平成12年11月22日(松下電器産業KK大和郡山工場で行われた「子育てフォーラム」でお話しました)
 最近,「父親不在の家庭教育」「子育てに父親の復権を」といったようなことが聞かれます。そこで,奈良県立教育研究所の家庭教育部が中心になって、各企業が行う「子育てフォーラム」への援助が始まり、こうした計画をしている企業へ講師を派遣する事業が行われています。
 今日は,県からの依頼で,松下電器産業株式会社大和郡山工場に行ってきました。この会社には,板橋知義さんなど教育委員をお務めになるなど教育にご理解のある方がおいでになりましたし,人事課長を務めておられる二神洋二さんが、昨年8月の私のラジオでの対談をたまたまお聞きくださったのがきっかけだったようです。「堅苦しいものではなく、気軽に聞ける話を」とお考えになっていたこの会社の方針と県立教育研究所家庭教育部から子育てについての研修会をやっていただけませんかという働きかけがドッキングした結果です。この日,私は,「『今のこどもは…』と『今の子どもも…』」と題したお話をさせていただきました。以下は,その概要です。


 「最近の子どもは…」というよく聞かれることば,この言葉には,彼らを異質なものとしてとらえる見方があります。でも,ほんとうにそうなのでしょうか。 「そんなふうに見えるだけで,昔も今も,子どもたちの本質はかわっていないんじゃないか。私たちが,自分たちの子どものころのことを忘れてしまっているために違った存在に見えるのではないだろうか」そんな考え方がある一方で,やはり昔の子どもたちとはずいぶん違うなあと思わせられることもしばしばです。
 今一度,子どもたちの現状を見つめなおし,対話の原点である子ども理解の方途を探ってみたいと思います。
そして,「仮説T・いまどきの子どもも同じだ」と「仮説U・やっぱり違うよ,このごろの子どもは…」をいくつかの具体例をあげてお話しました。
「仮説T」の例の1つは,「リボンの花,取ってきたよ」とヒガンバナをもって帰ってきた子どもとモクレンの花を見つけ「チューリップが木に咲いていたよ」と言った子どもの話です。ここには,自然の中で自然を友達にして遊ぶ子どもの姿があります。
次の例は,磁石で遊び,どんなものにくっつくのだろうと考える子どもの姿です。「ああでもない」「こうでもない」と考え試す子どもの姿です。次の例は,空気の重さを計ろうの実験に熱中する中学生,鯉のぼりは生き物だという教師の提言に反対し,教師をやっつけようとがんばる中学生の話です。これらは,私の書「やっぱり理科は面白い」に書いた話ですが,子どもたちの書いたTPなどを使って考えていただきました。
「仮説U・やっぱり違うよ,このごろの子どもは…」では,足が4本もあるニワトリの絵をかいた中学生,アリやトンボの特徴を知らずうまくかけなくても,テレビアニメの「みなしごハッチ」は見事にかける生徒たちの話,そして,私たちが食物としているいろいろなものが植物や動物から得られるものであることをも知らないという実態,そして,今の子どもの遊びの特徴をお話ししました。
そして,最後に,個としてのヒトは単細胞から成長し誕生するまでの10ケ月の間に,単細胞の生物,水中の生物,陸上の生物という長い生物の進化の歴史を繰り返すこと,だから,社会的存在としてのヒトも,草花や動物と遊ぶ「狩猟経済の時代」,種をまき小動物を育てる「農業経済の時代,ままごとやお店ごっこという「商工業の時代」を経て成長することが大切なのではないかとお話しました。そんな発達の最後にやってくるのが「情報化の時代」です。便利な時代になりました。でも,それは,長い人間社会のあしあとをたどった後にたどりつくものではないでしょうか。草花を育て,ママゴト遊びをし,といった途中経過をなおざりにして,ゲーム機での遊びに出会うというのは不幸な出会いではないのかなと思います。


 私が,これまでにお話した対象は,小学生であり中学生であり,高校生でした。そして,そうした子どもたちを接点にしたお父さん。お母さんたちでした。企業活動を通して現代社会を支えてくださっているビジネスマン,エンジニアといった方々とのお出会いは極めて新鮮なものでした。今,私はこんな機会を与えていただいたことに感謝しています。

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