平成14年6月6日(吐山小学校家庭教育学級で「この豊かな自然を生かして」の演題でお話をしました)

吐山小学校は都祁村にある学校です。校区にはスズランの自生地があることで知られています。交通の便がよいことから,新しい住宅地ができ,人口や児童数が増えている地域です。この学校は,小学校に新しい教科・生活科が誕生する前からの実践的な研究を推進し成果をあげた学校で,この教科や総合的な学習などの分野で先進的な取り組みをしてきました。そんなわけで,奈良県教育委員会でこの事務を担当したり奈良県小学校生活科教育研究会長を務めたりした私にとっては思い出深い学校です。
 この日は,家庭教育学級の開講式があり,そのあと,「この豊かな自然を生かして」という演題で,次のようなお話を聞いてもらいました。財団法人島岡教育基金講師としての仕事です。
 子どもたちの成長には自然とのかかわりが非常に大切です。私は,このことについて次のように考えています。私は「これは1つの理論だ」と思っていますが,「それは理屈だよ」とおっしゃる方があるかも知れません。まずは,私の考えを聞いてください。
○生物は太古の昔に誕生しました。それは単細胞の生物でした。この単細胞の生物は,自らよりよい生活を目指して進化し,水中から陸上へと生活の場を広げてきました。こうして,すばらしい能力を持つにいたったのがヒトです。
○ヒトも他の生物と同じように精子と卵子が結びつくことによって1つの生命になります。この受精卵は分裂を繰り返し,しだいに複雑な体を作り上げてきます。水中生活に適応したつくりをもつ時期もありますし,他のセキツイ動物のように尾をもつ時期もあります。そして,一人のヒトとして誕生します。
○すなわち,受精から誕生までの約10か月に生命の誕生から現在までの35億年を繰り返すのです。
○一方,人間としての歴史を振り返ってみますと,山野,河川,海から食物を得ていた狩猟経済の時代から,栽培し飼育しといった農業生産の時代,それらを加工し必要なものを得るための商工業が発展した時代,それらを超えて現在の高度情報化の時代が到来しました。これが人類の歴史です。
○ヒトが人として成長するためには,その成長の過程で人類の歴史をひととおり体験してこなくてはならないのです。
○幼児期の花を摘み虫を追いかける時代(狩猟経済の時代です)から,花を植え,虫を飼いといった時代(農業生産の時代にあたります)を経て,ままごと遊びやお店ごっこをする時代(商工業の時代です)を経て,パソコンで遊ぶ時代(行動情報化の時代です)に到達するのです。
現代に生きるためには,自然の中で生き,自然とともに生きる時代が必要なのです。
そんなふうな考えを,先生たちのよく工夫された授業,生き生きとした子どもたちの活動を例に取り上げながらお話し,「子どもたちに豊かな自然体験を」と申し上げました。
 この日,山々は新緑に染まり,田植えの済んだ田んぼを涼しい風が吹いていました。こんな中で元気な子どもが育つのだなあと思いました。こんな恵まれた環境の中で,先生たちのよく工夫された授業に学ぶ子どもたちの幸せを祈りつつ,山を下りました。
写真は,吐山小学校から見た緑の山々,先生たちの授業,子どもたちのようすです。




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