「常識的に考えて答えはひとつだ」
スポンジを泡立てて皿を洗いながら、講義でもするかのように説明する。
「警察で逮捕したトムは偽者――つまり代役だったんだ」
「はあ、そっちがそっくりさんだったんですね」
メイは洗い終わった皿を受け取って水きり台に立てていきながら、そうコメントした。
「いや、そっくりでもなんでもないだろう。社員の誰かだろうな、多分。金をつかまされたか、共犯か。その点の動機は後で突き止めればいいさ」
「でも、そんなことをして正体がばれたりしなかったのですか?」
「言っただろ、人数が多くて簡単な取調べしかできなかったって。そんなだから警官だって全員の顔をいちいち覚えてられないさ」
「でも……」
「もう一つ」ピッと泡の付いた指を立てる。「トムは次の日に警察に訪問している。謝りに来たと言う口実でな。だが、その日そこにいたのは昨日非番だった警官たちだ。トムはその事件を知らない警官たちに、事件当時自分が警察にいたと印象付けさせる――と言うか誤認させたんだ。何しろ調書が残っているからな全員信用しただろうさ」
「でも、当日その場にいたおまわりさんがトムさんがいなかったことを覚えていたらどうしたんですか?」
「人間の記憶は曖昧だからな、いたことは覚えていても、いなかったことを覚えているのはなかなか難しいと思うぞ。それに、まずトムが警察にいたことを証言するのは非番だった刑事達だろうからな。身内に甘い体質だから鵜呑みにしてそれ以上調べられる事もない」
言っててむなしくなりながらも、グラスの泡を落とす。
自信を持ってそこまで言い切ると、隣でメイが目をきらきらさせて、
「へぇ〜〜〜」と、なぜか、感心した風にため息をついた。
「どうした?」
「これが推理なんですね……わたし、はじめて見ちゃいました」
「まあ、そんな色っぽいもんじゃないと思うがな……」
鼻を擦る。
「第一、犯人がわかってるんだから反則に近い」
皿を洗い終えてタオルで手を拭く。
メイにもタオルを手渡して捜査資料を片づける。
それでメイの仕事は終わりである。
報告書も必要ない。あとはタツマが口頭でルイスに報告するだけ。
寧ろ裏捜査なので報告書をのこすといろいろまずい。
手の水気を拭き取るメイに、
「昼からどこか行くのか?」そう訊ねる。
「そうですね、今日のお参りは済みましたから...また観光にでも行こうかと」
「そうか。車に轢かれるなよ」 他意もなく、そう言う。
「案内してくれないのですか?」 なぜかメイは口を尖らせたが。
「は? なんでまた?」
「訊いておいてそれってあんまりだと思いませんか。非道いです。いいお寺が建ちませんよ!」
「俺が死んだぐらいでそんなもの建立されても困るが...だいたい手前の墓ぐらい手前で世話する」
「うわあ、うわあ、それってなんだか寂しくありませんか?」
「やかましい」
毎度毎度の会話をしながら、何気ない難事件は身も蓋もなく解決を迎える。
刑事とネクロマンサーの午後は、そうしてのんびりと過ぎてゆく。
続く。
BackstageDrifters.