「体温」 1 2 3
ルフィは最初、ゾロがサンジの事を好きだと聞いて驚いた。
ゾロは、サンジには感心がないと思っていたし、最初にサンジに惚れたのは
他ならぬ自分だったから。
ナミやビビに媚びを売って、笑いかける女好きのサンジが、ルフィのそんな気持など、
受け入れてくれるはずがない、と思っていた。
仲間としての関係で満足しようと自分に言い聞かせてきた。
その関係を壊して、サンジの笑顔を失うのが怖かった。
だが、ゾロがなんの躊躇いもなく、サンジに手を差し出し、また、サンジの方も
以外にすんなりと(と、ルフィには見えた)ゾロを受け入れて特別な関係を
築き始めた時、歯噛みするほど悔しかった。
今まで、何かを手に入れたいと、願って迷った事など一度もないのに、
サンジとの関係を大切に思う余り、踏み出す勇気を出せなかった。
まさか、その間にゾロに横から奪われてしまうなど、夢にも思わなかった。
それで、ゾロを憎く思えることが出来るなら、ルフィも楽なのだが、
そう単純なものではない。
ゾロも、自分が惚れこんで仲間になったのだ。
嫉妬と羨望の篭った眼差しで 二人を注意深く見ていれば、ゾロがどれだけ
サンジを大切にしているか、だんだんと判ってきた。
サンジの方は、自分達に知られないように気を配っているつもりだろうが、
それでも、時々ふと見せる仕草が出会った頃よりも、随分柔らかく、
諦めようと思う心を無意識に刺激してくる。
自分の心がこれほど制御できないものだとは、ルフィは初めて知ったのだ。
押さえても、押さえても、こみ上げてくる思い。
ルフィは、夜になっても空のままのサンジのハンモックを見るたびに、
辛くて堪らなかった。
何度も、「好きだ」といっても、サンジは全く取り合わない。
真剣に聞いてはくれない。
バカにされているのとは違う。
・ ・・サンジはルフィから逃げているのだ。
明確に言えば、「そんな風には、好きじゃねえ。」とはっきりと言ってくれたが、
そんな曖昧な拒絶は却って辛いだけだった。
サンジの方も、船長とコック、信頼し合える仲間、命を預けるべき友人、
と言うルフィとの関係を壊したくなかった。
ゾロは、仲間としての関係を壊したくない、というサンジの気持などお構いなしに
勝手に壊して、乗りこんできたのだ。
「壁」を壊せなかったるフィと、壊したゾロ。
サンジにとっては、それだけの違いの筈だった。
だが、事はそんな単純なものではない。
もしも、ルフィが壁を乗り越えて、或いはゾロのように壊してサンジの心に
歩み寄ったとしても、サンジがルフィを受け入れたかどうかは、今になっては
判らない。
ただ、判っているのは、二人を同時に想うほど、
サンジの心は器用に出来ていない、と言うことだけだ。
その心がゾロに集中している今、何をしても無駄だとルフィにも判るし、
自分が口説けば口説くほど、サンジがますます困惑するのも判っている。
だからといって、気持を殺す事も出来ない。
堂々めぐりで苦しんでいるルフィだったが、やはり、無邪気に向けられるサンジの
笑顔が嬉しくて、そんなことさえ喜ぶ自分が悲しくもあった。
生来の前向きで明るい性格ゆえに、その悲しみも切なさも感じるのも、一瞬だが、
それも重なるとますますサンジの笑顔をみて、心を癒したい、と願ってしまうのだ。
人を恋しい、と言う甘美で切ない想いを まさか男に感じるなど思っても見なかった。
ルフィは、船首の特等席に座って考えた。
例え、体と心はゾロのものでも、俺はあいつの夢を必ず、叶えてやる。
その時になったら、サンジは俺を受け入れてくれるだろうか。
でも、それまでずっとこの苦しい想いを抱き続けるのか。
そんな事は嫌だ。
俺は今のサンジも、これからのサンジも、全部欲しいから、この船に乗せたくなったんだ。
