温泉の効能
1.効能に関する疑問・・・温泉データに「効能」「適応症」を記載しなかった理由

私は温泉施設のデータに泉質は記入しましたが、
効能・適応症は意識して省略しました。
その理由は次の通りです。

(1)源泉を100%使用し、それを流しっ放しにする「掛け流し」は、全温泉施設の30%程度に過ぎないと言われている。 
一度使用した温泉を何日、何週間も使い回す循環湯、殺菌のための大量の塩素等が用いられている温泉が圧倒的
に多い。
医学的な泉質ごとの効能は、湧出してきたばかりの温泉に入浴(飲用を含む)することをベースにしている。

(2)温泉の分析が源泉場所で採取した温泉によって行われており、私たちが実際に入浴する浴槽の温泉を採取して分析
しているわけではない。(温泉採取後、循環しても、水を加えても泉質表示の変更はない)

(3)数多くの温泉施設で、湧出した地下水を分析し温泉として認可された時点から、20年、30年も経過した分析表が掲示さ
れているのをよく見かけた。温泉法の施行規則・細則でどうなっているのか承知していないが、許可後、生き物の温泉の分
析が定期的に行われ、分析結果を更新しているわけではない。

(4)温泉旅行で1泊、2〜3回の入浴で、精神的なリフレッシュはともかく、病気が治癒したり改善されるわけではない。

(5)私は、製薬会社に40年近く勤務した。一つの化学物質を研究・開発し、治験を行い、有効性(効能)、安全性を科学的に
厳しく審査され、薬として認可を得るまでに10年、300億円以上の時間と経費がかかる。
つまり、例えば神経痛に効く薬を病院向けに販売するまでに、それだけの時間と経費を要するわけである。健康食品等でも
安易に効能を謳うと薬事法違反になる。
一方、温泉に関しては、(1)〜(4)の現状でも、効能・適応症として、「神経痛」「リュウマチ」「動脈硬化症」等と安易に謳わ
れ、行政もそれに対して取締りをしてるわけではない。(一般紙、雑誌、温泉ガイドブック・パンフレット等のほとんどに効能が
記入もされている)

以上の理由に加えて、医学・薬学・化学ばかりでなく、温泉(施設)の現状にも疎い私が、「効能」「適応症」といった医学・薬
学そのものに触れる自信が無いので省略した次第です。


2.温泉の作用

1.で温泉の効能を記載しなかった理由を書きましたが、温泉の作用・効能そのものを否定しているわけではありません。
温泉に関する医学的な研究が体系的・多面的に行われ、「温泉病院」が各地にあります。
肉体的疲労回復、ストレス解消、関節・筋肉の痛み等の解消・緩和は、私自身経験しているところです。

温泉の体への作用について、「健康と温泉FORUM実行委員会」の「温泉と医療」から纏めてみました。

(1)温熱作用

 *低い温度の湯(38℃程度、温泉でなくてもよい)は、体に鎮静、鎮痛的に作用するので、神経系・循環器系等の興奮
  を抑制する。
 *高い温度の湯(42℃以上)は体に興奮的に作用して、神経系・循環器系を刺激する。

(2)物理的作用
 @水圧作用
  首まで浸かる「全身浴」は、心臓・肺に水圧がかかって心臓への負担を増加させる。
  「半身浴」では、心肺負荷が無くなって、下肢表面の静脈を圧迫して心臓への血液還流を促す。
  何れの場合も、体への負荷・作用は異なるが、尿生成を促す。
 A浮力・粘性
  浮力により体重は約1/9となり、温泉の中ではゆっくりした運動が容易に出来る。
  一方、急激な運動は温泉の粘性によって大きな力を必要とする。
  脳梗塞や関節リウマチ等の運動障害のある人達の治療に、この浮力を利用した機能回復訓練が行われている。

(3)化学・薬理作用
 温泉には、種々の化学物質が溶けていて、これらの成分がそれぞれ特有の薬理的効果を体にもたらす。
 硫黄泉・二酸化炭素泉といった温泉は、血管を拡張させて全身の血行をよくする。また、塩化物泉(食塩泉)保温効果が
 あり、皮膚表面を被覆して発汗・体温放散を抑える。

(4)被特異的変調作用
 温泉に入り、温泉地に滞在することによって、体内リズムが修復、正常化され、体調が整えられてくる。この作用は泉質
 とは関係なく、温泉地に一定期間(3〜4週間)生活することによって得られる。


3.温泉の効能と禁忌

それでは、温泉にはどんな効能があるのか、また温泉に入らない方が良い場合はどんな場合か、日本温泉協会のHP
から引用します。(一部加筆・削除)


(1)温泉療法

わが国では、「湯治」というかたちで、温泉が病気やケガを治すために利用されてきました。温泉そのものや温泉地が身体に及ぼす
効果については、前回まとめた通りですが、どんな症状にも温泉が効くということはありません。また、温泉でなければならないという
こともありません。

温泉を利用して病気やケガの症状などを治していくことは「湯治」と呼ばれてきましたが、医学的な見地では「温泉療養」と呼んで
います。
温泉療養には、実施してもよい病気や症状と、実施してはいけない病気や症状があります。

したがって、自分の病気や症状が温泉療養に適しているかどうか、また、適しているのであればどのような方法で入浴や飲泉をすれ
ばよいのかなどをあらかじめ認識しておく必要があります。

