流石に突拍子も無い発言に、タツマはたじろぐ。
「いや...それは無いだろう、大体その怪談だってヒュリィは...」

 ふと、声がよみがえる。




「うん、なんか一気に広がった感じ。雑誌にも載ってたけど。どうも、うちの学校がオリジナルじゃないっぽいのよねぇ。つまらないことに」




「ヤナシさんの工夫とでも言えば良いのでしょうか...。他校で怪談を流行らせることで、事故の偶発性を高めようとしたのでしょう」

「別の学校で噂を流して、ここにまで流れてくるのを待ったって言うのか? 根拠は...って、そうかヤナシから聞いたんだったな」

身も蓋もないが、彼女にはそれがある。
が、

「いえ、本人からは聞いていません。あくまで推測です」
 タツマの考えを、メイは否定した。
「根拠は幾つかありますが、最たるは怪談が今年になって流行り出したモノであるということ。
 そして、ヒュアリィさんの語った怪談の内容と様々な学校で伝聞されている怪談の内容の差異の少なさにあります。登場人物の性別・職業、怪異の内容、顛末、後日譚、幾つか伝聞と想像によって尾ひれがついてもおかしくは無い部分まで...
 このことから、誰かが怪談を創作し、意図的に様々な場所で広めている可能性があります。噂の源流を突き詰めればおそらくは同時期に様々な場所で流布し始めているはずです」

「色んなところで自作の怪談をばら撒いたってことか。なんていうか、偉い気長な話だな」
 自分の自殺のためにそんなことを行ったと言うのなら、もはや想像の粋を越えている。
「わからん、どんな精神状態ならそんなことできるんだよ...」

「そですか? わたしには解りますよ。平静だったはずです。怪談を広めるだけならリスクもありませんし、何より行為が露見しにくい。噂話の元なんて、民俗学者や言語学者でもなければ元を辿るのも困難でしょうから」
 箸を揺らす。
「本当の意味で自殺の覚悟などというものは、いざというその時にしか出来ないのですから」

 その目は、やはり何処を見ているか解らない青く平坦な瞳で。
だけど、その瞳は長くは持たず元の少女の物へと変わり、

「ヤナシさんはインストラクター兼スポーツ用品店の店長でしたから、他校を訪問して怪談を流行らせることも可能だったはずです。オークノートは水泳が盛んですから、噂も流布し易かろうという算段もあったのでしょう」

「実際流行ったわけだしな...」
 それが本当なら、
「――怪談作家にでもなればよかったんだ。夏にトークショーを開くだけで一年食っていけるぞ」

「はぁ、とぉくしょおですか?」
 メイが首をこくんとかしげた。
「ヤナシさんは結構努力したようですよ。自身の創作にじ...」 不意にメイは言葉を切った。ええっとぉと悩んでから「確証を持てなかったのか、いろんな学校でゲリラ的に試みていますね。...それが仇となったわけですけど」

「言いなおさんでも、自信って言えばいいだろう」

 呆れるタツマ。

「オヤジギャグは嫌いです」

 ぷい、とあさっての方向を向いて蕎麦をすすった。


BackstageDrifters.