「あの男が...私に? そんな、何で今さら」
その驚き方に、タツマは口の端をゆがめて、
「口ぶりからすると、何か関係ありそうだが」
「あったそうですよ、昔、一度だけ――って痛っ、いたた?」
デコピンされて涙を流すメイ。
「そー言う意味じゃない。もう少し言葉を選べ耳年増」
「み...ひどくありませんか?」
猛烈に抗議するメイと、それを受け流すタツマ。
そんなこんなしていると、黙ったままだったイタラが口を開いた。
「そう、死人は気楽ね。何でも話せちゃうんだ...」
やたら神妙に苦笑するので、タツマはどうしたモノだろうかと天井を仰ぐ。
その点、メイは気楽だった。
「何故という質問の答えは簡単です。ヤナシさんは、自分を殺した人物があなたであることを知っていたからです」
誰も、反応しなかった。
この場の雰囲気を代言するならば、「やっぱりな」 と言う言葉がしっくりくる。
「殺人を厭わないほど娘を思ってくれているあなたなら、娘を安心して任せられるから、とヤナシさんはおっしゃっていました」
「そんなの...綺麗事よ。私が何で殺したかなんて、解るはず無いわ」
椅子の背もたれに手をかけて、項垂れるイタラ。
座ればいいのに、座ろうとはしない。
「嫌な予感がした...たぶんナガノも。だって、その日に限って娘の居場所を確かめに来たのよ。私の家に泊まるって言ったら安心してたけど、」
とうとう、自白めいたぼやきを始める。
「ナガノが、夜中にこっそりと出て行った。私も家を出た。どこに行くのかなんて、聞かなかった。どうしても確認したい場所があってそこがナガノと同じ場所だった...」
彼女は、一人暮らしだったか。
となれば、アリバイは無い。崩す以前の問題だ。
だが、そうした場合、やはりナガノが疑われる可能性の方が高い。
こんな自白を聞いたところで、なんの意味もないんだがな。と、言ってやりたくもなったが、そんなことは当人もよく知っているのだろう。
喋れば、楽になれるとでも思っているのだろうか。
それも無意味だ。
「ナガノには見えてなかったらしいわ。彼女の立っている位置の方が明るかったから」
話が本題に戻ってきた。
「わたしは、それを別のところから見ていた。自分の娘から隠れたい一心でプールに飛び込んだあの男を見たとたん、」
嗚呼、なんてこいつは、
――みじめな男だろう。
「殺意が沸いた。だから殺した。それだけなのよ」
BackstageDrifters.