「猫という少年」
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その島は、如何わしい島だった。

寄り付くのは 海賊や賞金稼ぎなどやくざな連中が殆どだ。
堅気の人間は およそ近づいてこない。

島全体が ありとあらゆる性癖の人間でも 網羅できる大歓楽街になっているのだ。

こんな島には なるべく寄りたくなかったが、次の島まで
食料をはじめ、色々 こまごまとしたものが不足するため
それを買い足す間だけ 急遽 寄港する事になったのだ。

ログが貯まるのは 30時間ほどかかる。

「ヤバそうな場所だから 一人で行ってくる」とサンジは さっさと準備して
縄梯子を伝い、港に降りてしまった。

ゾロは慌てて その後を追う。

「・・・お前、何しに来たんだよ.」

サンジは、後ろから追いかけて来たゾロに これ以上ないほどの
無愛想な顔を向けた。

「・・・暇つぶしだ.。」
ゾロも素っ気無く答える。

ここは、特にアブ・ノーマルな人間が喜びそうな店が多いと
ナミが言っていた。

サンジは、自覚していないだろうが、麦わらの一味に喧嘩を吹っかけてくる
海賊の中に からさまに 好色そうな目でサンジを見る者がいる。

長身で、華奢で 色が白く、瞳の色も 南国の海の様に蒼く、
髪も輝くばかりの金色だ。
口と足癖さえなければ かなりの美形なのだ。

サンジは、ゾロの言葉「ひまつぶし」を鵜呑みにし、先へ立って歩き出した。

歓楽街でも 港町だ。
食料品や、水を扱う店くらい あるに違いない。

2人は適当にあちこち歩き回った。

とある 店の前まで来た時、ゾロの足が止まった。



10歳にも満たない、まだ 幼い子供が マネキン人形のように
ショーウインドウに並んで座らされている。

児童売春であった。

「・・・嫌なもん、見ちまったな。」ゾロが小さく呟いた。

サンジは、まるで 何も見えていないような態度だった.。

「おやに売られる奴もいりゃ、さらわれて来る奴もいるんだろうな」

サンジは、ゾロのその言葉など聞こえない振りを装っている。



その夜。

倉庫での行為の後、ランプに照らされたサンジの白い背中を 
ゾロは何気なく眺めていた。

その肩口に 白い糸のような細い傷跡があるのを目ざとく見つける.

そこをそっと指でなぞって見た。


細い、細い、傷あとだが、目を凝らしてよく見ると
それはサンジの背中一面にたくさんあった。

「・・・くすぐってえな」
サンジはゾロの指の動きを小さな声で咎めた。

「なにしてんだ。」

「別に・・・。」ゾロは、その傷のひとつ、ひとつに唇を沿わせた。

まさか、あのレストランのオーナーがつけたとは思えない。
ただ、触れてはいけない傷跡のような気がした。

ゾロは、サンジの腰のくびれと床の間に腕を差し込み、サンジの体を
すっと持ち上げ、自分の方へ顔が向くように半転させる。

その突然の動作にサンジは黙ったまま ゾロを見上げた。
一見 無表情だが 饒舌に感情を語る瞳が ほのかな驚きをゾロにそれを伝えている。

ゾロも黙ったまま サンジのその表情をジッと見つめた。

常人よりもはるかに生命力を孕んだ体。
そして、不屈の精神力。

どちらも確かに サンジは持ち合わせている。
それを十分に知っているのに、
時々 感じるこの 儚さはなんだろう。

そう感じるたびに ずっと腕の中に閉じこめて 何物からも傷つけられないように
がむしゃらに 守りたくなる。

だが、サンジがそんな事を望んでいない事もゾロは知っている。
言葉にする事さえ出来ず、ただ、黙って 抱きしめる腕に力をこめた。

「・・・背中に傷があるんだろう?」
ゾロの背中に腕を回しながら サンジはゾロが目にした物を言い当てる。

ゆっくりと瞼が眠たげに閉じられていく。
「・・・ドクトリーヌとチョッパーも驚いてた。」

サンジはとても 気だるげで 眠そうだった。
ゾロは傍らのブランケットを引寄せ、自分たちの体を包む。

サンジの瞼が完全に閉じられた。
ゾロの腕の中のサンジの体温が僅かに上がる。

「・・・なんの傷なんだか、俺にもわかんねえ」
サンジはゆめうつつのまま、消え入りそうな声で呟く。

「・・・そうか。」ゾロは、サンジの体が弛緩していくのを感じて、
抱いている腕の力を緩めた。

髪に唇をつけると、サンジの規則正しい、穏やかな寝息が聞こえてくる。

(こうやって、俺の腕の中で 安心して寝る奴は2人目だな・・・。)
ふと、そう思ったとき、ゾロの苦い記憶が蘇った。

(あいつも 綺麗な髪をしてたっけ.)

余りにも 遠い記憶だった。

それは、ゾロがまだ 黒い胴着に身を包み、道場の娘に日々挑んでいた
頃のことだった。

その時の正確な年齢までは 思い出せない。

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