そんな女が、この田舎島のコンテストに出たのだから、結果は明白だった。
「肩書き」は、ナミの姉、「ノジコ」になっている。
この島の三男坊である親王の后候補になった「ノジコ」ことサンジだが、
その美しさは 意外な波紋をもたらした.
三男坊の兄二人が 「ノジコ」に一目惚れしたのだ。
それだけではない。
美人の癖に無愛想な「ノジコ」は、たまたま そのコンテストを見物していた
この島と同盟を結んでいる 同じような国の大臣にも惚れられた。
麦わらの一味の元へ、翌日には山のような貢物が届けられた。
「メスメスの実」をまるまる 1個食べたせいか
サンジは 翌日もその姿は元には戻らない。
真っ赤な薔薇の花、宝石、ドレス、ナミが目を輝かせる数々の宝物が
次々と届けられる。
「麦わらの船長!!」
彼らは、次々とルフィに懇願しにやって来る.
「ノジコさんを是非、私に.」
「必ず、幸せにします.」
誰が来ても、決して喋るな、とナミに強く言われているので、
ルフィは黙って 腕を組んでいるしか出来ない.
ゾロは、これ以上騒ぎが大きくならないうちに、この島を早く出たかったが、
ログが溜まるのに5日もかかると聞いて 気が気でなかった。
島中で、「ノジコ」が一体誰を選ぶのかが 一番の話題になっていた。
「冗談じゃねえ、一体、何時になったら元に戻るんだ!!!!」
3日目、サンジが 目を覚まして 股間に手をやった途端、とうとうキレた。
その日、島では大変なことが起こっていた.
「ノジコ」は、前の日 「この島の名物料理を是非、ご馳走したい.」という
誘い文句を断われず、長男の皇太子と食事をした.
「いい、サンジ君.」
出掛ける前に、ナミに色々 レクチャーを受ける.
女らしい仕草などを ナミはサンジに教えこむ.
「何かプレゼントをって言われたら、ダイヤモンドが好きって言うのよ.」
ナミがそれで喜ぶならサンジに 否やはない.
夕方、大仰な迎えが来て、ナミの見立てでコンテストの時以上に美しく
装った 「ノジコ」は、皇太子の待つ 王宮へと出掛けていった.
「ノジコ、君は 海のなかから生まれたビーナスだ.」
「僕は、君と出会うために生まれたんだ.」
「君のためなら、星屑だって集められるよ.」
どんなに甘い言葉を囁かれても、「ノジコ」は曖昧に笑うだけだ.
(よく、こんなこっぱずかしいこと 言えるもんだぜ.)と
腹の中で 口の悪い男が毒舌を吐いているなど、誰も想像すら出来ない。
だが、そのデートを「婚約の晩餐」だと言いふらしたメイドがいて、話しはややこしくなった.
隣の島の王女は、この皇太子の婚約者だ。
まずは、「王女を侮辱した」という名目で 今にも 宣戦布告しそうな宣言を出してきた.
その次に、次男の親王が自殺騒ぎを起した.
「ノジコと結婚できないなら 海に身を投げる」と言って、岸壁から
飛び降りようとしたのを、側近が必死になって止めるという騒ぎがあった.
さらに、この辺りを根城にしている最大の海賊が 「ノジコ」の美しさを
伝え聞いて 麦わらの一味に戦いを挑むべく、この島に近づいている、という
噂も飛びかっている。
「おまえ、ものすごい事になってるぞ.」
サンジは、そんなことなど露知らず、自分の股間のものがない腹いせに、
ゾロのものを乱暴に掴んだ。
「馬鹿、触るんじゃねえ」ゾロは、その白くて 艶やかな手を払いのける。
同じ部屋で体を寄せ合って寝ていても、いつものような行為が出来なくて
ゾロは 少し 苛ついていた.
それでも、その腕の中にはいつもより 柔らかいサンジを抱きしめている。
いつもとは比較にならないほど、欲情しているのに、それをぶつければ
サンジも困るだろう。
(どうも、理屈がおかしい。男同士より自然なはずなんだがなア.)
と思うものの、悪魔の実の力を借りている姿なのだから、
違和感を感じていて当然なのだ。
波が高いのか、船が随分揺れている。
その時、甲板で大勢の人の靴音がした.
ウソップとチョッパーがなにやら叫んでいる声も聞こえた。
「・・・なんだ?」
サンジが上を見上げて首を傾げた.
バタバタとその音が騒がしくなって来た.
「見てくる.お前、ここにいろ.」
ゾロはそう言って梯子を登ろうとした.
その肩をサンジの足が軽やかに蹴って、梯子にふわり、と猫のように掴まって登っていく.
「おい。」
「その姿で野郎相手に暴れるつもりか.」と声をかけたが
サンジは無視して 男部屋の扉を空け、飛び出して行った。
「ノジコだ!!」
ウソップとチョッパー、ルフィに向かっていた男達が一斉にサンジに襲いかかった。
「ノジコ」の姿が彼らの前から消える.
と、次の瞬間、空中で体を逸らせて 回転した「ノジコ」は、
自分を捕らえるべく襲いかかってきた男達の壁の後ろに降りたち、
甲板に手をつき 後ろから 竜巻を思わせる凄まじい旋回の蹴りを
撃ちこんだ.
何人かの男達が吹っ飛ぶ.
「へえ。」
女の姿だからといって、そのスピードは殆ど いつもと変わらない.
それにゾロは驚嘆の声を漏らした。
「早く、ノジコを捕まえろ、だが、決して 傷はつけるな!!」
船長らしい男が部下に命令を怒鳴り散らしている。
彼らは、海賊だった。
「姐さんになる人だ、皆、気をつけろ!!」
側近らしい男が叫んだ。
「誰が、姐さんだ、ふざけんな、クソ野郎どもが.」
美しい声音で吐かれる その乱暴なものの言い方が一層 海賊達の功名心を煽った。
サンジが再び 跳躍しようとした瞬間、男の一人がその足首を掴んだ。
何時もなら、その男の体ごと、蹴り上げられた。
だが、女の体では、その力が出せなかった。
一瞬、動きを拘束されたサンジは、あっという間に男達に拘束される.
ゾロとルフィがそこにかけよろうとした時、ゴーイングメリー号に
大きな波が襲いかかった。
横波をもろに受けて、船は大きく傾ぐ。
サンジを掴んだまま、数人の男達が波に浚われて行った。
(あいつは泳ぎが達者だから大丈夫のはず・・・・)とゾロが思った途端、
ルフィが血相を変えて大声でサンジの名を呼んだ。
「悪魔の実を食ってるんだ、泳げねえよ、今のサンジは!!」
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