「じゃあ、」
「あたしの」
「言うこと」
「なんでも」
「聞いてくれる?」
ナミが 言葉を短く、可愛らしく 区切りながら 悪魔の企みに
サンジを引き摺りこむのをゾロは黙ってみているしかなかった.
「これ、食べてみて.」
ナミがおもむろに取り出したのは、見たこともない木の実だった。
サンジの顔が引きつる.
「・・・これは?」
「メスメスの実よ。」ナミが毒気など 微塵も感じさせない笑顔でにっこりと微笑む.
「そんなもん、食わせてどうするってんだ!!」
ゾロが唐突にいきり立つ。
「なあ、それ食ったら サンジ、女になるのか.」
ルフィがナミに尋ねる.
「個体差に寄るそうだけど、元には戻るから大丈夫よ.」
ナミがルフィの疑問に淡々と答える.
「ね、そうよね、チョッパー.」
「お前が手にいれてきたのか、チョッパー!!」
サンジの複雑な心中など、この際 ゾロにはどうでもよかった.
今度は チョッパーに向かって凄む.
サンジを玩具のように扱うのが許せないのだ.
チョッパーが竦みあがって、ルフィの背中に隠れた.
「・・・だって、安かったから買っとけってナミが・・・。」
「サンジ、食え!!」
全く、躊躇いも澱みもない、船長命令が下された.
こうなると、ゾロも引き下がるしかない.
ナミもロビンも興味シンシン、といった表情で、サンジを見ている。
こうなると、サンジも口にしなくては 収拾がつかなくなった。
「喜んで頂きます!!!!」
ヤケクソ以外のなに物でもなかった.
サンジは、その「メスメスの実」をがつがつと貪り食った。
洋梨にそっくりな味で、なかなか美味な「悪魔の実」だった。
「コンテストは、今夜よ.」
「悪魔の実」は、体の作りを短時間で大きく変える.
それには、それなりに体に負荷が掛るので、「メスメスの実」を食べた直後、
サンジはその場に昏倒し、意識を失った。
サンジほど体力のある人間でも意識を失うだから、体の弱い人間が
口にすれば 命を落とすこともあるかもしれない、いわば 「毒」と言える代物だ。
2時間ほどしただろうか.
男部屋のソファに寝かされていたサンジが目を覚ました.
まずは、股間に手を当てる.
(うげ)
当然、ない。
次に胸を覗きこむ.
掌にちょうど収まるような大きさのふくらみが確かにある。
(・・・髪が伸びてるな・・)肩先にかかる髪は、もともとの色を保っている.
「おい。」
寝転んだまま、ゴソゴソと自分の体を確認しているサンジにゾロは声をかけた.
意識が戻るまでは、怖くてサンジの姿を見ることが出来なくてずっと背中を向けていたのだ.
振り向いてい見ると.
一見、(なんだ、そうかわらねえか.)という容姿に安心した.
肌の色も、髪の色も、瞳の色も、同じだった。
だが、よく見るととんでもない.
寛げたシャツからは、柔らかそうな乳房が揺れているし、
肩のラインなど、抱きしめれば折れてしまいそうなほど華奢だ
顔の形もやや ふっくらとして まるで発酵しているパンの生地のようだ。
「何見てんだ.」
ゾロの体毛が総毛だった.
サンジの声ではない.
鈴を振るような、可憐な声だ.
こんな声の女を今まで ゾロは見たことがない.
「ぼさっとしてねえで、煙草だ、煙草!!」
口調はサンジのままなので、一見 ものすごいあばずれのような印象を
与えかねないはずだが、そんなことは全くない.
贔屓目かもしれないが、どこか 気品があるように見える.
(洒落になんねえぞ.)
ナミの睨んだとおり、これほど凄みのある美人はそういない。
美人は美人だが、足をおッ広げて座っているし、
目つきは悪いし、ゾロが渡したタバコを吹かしている姿は決して品のいいものではない.
それなのに、どこか 高貴の生まれだという匂いを漂わせるサンジにゾロは見惚れていた.
「見るんじゃねえよ。」不服げにそういう声にさえ、ゾロは何も言い返せなかった。
「サンジ君、目が醒め・・・・・・・。」
男部屋の扉を開いて顔を覗かせたナミが絶句した.
「・・・・凄い.予想以上だわ.」
「ナミさ〜ん。」
梯子を伝って降りてきたナミが完全に見劣りする.
抱きついても、さすがにナミは嫌がらない.
それをいい事にサンジは ナミに抱きついて離れない.
「わかった、わかった、離して、サンジ君.」
笑いながらそう言って体を離し、もう一度 サンジの顔を覗きこむ.
「信じられない。お化粧なんて、必要ないかもね.」
ナミは手に大きな袋を持っていた.
無造作に床に広げるが、それはとても高価な宝石類なのだ。
「服装は自由って事なんだけど・・・・。」
ナミは、突っ立っているサンジを見上げた.
美人で品が良さそうには見えても、その仕草がどうにも 男っぽい。
「サンジ君、あのね、こんな風に歩いてくれる?」
ナミが、何時かアラバスタで戦った トゲトゲの実の能力者の真似をする.
「こうですか。」
いつものサンジがそんな風に歩いたら、ゾロは腹を抱えて大笑いすることだろう.
だが、なんとも 色っぽく、腰の辺りから「触ってくれ」と言わんばかりの色気を
放っている。
「で、こう。」
ナミが、自分の髪の毛を額から頭上へと指で梳きあげる。
「こうですか。」
サンジがその仕草を真似る.
やや、動く蒼い瞳と少しだけ開かれた口元、少しだけ上げられる顎のラインがナミよりも妖艶で、
ロビンよりは 初々しく、女性二人の目からみても、サンジは十分に美しい.
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