平成13年5月22日(田原本東小学校の家庭教育学級から「子どもに夢を」の講演の依頼があり,お話してきました。)

奈良県立教育研究所から,子育て支援講師の委嘱を受けて間もなくのこと,田原本小学校の家庭教育学級から講演の依頼がありました。演題は「子どもに夢を」でした。何をお話したらいいだろうと思いましたが,まずは,こんな魅力的なタイトルをお考えになったメンバーにお会いしたいという気持ちからお引き受けしました。
5月22日,濱川利郎校長先生が育て,米川明子学級長さんがリードしておられるこの学級は明るい雰囲気に包まれていました。ここでのお話の概要は次の通りです。


「最近の子どもたちに夢がない」そんな言葉を聞きます。そうかな,それなりに夢を持っているのではないかなと思います。しかし,「夢がない」というのが事実ならば,その原因はなんだろう。私は,夢ってなんだろう,そして,なぜ夢を持てないのだろう,次の3つの点について考えてみました。
1 私が子どもの頃,近くで建築工事が始まると,大工さんの仕事ぶりを見るのが楽しみでした。かんなの幅一杯の薄い透き通るようなかんなくずをもらって遊びました。「いかけ屋」さんの穴のあいた鍋の修繕にも目を見張りました。大人の凄さを感じたときでした。「大人の人ってすごい」こんな思いが,自分の夢を育ててくれたように思います。
2 あんなことも,こんなこともしたい,そんなことがいっぱいでした。海を見たい,北海道の広い地平線を見たい。できれば外国に行ってみたい。満たされないものがいっぱいの中でしたいことがいっぱいでした。今の子どもたちは何もかも満たされ過ぎているのではないかと思います。
3 新しい憲法のことを学びました。20歳になれば誰にも与えられることになった選挙権。これを行使して新しい世の中を作っていくのだ,そんな思いが子どもにもありました。私も同じです。一度も棄権したことがありません。
長い教員生活の中で出会った多くの子どもたち,その中には,自分の夢を追い求め,今それを実現している子どもがいます。K君は人力自転車を作っています。大きなメーカーが金に明かせて作りオリンピックの競輪選手に乗ってもらって好成績を上げているそんな分野に挑戦し,軽く作るために穴をあけ自ら自転車通勤で足腰を鍛えています。省エネ自動車では560q/リットルの記録を作りました。本田技研の本田社長にほめてもらったというのが自慢です。T君は好きだった虫に熱中,生駒の伝統工芸の技術を学び,竹の特性を生かした作品を作り,竹の芸術家として一流,テレビにも出演しています。(彼のホームページのURLは私のホームページとリンクしています)
こんな夢いっぱいの子どもたちを育てる方途はなんでしょう。簡単にはいかないことでしょうが,次のようなことが言えるのではないでしょうか。
1 五感総動員の体験活動をさせること。五感を生かすといえば,昔七条養護学校で参観した授業を思い出します。ミミズを押さえて「ミミズはフワフワ」と言ったU君,ミミズの頭から後ろに手を滑らせて「ミミズはヌルヌル」と言ったO君,そしてミミズの後ろから前に手を滑らせて「ミミズはザラザラ」と言ったK君。みんな正解です。ミミズの剛毛を発見したのです。目と耳に頼りがちなメディアから直接ものに触れる体験を大事にしたいと思います。
2 子どもの素朴な発見に「そんなアホな」ではなく,気づきに共に感動し,「面白いね」「じゃあこれはどうなるんだろう」と返していく中でこどもは成長します。いくつかの例をあげてお話しましたが,こんなお話は「やっぱり理科は面白い」にもいっぱいですから,ここでは割愛します。
3 私たち子どもを取り巻く大人がそんな夢を持ちたいと思います。年とともに夢が消え現実的になっていくように思いますが,あえて夢を追い続けたいと思います。ついでに,私のこれからの夢を披露しました。
そして,先日,授業で使ったキョウリュウの足跡の化石のプリント(このホームページ・折々のメモ書き・の平成13年4月10日に記載)を配布し,みんなで考えてもらいました。余ったプリントはお持ち帰りいただき,お家でお父さんと子どもといろいろと話し合ってほしいと言ってお別れしました。ひょっとしたら,今頃,ご家庭で,「お父さんはこう思うけどね」「おじいちゃんはどう思う?」「おばあちゃんはこの大きいほうがママで…」などと話に花が咲いているかもしれません。

  

この日は,K君が作った省エネカーを写真で見てもらいました。そして,T君の竹の虫は実物も見てもらいました。皆さんが「すごい」と感心してくださったものにT君のピンセットがあります。このピンセットは力を入れると開き,力をゆるめると物をはさんでくれるのです。つまり逆ピンセットなのです。
「こんなことできないかな」そんな夢を広げて行った彼らに拍手を送りたいと思います。

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