カツ――
木剣(ぼっけん)が杖に受け止められ、いなされる。
まるで腐った木に剣を打ちつけたように沈み込む。タツマはその引きどころをずらされる感覚に、やりにくいなと歯噛みする。
ネクロマンサーは時として命を狙われる。よって、ネクロマンサーは術の学問と同時にある程度の戦闘術を学ばなければいけない、らしい。
隠者の森で師匠と二人で暮らしていたメイもそれは同じで、幼少の頃より彼女は本格的な戦闘訓練を行ってきたそうだ。
その腕前と来たら、先ほどの石切り職人達を見ても分かるであろう。
猛然と連撃を打っているのだが全然手ごたえがない。体重をかければ吹き飛ばせそうな物だが、ひらりと的確に躱してそれもさせてくれない。
技師の戦闘方法といえば、普通は魔術を使用しての一撃必殺が基本だが、メイは戦闘に術を使わない戦い方もしっかりと鍛錬していた。
そして、警察で1、2を争うはずの自分よりも格段に強い。数合あわせただけで、正攻法ではかなわないと実感していた。
本気の戦闘――例えば灯剣を使った戦い方なら勝ち目はあるかも知れない。だが、それは向こうも同じ事だ。彼女は今、演算器入りの杖ではなく登山用の杖を使っている。
タツマはそれでも何とか攻略できる方法を模索していた。
体力面で向こうが劣っているとは思えない。むしろ筋肉と体重が多い自分のほうが疲労が激しいほどだ。体重差、身長差を利用しようにも向こうがそれを利用して軽快に躱してみせるのだからどうしようもない。
タツマはいなされたフリをして大きく離れて間合いを取った。
間をおかず、気合と共に踏み込む。
狙うは左下段からの逆袈裟斬り。刃筋は気にせず、とにかく体重をかけて不可避の一撃を放つことにする。吹き飛ばし、あるいは武器破壊をもくろんでの攻撃だった。
メイはそれを冷静に――タツマがわざとらしく間合いを取ったあたりから予測していた様子だった。軽い体重の人間相手の戦闘方法として、力で押し切るのは常套手段なのだろう。
対峙前から重心を落とし、腰を少しだけ落としていたメイは、タツマを見据えたまま右足に体重をかけた。タツマの左斜め前、斬りかかる逆の方へと横に跳ぶ。
もとから腰を落としていたせいで跳躍の予備動作に気づけなかったタツマは、瞬間メイが無反動で跳んだかのような錯覚に陥った。
タツマの右側にメイが取り付く。左逆から振り上げた剣は見事に空振りして大きく体を持っていかれた。
メイが右手の袖をつかみ、重心を下げて、腰にタツマの腹を乗せ、
「はっ!」と、“杖を手に持ったままの一本背負い”であっさりと地面に沈めた。
ゴツ――と尋常ならざる骨の響く音を聞いた。
続けて襲った内臓がひっくり返るような衝撃に、目を白黒させて堪えるしかなかった。
昼飯を戻さなかったのは奇跡に近かった。
「情けな」と、この練習試合をセッティングしたタカさんの声が聞こえた。
BackstageDrifters.