自分の視界がヤナシの視界になる。

「...なんだ、これは」

「別視点から映像を見ていただきます。視点移動がままならないので少し混乱するでしょうが、どうぞ落ち着いてください」

 不思議な感覚だった。
 夢の中にいて、過去を見せ付けられるかのような、左右を見たいと思っても目線は前方に括られたまま、どうにもままならない感覚。

 他人の視界がこれほど不快だとは思わなかった。

 目の前は真っ暗だった。
 なにも見えない、と言うわけではなく、全ての映像ぶれて焦点が合わない。前後にも視界が揺れる。咳き込む音が、耳の裏側から聞こえて来た。

 そして、その焦点が合う。

「そんな...わた、し?」

 どこからか、ナガノの声。

「......ナガノ...?」

 呟いたのは、ヤナシか、それとも自分だったのか、わからぬままに意識は続く。
 遥か向こうの目の前に娘がいた。

 目を凝らさねば、黒い影にしか見えないが、自分の娘を間違えるはずがない。
 なぜ、友達の家に泊まってくると言っていたのに。いや、それより。
 見て、いた?
 見られていた?
 自殺するところを?
 結局出来なかったところを??

「あ、う...うあ...ぁ」
 後悔と苦しみに満ちた嗚咽が頭の中に響く。
 視界が少しだけ落ち込み、後ろに向き直る。
「うああああああああ!!」

「な、馬鹿やめろ!!」
「お父さん!」

 声が重なる。

 視界が上がる、そして目いっぱい下がる。

 ヤナシの視界は再び水に沈んでいく。


BackstageDrifters.