「あなた達ね。ナガノに何の用よ!」
短髪の活発そうな栗毛の生徒に指を指され睨まれる。
プールサイドには彼女とナガノ・ウェルストンしかいない。既に午後一番の授業が始まっている。
人を避けたいから授業中に放送で呼んだのだろうが。
だろうが...ナガノは少女に匿われるようにして玄関前にやってきた。
イタラ・ノンクレイム(17)。ナガノの親友で事故当時のナガノのアリバイを証明する人間。
資料にも載っていた人物だ。
好みは分かれるだろうが、意志の強そう肌のこんがり焼けた美人だった。
「...ようやく落ち着いたと思ったのに、性懲りもなくまた調査?
いかげんにしなさいよね!」
そしてこの剣幕である。
まるでナイト気取りだな、と口には出さないがタツマは呆れる。
まあ、ナガノも彼女自身も借金取りや保険調査員にあれこれ聞かれたのだろうが...
「...君が呼んだのか?」
「すみません、どうしても付いて行くって」
当人も迷惑そうなそぶりだった。
となると、やはり彼女自身の空回りというか。
本人以上に、気を張るというのもどうかとは思うのだが、まあこの手のモノは往々にしてそんなのばかりである。
「あの、やっぱり駄目でしょうか」
「いや...君がよければ別に構わない...らしいが」
こっちを見るので思わずタツマが答えたが、メイも一応頷いていた。
これからどういった話をするのかは、解っている筈だ。
ナガノはしばし無言を保ってから息をついて頷いた。
「構いません。イタラ、お願い、黙っていてね」
腹をくくったようだ。強い声だった。
イタラと呼ばれた生徒は「ナガノ!?」 と、動揺の色を見せる。
「...あ〜何か勘違いしているようだから言っておくが、俺は借金取りでもなければ、保険調査員でもない。警察だ」
警察も信用されてはなさそうだったが、借金取りや保険調査員よりはマシだろう。
腰から剣帯を覗かせる。
「警察」 その証である剣を見て一応の納得をみせたのか、語気が落ちた。が、
「...あの子も?」
自分の背後を見て聞いてくる。
至極もっともな質問だった。
「俺は、と言ったはずだ。あの子は...」
メイのいる方を一瞥して、肩がこける。
なにやらプールサイドにチョークで落書きをしていた。
「近所の可哀想な子だ。俺が保護してる」
チョークが飛んできた。ついでに罵声も飛んできた。
「気にしないでくれ」
「...まあいいけど。警察の方が今更何の用ですか?」
まるで自分のことのように敵意剥き出しで聞いてくる。ナガノの代わりに闘ってやるんだとでも言わんばかりだった。いい友人なのだろう。
さて、何の用と聞かれても困るわけだが...
「ヤナシ・ウェルストンの遺言を伝えに来ました」
イタラとナガノが、同時に振り向いた。
そこには、登山杖を構えたメイが、いつもどおりにこくんと首を傾げていた。
「では、はじめましょう」
BackstageDrifters.