潮風に吹かれながら、自分の重ねた想いを振りかえって考えてみた。
だが、さっぱりまとまらない。
溢れてくるのは、切なくて、もどかしい想いだけだった。
ルフィは小さく溜息をついた。
考えてみれば、一人で考えこんだところで答えなど出るわけもないのだ。
「おい、ルフィ。」
声をかけられ、振りかえる。
「ティータイムだぞ。来いよ。」
そこには、にこやかに輝く金髪に潮風を孕ませた、恋しい人がそこに立っている。
手を伸ばせば、届くのに、届かない。遠い、遠い、サンジ。
喉の奥に、熱い塊がこみ上げてきた。
ルフィは麦わら帽子を深く被った。
表情を隠し、「にししし」といつもどおりの笑い声を立てた。
自分がサンジのことを考えていて、哀しい顔を見せれば、この優しい人は
きっと辛い思いをするだろう。
サンジの前では、何時も笑っていよう。
ルフィは咄嗟にそう考えた。
「サンジ、好きだー!!」そう叫んで、船首の飾りからサンジへ飛びついた。
腕を伸ばして、グルグルと巻き付く。
自分にしか出来ない、抱きしめ方だ。
そして、露骨に嫌がらない、サンジの態度が嬉しくもあり、
同時に少し胸が疼くように痛む。
サンジはルフィの気持には気がついていないのだ。
ドラムで、チョッパーの歓迎会をした時、二人とも酔っ払って、
皆の前でキスをした。
それから、何か宴会のたびに、余興で必ずキスをするので普段の生活でも
二人がふざけてキスをしていても、誰も騒がなくなっていた。
サンジも別に嫌がるわけでもなく、「キスしようぜ!!」と明るくいうルフィに
「へえ、へえ。」と軽い調子で合わせてくれるのだ。
それが、どれだけルフィの心を沸き立たせているか、考えもしない。
サンジは、そう言う意味で残酷だった。
体温第2話
サンジは、ゾロに戒められた。
人目を忍んで抱き合った星空の下で、ゾロはサンジの体を腕の中に
封じたまま、何度も柔らかく唇をあわせる。
「こんなこと、誰にもさせるなよ。」低いが、真剣な声で囁いた。
それが、ルフィとの事を指していることさえ、サンジは判らなかった。
あくまで、ルフィとのキスは余興で、気持ちなどそこには篭っていない。
ゾロが与えてくれるそれとは、余りにもかけ離れている。
いや、全く別ものだと言っていい。
だが、ゾロはすでに気がついていた。
サンジとの遊びのようなキスでも、ルフィの気持ちがそこへ篭りはじめたことを。
だから、サンジの無神経さを戒めたつもりだった。
女相手には 気が効き過ぎるほどのサンジなら、色恋沙汰くらいは理解出来るはずだと思っていたから、それ以上は言う必要などない。
だが、サンジの無神経さが災いして、ルフィの気持ちがこれ以上膨らんだら
厄介な事になる。
危惧などはしていないつもりだが、二人ともが傷つく事になるのは 避けるべきなのだ。
(これは嫉妬なのか?)ゾロは自問自答した。
理屈を色々考えている時点で、これは既に嫉妬なのかもしれない。
嫉妬でないなら、独占欲だ。
その感情さえ、ゾロは受け入れた。
(嫉妬して、独占したくなって何が悪い。)
そう思ったけれど、本当は 深く、深く サンジを信じきっているのだ。
自分の想いに応えたサンジを 疑うわけなどない。
矛盾しているかもしれないが、ゾロはサンジの負の感情も、正の感情も、すべて
受け入れ、飲みこみ、包みこむ覚悟でいる。
もともと、そういう性癖でない自分も、サンジも ただ お互いが
ゾロであり、サンジであるという理由だけで ここに至っているのだ。
その覚悟がなければ、簡単に手を出していい相手でない。
そして、それを誇れるからこそ、サンジは同じ心で応えてくれたと信じている。
サンジが自分を受け入れてくれた時の気持ちを思い出す。
