「なんだ、いきなり起きあがって。」ゾロはサンジのその唐突な動きに驚いたようだった。

サンジは迷った。

体を見れば、ルフィのつけた跡が言い訳出来ないほど鮮明に残っている。
それをゾロが気が付かない筈はない。

ボタンにかけられた手を反射的に払いのけた。
だが、まだ考えがまとまらない。

だが、先にいうべきか。
見咎められてから いうべきか。

言えばどうなる?

「・・・1人で出来る。部屋を出て行ってくれ。」
時間が経てば、アザは消えるだろう。でも、それでゾロを騙すのか?
何故、ゾロを騙さなきゃならない?


「なんでだ?」怪訝そうな顔でゾロは部屋を出ていかなければならない理由を尋ねる。


昨日は、着替えの手助けをしても、何も言わなかったのに 何故、
昨日よりも更に辛そうな顔でそんな事を言うのか、ゾロには判らない。


サンジは、眩暈を感じて体を起していられなくなり、体を折った。
また、気分が悪くなってきた。
小さく呻き、うずくまるサンジをゾロは背中から抱き起こした。


「ほら見ろ、1人で出来ねえだろ。」
穏やかなゾロの声に 激しく動揺する。

ルフィに抱かれた事をゾロに知られたら、どうなるだろう、とサンジは
考える。


責められるからか?蔑まれるからか?

