食堂。

 既にタツマはカレーを食べ終わって一服していた。

 一服といっても禁煙パイポだ。
 首都にいた頃は吸っていたのだが、禁煙色の強いオークノートに戻ってからは渋々ながら禁煙を強いている。

 この禁煙パイポはサナエ・バンプ謹製の一品で、微量ながら煙草の常習性の原因となる成分が摂取でき、禁煙によるイライラを抑える効能がある。なんでも、いきなり煙草を止めるのは体や精神に負担がかかりすぎるから、こういう妥協案みたいな物で徐々に禁断症状を抜くんだとか。
 他にもガムやシールで摂取できるタイプのものがあるらしいが、タツマはパイポタイプのを選び、見事禁煙に成功していた。ちなみに今吸っているパイポには煙草の成分は入ってなく、代わりにカフェインが入っている。

 ナエさんの発明にしては珍しく役に立つ代物だとは思う。
 もうすぐ医薬品としての認可も下りるとか何とか喜んでいたが、

「――そうなると俺って、完璧にモルモットなんだよな...」

 コーヒー味のパイポをしがんでぼやく。
 つくづく、過酷な労働条件だ。

「ひょひひゃふへひはほほほひはふほ」

「喋ってから食え」

 対面の少女――メイをしかりつける。
 メイは素麺を噛み砕き(邪道) ながら、目で一生懸命語ろうと試みている。
 無論、タツマには何がなんだか分からない。

「...普通、食べるか喋るかのどちらかにしろって言いませんか?」

「絶対食べるだろ。食うの遅いし」

 実際メイの食事のスピードはかなり遅かった。
 彼女は不服そうに頬を膨らませ、

「佳い発明だと思いますよ。人間は慣れと惰性で生きていますから」

「...なるほどね」

 辛らつなはずのメイの意見に、もはや適当にしかつっこまない自分を見つけて、タツマは重たい目を閉じて頷いた。


BackstageDrifters.