嬉しい、などと簡単な言葉では言い表せない。
好きだ、とかそんな軽い言葉でもない。
恋をしている、という甘美な想いでもない。
もっと、強く、深く、決して 揺るぎ無いもの。
命と夢と体と その根源である魂とを ひたすら 求めて、辿りついた今、
そんな感情をなんと呼べばいいのか、ゾロにもサンジにも 判らなかった。
他の誰かなら、ゾロは微塵ほども 動揺などしないだろう。
サンジが例え、気紛れで誰と寝ようとも、一向に構わないとさえ思っていた。
だが、ルフィは別だ。
ルフィだけは、駄目だと思った。
ルフィは、ゾロにとっては 在る意味脅威だった。
その強い魂は、海賊王になるべく定められた星の下に存在しているような気がする。
自分の未来を固く信じ、その瞳の輝きが失われた瞬間など、一度も見たことがない。
一度自分が決めた事に向かって、一切の迷いなく突き進んでいく。
どんな事があっても、自分からあきらめる事は決してしない。
そんなルフィが そのままの気持ちをサンジにぶつけてきた時、
サンジも戸惑うだろう。
その時、自分の心を分析する事に不器用なサンジは、戸惑いと 心変わりを混同してしまうかもしれない。
だが。
そう思うと同時に、決して負けないから かかってきてみろ、という思いもあった。
ゾロの心も矛盾に満ちている。
サンジを苦しめたくないから、ルフィには近づいて欲しくない。
だが、いかに サンジという存在が 稀有なものかをルフィに知らしめてやりたい。
そんな 矛盾だ。
そして、その複雑なゾロの心など、やはりサンジには伝わらない。
ゾロが、そこまでの気持ちを抱いて 自分を求めている事さえ、サンジには判らない。
ただ、求められるまま、流されてしまったような気がしている。
いつか、きっと ゾロは自分の錯覚に気がつくだろう。
ただ、船の中で溜まっていた性欲のはけ口だったのを、
肌を重ねた時間が積み重なってゾロは錯覚したんだ。
その時、たまたま 自分がゾロに弱さを晒してしまい、その錯覚と同情が
ゾロの中で 綯い交ぜになって 更に 錯覚しているに過ぎない。
こんな関係がずっと 続くわけがない。
サンジは、冷めているわけではなく、そう思いこもうとした。
ゾロを信じたかった。だが、未だにそこまでは踏みこめない。
はじめて、海に足をつける子供のように、
恐る恐る 近づいては、大きな波に怯え、一旦逃げる。
だが、また 海へ惹かれて近づいていく。
どうしようもなく、そこへ足を踏みこみたいのに、溺れるのが怖くて出来ない。
「怖い」と思う時点で、もう サンジはゾロへの気持ちを固めているのに、
それも自覚していない。
いつか、ゾロの錯覚が消えた時、また 仲間に戻って笑い合える様に、
逃げ道を作っておきたかった。
だから、ゾロの深い気持ちを見ようとさえしない。
気がつく筈もない。
一体、自分がどうしたいかさえ判らないのだから、今はただ、心の中の
逃げ道を見失わないように 流されていくしかなかった。
魔獣と呼ばれるゾロに 柔らかく口付けられながら
「こんな事、誰にもさせるな。」と囁かれて、思わず体が火照るほど
嬉しいのに、その意味が判らなかった。
ルフィの気持ちも、ゾロの気持ちも、サンジには 判らない。
いや。
判ろうとしない。わざと目を逸らし、気がつかないようにしているだけだ。
サンジは、自分が不器用な事だけはちゃんと自覚している。
今は、ゾロに引き摺られている矛盾を消化するのに手一杯なのだ。
(俺が、なんでこいつと寝なきゃならねえ?)
(俺も、なんでこいつと寝たいんだ?)
(俺は、こいつのどこが良くてずっと見ててえなんて思うんだ?)
(俺は、女の子といる方がずっと楽しいのに、こいつが側にいると安心するのはなんでだ?)
