平成13年3月17日(「理科を楽しむ2「学習の小道具=磁石玉を活用する」から)

奈良県教育振興会の会誌「やまと」3月号が送られてきました。一応の区切りを付けるこの号では,43年間の理科教師の足跡から授業の工夫の1例を取り上げました。楽しく分かりやすい授業にするために,「磁石玉を使ってみようよ」という私の主張です。授業の工夫では,小学校の先生が一番のように思います。続いて中学校のようです。小・中・高の3つの校種に勤務した私の率直な感想として「高校は生徒の理解力に頼ることが多く,教師の工夫が十分ではない」と言うとお叱りを受けるでしょうか。
今日3月17日は,本校の終業式。子どもたちも一区切りを,私も一区切りといったところです。

 どういうわけかU字型磁石は,赤色と緑色に塗り分けられています。長い間こうした磁石を見慣れていると,この2つの色が極性のイメージとして定着してきます。そして,感覚的に極性をとらえることができるようになってきます。
 電流の学習での,プラス(+)とマイナス(−)も同じです。プラス側を象徴するのは赤,マイナス側を象徴するのは黒(家計簿でのマイナスは赤字,プラスは黒というのは,このイメージとは反対ですが)です。ですから,電源装置の赤と黒のターミナルや配線するときに使うワニ口クリップやミノムシクリップは,赤をプラスに,黒をマイナス側に使います。
 ですから,電解質溶液の電導性やイオン反応,電気分解などの学習に登場する陽イオンや陰イオンもこれと同じようにカラーイメージ化を図るならば,イオンとイオンの反応を感覚的にとらえることができるのではないでしょうか。
 こんな思いつきから,ベニヤ板を適当な大きさに切ってピンクの色紙を貼ったものを陽イオンを表すものとして,「H+」や「Cu2+」などと書き,水色の色紙を貼ったものには 「OH-」などと書いて,これに磁石をくっつけた教具を作ってみたのは昭和39年のことでした。しかし,当時の理科室の黒板は木製で,せっかくの教具を黒板に貼付して授業に活用するわけにはいきません。そこで,古い小黒板にトタン板を貼り,簡易磁石黒板を作りました。これで,水の電気分解によって水素と酸素が発生することや,食塩水に硝酸銀溶液を加えると白色の沈殿を生じる反応を説明すると生徒の理解が深まったようでした。
しかし,これにはチョークではうまく字が書けません。翌年,無理を言って磁石がくっつく小黒板を買ってもらいましたが,この小黒板は理科室の宝物となり,以後,いろいろな磁石玉を用いた教具を工夫する意欲の源になっていきました。
こんな学習内容のカラーイメージ化を郡内の理科部会で話していたら,口の悪い先輩から,
「君の学校の銅イオンはピンク色なのか?。カラーイメージというのなら,あの美しい青色ではないか」
と言われたことを思い出します。
 このような自作の教具以外に,私が使っていた磁石玉は,赤・青・黄・白・緑の5色です。これらは,原子や分子のモデルに用いたり,結晶や物質の溶解と溶解度,溶液からの結晶の析出などの説明に使いました。そのほか,赤色の磁石玉では伝導や放射で伝わる熱を,緑色で葉緑体を表現し,葉の表と裏での葉緑体の分布の違いを説明したり,青色は電子の移動と電流の説明に使った。また,原子核の構造と核分裂の説明には,赤・黄・青のそれぞれを陽子,中性子,電子のモデルに使っていました。
 粒子のモデルとしてはとにかく,放射による熱の移動などの説明に用いるのにはおかしいと指摘する人もいます。しかし,教材教具は,児童生徒の発達段階に応じた工夫が大切なのだと思います。
 このような教具をうまく用いるのは小学校の先生が一番であるように思います。そして,中学校に行けば,こうした小道具はしだいに影をひそめ,板書も,生徒の読みとる力に期待して,どちらかといえば乱雑になり,話しことばだけに頼るようになってくるように思います。その傾向は,高等学校から大学と広がっていくのではないでしょうか。
「いや,そんなことはない,結構工夫してそうした理解を助ける教具を使っているよ」
とおっしゃる先生方もおられるかもしれませんが,私が見聞きしたごく範囲での一般的な傾向としては,そうであったと思いますし,小学校で16年,中学校で18年勤務し,高校で5年目を迎えた私自身が,そのような傾向にあったようであり,今,そうしたことを反省ししていることは確かです。
 なお,私は,今,高校での情報処理の学習の1つとして,「ワープロを道具として使いこなす力」を伸ばす授業に取り組んでいます。どの生徒たちも,この授業に非常に積極的に取り組み,日本ワープロ検定協会の検定で2級・準2級・3級・4級のいずれかは当然のことのように取得しています。私にとっては非常に楽しい授業の時間です。
 この授業でも,最近,こうした小道具を使い始めました。挿入・削除・変換・無変換といったよく使う機能キーの名前を書いた板にゴム磁石を貼りつけたものです。下手な字を急いで書くよりも,こうした小道具は,生徒にとっては分かりやすく,私自身にとっても省力化できます。そして,こうして生まれた時間的なゆとりを個別指導に使えるようになるのです。
 そんな授業をしながら,小学校(国民学校です)に行っていた私が学んだ算数の時間,先生が,緑色のフェルトを貼った小黒板とチョウチョやリンゴの絵の裏にサンドペーパーを貼りつけた小道具を使って,ていねいに教えて下さったことを思い出し,こんな工夫は中学校,高校と進んでいっても必要なのじゃないかと思うのです。

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