「なるほど、こりゃえげつねえワな」

 感心してるのか、呆れているのか。
...おそらく前者だろうが、ナエさんはため息をついて、人形を眺めた。

 その人形の容貌はと言うと、口の空洞が鉄の壁によって閉ざされており、腹からは赤黒く細長い金属が一片、ただ水平に伸びてている。

 メイが解錠を行使したとたんの出来事だった。


 その事実を知らなくても、ある程度の推測は立つ。
 今にして思えば、ルイスにはその推測が立ち、だからメイとタツマを呼んだのだろう。


 部屋は密室であった。
――殺人犯がいたとするなら、"施錠"を掛ける前に逃げる必要がある。
 "施錠"は原則として施錠を行う対象に触れなければならない。
 倉庫の中央で致命傷を負ったハーシィが、倉庫の鍵を施錠することは不可能。
 よって、扉に"施錠" は使われておらず、故に"解錠"も使われていない
 つまり、倉庫は依然として密室。

 そして、自殺ではない(手首をちぎられ、刺され、凶器と手首がない)
 ならどうやれば人は死ぬか。
 答えは、

――事故。

 短絡的だが最も簡単な解答。
 何者かがハーシィを殺したのではない、何かが彼を殺したのだ。


 メイが解錠を行使したとたんの出来事だった。
 突然、人形はバツンと溜め込んだ何かを弾けさせるような音を立て、二つの現象を同時に起こした。

 まず、顎に巧妙に隠されていた歯(刃) が、さながら鋏みギロチンのように噛み合い、口を閉ざした。

 そして、ほぼ同時に腹の横隔膜に隠蔽されていた刃がぬっと何かを貫かんばかりの勢いで突き出たのだ。

 離れて、杖の届くギリギリで術を行使した故に誰も怪我することはなかったが...
 いまさらに、重い何かが喉の奥に沈み込んでくる。
 喉が渇いたので、つばを飲む。

「とりあえず、凶器発見ですね」

 軽口めいて呟く。
 腹の刃からは、赤黒く時に白い筋とも肉とも付かない物が、さながら赤身を切り潰した包丁のようにこびりついている。

 ナエさんは臆することもなく、ひとしきりそれを調べた。

「間違いないな。才渦の奇跡クレバーメンズ・アーティファクト...の模造品コピーだ」

 そう断言するナエさんの瞳には好奇の輝きが、
...口許には微かな苛立ちが現れていた。


BackstageDrifters.