夢咲塾イベント 2003年6月
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第1回夢咲まちづくりセミナー&座談会(ゲスト、河瀬直美・兵頭祐香)
  河瀬直美監督による映画「沙羅双樹」を題材に町づくりを考えようという企画。「沙羅双樹」は奈良町を舞台にした映画で、その町並みやそこに生きる人々を描いたもの。ポスターには「この町に活きる喜び。この人と生きる歓び。」とあり、まさしくこの言葉がこの映画を上手く表していると思う。またポスターの奈良のバサラ踊りを踊るシーンは、自分が輝ける瞬間がそこにあることを示しめしているのだろう。「そこ」とはこの映画では奈良町であり、バサラ踊りである。奈良町という町の魅力がある。この町に生きる喜びがある。しかし、この町が奈良町であったのはたまたまではないかと思う。ポスターの言葉は決して「奈良町に活きる喜び」ではない、あくまでも「この町」である。おそらく「この町」はまさしく「ここ」、自分の今いるこの場所を示しているのだろう。具体的な町は常に見る人の中にある。僕自身、生まれてからずっとこの町に住んでいる。しかし、どれだけこの町で生きて来ただろうか。おそらく、現代社会はこの町のみで生きることは難しくなっている。移動すること、移動しつづけることにはある種の快感がある。そのスピード感覚の中で活きることがなんて心地よく生きやすいことか。あるいは情報量の多さ。都会に行けば、刺激がある。一つの場所にいつづけること以上に、移動することは刺激を与える。そんな現代社会での生活。そのこと自体は否定するべきでないだろう。しかし、この町に生きる喜びがあることを忘れそうになってしまう。それが問題だ。この町に魅力がないのではない。奈良町のような町並みだけが魅力を作り出しているわけではないから。ポスターには「この人と生きる歓び」とも添えられている。

 当日は「沙羅双樹」を公開してる高田シネマで河瀬監督と主演女優・伊東有役の兵藤祐香さんの舞台挨拶があり、上映後、場所を近くのお寺に移し、河瀬監督を交えて座談会という流れ。ポイントは、町づくりの企画であるので、トークショーではなくて、座談会であるということ。すなわち、河瀬監督に映画について語ってもらうのではなく、「沙羅双樹」を通して町づくり意見を交換するということ。芸術作品「沙羅双樹」としてのトークショーなら他の場所でも行われてる。ここは映画館ではなく、町のお寺。「実践の知」としての座談会である。しかし、問題はそれにしてはあまりにも時間が短過ぎるということ。多忙な河瀬監督たちはほんの4、50分会場にいた程度。会場は河瀬監督一目見たさの人も含め100人近く集まり、イベント自体は成功と言えるのだろうが、座談会としては少し物足りなさが残る。それでも、河瀬監督、兵藤祐香さんの語る言葉からは、奈良町を愛する思いがあることがよくわかる。奇しくも、会場から出た「郷土愛」という言葉に対して、河瀬監督は「郷土愛という言葉では、今の若い子たちには伝わらない。おそらく家族愛が最初だろう。」と答え、大上段に構えてしまうことに対して注意を促すという意味でも非常に共感を覚える。「郷土愛」という言葉は仰々しすぎる。河瀬監督自身、何故奈良町なのか?という質問に対して、そこが奈良町だったからという程度の答えしか持ちえていないように、おそらくもっと素朴な愛情だ。いいなと思えること、おそらくその程度のことだ。
 会場での座談会以外にも河瀬監督たちが高田の町をほんの少しだけれど、歩いてくれたことが少し嬉しい。河瀬監督によると所々シャッターの閉まった店のある高田の商店街は、生まれ育った奈良の商店街と近い感覚があるとのこと。また、自転車で走ればいい町だろうという発言を商店街を歩きながらしていたと後で聞き、非常に嬉しく思った。小さい頃、僕はこの町を自転車で走り回った。あの感覚だ。そのスピードがおそらく町にあっているのだろう。この町は小さな町だ。僕が自転車にこだわる理由はこの町にあるのかも知れない。「沙羅双樹」でも自転車で奈良町を走りゆくシーンがあったことを思い出す。(2003.06.28)
 
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