学会聴講 2004年
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大阪歴史博物館友の会主催講演会・近畿民俗学会例会
(2004年1月18日、於大阪歴史博物館4階講堂)
 

小池淳一「暦のフォークロア」

 今回の近畿民俗は、大阪歴史博物館友の会主催の講演会でかえるという形で、国立歴史民俗博物館の小池先生による講演。小池先生は大阪歴史博物館所の暦研究に参加されており、ちょうど「こよみ」の世界という特別展示が開かれている最中。それにあわせた講演会ということである。
 現代人は誰もが決められた暦、同じ時間の中で生きている。カレンダーはどれもたいした違いはない。月日と曜日、それと祝日がわかればそれで十分だ。そんな感覚からすると、昔の暦の多様さ驚きだ。そこには様々な時間があり、世界がある。田山歴や砂川(うるか)歴といった地方歴、さらには六曜などの歴注を取り上げて具体的にいろいろと説明をしてくださったが、そこには確かに現代人とは違う時間論・世界観があることが、感じられる。また、半夏生や三隣亡といった暦上の日付が、擬人化神格化されて話が広がって民間受容されていく過程も非常に面白いと思う。「ハゲン」じいさまといった話が、実は半夏生といった暦からきているとは、暦の知識がないとなかなか気が付かないだろう。また江戸時代の暦で半夏生を禿のおやじで表すといった遊び心も多様な暦の面白いところだと思う。
 さらに非常に興味深く思ったのは、暦を本来の使い方ではなく、不思議な使い方をしている例。織田有楽斎の暦張りの茶室やカマイタチの傷に古暦の灰をぬるといった民間伝承など。茶室に関しては、ワビ・サビといった風流をあらわしているとのこと。茶室という小さな空間に張り巡らされた暦はその空間を別の時間へと仕立て上げる呪いなのかも知れない。あるいはカマイタチの話も暦の持つ呪力の話。それが何故カマイタチに結び付くのかはよくわからないが、時間を切り分ける行為である暦に、何かしらの力が認められたのは確かであろう。暦の持つ力というテーマは非常に面白いものだと思う。とにかく、とにかく暦に関しては知らないことが非常に多いので、非常に楽しく、そしてためになる講演だった。る。

近畿民俗学会例会(2004年3月21日、於大阪歴史博物館2階第2会議室)
 

今井敬潤「建築塗料としての柿渋」

 発表者の今井敬潤は昨年法政大学出版会のものと人間の文化シリーズから『柿渋』を出版したところで、柿渋はライフワークであるらしい。特に今回はその中から建築塗料としての柿渋に就いての発表。柿渋というと衣料を染めるものとしてイメージしてしまうので、建築素材ということで非常に興味深く聞く。基本的に防腐効果があるので、確かに建築素材に使われていたというのはよくわかる。しかし現実にどれくらい残っているかというとやはりそんなには残っていないようで、限られた範囲での事例が残っているだけであるそうだ。富山県などに多く残っており、その偏り方が、非常に気になるところ。江戸期の文献資料にも墨渋屋として登場し、幅広く使われていたようであるだけに、衰退していく過程を追いかけていくのは面白いと思う。基本的には明治期にペンキに取って代わられてなくなっていった、すなわち江戸期の墨渋屋はペンキ屋になっていったと考えれるらしいが、その残り方とともに何か面白いものが見えてくるような気もする。

 
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