温泉街に地殻変動の波 (日経新聞2004.3.1)
宿泊客の減少が続く老舗温泉街に地殻変動が起きている。団体から個人、遊興から保養へと温泉に対する需要が大きく転換したことが温泉街に変身を迫っている。
箱根や熱海など東京近郊の有名温泉街では、1泊5千円前後という格安旅館が台風の目になっている。
老舗旅館がひしめく仙台市内の秋保温泉では、北海道が地盤のリゾート会社、カラカミ観光が同温泉内の経営が悪化したホテルを3軒買収し、4軒目を計画中だ。
●箱根(神奈川県)
低料金を武器に躍進中の老舗が、江戸時代初期創業の「一の湯」(神奈川県箱根町)だ。1999年から他の旅館や企業の保養所を買収、賃借して多店舗化を開始。現在、箱根に5館、静岡県伊藤市に2館を展開する。
宿泊料金は箱根地区の和風旅館3館が休前日を除き、1泊(朝食付き)4,900円、他の4館は3,000円。1,900円の追加で夕食が付く。
料理の仕込を集約、部屋食や布団を敷くサービスを廃止するなどしてコストを削減した。箱根5館は年間稼働率が90%を超える。
●熱海(静岡県)
昨年12月、富士急行グループが休前日を除き1泊朝食付き5,200円の「熱海シーサイドスパ&リゾート」を開業した。熱海のシンボル「お宮の松」から徒歩1分の海岸通に面した一等地だ。2001年に休業したが、大広間をレストランに改築するなど個人を中心に転換して再開した。
地元の旅館業界は「海岸通りの旅館に再び灯がともり熱海温泉全体にとっていいこと」と歓迎している。
ただ、熱海では旅館の閉鎖が相次いでおり、ホテル旅館組合の組合員は現在約70とピーク時の半分。お宮の松の正面には、今なお経営破綻した「つるやホテル」の廃墟となった建物が立つ。
この高層ホテル・旅館の一つに灯がともった。
  名物の大湯・間欠泉は人工間欠になった。
●秋保温泉(宮城県仙台市)
老舗旅館がひしめく仙台市内の秋保(あきう)温泉。同市の奥座敷である温泉地が大型リゾートホテルの建設計画で揺れている。主役は北海道が地盤のリゾート会社、カラカミ観光だ。100億円を投じ2006年に22階建てのホテルとプールなどを備えた温泉施設を開業する計画。同社は経営の悪化したホテルを買収し、秋保に3ホテルを持つ。新ホテルが完成すれば、カラカミは秋保温泉の客室の4割を握る。買収先の一つ、「ホテル瑞鳳」は1泊2食で3万円という高級旅館だったが、平日1泊2食9,800円を実現した。
カラカミは地元の旅館組合には参加しておらず、それが刺激となって、地元の有力旅館「佐勘」「ホテルニュー水戸屋」「岩沼屋」は今春、初めて共同企画ツアーを売り出す。1泊3食で食事をそれぞれの別の旅館で取り、3館の浴場を利用できる。数少ない公衆浴場を共同で開設する議論も始まっている。
松島、作並温泉など仙台近郊の観光地が軒並み苦戦するなか、秋保温泉が前年並みを保っているのも、一つのカラカミ効果といえそうだ。
伊香保温泉(群馬県)
有力旅館「伊香保グランドホテル」が2004年4月末閉館。
下呂温泉(岐阜県)
温泉旅館協同組合が一人旅向けの共同プランを設けた。
鳴子温泉(宮城県)
観光協会が温泉療養プランを策定。旅館と町立病院が連携し、宿泊客対象に温泉療養やリハビリテーションをアドバイス。
●政府の地域再生本部と産業再生機構が連携。先ず、足利銀行の一時国有化で資金繰りに不安が出ている鬼怒川温泉(栃木県)を対象に、個々の旅館の再建支援と温泉街の活性化を一体的に推進。