平成18年2月6日(うっかりして削除してしまったページを復活しました。一昨年の地学の授業で書かせた作文「宇宙旅行」の優秀作を紹介したページです。)

 理科の授業時間数がたっぷりあるので,ちょっとカリキュラムをかえています。また,やはりこのことは教えておきたいという内容は取り入れています。ですから,以前の学習指導要領にあった内容も取り上げています。星と宇宙の授業が終わった平成16年2月28日,学んだことをベースにしながら,惑星の世界を想像させ,作文に書かせました。
 この日の課題は,次のような書き出しのプリントを配布し,惑星の世界を想像し,それを作文にまとめることで,優秀作は,私のホームページに載せることにしました。
惑星での生活から     2年  組  番 氏名
○ ある朝のことでした。あなたが目を覚ますとまわりの様子がいつもと違っています。そこは太陽系に属しているある惑星でした。幸い,完全な宇宙服を身につけているし,友達もいっしょだったので当分の生活には困りません。しかし,ここでは見るもの聞くもの全てが地球と違っていますし,とまどうこともいっぱいでした。そんな生活を先生あてに報告してください。いただいた先生への手紙,書いた人の名前はイニシャルにして2〜3点を,私のホームページ「やっぱり理科は面白い」に掲載の予定です。
提出は次の授業の時間のはじめ,「もう少し待ってください」は認めません。
 たくさんの作品が集まりました。「載せないでください。恥ずかしいから」〜「ぜひ載せてください」までの多数の作品です。次の長い長い作品は天文が大好きというY君の作品です。時々,びっくりするような質問をしてくれる熱心な生徒です。
 そして,Y君の作文を載せたのですが,うっかり,このページを削除してしまいました。そこで,メールで,彼にあやまり,「できれば,作文を復活して欲しい」と頼みました。
 彼から,この時の作文が送られてきました。以下は,彼の作文です。

 竹中先生,驚かないでください。私は,今,火星にいるのです。先生には太陽系の惑星のことを教えてもらいましたが,先生のお話は「多分こうだ」という想像でしょう。以下は,実際にやって来た私からの報告です。次の学年で「天体と宇宙」の授業をするのに役立ててください。

