私の温泉・私の宿
(1)源泉100%&掛け流し

私ごときほんの駆け出し程度の温泉好きでも、もっとも重要視する条件だ。全国の温泉旅館・ホテル、22,000軒の7割が循環湯(最近の温泉偽装では井戸水・水道水を使っていた)、さらに最近人気の日帰り温泉施設にいたってはほとんど循環という現状では、掛け流しはますます貴重なものになってきている。
私の場合、安易な温泉の効能については信用していない(アンダーライン部分をクリックするとその解説ページにジャンプ)ので、「源泉100%の温泉だから効能が違う」とか、「100%の硫酸塩泉だから動脈硬化症に効く」といった効能の点で、掛け流しを評価しているわけではない。
理由は感性的なものだ。自然・大地の恵みを享受できる、これが最大の理由だ。山河の美しい景観、緑の原生林、澄み切った渓流、新鮮な空気は、国土の75%が山地の日本なので、だれでもこれらを手軽に感受できる。しかし、天然温泉という天恵は、「温泉に浸かる」という意志をもって、かつ、時間と金をかけて温泉地を訪れないと受け取れない。
遠方からはるばる出かけ、原生林に囲まれた温泉宿で俗界の憂さをすべて忘れ、地中奥深くから自然に湧き出る源泉100%の流しっ放しの湯に身を委ねる、これほどの贅沢が他にあるだろうか。
温泉を語るとき、温泉そのもの(湯量・泉質・効能・色・肌触り・循環/掛け流し)・温泉地(大小・周囲の環境・雰囲気・歴史)・旅館・ホテル(大小・設備・値段・立地・食事・サービス)は三位一体であり、本来、これを切り離すことはできません。しかし、温泉愛好者の年令拡大、温泉偽装問題、旅館・ホテルの立ち寄り湯増加、また日帰り温泉(施設)が増加してきたこと等を勘案すると、これらを分けて語る方が好都合かもしれません。

私も旅館に泊まって、掛け流しの温泉にゆったりと浸かる方がもちろん嬉しいですが、日帰り施設や循環湯の存在を一概には否定しません。「身近にある」「気楽に入れる」「入浴料が安い」」といったメリットがあります。また、費用の関係でそう度々、宿に泊まれませんし、足腰が悪い高齢者にとって、日帰り施設は健康維持と憩いの場でもあるからです。しかし、レジオネラ菌の発生など健康・生命にかかわるような温泉施設は願い下げです。

「私の温泉」と「私の宿」は次の5つの条件を満たせば完璧です。しかし、日帰り温泉施設や旅館の立ち寄り湯での入浴ならば、全部の条件を満たす必要はなく、入浴料金に見合った小さな喜びが感じられれば、それだけで満足します。まして、掛け流しの温泉に当たったときは宝くじに当たったような気持ちになります。
(2)雰囲気がある内湯

「源泉掛け流し」のそこそこ広く、雰囲気がある内湯があることが2番目の条件だ。
露天風呂は岩(石)風呂でも結構だが、内湯はやはり木の風呂が好ましい。高価な古代桧でなくて、杉でも松でもよい。
日帰り施設や最近改造した旅館には、ジャグジー・ジェットバス・打たせ湯・寝湯・サウナなど、様々な機能風呂がついている。しかし温泉旅館の風呂には不要だ。ここでは、ゆったりと湯に浸かり、五臓六腑に良質な温泉がしみ渡ることを体感しながら,「アア、いい湯だ」とつぶやきたいものだ。

露天風呂はあるに越したことはない。
温泉を回りはじめた頃、露天風呂があるかどうかを確認してから出かけた。開放的、涼風に当たりながらの露天風呂入浴は、なんとも快かった。しかし、入浴の回数が増えるにしたがって、内湯と露天風呂を落着かなく往復するより、内湯でゆったりと湯を楽しむことを覚えた。

掛け流しだが露天風呂がない旅館に宿泊した際、
「お客様の要望は強いのですが、露天風呂を造ると湯量が不足するので、循環したり水を加えないといけません。それはしたくありませんので(露天風呂は)造りません」というご主人の話を聞いて、温泉を愛する湯守の心意気に感服した。旅行業者も客のニーズに答えて、露天風呂のある旅館・ホテルを優先的に選定するので、どこの旅館も湯量をオーバーする露天を造っている。それが新たな掘削や循環装置の導入を促がしてしまう。この話を聞いてから、自分も日本の温泉文化継承の一助となろう(大仰だが)、昔からの自噴源泉を守ろうと、露天風呂を新設しない温泉宿を応援するようになった。


