「なんだそれは?」

「何だといわれても」

 タカの質問に肩をすくめる。

 タカ・セイビナ(46)はこの前のマイア人と同じく肌が黒褐色だ。肌の色は大別して四種類(黒、白、黄、青)あるそうだが、四季のあるオークノートは黄褐色の者が多く、わりと珍しいタイプと言える。彫りは深いが、歳のせいか皺も目立つし少し太り気味だ。筋肉の付きはよくがたいはいいのだが。

 髪の色は灰色。これはたいして珍しくはない。そりこみにハゲたパンチパーマは珍しいが。

 彼の一族は半世紀前にこの土地に移民してきたらしい。彼らの一族は商人の家系で、このオークノートでも手広い商売をしているらしいが、彼はなぜか墓守の長と言う立場だった。宗教に興味があったらしい。彼自体は精霊信仰なのだが。

 墓守協会本部、様々な宗教が坩堝のように混在する巨大共同墓地の管理組合。ちょうど墓の南側で入り口に立てられた堅牢な要塞を思わせる建物内部で、タツマはまたもやコーヒーのカップを傾けていた。いい加減、他の飲み物が飲みたい。

 豆をケチってか牛乳が半分はいっているのがありがたい。そろそろこの苦味にも飽きていた。

 タカさんの言っているのは、タツマがテーブルに置いたサングラスの事だ。普通のサングラスと違って、バイザーと言うのか目全体を覆うような設計で随分と物々しい。

「何でも身体に有害な光線の大半を遮断してくれるらしい」

「坊主、目が弱かったのか」

「いや、そう言うわけでは……」

 首を傾げてタカさんはキムチラーメンをずぞぞとすすった。

 昼時なので食堂のラーメンを注文し、それを応接間のテーブルで食べているのだった。

 墓守協会は自分の金儲けしか考えない頭の悪い公務員集団の応接間とは違い、随分と事務的な雰囲気のこざっぱりしたところだ。民間企業だというのに、警察の応接間よりよっぽど公共施設らしい雰囲気を持っている。

 ところでコーヒーにラーメンなんて奇抜すぎる取り合わせはいかがなものか、気を使って高い飲み物を注文してくれたのだろうが、もうちょっと時と場合を選んで欲しい。そして美味しそうにキムチ汁とコーヒーを交互に飲まないで欲しい。

 味噌ラーメンをすすりながら説明する。

「ちょっとね、先生から注意が出て受付でこれを着けるように言われたんですよ」

「何だ、病院にいってきたのか」

 汗を流しながらキムチ入りのラーメンを上手そうに食べる。見ただけでも辛そうなのに時折鉢を傾けて汁まで飲んでいる。タツマは食欲をそがれる思いでコーヒーを飲み干す。

「まあ、似たようなもんですね……」


BackstageDrifters.