「喧嘩をしていたのですよね、その人?」
「そうだな」
資料によれば、殺害時刻は11時過ぎ、現場から徒歩で1時間ぐらいの酒場で自社の社員たちと乱闘騒ぎを起こしている。
トム・アラクレスはラムドロの経営する家具店の下請け会社の社長である。製造から流通まで一族で通すことで安さを出すというのがアラクレス系列の家具店の強みなのだそうだ。トムは一族内では唯一、中型特機免許取得者で、その腕を見込まれ、ラムドロから会社の経営を任されていた。
「中型...免許ってなんです?」
「簡単に言うと機械操作系魔術の免許の一種だ」 説明がめんどうくさいと言外に含めて「取るのが非常に難しいし、運転技術が必要になる」
まあとはいっても特殊な機械を動かすだけの免許である。魔術自体の才能は必要ないし、メイの持つ魔術士免許でも代用が効いたりする。
「割と危険な機械も扱うために、更新試験も難しくてな。
トムはちょうど三年に一回の免許更新の時期で、更新試験に落ちたらしい。
そのことでラムドロと社員たちとごたごたがあったらしいな」
中間管理職の憂いというかなんというか、とにかく板ばさみの彼のメンツはその時点でぼろぼろであったそうだ。相当ストレスでまいっていたらしい。
つつけば動機の一つも出るだろう。
「で、アリバイ証明だが……さっきも言ったとおり、11時半に警察の奴らが逮捕、留置している。完璧だな」
「11時半までトムさんを見た方は?」
「酒場の奴らはいたと言っているが、ほとんどの奴が酔っていたので定かではないな。ちなみにこいつらも留置されている。警察は大忙しだったわけだ。人数が多くて簡単な調書しか取れなかったらしいぞ」
「はあ、それはたいへんでしたねえ」
のんびりと、麦茶を飲みながら相づちを打つメイ。
「まあ、夜が開けたら交代だから大して疲れはしないだろうがな」
「はあ」
「ちなみにちゃんと調書が残っていてトムがいたという証拠は明らかだ。次の日もしっかり顔を出したというしな」
「次の日...留置場で宿泊しなかったのですか?」
「喧嘩の留置程度で一日置いておくわけにはいかんからな」
オークノートの犯罪は日々増加傾向にあり、三カ所ある留置場は毎日と言うほどではないがしばしば満杯になっている。
「う〜ん。どういうことなんでしょう?」
メイがそれっぽく小首を傾げる。
「犯人を殺したその時間に留置されているのですよね。ラムドロさんそっくりさんと間違えたのではないでしょうか……」
スプーンでオムレツの最後のひとかけらをすくい、名残惜しそうに見つめてから口に入れた。
よほど気に入ったらしい。
「実の甥を間違えたりはせんだろう。近いが、もっと単純な事だよ」
「え、わかったのですか?」
きょとんと、スプーンを咥えたままそう喋るメイに、「行儀が悪いぞ」 と注意をしながら、
「別にクイズをしていたんじゃないんだが、」
と、釘を刺してから、
「まあ、刑事だからな」
そう答えて、皿を片付けに掛かった。
BackstageDrifters.