(4)温泉地の自然環境・温泉情緒・共同浴場

温泉は海より山がより似合う。
朝日が上り夕日が沈む海もいいが、朝霧・夕霧がたちこめ、日の出が遅く日没が早い山間の温泉も良い。海は開放的で人工的な遊戯施設や観光施設が多い。山間には温泉しかないことが多いから、温泉に集中できる。さらに条件を厳しくすれば、最寄のJR駅から少なくとも10km以上離れ、夏でも夕暮れとなれば涼風がそよぐ、標高500m以上の山懐深くにある温泉が良い。
海の温泉旅館では、カニ・イセエビ・アワビ・タイ等、新鮮な魚介類の豪華な料理が並ぶ。山間部の旅館は、鴨などの鍋、●●産の和牛肉、鮎、アナゴ、ヤマメ、鯉の洗い、それに季節の山菜が中心だ。見劣りする。しかし、30才まで関東で育ち、学び、仕事をしてきた自分には、後半の30年を過ごした関西(人)と合わせて、関東人の温泉DNA(アンダーライン部分をクリックすると解説ページにジャンプ)が内在しているようだ。料理にはあまりこだわりがない。この記事には、一般的な温泉選びの重要なファクターである料理の項目がないのはそのせいだ。湯治場・野趣・鄙をキーワードとする山間の秘湯の雰囲気が捨てがたい。

一方、旅館・ホテルが30軒〜100軒もある大温泉地の場合は、「温泉情緒」、価格帯が広い大小の旅館が混在していること、外湯・共同浴場が多数あることが必須条件だ。共同浴場はその温泉地の発祥の地・元湯であることが多く、新鮮な湯に低料金で気軽に入浴できるのが嬉しい。18ヵ所の無料共同浴場、低料金で入れる6ヶ所の立ち寄り湯を持つ草津温泉が好例だ。
(3)小さな温泉旅館の佇まい・雰囲気

旅館に宿泊して、3回も4回も入浴するという贅沢はそう度々できることではない。それだけにいつもリストアップしてある各地の温泉旅館から数軒を選択し、他に立ち寄る温泉を含めてスケジュールを立案する。
旅館に寄ってお風呂だけをいただく場合はともかく、宿泊する場合は、部屋数が30室前後、どうしても入りたい温泉(浴室・湯)がある、宿泊料金が安い旅館に決めている。

部屋数の多い大型旅館は敬遠する。100室、300室となったら最悪だ。収容人員が大きくなればなるほど循環湯の可能性が高く、たとえ大きな内湯、露天風呂があっても、宿泊者数で割ったら一人当たりの浴場、浴槽の面積は小さくなる。加えて豪華・大型の旅館・ホテルは宿泊料金が相対的に高い。
一泊の料金は8,000円〜15,000円(一人税別サービス込み)の範囲、これを超える場合は立ち寄り湯で入浴することに決めている。
幸い、定年になってからは、閑散期、週で一番空いている水曜日前後を選択できるようになったので、安く泊まれることが多いのはありがたい。
簡素・素朴・歴史を感じさせる佇まい、外装・内装に木材がふんだんに使われて、ロビーや廊下の床が、永年磨きこんで黒光りしているような、懐かしさを感じさせる旅館が好ましい。
(5)秘湯

秘湯と呼ばれるところは長野県から東に圧倒的に多い。
これは、山間部の面積が広いこと、温泉地が多いこと、湯量が豊富なこと、東の温泉文化(湯治・野趣好み・料理は二の次)などに拠る所が大きい。

私の秘湯の条件は世間より厳しい。
@最寄のJR駅から概して20km以上離れていること(したがって内陸部の山間になる)
A1温泉1旅館、せいぜい5軒程度までであること
B源泉100%掛け流しであること
C部屋数が30室以下であること
D宿泊料金が1万円前後、最高15,000円までであること
E国道に面していないこと(狭隘な渓谷・断崖沿いの道を走ることが重要)

こうなると「日本秘湯を守る会」加盟の旅館でもかなり脱落するが、このくらい条件を厳しくすれば、ホンモノの秘湯にたどり着く可能性が高くなる。
荒湯・湯村温泉(兵庫県)