 もうここに居るのも3火星日位です。ここでの生活も結構慣れてきました。―――それでも,火星が太陽系の中では最も地球に似た環境の天体だとは,未だに信じられません。
 先ず,地面が赤いこと。まぁ,「火」星というくらいだから,当たり前のことですが,かなりの違和感がありますよ。地球のグランドキャニオン辺りの色と言ったところですか。これ,錆の色なんですね。釘とかにできる,酸化鉄の(もっと言えば,酸化第二鉄)。で、これが宙に浮いているせいで,昼間でも空が夕方の様に赤らんでるんですね。‥‥赤い大地と,赤い大空。違和感覚えずにはいられませんよ―――これは。何度も言いますけど。でも3火星日目の今日は,空は青白っぽかったです。空中の赤い塵(砂)が少なかったからですね。宇宙服にも赤い砂が沢山付いてるんです。
 砂と言えば,火星の大規模にわたる砂嵐「黄雲」がありますが,幸い,今の所は巻き込まれていません。‥‥でももし来たらどうしようか?
 それと,やっぱり体が軽いんです。確か重力が地球の3分の1位だから,僕の自重が45kgとして(本当は約43.5kg),ここでは15kgというところでしょう。ジャンプ力も3倍で,家屋の1階から2階まで一気に跳べるくらい。只,宇宙服があるので,動き難いです。ろくな訓練も積んだこと無いのに着てるから。
 太陽が,地球と同じ様に東から昇り西へ沈みます。ここらは,火星の赤道に近い北半球に位置するため,地球の日本より少し高い赤緯で南中します。1火星日はほぼ地球の1日と同じです。すぐ西にオリンポス山という物凄く高い山があるせいで,ここの日没は早くなってますが。その日没も,富士山に勝るとも劣らない風景でした。正に巨大な「赤富士」ですよ。何せ,高さ25kmもある「太陽系」最高峰ですからね。ギリシャ神話で,大神ゼウスの住まう山,というイメージによくフィットしてます。
 話を戻します。何と,1火星日目の日没時の「夕焼け」は青かったんです。青ですよ,「青」。赤じゃなくて。ブルーですよ。「夕焼け」が。さらに,雲もかかっていました。
 日が沈み,薄明が始まると,急激に気温が下がります。宇宙服の顔の部分がすぐに曇ります。そして‥‥!!いや,こんな空は初めてです。感動物です!光害などというものはある筈もないので,正に満天の星空でした。
 今,太陽は火星から見て蠍座の頭にあり,地球の12月頃にあたります。勿論,地球とは地軸の傾き方が違うので,天の北極も,地球の北極星ポラリスの近くにはなく,12月中に太陽が冬至の位置に来ることもありません。
 大気が薄いので星は瞬きません。つまりシンチレーションは最高です。大気中に塵が浮遊していたので,透明度を含めた全体的なシーイングの方はわかりませんが。この場に望遠鏡や双眼鏡その他を持ってこれないのが悔やまれますよ。「火星の赤い風景で,地球以外の場所で,固定撮影」なんかしてみたかった‥‥と,心底思います。
 妙な角度で上ってきた冬の淡い天の川も見えました。もう,微光星が光害で見えないせいで星座の形が分からないのではなく,微光星がありすぎてどの星とどの星を結べばいいのか,が分からないというレベルの暗さです。その内,妙な角度の双子座にある土星が上ってきました。土星は距離が遠いので,地球でも火星でも見える方向は殆ど変わらなかったようですね。
 昨夏8月27日に起こった約5万7000年(6万年)振りの超大接近のお陰で,つい最近まで,水瓶座付近に赤く明るい星が暫く見えている秋の星空,という先入観がありました。しかし今見る水瓶座付近にその赤い明るい星はない。どこへ行ったのか?‥‥自分の踏み締めている赤茶けたこの大地こそが,空に輝いていた赤く明るい点光源,即ち「火星」であるのだ――――感銘を覚えます。
 火星時午後10時半頃。東の低空に,明らかに面積がある光芒を見つけました。見ている内に,少しずつ動いていくのが分かるのです。どうやら,火星の第1衛星フォボスのようでした。視直径は面積にして,地球の月の3分の2位に見えました。(因みに太陽は,地球で見るものの半分の面積に見えました。)本当に日周運動の速度が速いんです。真夜中には南中し,日付が替わって午前2時には沈んでしまいました。計算すると,およそ時速45°となります。すると,僅か4時間しか空に出ていない事になります(!)。残念ながら,ダイモスの方は確認できませんでした。
 地球の月の場合,先の9月9日のような大接近を始めとする「天球上の他天体とのランデブー」,「惑星食」,「掩蔽」といった類稀な天文現象で,天球上の移動が確認できます。が、フォボスの場合,見ているだけで天球上の移動が確認可能なのです。全て天体の動きは一様ではない。改めて知りました。
段々と瞼の下がってくる中,東天に明るい明けの明星が見えました。でも金星ではありません。では何かと言うと―――地球です。眠くて上ってくるのに気付きませんでした。すぐ上には木星がまた強烈に光っていました。どちらも乙女座の方向です。成る程火星では,最も近い内惑星・地球が明星として輝くんですね。僕はその時,地球を惑星として,天球を順行や逆行や留を繰り返しながら不規則に動く星として,夜空に見ていました。我が青い故郷を,他の星と同じように,見上げていたのです。 そういえば,少し前に「火星から見た地球・月・木星とガリレオ衛星のランデブー」という写真が,雑誌「星ナビ」(知ってます?)に掲載されてました。それから約半年,少しずつ位置を変えて,この様な構図になったんでしょうね。 その雑誌の言葉を借りますが,改めて我々が太陽系の一員であり,地球とは太陽という何ら他と変わりない一恒星の周りを回り続ける1つの球に過ぎない事を,思い知りました。 あの光の中に今までの生活,国,風景がある。多種多様な人間,生物,物がそこに在る。こちらを見上げている者もいることだろう。そこから望んでいた光の1つに今,立っている。あんなに小さい光の中で,命が生まれ死んで逝く。あんなに小さい光の中でね‥‥全く以って宇宙というものは広い。 火星に来て,「地球の方が良かった」逆に「こっちの方が良い」と思う事は多々あります。地球は居心地が良い,楽しみが多い,と思えば火星の今のこの環境は間違いなく願い下げでしょうが,ストレスや俗世間から逃れようならば,中々の環境でしょう。でもやはり故郷なのか,地球が一番ですね,私的には。 こうやって地球外へ飛び出せば,如何に地球という星が生物に優しい環境を併せ持っているのか,よく分かります。未知への探究心を育むのも勿論賛成ですが,故郷を愛でる心も大事です。 ところで,どうやってここに来たのか?地球に帰れるのか?最大の謎ですよ。 ま,折角なので,天文家の端くれとして,火星を散策しようとは思ってはいますが。どこかにいる探査車の前で記念撮影させてもらって,地球に送信してもらいましょうか?えらい事になるとは思いますけど‥‥。 それでは,これから寝ます。何しろ徹夜だったもんで。
                     火星より 奈良学園中学校2年E組 Y.T
                      地球では2004年(平成16)1月21日 水曜日
                            参考文献・ソフト
                               雑誌「星ナビ」…アストロアーツ
                               ソフト「ステラナビゲータVer6」
                               ソフト「マルチメディア太陽系図鑑」

 義務教育ですから,定められた基準に基づいた内容は学習しなければならないのは当然のことです。しかし,一通りの勉強をしたら
「残った時間のすべては,バレーボールのために使う」
「朝早くに登校,まずは音楽室でバイオリン。室内楽・命です」
「チャンスがあればボランティアとして施設を訪問する」
「電車大好き,交通問題研究会がすべてです」
そんないろいろな生徒がいていいのです。そんな子が居て欲しいのです。
奈良学園には,そんな子がいっぱいなのです。

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