屋根付のプール。室内と言うわけではない、ガラス張りの天井からは直射日光が降り注いでいし、反射光も屋根の下からプールを明るく照らしている。
 それが、そこが――

 卒然と闇に包まれる。

 ふと、当然のことを忘れていたかのように思い出す。
 ヤナシ・ウェルストンが飛び込み台から投身したのは、深夜であったということを。
 そして気づく。
 今、自分は、自分達はまさにメイの作り出す幻に取り込まれているのだと言うことを。

「屍骸術師の幻はこんなことまで出来るのか――」

 だが、この夜は果たして幻なのだろうか。
 地面の熱は奪われ、蒸し暑かったはずの空気までもが冷え込んでいく。

「寒い? どういう...ことだ」

「急に、夜になって...ナガノ!」

「大丈夫イタラ。手の感覚まだあるでしょ。
ここにいるわ...見えないけれど」

「落ち着いてください」
 どこからともなく、声がした
「あなた方が今見ているのは事故当時のこの場所の映像――幻です。現実には場所も時間も、お昼のプールから一歩も変っていません」

「メイ、何処にいる?」

 周囲を見渡すが、見当たらない。

「ここにいますよ。お互いに見えていないだけで」

 確かに、声だけは近くから聞こえてくる。
 タツマは声のした透明な空間を見ながら再度訊ねる。

「にしてもこれは...空間そのものを巻き戻してるのと同じじゃないか?」

「ええ屍骸術とは、本来そう言うモノですから。それより、はじまりますよ」

 なにが、と問おうとして、

「――お父さん!」

 細い悲鳴。
 ナガノが表情を強張らせて、飛び込み台を見上げていた。


BackstageDrifters.