夜の闇が、飛び込み台を覆い、さらに濃い黒の人影を創る。

 闇に順応してなお暗い。

 事件当日の双月は、雄が新(月) の雌が三(日月)、月明りは無きに等しい。
 と、シルエットが急に色を帯び始める。

「若干、光を増幅します。眩しい光に注意してください」

 ...そんなことも出来るのか。

「――お父さん!」

「ナガノ! 落ち着いて!!」

 掴み合い揉め合う音。

「お父さん! 駄目、いや、止めないと。離して!!」 
 プールサイドでナガノとイタラが揉みあっている。
「でないと、お父さんが!」

 そうだ、
 台の踏み板の手前の人物、おそらくあれがヤナシ・ウェルストン。あれが、
――あれが、今から死ぬと言うのか。

「止めても無駄です。今見えているのはただの再現(リプレイ)。甦生――再生したあちらの登場人物はこちらの人物と関わることはできないように設定しています」

「何処にいるんだ、メイ!」

「あなた方のすぐ傍にいます」

 そうは言うが、声が遠い。
 だんだん、彼女の声が頭の裏側から響くような音に変ってきている。

「それより――」

 悲鳴がいっそう高鳴った。
 次に見たのは、転げ出るように腕を回し、宙空へとまっ逆さまに飛び降りたヤナシの姿だった


BackstageDrifters.