A邸 耐震改修工事

診断結果についての解説

本建物についての上部構造評点は 1階のY方向(南北方向)が最低で0.42となり、震度6以上の大地震で倒壊の危険性が高いと判定された。震度5クラスの中地震でも建物に損傷が生じる可能性は高いといえる。

細部についての説明を以下に示す。

1. 立地条件については、本建物ががけ地に建つ建物であるため、斜面崩壊等の危険性がある。現状では特に問題は見られないが、擁壁を構成しているブロックの劣化や、地下水位の変動等により問題が生じる可能性がある。西面の擁壁の状態については常に注意をはらうようにし、異常が見受けられた場合は直ちに構造技術の専門家のチェックを受けることが望ましい。

2. 地盤に関しては、造成地で盛土であるため、診断法においてはかなり厳しく判定され、軟弱地盤に区分される。また、軟弱地盤であるため地震力が1.5倍に割り増されている。実際、建物を不同沈下が生じていることを考えるとこの判定は妥当であると考えられます。

3. 基礎に関しては、建物西面において不等沈下が生じ、基礎梁が折損しているため床の不陸による生活上の不具合だけでなく、1階の耐力壁廻り柱脚部分の接合部耐力が低下するために、耐震性能も低下している。

4. 上部構造に関しては、耐力壁の量自体は必要最低限存在しているが、柱頭・柱脚金物が存在しないことと、基礎の損傷による低減により、実際に保有する耐力が少なく評価されている。
 柱頭・柱脚金物が存在しない場合や、基礎の強度が不十分な場合、耐力壁の回転力による柱脚部の抜け出しによって、耐力壁の保有する耐力よりも、耐力が低減される。(接合部の先行破壊により柱が浮き上がってしまう為)

5. 壁配置と床仕様については、建物全体としては比較的バランスが良く、計算上は保有耐力の低減はない。

但し、建物東面においては上下階で壁の配置にかなりずれがあり、この間の床面(屋根面)を伝わる水平力により、建物に部分的な損傷が生じる可能性がある。(壁の配置等を参照)

実際、この変形が原因と思われる外壁面の亀裂が生じており、何らかの補強が望ましいと考えられる。

以上より、本建物における耐震上の弱点は、
(1)・・・基礎の損傷による強度低下、
(2)・・・(1)および柱頭・柱脚金物が存在しないことによる耐力要素の耐力の低下、
(3)・・・上下階の耐力要素の位置のずれによる水平面の変形
にあると考えられる。

なお、1点注意しておくべき点として、本診断法においては直接の仕上面となる、外壁モルタル塗り仕上や、石膏ラスボード+塗仕上等も耐力として算入している点が挙げられる。

これは、本診断法が大地震時の安全性を評価の対象としていて、強度のあるものであれば多少の損傷は生じるとしても耐力としてカウントしているためである。

そのため、大きな地震動を受けた場合、剛性の高いモルタル塗りや石膏ラスボード+塗仕上げが、他の仕上げに比べて早い段階でクラックや剥離等による損傷が生じると考えられる。



©Tahara Architect & Associates, 2005