自問しても、答えは出ない。
自分の気持ちさえ整理できていないのだから、ゾロやルフィの気持ちまで
推し量る事など、まだ 到底無理な状況なのだ。
ゾロは、サンジが自分で答えを見つけるのをじっと待っている。
動き始めたルフィ。
まだ、何も判らないサンジ。
全てを受け入れる強さを持つ、ゾロ。
この均衡が崩れるのは、ログが示した島で サンジが珍しく 体調を壊した時だった。
「体温」第3話
最初、軽い風邪のような症状だった。
熱はなく、ただ、声が出にくいだけだったので、ゾロは 何時もの様に
夜、船番をしている時に少し寒い外気の中でサンジを抱いた。
掠れた喘ぎ声がいつもよりもゾロを昂ぶらせて、
体力を奪っていく事など考えもせず、一晩のうちに 何度も追い上げて、 。
サンジがついに 意識を飛ばしてしまうまで、強く求めてしまった。
翌日の昼過ぎ、サンジは酷く体がだるくて、立っているのが辛い状態だったが、
そんな素振りは一切見せず、にこやかに軽食の準備をしていた。
そこへ、
この島の賞金稼ぎ達が、停泊しているゴーイングメリー号を狙ってきた。
ゾロは、昨夜不寝番だったせいで、男部屋で暴睡していて、ルフィは
怪しい雰囲気のこの島にウソップと探検に出掛けている。
ナミの側には、チョッパーとサンジしかいなかった。
「チョッパー。ナミさんを中へ。」サンジは、煙草を咥え直しながら二人を
背中に庇った。
賞金稼ぎは3人。
普段のサンジなら瞬殺出来た。
だが、彼らが手にしている武器は、1人は短銃。
1人は、鞭。1人は、鎖鎌だった。
全て、遠隔攻撃が可能な武器ばかりだ。
サンジは、距離を詰めるべく、甲板を蹴って短銃を向けてきた相手にまず体当たりを食らわせた。
(ッチッ)吹き飛ばすだけのつもりが足元がおぼつかない。
そのまま、相手と一緒に倒れこんでしまった。
起上がろうとした時、頭の中心がぶれたような気がした。
サンジの背中ががら空きになる。
その時、そこへ焼けつくような痛みを覚えた。
麻袋を裂くような音を立てて、鞭が間断なくサンジの背中に振り下ろされる。
茨のように棘を生やした鞭は、サンジのシャツを破き、背中の肉を抉り、血飛沫を上げさせた。
その痛みから逃れるように、サンジは体を丸め、うずくまった。
(くそっ。眩暈さえ起さなきゃ、ひと蹴りでぶっ殺せるのに・・・)
賞金稼ぎは、薄笑いを浮かべ、サンジを嬲るように大きく 鞭を振り降ろした。
サンジは急に体を起こし、その鞭を利き腕で受け、絡めとった。
棘が指に食い込むのにもかまわず、思い切り引っ張り、賞金稼ぎとの距離を詰める。
足が届く距離にまで引き寄せながら、自分も体をぶつけるように相手の鳩尾に
膝をめり込ませた。鞭使いの賞金稼ぎはぐったりと動かなくなり、甲板に沈んだ。
その時、サンジの頬を掠めて短銃の弾が発射された。
「動くな!!」
賞金稼ぎがそう叫ぶのと、彼の首筋に冷たい刃が当るのと殆ど同時だった。
「・・・それは、てめえが自分で言ってんのか。」あざ笑うかのように、ゾロが
賞金稼ぎの後から頚動脈に刀を沿わせている。
「指一本動かしてみろ、ここから血飛沫が上がるぜ。」
賞金稼ぎの顔が見る間に蒼ざめる。
「失せろ。」短く そういうとサンジが叩き伏せた相手を残し、脱兎の如く逃げていった。
ゾロは、残った二人の賞金稼ぎの体を乱暴に海へ投げこんだ。
サンジの背中の傷に気がついていたら、ゾロはその場で彼らを斬り殺していただろう。
海に投げこんでから、ゾロはやっと 血の匂いに気がついた。
サンジは壁に凭れ、ぼんやりとした表情でゾロを見上げている。
その眼力のない様子にゾロはサンジの変調に気がついた。
「おまえ、あいつらにやられたのか。」
労わるつもりでかけたその言葉がサンジの癪に障った。
しゃがんで自分の顔を覗き込んできたゾロを蹴り飛ばそうと足を腹の方へ