温泉療養をおこなってよい病気や症状のことを「適応症」といいます。これは、主に慢性の病気や症状が該当します。


一方、温泉療養をしてはいけない病気や症状のことを「禁忌症」といいます。これは、急性炎症性疾患や急性感染症などが
対象になっており、たとえば、へんとう腺炎、肺炎、流感、赤痢、チフスなどが該当します。抗生物質を使用する病気や症状は殆ど
温泉療養に適さないと考えられます。このほかに、癌や肉腫、重症の糖尿病、白血病、妊娠初期と末期なども禁忌症に当たります。

このように、温泉療養をしてはいけない病気や症状も少なくありません。いずれにしても、温泉療養を行う際は自己診断だけではなく、
医師の指導を受けることが望ましいと思われます。特に、温泉の知識を持った「温泉療法医」に相談されることをお勧めいたします。

(2)温泉療法の注意事項

以下温泉療法について、浴用と飲用に分けて一般的な注意事項を簡単にまとめます。
(これはいわゆる湯治の場合の注意事項ですが、温泉旅行で2回〜3回程度入浴する際にも参考になります。管理者注)

*浴用上の注意事項
@温泉療養を始める場合は、最初の数日は入浴回数を1日あたり1回位とするのがよいでしょう。その後は1日2〜3回までとします。
A温泉療養のための必要期間は、おおむね2〜3週間が適当です。
B温泉療養開始後3〜7日前後に、「湯あたり」、「湯さわり」などの浴用反応が現れることがあります。
 この間は、入浴回数を減らすか中止し、湯あたり症状の回復を待ってから入浴を再開して下さい。
C強酸性泉や硫化水素泉では、入浴後皮膚に「湯ただれ」ができやすいので、皮膚の敏感な人は注意が必要です。
D入浴の方法
・入浴時間は泉温によって異なりますが、初め3〜10分程度で、なれるに従って延長していきます。
・運動浴を除き、入浴中は安静を守ることが大切です。
・入浴後、身体についた温泉の有効成分を洗い流さないようにし、皮膚から吸収されるように自然乾燥させることが望ましいのです。
(ただし、循環式浴槽の温泉の場合は上がり湯をかけて流して下さい)
・入浴後は湯冷めに注意して、必ず一定時間の安静を保ってください。
・高血圧や動脈硬化症、心臓病については、原則として高温浴(42℃以上)は避けてください。
・熱い温泉に急に入ると脳貧血を起こす場合があります。入浴前に頭部や身体にかぶり湯やかけ湯をしてから浴槽に入ってください。
・食事の直前直後の入浴は避けましょう。また、飲酒しての入浴は特に危険です。

*飲用上の注意事項
@飲用の許可のあることを必ず確認し、できる限り温泉療法医の指導を受けましょう。
A飲用には温泉湧出口の新鮮なものを用い、1回量は一般にコップで一杯程度。1日の量はおおむね200〜1,000ミリgまで
とします。ただし、酸性泉やナトリウム塩化物泉などは、泉質濃度によって減量や希釈します。
B一般に飲泉は食前30分〜1時間前または空腹時がよく、夕食後から就寝前はなるべく避けましょう。
C鉄泉、放射能泉、ヒ素、沃素、臭素を含有する温泉は、必ず飲用の許可を確認すること。また、これらの飲用直後には、お茶、
コーヒーは飲まないようにしましょう。


(3)温泉の効能

(源泉100%、源泉湧出(汲み上げ)後の時間的経過が少ない湯に入浴するという前提で、)温泉には次のような効能が
あります。

(a)温泉の一般的効能

泉質に関係なく、次のようなものがある。
@温熱作用によるによる保温効果
A)疲労回復(血流の促進により酸素・栄養物質を組織に送り込み、組織にたまった炭酸ガスや代謝産物
・疲労物質を速やかに排出する)
Bストレス等からゆがめられた人の体内リズムを整えてくれる変調作用で、これによって健康を取り戻し、病気から守ってく
れる作用。これはわが国の温泉でもっとも期待されている効果である。

具体的な適応症には次のようなものがあり、これは一定量の化学物質を含まない単純温泉の効能でもある。


神経痛、筋肉痛、関節痛、五十肩、運動麻痺、関節のこわばり、うちみ、くじき、慢性消化器病、痔疾、冷え性、病
後回復期、疲労回復、健康増進

(b)泉質別の適応症(○は浴用 ☆は飲用を示す)

  

 

泉    質

尿

  慢

 

便

単純温泉 一般的適応症に準ずる
塩化物泉                       

  

  

炭酸水素塩泉      

                       

硫酸塩泉                     

二酸化炭素泉

                               

含鉄泉                                            
含銅・鉄泉                                             
酸性泉                                             
硫黄泉 ○▲ ○▲ ○☆                             
放射能泉   

   ○☆    ○☆ ○☆   

     

     

     
▲は硫化水素型


(4)温泉と禁忌症


@温泉の一般的禁忌症


次の様な症状がある場合は、泉質に関係なく入浴を控えた方が良い。
急性疾患、(とくに熱のある場合)、活動性の結核、悪性腫瘍、重い心臓病、呼吸不全、腎不全、出血性の疾患、高度の貧血、その他一般に病勢進行中の疾患、妊娠中(とくに初期と末期)

A温泉の泉質別禁忌症
泉質 浴用 飲用
塩化物泉

炭酸水素塩泉

一般的禁忌症に準ずる 腎臓病、高血圧症、一般むくみがあるとき、甲状機能亢進症のときヨウ素を含有する温泉は禁忌
硫酸塩泉 一般的禁忌症に準ずる 下痢のとき
二酸化炭素泉 一般的禁忌症に準ずる 下痢のとき
硫黄泉

酸性泉

皮膚、粘膜の過敏な人、とくに光線過敏症の人(硫化水素型)

高齢者の皮膚乾燥症

下痢のとき