かそうにも、指一本動かせないのだ.
(・・・悪魔の実の能力か・・・。)

落ちる時に誰かの武器が サンジの体に触れたのか、
沈みながら 肩先から血が水面に向かって流れていくのを
サンジはぼんやりと見ていた.

息が苦しい.

止めていた息を全て吐き出してしまった.

男の体なら、もう少し空気を肺に溜めておくことが出来たかもしれないが、
体に残った空気を吐き出して、サンジは限界を感じた.

(・・・・ゾロ・・・・。)

意識が途切れる前、頭に浮かんだ言葉と映像は 恋人の名前と姿だった。

ゾロは、真っ直ぐに潜った。

悪魔の実の能力者の体は、真っ直ぐに沈むからだ。

海中に引き摺られるようなスピードで沈むサンジをすぐに見つけ、
その体を抱いてゾロは水面に浮上する。

流されていないつもりだったが、ゴーイングメリー号からは30メートル近く離れていた.

襲ってきた海賊達は、すぐ側にまで来た嵐を恐れてすでに撤退を始めていた.

ここは一応港だが、喫水線の高さをサンジを抱いて登れるような梯子もない。

「クソッ」

とにかく、ゴーイングメリー号の側まで行けば、ルフィが引き摺り上げてくれるはずだ.と判断して、ゾロはサンジを脇に挟んだまま泳ぎ出した.

重い。

能力者というのは、水中では本当に重いのだ。

その時、大きな波がゾロの頭上に襲いかかってきた.
海中でもみくちゃにされながら、それでも ゾロはサンジを離さない。

溺れて死ぬなら 一人で死なせてなるものか、と必死で足掻いた。

無我夢中だった。

遮二無二泳いで、気がつけば港から少し離れた砂浜まで
どうにか泳ぎきった.


呼吸をしていないサンジの口に息を吹き込む。

「サンジ。」何度か呼びかけてみる。

水を吐き出したが、意識は戻ってこない。
肩先の傷の深さも気にかかる。


ゾロは、全身ずぶぬれのせいで、雨が降っていることに気がつかなかった.

意識を失い、砂浜に横たわるサンジの姿にゾロは息を飲む.
その美しさ、儚さは 世の中のどんな男が見ても目を奪われるだろうと思う.

(・・・・体なんて、所詮入れ物だと思ってるが・・・)

男だろうと、女の姿だろうと、サンジがサンジである事には変わりない.
だから、どちらの姿でも 欲しくなるのは仕方のないことだ、とゾロは思った。


ゾロは、近くの漁師が使う小屋にサンジを運び込んだ。

男の姿なら、躊躇なく服を脱がせられたが、見慣れない体を
見た時、自分がどうなるかわからないのが怖くて ゾロは濡れた服を着たまま サンジを抱きしめた。


「ん・・・・・。」

甘い 喘ぎ声のようにも聞こえるうめきを上げて サンジが目を開いた.

「・・・大丈夫か.」
腕の中のたおやかな体に ゾロは猛烈に庇護欲を感じさせられた。

「・・・ゾロ.」
まるで 確認するだけのように サンジは名前を口にした.

「俺、何時になったら元に戻れるんだ?」


溺れるところを助けてくれて 感謝するというような言葉は
サンジの口からは出ない.

ゾロに抱かれても 抗えない力の差を嫌が応でも悟って サンジは
悲しくなった。

「・・・もう、3日もこのままだ。」

ゾロは、穏やかにサンジの気持を撫でつけるように穏やかに話す.
「個人差があるって言ってたじゃねえか.」

「このままでもかまわねえけどな。」
ゾロは、思ったままを口にした.
女でいてくれていい、という意味では勿論ない。

どちらでもいい、と言う意味だ.

「なんだと。」
当然、そんな曖昧なことを言って サンジが誤解しないはずがない.

「俺が女の方がいいのか、てめえは.」
サンジは、ゾロの腕を振り解いた.

「そういう意味じゃねえ.」
お前がお前なら、どっちでもいいだろう、と素直に言えば言いのだが、
それが言えるくらいなら 最初からそう言っている。

それに、今 それを口にしたところで いいわけにしか聞こえない。

「じゃあ、どういう意味か言ってみろ.」
本当に綺麗な声だ、とゾロは思わず聞き惚れる。

それだけでなく、怒っている顔にも 見惚れていた。
殆ど変わらないのだが、その柔らかな唇が動いて吐き出される暴言も
可愛く聞こえてならない。


「人の話聞いてねえのか、黙ってねえでなんか言えよ!!。」
ただ、柔らかく微笑むばかりで言い返してこないゾロにサンジは本気で腹がたって来た.

「この、馬鹿剣士!!」

唐突に立ち上がり、背中を向けたと思ったらその場で一回転し、ゾロの首筋狙って
後ろ回しげりを打ち込んできた.

ゾロはそれを腕一本で受け止める.

そのまま、もう一本の腕で細い腰を掴んで引寄せた。
「クッ」

膝の上に強制的に座らされ、サンジの顔が悔しそうに歪む.

「女の形のままじゃ、俺にいくら蹴りをぶちこんできても痛くも痒くもねえよ。」
ゾロは、その顔を見て 変な意地や照れなどで本心を隠すと、
サンジを不安になることを悟った。


「俺は、女のままでいいなんて思ってねえから安心しろ.」
直視できないほど、女性化したサンジは美しかった。

だが、そう思うこと自体、サンジの外見だけで群がった男達と
自分は同類だと認めるような物だ、とゾロは思った。


「ただ、女の姿でいる間は、守らせろ。」

「断わる。」ゾロの言い分も聞かず、サンジは一方的にそれを否定した。

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