「まあ、だからといって盗掘団がメイを襲う理由もなければ、そもそもがあの倉庫の主が盗掘団だと決まったわけでもない、と」
あまり心配してはいなかったが、道中には特に誰に出くわすこともなく、メイも普通に海を眺めていた。
倉庫街を番号を頼りに歩き、一軒家よりは大きめの倉庫の前で立ち止まる。
内側からは鍵が開くことの出来ない両引き戸のドアを開こうとして、
「あの、けど、貨物の方は盗掘品だったわけですよね?」
メイが、そんなことを聞いていた。
扉に手を掛けたままでタツマは、
「現地で被害届が出ているからな。それの照会で“らしい”とは踏んでいるが...そも、便宜上盗掘団と呼んでいるが、実際に盗掘をしているのは現地のスタッフだと聞くしなあ。
だから輸入者は美術品として買ったの一点張り。盗掘品とは知らなかったと言い張っている」
疲れた表情で、鉄の引き戸を引っ張った。
「せめてバイヤーが盗掘した品と知っていて売っていることが掴めれば...」
「すみませぇえええん! ここにある品は全て盗掘品でぇえええす! 知ってて買いましたぁ、むしろ現地でスタッフを雇って盗掘するように依頼したりもしましたぁ!! 全部、認めます白状しますバラしますぅうううううううう!!」
倉庫を開けるなりそんな叫び声がして、
「よぉ、早かったな」
ナエさんがどこから持ってきたのかデザインチェアに腰を掛けてこちらに手を振っていて、
「すみませんでしたぁああ、もう二度としませぇんんんんんんん!!
ですから、ですから命だけはご勘弁をぉおお!!」
「うるさい」
――ぎゅむ
その腰掛けるナエさんのヒールで後頭部を思いっきり踏まれている男が一人。
それから、
――その場に倒れ伏している人間が約30名。
「おしかったな」
ナエさんは、腕をつかねてそんなことを言った。
「“ナエさんに呼びにいかせてこの場に残る”、を選んでいたらイベントバトル突入だったのに」
いやあな予感がして、もう一度周囲を見た。
男達――ここまで来たらもう盗掘団なのだろうが、そいつらはよく見ると焦げてたり、痺れてたり、凍ってたり、すり切れてたり、ぶつぶつとうわごとを天井に呟いてたりしている。
「ナエさん...知ってて残りましたね」
「いや、対テロ武器とか試す機会なんてそう滅多にないからな。助かったわ」
臆面もなく言ってのけるナエさん。
「テロよりもナエさんの方が怖いんですが」
「サナエさんって強いんですねえ」
「おう、魔女っ娘。サナエさんと言うより科学の勝利だがな」
タツマとメイがナエさんに近寄ろうとすると、その瞬間を見計らったかのようにナエさんに踏まれていた男――こいつが盗掘団のリーダーなのだろうが――が突如起きあがりタツマが開けた出口へと猛ダッシュを掛けた。
さっきからチラチラ出口を気にしていたのようなので、そう言うことをするとは思っていたが。
「おぉ、嬉しいことしてくれるじゃないか」
ナエさんは舌をなめずった。
「ひぃ!」 もはや捨て台詞もでないらしい。
男は必死になって逃げようとして、あまりに必死なのでタツマもメイも思わず道を譲ってしまったが、その中でサナエはもそっと動いてデザインチェアの後ろから一本の棒きれを取り出した。
それは一見して、バットのように見えた。
再度見てもバットのように見えた。
三度見ても木製バットのようにしか見えないそれをナエさんは大きく振りかぶって、投げた。
長い髪が優雅にしなる。
バットのような物は垂直から飛び出して、くるくると回り、ちょうど七回と四分の一回転したところで、男の後頭部にめり込んだ。
あえなく気絶する男に、からんからんと落ちるバットのような物。
つかつかと、優雅に歩きそれを拾うナエさん。
「...科学の勝利?」
うろんな目で訊ねるタツマ。
「テロ殲滅武器マイナス8号「メッケ君」 だ。最大の特徴はテロを殲滅したあとで草野球が出来てしまう点だな」
「何でテロ殲滅したあとで草野球せにゃならんのですか。
...つか、ツッコむのもめんどくさいんですけど普通の木製バットじゃないですか」
「甘いな。実はこのメッケ君にはいささか大きなヒミツがあるのだ」
「何です」
「うむ、中にコルクが入っているのだ。心なしか打力が上がった気がする」
...何を基準にツッコめばいいのやら。
「あの、どうしてマイナス8号なんですか?」
メイが瞳をきらきらとさせてバットを見ている。
「まだ開発段階だからな。ベータ版みたいなモンだ」
「あと8回もバッチ当てるつもりなのか...」
どんどん話がそれそうになったので、タツマは話を戻した。
「狙いは人形で?」
「いや、倉庫のその他の盗掘品みたいだったな。今日警備が薄くなるとリークしてみたんだが...見事に引っかかったようだ」
もうツッコむか。
「人形も、盗掘品だったんですよね」
「ああ、間違いないな。魔王崇拝主義者――まあ、厳密に言うと違うんだが――そいつらの遺跡からかっぱらったと言うことだ」
ゴリ――とヒールで倒れた男の後頭部を踏み、
「こいつにいろいろ聞いた。だいたいがウチの推測と同じだったよ」
「ところどころ違ったんですか?」
アレだけ自信満々だったのに。
「あん? そこはこいつが嘘付いてるんだろうさ」
何を決まり切ったことをと言う目で、彼女はタツマを睨んだ。
「...さよーで」
もはや何も言えなかった。
BackstageDrifters.