誰が悪いんだ?・・・・・俺だ。

なら、保身など卑怯なだけだ。

着衣のボタンに指をかけたゾロの手をサンジは掴んだ。


「ゾロ・・・。俺、昨夜、ルフィとやっちまったんだ。」

掠れたサンジの声がゾロに事実を告げる。

ゾロの顔が上げられた。
その瞳は、ただ、驚きしか 浮かべていなかった。

「・・・なんだと?」ゾロの口から小さく声が上がる。
その声も、やはり 瞳と同じ感情しか感じられない。

サンジは、腹を括った。


「黙っておく方が良かったか・・・?でも、体を見たら
一目瞭然なんだ。」

サンジは、自分から上着を寛げた。


ゾロは息を飲む。
ただ、その情事の跡を食い入るように見つめている。

ゾロは、言葉が出てこなかった。

ルフィの気持ちには気がついていた。
だが、サンジを傷つけるようなマネは絶対にしないと信じていた。

だが、腹部に残っている紫色のアザを見る限り、ルフィが暴走して、
サンジの体を蹂躙した事実が見えてくる。

激しい後悔がゾロを貫いた。

もっと、気を付けるべきだった。
鈍いと思っていたのは、サンジだけではない。

サンジへの思いがそこまでのものだったとは 想像だにしなかった
自分も相当鈍い。
その所為で、サンジは ルフィに犯され、ゾロに罪を晒している

ゾロが鈍かったせいで、サンジに二重に辛い思いを科してしまった。

サンジが自分に事実を言うのは、ルフィに報復して欲しいとか、
慰めて欲しいとかそんな事でない。


黙ってしまったゾロに、サンジは 自虐的な言葉で無意識に
答えを促した。

「・・・・お前にとっちゃ、俺が何をしようとどうでもいいか・・・。」

起きていられなくなり、サンジは横になった。

言うべきことは伝えた。
後は、ゾロ次第だ。

そんな 少し投げやりなサンジの態度にゾロの頭に血が上った。
もっと素直に自分に助けを求めてこない?
そんなに自分は頼りないか、と憤りをぶつけたくなる。

そして、サンジに声を荒げて、やはり責めてしまうのだ。
「なんで、そんな風に言うんだよ!!??」

何時も冷静なゾロらしくない、取り乱した言い方に、サンジは
驚き、感情を大きく揺さぶられた。

「じゃあ、俺はどう言えばよかったんだよ。
「お前にどう思われるか、・・・わからねえんだから・・・。」
心細さが口をついて出た。

「俺だって、言い様にされて面白い訳ないだろっ・・・・!!」

憤り、羞恥、悔恨、悲憤、色々な感情が体中に渦巻いて、サンジは
ほとばしるように、剥き出しの心を叫んだ。

「お前以外の奴にあんなことされるぐらいなら死んだほうがましだ。」


掠れた声を無理に出そうと、炎症を起している肺に負担がかかったのか、
サンジは激しくせきこんだ。


ゾロはサンジを抱きしめた。
サンジは止まらない咳に体を激しく震わせた。

ゾロはサンジの身体を抱きしめ、背中をさすってやる。

「それなら・・・・・いい。」
サンジが苦しんでいる事は、充分に判っている。

サンジが誰とセックスをしようとも、絶対的にサンジと言う人間の中で、
不動の位置にいることをゾロは、信じて疑っていない。

だから、そんなに自分を責めないで欲しかった。
まして、無理矢理体を開かされ、どれほど傷ついたか。

相手がルフィでも、許せないと思った。
「もう、二度とそんな事させねえ。」

「無理だ。」サンジはゾロの言葉を否定した。

その言葉にゾロは眉を寄せた。
「なんでだ。」

サンジは苦しそうに言葉を重ねた。
「・・・・。俺、自分がわからねえ。」

第8話


その言葉にゾロは眉を寄せた。
「なんでだ。」

サンジは苦しそうに言葉を重ねた。
「・・・・。俺、自分がわからねえ。」

朝方、伸ばされてきたルフィの手を振り解けなかった。
そして、その時の行為は確かに受け入れたのだ。

ゾロとは違う、ルフィにしか出来ない愛撫に体が濡れた。

心はやらない、体だけといったのは、その快楽が欲しくなったからかもしれない。

今、ゾロとこうやって話していても、ルフィの熱い杭を打ちこまれた場所が
熱を持って疼いているような気がする。

そんな事はない。
違う、ルフィを悲しませたくないから、
そして、悲しませ、狂わせたのは自分だからその落とし前をつけたいだけなんだ、と
必死で思えば思ほど、自分が偽善者のように思われて、どちらが本当の自分の気持ちかさえ、混乱して全く判らないのだ。

余りにも、でたらめ過ぎると思う。


「でたらめだ。おれなんか、でたらめなんだ。」
自虐的に呟くサンジの髪をゾロはゆっくりと撫でた。


「違うぞ。」
自分を責めて混乱しているサンジを安心させてやりたいとゾロは思った。

「お前を不安にさせたのは、俺だ。」
もっと、はっきりと「ルフィはお前のことを好きらしい。」と言っていれば、
サンジも無神経な事をしなかっただろう。


「お前はルフィが好きなんじゃない。不安になっちまって、錯覚したんだ。」
「でたらめなんじゃねえ。錯覚だ。」

「体温が上がってるから、おかしな夢見ちまったんだよ。」
「俺はお前の夢の話を聞いただけだ。」
ゾロは、思ったままを口にした。


忘れたらいい。夢だと思えばいい。

自分は耐えられる。
サンジが苦しまないでいれば 今までの関係になんの変化も
生じることはない。


「さあ、着替え手伝ってやる。」


ゾロはサンジの上着を脱がせた。
熱い体温。紅潮した体。乱れた息。汗で濡れた肌。


確かにルフィでなくともそそられる風情ではある。

「着替えたら眠るんだ。」
「熱が下がったら・・・・・いつものお前だ。」

サンジの汗は、ゾロの掌に染み込むようだった。
熱く、柔らかく、滑らかな サンジの体。 
体温が上がった所為で おかしな夢をみたのは サンジだけではなかったのだ。

願わくば、ルフィもこの熱が下がった時、それを夢だと思って欲しい。
そんな淡い期待をゾロは願っていた。

「いつもの俺・・・?」

ゾロが何気なく口にした言葉を
尋ねるともなく、サンジがゾロの言葉に疑問を投げかける。

「ああ、いつものお前だ。」
ゾロは着替えが終わったサンジをもう一度抱きしめた。

そして、そのまま自分も隣に横になった。
とにかく、気持を落ち着かせて、穏やかに眠らせたいと思ったのだ。

1人分の寝床にゾロのような 筋肉を隆起させた男が入ってきたせいで、
そこはとても 窮屈になった。

額と額をつき合わせる。


「せめーよ。」サンジはやっと笑った。
その顔を見ただけで、ゾロは全てを許せそうな気がした。


「うるせえ。ぐだぐだ言ってねえで、さっさと寝ろ。」

サンジの体温はまだまだ下がる様子はない。

滅多に上がらない体温のせいで不安になったサンジの心に
警戒される事なく、ルフィは入ってきた。

ゾロは憎いと思うよりも挑まれた勝負を受けて奮い立つ感情が心の中に芽生えていた。
(ウイスキーピークではケリ着けれなかったが、こっちはそうはいかねえぞ。)

サンジを傷つけるのなら、ルフィでも許せない。

だが、当のサンジがそれを甘受しているのだ。
それなら、傷ついたサンジを受け入れることこそ、自分が出来ることだと
自分しか出来ないことだと ゾロは思う。