引き寄せる。
だが、ゾロはそれを黙殺して、サンジの横手に回り、背中と壁の間に手を差し込んだ。
ゾロの掌にべっとりと血が付着する。
弾む息遣いと、熱い体温を感じて思わず もう一方の手のひらを サンジの額に押しつけた。
(・・・熱い。)かなりの高熱だった。
「・・・立てるな?」ゾロは、サンジにそう言って、体を支えた。
怪我のせいでサンジは症状を一気に悪化させた。
チョッパーの診立てでは、この島のある種の植物の花粉がサンジの体に合わなかったらしく、気管支炎から肺炎を起しかけているらしい。
「風邪じゃねえのか。」サンジは、チョッパーの診断を聞いて 呟いた。
「珍しい植物だからね。そんなに心配する事ないよ。」
チョッパーは、背中の傷も手当てを施した。
上半身、包帯だらけだ。
「熱のせいで汗をたくさんかくだろうから、こまめに包帯を換えて、
着替えもこまめにしないと。」
賞金稼ぎの来襲に備え、ゾロが不寝番をする事になった。
本当は、サンジの側にいたかったが、露骨過ぎる事はサンジが嫌がるので、
ナミのその指示に従うことにした。
交代の時間まで、ゾロはサンジの側にいた。
「寝ろよ。」急ごしらえの寝床の中で、まだ 眠ろうとしないサンジにゾロはそう言った。
「・・・放っとけ。」サンジは、火の付いていない煙草を咥えている。
肺炎をおこしている患者にチョッパーが喫煙を許すはずがない。
この一本だけを残し、後は取り上げられてしまっている。
サンジは、ぶっきらぼうに「放っとけ」といったものの、
ゾロが出て行くまでは起きているつもりだった。
ゾロはサンジの着衣を寛げて、その胸元に手を突っ込んだ。
もちろん、性行為をするつもりなど微塵もない。
「汗、かいてるな。着替えるか。」手にかなりの湿り気を感じて、ゾロは呟いた。
声を出すのが辛いサンジに尋ねたわけではない。
自分の判断だ。
ゾロは、サンジを起きあがらせ、包帯も解いて、手早く着替えさせた。
サンジは、黙ってされるがままになっている。
着替えを済ませると、そこへルフィが交代の時間を告げにやってきた。
洗いざらしの着替えと換えの包帯を手に持っている。
「あとは頼む。」ゾロはルフィにそういうと、サンジに一度視線を注いで
部屋から出ていった。
その夜は、ルフィがサンジの側で眠る事になった。
ゾロが出ていった後、薬がサンジを眠りに引き摺りこんだ。
ルフィは、高熱のせいで紅潮したサンジの顔を眺めてみる。
ルフィは、乾いたその唇に自分の唇を重ねてみた。
水分を与える様に 湿らせる。
水が滴り落ちるような音が部屋に響いた。
体がサンジの熱を吸い取ったように熱くなってくる。
ドラムでサンジを抱えて歩いていた時、冷たくて、抜け殻のようだった。
チョッパーと出会った城で目を覚ました時、ナミが助かった事は当然だが、
サンジの暖かな体に触れて、涙が出た。
今は、サンジの体から放たれる熱が自分の体を熱くする。
額に、頬に、耳たぶに、瞼に 唇を落とす。
目を覚ましたら、きっと「何やってんだ。」と叱責されるだろう。
だから、このまま目を覚まさなければいい。
だが。
目を覚ましたら、もしかしたら、この愛撫に応えてくれるかもしれない。
そんな定まらない想いを抱きながら、自分の体を熱くするサンジの熱を
吸い取るように唇を這わせた。
その感覚に、サンジが重たげに瞼を開く。
焦点の定まらない蒼い瞳を飾る 薄い色の睫毛が小さく震えている。
その儚げなサンジの姿に、ルフィの押さえていた想いが激しく揺さぶられた。
サンジを抱きたい。
サンジの鼓動をもっと近くで感じたい。
この手に、この体に。
溢れ出す想いは、とうとう 自分で止められる範囲を越えた。
「サンジ。体温を測ってやる。」
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